164章 プロ意識
シズカの爪は、とってもきれいである。一日たりとも、手入れを欠かさなかったのかなと思った。
ミサキは爪のカットをしているだけで、他は何もしていない。現時点においては、爪におしゃれに後ろ向きである。
「アヤメさんを一時的に、預かっていただけませんか」
「アヤメさんを預かる?」
シズカは表現を具体的にした。
「ミサキさんの家に、泊めていただくという意味です」
「急に話を持ちかけられても、対応に困ってしまいます。考える時間をください」
「わかりました。一週間後に、家を訪ねさせていただきます」
「昼は仕事をしているので、家を留守にしています。家を訪ねるときは、夕方にしてください」
「わかりました。夕方に訪ねさせていただきます」
「アヤメさんを宿泊させる場合、どれくらいの期間になりますか?」
「一カ月前後を見込んでいます」
「一カ月も休んだら、アイドルの仕事はできなくなりますよ」
「心の栄養を与えるために、30日間くらいは休ませようと思います。収支を成り立たせようとするあまり、アヤメさんをぞんざいに扱っていました」
3000人分の負担を、アヤメ、ココロに強いた。はっきりといって、ありえない世界観が構築されていた。
アヤメは元気を取り戻したのか、こちらに近づいてきた。
「シズカさんは大切にしようとしていた。私にはそのことが、はっきりと伝わってきたよ」
「アヤメさん・・・・・・」
アヤメは二つの瞳を、シズカのほうに向ける。
「シズカさん、撮影をやりましょう」
「アヤメさん、メンタルは回復しましたか?」
「100パーセントではないけど、仕事はきっちりできると思います」
「無理はしないでください」
「撮影を延期すると、仕事関係者、ミサキちゃんに迷惑をかける。そうならないよう、仕事を終えてしまいましょう」
アヤメは浴室に向かった。ミサキ、シズカはなにもいわず、後ろからついていった。