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163章 アイドルの厳しさ

 シズカから思わぬことをいわれた。

「アヤメさんのメンタルが回復するまで、撮影を延期したいと思います」

 雷はすでにストップした。撮影をするにあたって、コンディションは万全である。

「どれくらいで回復しそうですか?」

 アヤメは顔を真っ青にしている。彼女の様子を見ていると、すぐに回復しそうには見えなかった。
「一時間くらいで回復すると思いますけど、はっきりとはわかりません。一日、二日とかかる可能性もあります」

 一時間ならまだしも、一日、二日は無理である。そんなことをしたら、シノブ、マイ、ユタカなどに多大な迷惑をかける。

「私は焼きそば店で働いているので、長期間滞在は無理です。本日中に撮影を終えられなかった場合は、アイドルと一緒に撮影してください」 

 撮影が持ち越されると、欠勤回数を増やすことになる。シノブ焼きそば店に、多大な迷惑をかけてしまう。

「そうしたいと思っているけど、相手方を納得させられる人はいません。そのような人を紹介し
ても、門前払いされるだけです」

「他のアイドルで優れた人はいないんですか?」

 シズカは小刻みに頷いた。

「ほとんどのアイドルは圧倒的に実力不足です。実力不足のアイドルでは、企画を通すことはできません。ミサキさんの知っている、シノブさん、マイさんは、ホノカさん、ナナさんはお話を持ちかけたことはありますけど、テレビ局と折り合いをつけられず、OKをもらうことはできませんでした」

 シノブ、マイ、ホノカ、ナナは実力不足だった。そのことを知ると、胸に痛みを感じることとなった。

 シズカは軽い瞬きをする。

「実力、容姿に優れるアイドルはいますけど、他の部分で大きく劣っています。その部分を満たせないのであれば、推薦することはできません」

「他の要素はどんなものですか?」

「きっちりと努力をできる人間、理不尽なことに耐えられるといった要素です。私たちは日々の生活を観察して、アイドルの素質を見極めています」

 容姿だけでなく、人間性も必要とされる。すべてのことを備えていなければ、アイドルとしてやっていけない。

「社交性、人間性などもしっかりとチェックしています。人間性に問題ありと判断された場合については、どんなに優秀であっても推薦しません。そういう人間を出演させると、信頼を失いかねません」

 シズカは空を眺める。

「アイドル業界は、美貌、容姿、声、努力、忍耐力、社交性、人間性の一つでも欠けたら、0点扱いされます。すべてを兼ね備えていなければ、成功を収めることはできません」

 一つでも欠けたら0点。アイドル業界というのは、とんでもなく厳しい業界のようだ。

「私は素人同然です。紹介してもよかったんですか?」

「ミサキさんの話をした瞬間、相手方からOKをもらえました。あまりに早くまとまってしまったので、肩透かしを食らったみたいです。アイスクリーム売り上げ実績、写真集売り上げ実績は、効果てきめんでした」

 実績というのは、大きな武器になりえる。ミサキは過去の実績の大きさを、思い知らされることとなった。

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