182章 ピンチヒッター
バンジージャンプを終えたばかりの女性は、休憩室で横になっていた。
「ミサキちゃん、完全にダウンしたみたいだね」
二つの目で見ていないのに、真っ青な唇をしているのがはっきりとわかった。先ほどの恐怖は、言葉では計り知れない。
ミサキはすぐそばにいる、マイに体を寄せる。
「死ぬかと思うほど、バンジージャンプは怖かった」
マイは優しい手つきで、泣きじゃくっている子供をあやす。
「ミサキちゃん、よしよし、よしよし、よしよし」
バンジージャンプから飛び降りようとする前、一時的に意識を失う。目を開けたときには、体は宙に投げ出されていた。
二つの目を開いたときに、命は助かったのを悟った。悲惨な最期を遂げなかったことについては、プラスにとらえたい。命さえあれば、いろいろなことをやっていける。
「ミサキちゃんの挑戦している姿に、たっぷりのエネルギーをもらえた。ここにきて本当によかったよ」
アヤメのマネージャーをしている、シズカがこちらにやってきた。
「ミサキさん、先ほどは失礼しました」
シズカの姿はあるけど、アヤメはいなかった。彼女はどこに行ってしまったのだろうか。
「アヤメちゃんは、どこにいるの?」
「他人に危険な仕事をやらせようとしたため、遊園地から追い出されました。本日のお仕事は終了です」
素人バンジージャンプ=死のリスクがある。当人の意思に反するのは、命を大切に扱っていないと判断されてもやむを得ない。
やり方は強引に思えたけど、プロ意識は非常に高かった。彼女はどうにかして、遊園地を盛り上げようとしていた。
「私はすぐに失礼させていただきます。本当にすみませんでした」
シズカは頭を深く下げたあと、遊園地からいなくなった。アヤメのマネージャーであって、ミサキのマネージャーではないのを感じた。
ミサキのところに、遊園地関係者がやってきた。
「ミサキさん、他の乗り物は乗れそうですか?」
「もうちょっとだけ休憩したら、乗り物を利用できると思います」
「約束を破ったことを、深くお詫び申し上げます」
「気にしなくてもいいですよ」
遊園地の関係者の視線は、シノブ、マイに向けられることとなった。
「シノブさん、マイさんの映像を流すことになりました。ジェットコースター、バンジージャン
プを利用していただけないでしょうか?」
シノブ、マイは唐突な展開に、頭の思考は追いついていなかった。
「私たちの映像を流すんですか?」
遊園地関係者は首を縦に振った。
「シノブさん、マイさんを同じ従業員として、テレビで紹介します。ミサキちゃんの同僚だと紹介すれば、親近感を持ってもらえるでしょう」
アヤメの早退によって、シノブ、マイにチャンスが転がり込む。2人はまたとない機会を、いかすことはできるのか。
マイは持ち味のポジティブを発揮する。
「私でよければ、やってみたいです。テレビに出るのは、昔からの大きな夢でした」
マイに背中を押されたのか、シノブもOKを出す。
「いろいろと迷惑をかけるでしょうけど、よろしくお願いします」
「早速ですけど、バンジージャンプをやってほしいです」
マイは即答した。
「わかりました。バンジージャンプをやります」
シノブはあとに続いた。
「私も挑戦します」
2人はどのようなジャンプを見せるのか。ミサキはそのことに、大いに興味を持つこととなっ
た。