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第3章の第34話 告げられるレグルスの仕向けられたお膳立て


【試着室】
今、この部屋にいるのはアユミちゃん、クコンちゃん、クリスティさん、シャルロットさんの4人に加え、
部屋の隅に追いやられたデネボラさんとヒースさんであった。
なお、多くの方の予想通り、クリスティさんはバスローブ姿を着こなしていた。
あの後、ヒースさんに対する風当たりも激しかったが、奇しくもそれを便宜を図ったのがデネボラさん本人だった。
元々、彼女がクリスティさんの着衣を盗み、廃棄処分をして、
今は、身の安全のためにバスローブ姿である。
これには、シャルロットさんもあらかじめ事情を知っているため、こちらもヒースさんを弁護したのだった。
――で、現在進行形で、4人の女性陣は、こっちの服がいい、あっちの服がいい、と自分の体形に合う衣装選びをしていた。
これにはヒースさんも腕組をしながら、女の戦いが長い事に、思い切り溜息を零す――ハァ……。
「しっかし! こんな美少女2人を寒空の下に放り出すだなんて、あのレグルスってやつ、見る目がないわ!!」
「ホントホント!! スバル君も大概だわ!!」
「「ねえーっ!!」」
クコンちゃん、アユミちゃん、2人とも意気投合し合う。
「しかし、よくホントに無事だったわねぇ……」
呆れ気味のクリスティさん。
「あたしも雲に映った映像を見てたんだけど……2人とも磔にされて燃やされたんでしょう?」
「「うん……」」
「あいつヒドイよねぇ……」
「酷過ぎ~~ぃ!」
これにはお怒りのアユミちゃんにクコンちゃん。
「よく無事だったわねぇ……。知ってる? 女の子は男の子と違って、脂肪分が多いのよ!」
「「……」」
「一番多いのはやっぱりこれで……!」
もにゅん
と超乳を持ち上げて自慢するクリスティさん、あざとい。
「2番目に多いのが太ももね。火が引火したらあっという間に燃え広がるんだから!」
「「……」」
これには露骨に嫌そうな顔をする2人。
「……」
聞いていたシャルロットさんも、顔がヒクヒクしていた。
「あたしは医者だからわかるけど、自分で自殺しようとした人を手術代で見たことがあるんだけど……知ってる? 火って意外と死にきれないのよ?」
「「「……」」」
言葉をなくすアユミちゃん、クコンちゃん、シャルロットさん。
「肌は焼け焦げて、服と皮膚が溶着して、肉が露出して、焼けただれて、神経が剥き出しの痛みを感じるの!!
メチャクチャな激痛よ!!
手術後の人がいて、ベッドの上で寝返りを打つ度に、かかっている重心のところに激痛が走る!!
全身包帯だらけで、血がにじんできて、嗚咽の声の上げて、もう涙目だったわ……」
「「「……」」」
「あんなめには絶対にあいたくないわ!!
退院した後も、通院が続いていて、汗をかく皮脂腺もやられてて、自分の体温調整すらできない。
焼けるような痛みが、一生涯続く……!!
あああああっ
爪の中にカッターの刃が一生入ったままの激痛が……ァ!!
……。
一番辛いのが、退院後の日常生活で、人目を避けて暮らさないといけない事……」
「……」
とここで、子供たちの前で、なんて話をするんだと、シャルロットさんが動こうとしたが……。
「――!」
――その手を向けて静止させるクリスティさん。
(任せて大丈夫ということ? ……そう、わかったわ)
引き下がるシャルロットさん。
この場は彼女に任せる。
「……だから美容整形外科が誕生したの!」
「美容……」
「整形外科……」
「へぇ……」
その言葉の意味は知っていた。
(上手いシフトの仕方ね。さすが女医!)
シャルロットさんも、それを認めるところだ。
(あの場で、スバル君を緊急手術した以上、彼女の力量は間違いなく、女医のそれ……!
しかも!
あの場で緊急決断する、勇もある!!)
あたしは心の中で、彼女を認めた。間違いなく女医である。
「元々、美容整形外科の誕生の歴史は、そうした被害者たちの更生のために生まれたのよ!
当時の医師の一人が呟いたのよ。
『このまま放っておけないって』!!
だから、『医師会の集まる場でプレゼンテーションを行い、周りの医師たちの反応を買い、助力を求めた』!!
だから、みんなの知恵を出し合って、美容整形外科の根幹が生まれたのよ!!
……落ちた人の、人の人生を更生させる。……それが医師としての仕事の在り方、仕事の流儀、プロフェッショナルね!!
細菌の医学でも、皮膚の足りないところがあれば、無事な細胞を採取して、培養して、増殖させて、失った皮膚の上に張り付けて縫合手術していく。
……。
元々、自分の細胞だから拒否反応も見られない。
1週間後、抜糸して、包帯を外せば、酷かった自分とは、比べて見違えてくる!!
どの患者さんも、姿鏡の前で、自分の姿に驚いていたわ。
……。
……フッ」
笑みを深める女医のクリスティさん。
始まりは悪かったが、後になってみれば、全体的にいい話だった。
さらに話は続く。
「時間と医療費負担はかさむし、痛みも伴うけど、それを繰り返していけば、以前の自分の容姿に近づく事ができる!! ……それが……美容整形の理念よ!!」
「「「へぇ~」」」
これにはアユミちゃん、クコンちゃん、シャルロットさんと感心するばかりだった。
とこの話を聞いていたヒースさんは「フッ……」と鼻で鳴らし。デネボラさんは「へぇ~……」と感心の声を上げていた。
腐っても彼女は、医師だった。


「――と、今はこっちね!」
クリスティさんは衣装選びを考える。
「ちょっと、あたしのサイズにあったものがないんだけどな~~」
ドドンッと超乳がアップされた。
とこれには。
(そんな規格外のおっぱいを持った人用に、ドレスなんてないでしょ!!!)
と心の中でツッコミを入れるには、デネボラさんだった。
「ハァ……」
と溜息をつかんばかりだ。
「……」
これには隣にいたヒースさんも、何とも言えない顔を浮かべていた。
で。
そんなクリスティさんに近づいて、声をかけてきたのはシャルロットさんだった。
「う~ん……つかぬ事を伺いますがクリスティさん」
「はい?」
「普段のサイズは、……何を着てるんですか? 明らかに…………そのぅフツーのサイズじゃ無理がありますよねぇ」
シャルロットさんは尋ねながらも、言い辛い面があり、言葉を1つ1つ選びながらしゃべるのだった。
これにはクリスティさんも。
「4Lサイズよ!」
「フォー!?」
「ええ、時々、男物も着てるけどね。あっちでは中々いけた洋服屋(ブティック)があるのよ!」
「「へぇ~……」」
と感心の声を上げるアユミちゃんにクコンちゃん。
なんとクリスティさんは、時々、男物も着る素敵な女医さんだった。
これには街行く人たちも、一体どんな思いで見やるのだろうか。
男物を着る、それは彼女が、誰か別の男に抱かれた経緯のあるグラビアアイドルで。
なんというか、羨ましくも、妬ましく思えてくる。
「ちょっと待って、フォーって……えーと……L、2L、3L、XLの事ですよね!?」
指折り数えていくアユミちゃん。これには驚きだ。
「うん、このおっぱいだからね。ボタンが弾けちゃうのよ! ブチッブチッバツンッ……ポロンよ!」
「ポロン」
「ポロン」
「ポロン……」
ででん
と超乳がわがままボディだとばかりに誇張した。
「グハッ!!」
「ちょっ、クコンちゃん大丈夫!?」
「クッ、こんな攻撃どうってことはないわ! ハァッ、ハァッ」
「そ、そう……見るからに、精神的大ダメージが大きいようだけど……」
グサッ
「グフッ」
とクコンちゃんの心に、言葉のナイフが突き刺さるのだった。
「面白い日本人の子ね……」
あたしの前で、少女達が声を掛け合いながら、「大丈夫!?」「うん……」と交わし合うのだった。
「でね。ワイシャツじゃ全然ダメで、男のものの服を着ていて街中を歩いていたら……」
「……」
「……」
「……」
「棚の上にあった商品を取ろうとした時、こう手が上がるでしょ?」
「うん」
「その時、ビリッっていったのよ。男物服が……」
「え……」
「え……」
「え……」
「で、何だろうと気づかないまま、会計を済ませて、街中に出たら……周りから好奇な視線がね……」
「あぁ……」
「後になって気づいたら……。谷間まで裂けていたわ……」
「それはまた……」
「その時思ったのようん!! 3Dプリンターで作られた安物は使えないって!!
知ってる!? 3Dプリンターで作れる衣装にはね、バリエーションはとても豊富だけど、使われている糸の繊維種類に制限がかかっているのよ!!」
「へぇ~……」
「これは大きな会社が小さな会社を潰さないためで、そうした制度が設けられたのね……うん!!
だからあたしは、人の手で作られた衣類が一番だと思ってるのよ……うん!!
やっぱり機械の創作よりも、人の手で作られた方が愛着が湧くし!
使われている糸の繊維だって、丈夫だものね!!」
「……クリスティさんにとって、一番の繊維は?」
「断然、日本(ジャパン)の綿素材ね! その中でも蚕(かいこ)の糸で編まれた絹糸が一番だわ!!
繊維が肌に合わずに、皮膚トラブルになる心配もないしね!!
だから、取り寄せサービスを使ってたのよね!!」
「へえ、そんなトラブルもあるんだ……」
「初耳……」
と口を零す少女達。

【――22xx年。未来社会の実情は、大きく様変わりしている】
【現代のような、多くの従業員を雇う会社は衰退し、その多くが機械化されていた……】
【だが、大きな会社が、個人経営の小さな会社や、若い子達が立ち上げた新米の若い芽を潰さないように、企業努力もしているのも実情だ】
【その際たる要因が、3Dプリンターなどの制約である】
【大企業側の方に、使われている糸の種類を限定させれば、小さな会社との差別化ができる】
【よくよく考えてみれば当たり前だ】
【次の時代を牽引するのは、いつだって、若い芽の役割なのだから】

とクリスティさんは。
「ハァ……大きい人用のサイズを探さないと……」
溜息を零した後、クリスティさんは、自身の体形の問題なので、ほとほと疲れるとばかりに衣装を選びをするのだった……。
おっぱいが大き過ぎる事で、それだけで大きな負担と苦労と心労がかさむのだ。
これを見ていたあたし達は。
「おっぱいがデカ過ぎるって、それだけで大変なのね……」
「うん……巨乳って大変だわ」
「いや、あれ……もう、巨乳というより爆乳なんじゃ……」
「いいえ、爆乳を超えた猛乳ですよ。いくらなんでもモンスターなんじゃ」
ヒソヒソ話をする3人。
アユミちゃん、クコンちゃん、アユミちゃん、シャルロットさんと語り合うのだった。
それは嘲笑とさげずみだった。
それは聞いている人からすれば、陰湿な嫌味に他ならない。
(……聞こえてるわよ……)
「ハァ……)
(地味に傷つくんだけどなこれ……毎日毎日、人の目が痛い……ッ)
これにはあたしも、いつものことながら辛い顔をしてしまう。
まぁ、この体に生まれた以上、メリットもあればデメリットもあって、当然なんだけど……ね。
「ハァ……超乳というのよ……!」
これには3人とも「えっ!?」と驚く。
まさか、まさかの、超乳だった。

その声が聞こえていたヒースさんとデネボラさんの2人は。
「……」
「……」
(超乳……いったいいくつのカップ数なんだ……!?)
「……」
「……」
僕は、隣にいるデネボラさんの視線も気にかかり、頭の中で数えていく。決して指は使わない。
(ABCDEFG、HIJK、LMN、OPQRSTU、VWXYZ……。
巨乳、爆乳、猛乳と超えてるんだから、少なく見積もっても……Mカップ以上……!! モンスター!?)
ドンッとクリスティさんのおっぱい、超乳が誇張していた。


とこちらは打って変わって、すぐ近くの女子サイド。
「やっぱり普通が一番よねー! 華やかで選べるもん!」
「ねー!」
「フフッ、悪いですね! 大きい人!」
「……」
にこやか顔の3人。
それは僻みだった……なんであたし1人だけ……ッ。
超乳はメリットもデメリットも特大だ。
それよりも、華やかで、選べる衣装が豊富な普通のサイズの方が、時には大きく勝るのだった。
この勝負の軍配は、彼女達に上がったのだった。
(どうしよう? あたしの服、ホントに一着もないわ……)
とその時、見つかったのは……。
「あら? これは……」
とアユミちゃん達女子サイドに戻り。
「やっぱりこっちがいい!」
「こっちがデザインがいいわ!」
「あーもうサイズが合わないし――っ!」
「「「迷ちゃう~~!」」」
キャキャ
と黄色い声を上げる乙女たち。
(早くしてくれ……って、シャルロット!! 君は僕と同じ仲介人で来てるんだから、必要ないだろ……ッ!!)
「ハァ……」
ほとほと困ってしまうヒースさんも、大概苦労人だった……。


――とその時、試着室の自動扉が開いた。
その奥から入ってきたのは、女性の兵士さんだった。……エナジーア生命体の。
これに逸早く気づいたのは、ヒースさんとデネボラさん。
次にシャルロットさん。
そして、アユミちゃんとクコンちゃん、クリスティさんだった。
だが、彼女達がそれを見やるが……。
……まったく見えない。
地球人達には、エナジーア生命体は見えないし、聞こえもしないのだ。……さあ、どうなる。
「……! ……!」
「……」
「……わかりました」
話を聞くのは、デネボラさんとヒースさん。
呟きを落としたのは、ヒースさんであった。
で、アユミちゃん達は。
「今、勝手にシュイーンと開いたよね……? 自動扉が……」
「ええ、もうポルターガイストじゃなく、宇宙人ね……エナジーア生命体の……もう慣れて、驚かないけどさ……見えもしないし……」
「だよねぇ……」
「うん……」
(……何だかこの子達恐いわ……きっと達観してるのね……慣れちゃって……)
クリスティ(あたし)は心の中で、そう思うのであった。
「……」
入ってきた宇宙人さんの視線。
向こうの方で、縮こまり、言いたい放題言いあう少女達2人。それはヒソヒソ話だった。
(なんだか傷つくわ……もう陰湿な嫌味ね……嫌がらせじゃない……)
「ハァ……。……後で、スバル君にも報告しとこうかな? あたしの方からも……ハァ……」
「……」
地味に傷つくエナジーア生命体の宇宙人さん。
これにはデネボラさんも、目尻がピクピクしていた。
(……スバル君の嫌味を請け負う仕事量も大概大変ねぇ……)
「ハァ……」
「ハァ……」
「ハァ……」
「「「ハァ~~……」」」
デネボラさんが、ヒースさんが、入ってきた宇宙さんが、そして3人一緒に大きく溜息をついたのだった……。
「……なるべくお早めにお願いします」
「もちろんわかってます! そう、姫様にお伝えください」
「では、仕事に取り掛かります」
その宇宙人の、女性の兵士さんはエナジーア生命体だった。
空中浮遊しながら、衣装選びに近づいていく。
「! ……」
気になった衣装の前の前で立ち止まり。
「……」
ここで一度、クリスティさんの顔をチラッと見やる。
「……」
もちろん、彼女に気づいた様子は見られない。
あたしは、この気になった衣類と彼女を見比べて。
「この2つが彼女に合ってそうですね」


★彡
【――それはデネボラさんからの依頼だった】
【彼女は、ただ、クリスティさんが着ていた着衣を廃棄処分するだけではなく、代わりの衣装を考えていた】
【だが、どう考えても彼女に合う衣類など、当船にはない】
【そこで、アンドロメダ王女様に進言していたのだ】
『――なるほど』
『……』
『では、代わりの衣類を2つ、継ぎ合わせて、あの娘に進呈しよう』
『では、少しお時間を頂きます』
『うむ、だがそれは、別にお主がやらずともよい。……別の者に当たらせる。……よいな?』
『ハッ!』
『さて、誰に当たらせるか……』
わらわはチラッと見て。
『うむ、お主が良いな』
『!』
『お主に一任しよう。セシア!!」
そのアンドロメダ星人のエナジーア生命体の女性兵士の名前は、セシアさんだった。
【――そしてもう1つ】
『――待て、その着衣は、残しておけ』
『?』
『後で、使われていた光線の種類を調べさせる。
……。
……特定できれば、その治療方針に『も』使えるじゃろう――』


☆彡
「――……」
そのセシアさんは現在、お手元に2つの衣類を手にしていた。
「「「………………」」」
だが、これを見ていた3人にとっては、独りでに衣類が浮いているようにしか見えない。
「う、浮いてる……」
と口を零しながらクリスティさんは。
「……」
震える指で、その衣装を指さしていたのだった。
「! ……」
とこれを見たセシアさんは。
「ポルターガイスト……?」
「あなたの着る服を縫うんですよ」
「……」
「……」
「ゴーストっているのね……」
「おっぱいのところをキツクしましょうか?」
「……」
「……」
あぁ、と目まいを覚えるクリスティさん。それは新鮮な反応だった。
その行為にはあたしも感づく。
「コスモス……ゴースト……エナジーア生命体……ね」
「もう何でもいいです……」
あたしは、プイッと背中を向いて、空中浮遊しながら移動し、この部屋を後にする。
で、これを見ていたデネボラさんが一言呟きを落としていた。
「後で、スバル君にも報告しとくわね……セシアさん」
「……」
小さき頷き得るセシアさんがいたのだった。
で、ヒースさんが心の中で。
(アンドロメダ星人と地球人って、これからさき大丈夫なのかな――? ……いささか不安だ……)
不安だった……。
「……」
俯いていた僕は、顔を上げて、こう言い放つ。
「残り5分だ!」
「「「!」」」」
これに反応を示したのは、見る事も聞くこともできない地球人組だった。
「これ以上、アンドロメダ王女様を待たせるのは、不敬罪に値する!!」
「……」
「……」
「「「……」」」
デネボラさんが。
シャルロットさんが。
アユミちゃんが、クコンちゃんが、クリスティさんがその声に反応する。
「君達、女子の心情ももちろんわかるけど、ここは王女様を立てて欲しい!! ――準備ができたものから、更衣室で着替えてくれまいか!?」
――ヒースさんが目線を向けた先には、更衣室があった。
で、シャルロットさんが。
「そっそうでした! 皆さん急いで急いで!」
と促す行動を取ったのだった。


☆彡
更衣室から出てくる女子と女性達。
新しい新衣装のお披露目だ。
まず初めに、シャルロットさんから。
基本的に、向こうでは春のアンドロメダ星とこっちでは冬の地球を行き来することを目的としている。
その為、上から何か羽織るものが必要である為、コートを採用している。
また、アクアリウス星人の彼女は、その星のカラーに沿い、明るいカラーのマリンブルーとアクアマリンのコントラスト、海の色のように少し緑がかった青色を基調としている。
ここにはプロトニアとしての仕事にきているので、動きやすさと見た目の重視だ。
コート、カジュアルファッション長袖 山吹色 フード付きコート
上、スポーツウェアの体形カバーランニングウェア、衣類の余分なものは結んでアクセント代わりにして、おへそ出しルックなのもポイントが高い。
下、ショートパンツと一体型レギンス。今時のはやりの子を意識している。これもポイントが高い。
さらに、山吹色はオレンジ色に属し、地上では猛吹雪が吹き荒んでいるので、道に迷った人がいても、対比色として視認しやすいという利点がある。
なので、これに関しては2人にも教え、山吹色やオレンジ色などを選択させている。
次にアユミちゃんとクコンちゃん。
2人は色違いだ。
シャルロットさんとの差別化も図るため、山吹色ではない。
それぞれ、アユミちゃんはマリーゴールドのオレンジ色。クコンちゃんは蜜柑色の赤に近いイメージ。を採用している。
また、念には念を入れて、上下の衣装も、オレンジや赤なのだ。
全体的に元気っ子をイメージしている。
コート、オーバーコートコントラストファージカラー ダースティピンクを改良して、マリーゴールドまたは密柑色。
頭、オレンジまたは赤、フード付きにシルクのような肌触り感。
上、長袖のトップス
下、白いスカート、黒いスパッツ。
そして、クリスティさんは……。
「えっ………………」
「マジ………………」
「体形に合わないとここまで………………」
「ポンッ!」
クリスティは明るく振舞うが、内心では泣いていた。
着衣の上からお腹を、ポンッと叩き、その着衣(?)をアピール。
それは、タヌキ(ポンタヌ)の着ぐるみだった。
「……シャルロットさん、これ、なんていう動物の着ぐるみなの?」
「ポンタヌね……」
「「ポンタヌ!! ……」」
あたし達2人は、チラッとそのポンタヌの着ぐるみを着た人を見て。
「体形が合わないって、大変なんだ……」
「良かった……あたし、そこまでモンスターおっぱい、モンパイじゃなくて……」
新しい造語がうまれた。
モンパイは、モンスターおっぱいの略である。
(シクシク……)
あたしは周りからこんなに侮辱されて、心の中で泣いていた。
でもって突然、着ぐるみの頭が、誰かに被せられた。
その人物は、サイコキネシス(プシキキニシス)で操ったデネボラさんだった。
「キャッ!? ……あれ?」
『このポンタヌの着ぐるみの使用上の説明を聞きますか?』
「い、イエス……」
『承りました。
まず、ポンタヌの頭まで被った事で、ポンタヌの着ぐるみの自動(オートモード)が起動している状態です。
中の気温は、各宇宙人たちの体質に合わせるために、その生物の細胞を採取し、自動で快適な温度帯を保っています』
「……痛っ」
『解析中、解析中……解析完了しました。
あなた様の快適な温度帯は22度から24度、湿度は55%から65%と割り出しました。
中の気温を、その温度帯にしますか?』
「い、イエス……」
『承認しました。
……
……いかがでしょうか? 中の気温は?」
「すっすごいすごい!! えっなにこれ!?」
『続けて、視界をクリアな状態にします』
「あっ……」
『さらに、補聴器、収音器等を調整して、クリアな状態にします』
「すご……」
『さらに、外の気温、温度と湿度、大気の成分分析をしたところ、あなた様の無害と認識しました』
「おおっ!!」
『一歩、二歩、前に足を踏み出してください』
「こ、こう!?」
「……膝にかかる負担、足裏にかかる体積上の負担を割り出しました。
……。
現在の重力値は、1.3Gと算出しました。
どうやら外で、人口重力が働いているようです。
あなた様の乳房に相当負担がかかるため、中から圧迫して、やや上向き加減に持ち上げて、適度に保つことを提案します』
「も、もちろん、OKよ!」
『承認しました。 今しばらくお待ちください」
「!」
「!」
「!?」
アユミちゃん、クコンちゃん、シャルロットさんの見ている前で、そのポンタヌの衣装の胸部位が持ち上げられていく。
むしろ胸部が膨らんでいくような。
「な、なに?」
「なにこれ? どうなってんの?」
「中で、自動モードが機能してるようね」
とシャルロットさんだけは、その機能を読んだのだった。
『いかがでしょうか? お客様』
「わぁすごいわね、他には何の機能があるのよ!?」
『いくつかございますが、今は必要ないようなので、その説明を省かせていただきます』
「なによ、愛嬌が悪いわね……ブー―ッ」
『お客様の体から、入浴上がりの発汗を感知しました』
「そこまでわかるの?」
『中の気温を、適温に保つために、送風機能をONにしますか?』
「ONで」
『承認しました。安全を保つために、微風にて行います』
「~~♪ いい風」
『アロマ成分上の品物を投入していただければ、こちらで処理します。……ですが、当機には、以前のお客様がすべてお使いになったため、残量は残っておりません』
「? 前のお客様?」
『……個人情報保護法により、その人物名は明かせません』
「なるほどね」
『以上の観点から、当機を使用しておられるお客様のお名前を知りたいと思います。……お名前は?」
「クリスティよ」
『クリスティさんですね。……いい名前ですね』
「……あなたの名前は?」
『私のめの名前は、ありません。……ただ、マスターが名付けてくれた名前があります……』
「……」
「シグノーミ……と」
そうしてあたしは、このポンタヌの着ぐるみの中で説明を受けるのだった。


で、今、ヒース(僕)たちは。
「デネボラさん、あれは?」
「ああ、あれはポンタヌの着ぐるみで、そのプログラムナンバーはPS-2382です』
「PS-2382……」
「中の気温を適度に保つのが、自動モードですね。省エネですから」
「……バッテリーはどれくらい?」
「う~ん……満タンで24時間くらい? 中にいる人の体積次第で、いくらでも変動しますから、私からは何とも……」
「……」
【この時のデネボラさんとヒースさんは気づくはずもなかった】
【クリスティにしてもそうだ】
【シグノーミは、日本語でごめんなさい】
【そして、プログラムナンバーPS-2382を語呂合わせすれば、ツミバツ……罪と罰だ】
【製作者がどんな思いで、これを残したのだろうか……――】
「――他にはどんな機能が?」
「えーと……中の適温を初め、視界、聴覚、嗅覚を初め、あと動く際の肉体にかかる負担の軽減ですね。
……。
ある程度の人の体積に合わせるため、伸縮性能があります。
場所によっては反重力やら滑走モード、ブーストモード、ジェットモード。
絶壁のロッククライミング」
「!?」
「人助けのために、レスキュー機能も有しているらしいですから、木の下敷きになった人や、瓦礫の除去や、怪力や居合切り。
火災現場から、安全地帯に逃げるために、大ジャンプ機能。
海難救助のために、海でおぼれた人を助けるために、遊泳や深潜り。
山岳救助のために、ロッククライミングができて、軽い身のこなしなんですよ。
そして気になる耐熱性能なんですが……。
あの着ぐるみの繊維は100度でジュル……と溶着して心許ないですが……。
あの着ぐるみ自体は、相当耐熱性能がとても高く、なんと3000度程度までの激しい炎なら耐えられる耐熱性能があります。
だから、噴火した火山地域でも活動できて、溶岩地帯や、降ってくる落石、噴石、溶岩に巻き込まれても、中の人は軽傷程度で済みます。
空飛ぶ車の衝撃でも、中の人は軽傷程度で済んでますよ!」
「んなっバカな!? 作った人は誰なんですか!? いったいおいくらかかったんですか!?」
「さあ?」
「さあって……」
「昔もらった、お古らしいですよ……」
(誰だよ……それを送った人は……メチャクチャ大金と開発費が動いてるぞ……))



☆彡
【渡り廊下】
着替えを済ませた一行は、指令室に向かって歩いていた。
だが、この中で異色なのは、ポンタヌの着ぐるみを着たクリスティさんだった。今は機能を解除して、頭だけ出して歩いている。
その歩いている最中での何気ない会話である。
「へぇ~……。この作り物の頭を取ると、すべての機能が停止するんだ。フ~ン……よくできてるわねぇ」
(出来過ぎだろ……!!)
「ハァ……」
と溜息を零すヒースさん。
「あっそうだ! シャルロットさん」
「? なーに?」
「あのね?」
ごにょごにょ
とあたしは訳を話したのだった。
あたしの話を聞いて、快諾してくれたシャルロットさんは。
「OKー!」
と了承してくれたのだった。
あたしは朗らかに笑った。この人達とは付き合いこそ短いが、こうしたやり取りが続いていた事があって、何か頼りやすくていい人だったの。だから、お願いして正解だった。
「――デネボラさん」
「はい、何でしょうか?」
「……そのスバル君は今?」
それがアユミちゃんがシャルロットさんに話した、聞きたい内容だった。
彼女としても、そのスバル君の状態が知りたいからだ。
もちろん、わかってる。
事前にシャワールームで、彼を手術したクリスティさんやシャルロットさんからも話を聞いているが、まだ、デネボラさんからは、その術後経過を聞いていないからだ。
だから、あたしはそれを聞きたかった。
「……」
アユミちゃん。
「……」
ポンタヌの着ぐるみを着たクリスティさんは、聞き耳を立てて。
「……! ……!」
「……」
デネボラさんの話に頷き得るシャルロットさん。
そして――
「――なるほど」
「……あの、なんて?」
あたしはシャルロットさんに尋ねると。
「安心していいって」
「!」
「そちらにいるクリスティさんの手術で無事、生存ラインは保たれて良いって」
「!」
「今は、術後経過を見守るだけで、明日には、目を覚ますよ!」
「ホントに!?」
「良かったわね」
「うん!」
隣にいたクコンちゃんからも、そう声をかけられて、顔が明るくなるアユミちゃん。
よかった、スバル君は無事だ。
「……フッ」
ポンタヌの着ぐるみを着たあたしは、鼻を鳴らす。
当然よ。あたしが手術したんだからね。
「……」
患者さんが無事だと知り、医者としてのキュウジを果たせた事に一安心する。
だけど……。
「……う~ん……」
どうにもあれが気になって、頭に中に引っかかっていた。
(確かに、あたしの手術に問題はなかった……。けど、あれは……)
思い出すのは、あの手術場面。
(焼いた跡がった。氷で塞いだ跡もあって……)
あたしが1人で、そんな事を考えていると。
シャルロットさんが、呟きを落とす。
「レグルス隊長は、今回の一件で長期の有給休暇を与えられるって」
「は?」
「え?」
「へ?」
「なんでも、兵士さん達が本人に問い合わせて、事の真相を聞いたらしいわよ」
「「「……」」」
――そこへ、シャルロットさんに変わって、ヒースさんが腕を組んで、呟きを零す。
「――まさか、そんな手があるだなんて、僕も思わなかった……!」
振り返る一同。
「……負けたよ……」
あの人の行動を認める。なんて潔さなんだ。
とここでクコンちゃんが。
「えっ? どゆこと?」
「何でも、このままアンドロメダ星に地球人が、難民として定住した場合、色々と問題と素行の悪さが起こるんだ。
だから、どこかで悪役として間引く必要があった。
あの無人偵察機『メイビーコロ』を使って、地球とアンドロメダ星、双方に動画を流していたんだよ」
「え……?」
「そんな事が」
「ああ」
頷いて答えた僕は、顔を上げて――
「――人々の関心を買ったのは、スバル君とLのエナジーア変換した姿、エルスの姿と強さだった!」
「……強さ」
「ただの強さじゃない!!
目的の意識、意識表示を強く指示す、それは未来への羅針盤だ!!
彼は、あの小さな身で、僕が『橋渡しになります』と公言した……!!
それは多くの人達が目にしていたはずだ!!」
「……」
「……」
「……」
「うん……!」
アユミちゃんが、クコンちゃんが、クリスティさんが、そして再びアユミちゃんが頷き得た。
「それによって、地球人とアンドロメダ星人が、歩み寄れる立場かもしれないと、思わせた!!」
「……歩み寄れる立場」
「次に関心を買ったのは、スバル君のドケザシーン」
「「あっ!」」
これには見覚えがある2人。
確かにスバル君はあの時、ドケザして、謝罪をしていた。
「言葉はわからない、言語はわからない、何を言っているのかはわからない。
けど……!
街頭にいた人達は足を止めて、その街頭のエアディスプレイTVに強い関心を示していた。
そして、スバル君VSレグルスの一騎打ちを経て、地球人に対する風潮の悪さ、固定観念の疑念が、ゆっくりと氷解されていく……」
「……」
「……」
「……」
「最初から、負ける事がわかってて、君たちに勝ちを譲ったんだよあの人は……。だから、あんな大仕掛けの舞台を用意した……!
……あの天から落ちた落雷の後、爆煙が辺りを覆い隠し、2人は同時に倒れていた」
「「「あっ!」」」
「ダブルノックアウト……!! 引き分けさ!!」
「……」
「引き分け……かぁ……」
「うん……」
クコンちゃんがそう言って、残念だけどあたしも頷き得る。
「――だが、今はアンドロメダ王女様が母星に連絡して、
あの後、隠れた会話があった事を報せた。
アンドロメダ星には、デマ情報として流して、地球人スバル君の『勝ち』としたんだ!!」
「勝ち……!」
「……」
「「……」」
あたしとクコンちゃんは顔を見合わせた。
スバル君の勝利だ。
「追って、レグルス隊長にも王女様から連絡して、『済まなかった』と言ったらしい」

――そう、これにはレグルス隊長も『フッ……』と笑みを浮かべる。そんな不思議なやり取りがあった。

「それにどうみても、あの映像を振り返れば、最後の雷は、スバル君が落としたものだった……!!
経緯はどうであれ、追い詰められた立場の少年が、君達2人を磔にされた現場に駆けつけ、無我夢中でどうにかしていく」
「……」
「……」
「最後に女医の手を借りて、蘇生に成功した」
「……」
「まるで物語の主人公だよ! だから今は、どのTV局の報道機関も緊急特番を組んで、見直しを行っている!!」
これには3人ともホッと一安心する思いだ。
「すべては、レグルス隊長に仕組まれていた! 見えないところで引き立て役だったんだよあの人は……! だから、特別に有給休暇を与える! それが王女たちなりの便宜さ!」


☆彡
【同刻】
【静止軌道ステーション】
――その頃、静止軌道ステーションに着いたレグルス隊長は、シシドを抱いて暗がりの向こうに歩いていくのだった。


☆彡
【アンドロメダ王女の宇宙船 渡り廊下】
「……そう言えば……!」
俯いて考えるクリスティ(あたし)。
振り返るは少女達。
「「!」」
あたしは語り出し始めた。
あの手術に立ち会ったあたしには、どうしても不可解な点があったからだ。だからこの場を借りて語り出す。
「なぜか心臓に空いた穴が小さかったわ。まるで焼いたような跡があって、生死を決める出血量も、あの傷にしては……なぜか少なかった……!!」
「「!!」」
「フッ……決まりだね」
「ええ」
ヒースさん、シャルロットさんと納得し合う。
とこれにはアユミちゃんもクコンちゃんも。
「「ウソ~~ン!!!」」
もう驚きの連続だった。
すべてはレグルス隊長に仕掛けられた、せめてもの報いだった。


☆彡
――その頃、待たされているアンドロメダ王女も不機嫌極まりないもので、その顔に滲み出ていた。
「遅い……」
これには周りの兵士さんたちもビクビクしていた。
(((((さっさしろ地球人!!!)))))


☆彡
「……フッ」
僕は笑みを浮かべて。
「………………」
1人、考え事をしていた。
その様子に気にかかったシャルロットさんが。
「ヒース、何を考えているんですか?」
「いや、あの時の未練だよ」
「! 未練……!?」
デネボラさんがそう言葉を発すると、ヒースさんが振り返り、あの当時の事を語り出す。
「あぁ、あの時、僕は……。まだ若く、ある任務に就いていた……――」
――振り返るは、火災現場のビルだった。
「「……」」
「「「……」」」
聞き耳を立てるのは、シャルロットさんとデネボラさん。アユミちゃんとクコンちゃんとクリスティさん。
「――火災現場だった。
助けを求める人の声がしたんだ。
僕は、声がした方向へ走り出そうとしたんだ。
……だが!」

――僕はあそこで立ち止まってしまう……。

「……僕が請け負っていた任務は、とある重役の御令嬢を助けることだった」

――顔を上げる当時のヒースさん。
その目線の先には、少なくとも15人の民間人の集まりがいた。
その生命反応があった。
でも、僕は……クッ。

「進めば、少なくとも3人は救える自信があった。それだけの力があった……!
僕に助けを求める、多くの人達の声がしたんだ!
けど……!」

――天上に亀裂が走り、音を立てて崩落してくる。
舞い上がる粉塵と激しい火の粉。
危なかった。
と口零す当時のヒースさん。
廊下にいて、前も後ろも激しい炎の海だった。
黒煙が辺りを覆い隠し、鼻を衝くような異臭が漂う中、当時のヒースさんは、前から後ろに振り切って。
ごめんよ。
と零した。
走り去った後、音を立てて天井が崩落してくるのだった。
多くの民間人を救いに行く道が断たれる。
激しい火の海の中、駆け抜ける当時のヒースさん。
目線の先には、
崩落した瓦礫があり、道を塞いでいた。
僕は魔法の力で、瓦礫を除去し、進み続けた。
壁の向こうにいる生命反応を掴んだからだ。
時間はない。出入口を悠長に探す時間もない。……だったら。
僕はまた魔法で壁を破壊し、直進できる道を作った。
よしっ、ゴホッゴホッ、急がないと僕もヤバいな……ッ。
僕は穴が開いた壁を抜け、ぐったり倒れている彼女を見つけた。
しっかりしてください。
ううっ……。
良かった、まだ息はある。
チラッ目線を上げて。
……隣の建物まで約50mか……風の魔法を使えれば、飛び移れない距離でもない。だが、僕は使えないし……。
その時、ガラガラと音を立てて落ちてくるは、大きめの瓦礫だった。
危ない。
僕は急いで彼女を抱いて、それを躱す。
あ、危なかったぁ……。……!? これ、使えないか……?
……。
彼女はグッタリしていた。
僕はすぐに行動に移した。
まず彼女をその落ちてきた瓦礫の上に乗せて、
次に壁を破壊して、隣の建物に飛び移れる準備をする。
よしっ
後は簡単だった。
僕は、彼女が途中で落ちないようにその上に乗り固定する。
後は、光魔法を後方に打ち込み、その爆風で空を飛んだんだ。
隣の建物まで、約50mの空中滑走。
ぶつかる、僕は下にしている彼女に覆いかぶさり、衝撃に備える。
そのまま、隣の建物へ。
窓ガラスをガシャンと突き破り、見事にこれを救い出した。
だが、ついに、さっきまで僕達がいた隣の建物が音を立てて崩壊したのだった……。
そ、そんなまだあの建物には民間人が。
そこで、命が潰された……ッ。
僕が救い出せたのは、そのご令嬢たった1人だった……。


「僕は、なんとかその御令嬢を救い出すことに成功した……!
けど、今でも思い出すよ……。
この耳に残響として、いつまでも残っている……。
……あの当時の悲壮な現場で、助けて、と僕に助けを求める声が……」
「……」
「……」

【――それは開拓者(プロトニア)としての任務で、いつかは出くわすかもしれない、苦渋の選択だった】
【ヒースなりの答えを出した】
【いつかは誰かに、そうした現場の判断が迫られるのかもしれない――】

「私は、何が正しいのかわからない……。ただ、あの時の判断が正しかったことを願うくらいだ」

【ヒースも人の子だった】
【ここで、あの時の判断が正しかったといえば、それは倫理観がおかしい】
【人の命は同じ、ただ、その令嬢を救う事によって、多くの従業員を雇う事ができるとすれば、道理としても考えられる】
【どれが正しい選択肢かはわからない】
【だからこそ、人は迷えるのだ】
【次こそは、正解への道を探すと、失敗はしないと、多くの人達を救うと、道理と人の決意が高まっていくのだ】
【そう、まるで、警察官や消防隊の皆様、国のために毎日体を鍛えてらっしゃる自衛隊の皆様のように――】

「……」
あたしたちは何も言えない。
「……」
「……」
「とんでもない二者択一をあの時、スバル君は突きつけられたんだ……!
……。
スバル君も、あの当時の僕と同じだ!
……。
……あれが開拓者(プロトニア)試験なら、スバル君はその年、辞退しただろう!」
「……」
「……」
「人の命が関わっていた『運命の選択』だった……!
自分の人生の岐路において、母親を取るか? それとも恋人を取るのか?
もしくは仕事仲間を取るか? 家庭を取るか?
その重大な局面が、いつか、いきなり訪れる……!!
……どうしようもない問題だよ、これは……。
だから、スバル君が選んだ答えは、『沈黙』だった!!」
「……」
「……」
あたし達2人は、あの時の情景を思い出していた。
そう、あの時、スバル君は何も言えなかった。
あの後、スバル君は代わりに、自分の命を差し出し、代わりにレグルスに二者択一を迫った。
ズレているかもしれないが……、あの場の判断は正しく、もしかしたら、後から仲間が駆けつけて、どうにかしてくれたかも知れないからだ。
いわゆる時間稼ぎである。
「あれがもし、火の付いた導火線で2人に爆弾がついていたなら、スバル君はどんな判断を下しただろうか!?」
「……」
「……ッッ。とんでもない試験官だよあれは……!! 僕には逆立ちしてもなれない……ッッ!!」
それだけ僕は、あの人を半分認めていたんだ。

――その時、声を上げたのはクリスティさんだった。
「――開拓者(プロトニア)って何なの?」
それに対し僕は。
「……プロトニア試験。
それはプロトニアとして認められて、活動できるようになる試練だ!
スバル君が、全球凍結した地球を救いたい以上、その登竜門は決して避けては通れない!!」
「……なるほど……」
「宇宙には、まだ眠っている技術がある……!! スバル君と僕達次第だけど、いつかは全球凍結を解凍して、地球を復興させるのが目的なのですよ」
「そーゆう事だったのね……それがプロトニア試験……プロトニアの登竜門か……!」
「……」
僕は納得の理解を示すクリスティさんを見るのだった。
で、クコンちゃんが。
「……あの?」
「んっ? なんだいクコンちゃん?」
「その試験は、年齢制限とか性別、人種とかは関係ないんですか!?」
「強さが基準だ!!」
「「「……」」」
「強さ……」
「……それはどんな環境下に置かれても、劣勢な現場に立たされても、生き残れるだけの強さがいる……! 仕事は多岐にわたり、一種の何でも屋だね!」
「……」
「いろんな星を巡り活動するから、その仕事内容はとても豊富なんだ! だからとにかく生命力と強さがいる! 生きて帰れるだけのね……!」
「……わかりました」
「……」
僕は納得の理解を示すクコンちゃんを見るのだった。
で、アユミちゃんが。
「あの!」
「んっ? 何だいアユミちゃん?」
「今回、もし、それが試験だったなら……、……スバル君は……合格していますか!?」
「「「…………」」」
重い沈黙が流れてる。
「……ふ、」
ヒースさんが不合格と言おうとしたところで。
「合格に決まってるじゃないですか!!」
とシャルロットが割り込んできたのだった。その顔と声質は朗らかだった。
「だってあの内容ですよ! どうしようもない問題に対して、スバル君は勝ち残ったんですよ! 合格に決まってますよ!」
「そ、そうですよね!? そーに決まってますよね!?」
「……」
ヒースさんは疑いの眼差しで、そう無理に答えたシャルロットさんを見ていたのだった――


☆彡
指令室にて。
アンドロメダ王女側も、そんな話をしていた。
「不合格か……やはり……」
「……」
呟きを漏らしたのは、アンドロメダ王女様だった。
隣にはLもいて、ガッカリした様子だった……。
報告を行うのは兵士の1人だ。
「ええ、私が思うに王女! スバル君はこの年、辞退すべきです! あれが試験なら、必ず命を落としますよ。彼は……!」
「姫姉……」
そのLの眼差しは、まるで頼りようにアンドロメダ王女様を見ていた。
「……」
顎に手を置いて考えるアンドロメダ王女様。そのお答えは。
「……今は力を蓄える時期が必要じゃ!!」
「「!」」
それが出した結論じゃった。
「少なくとも、今のスバルは弱い……弱過ぎる……!! 望むなら来期じゃ!! 仲間を集め、 準備が出来次第、開拓者(プロトニア)試験に臨もう!!」
それがわらわが出した答えじゃった。
これには一同、「はい!!」と威勢よく返事を返したのじゃった。
頷くわらわ。
(そう、これが最善の道のり……。もし、仮にスバルだけ合格しても、旅先の事故で死ぬだけじゃ……そんな不幸な目に合わせぬためにも、今は準備の時期が必要じゃ……!!)
わらわは体の向きを変え、モニター画面に見える宇宙の広い様子を見た。
(そう、今は準備の期間じゃ……スバルを失うわけにもいかぬ……。今は見守ってくれ、アンドロメダ星の神々よ……)


☆彡
それはクコンちゃん側の呟きだった。
「う~ん……」
「……?」
「例えばさ! 腕のいい狙撃手がいて、その人がレグルスを撃ったんなら、あたし達2人とも助かってない?」
「!」
「く、クコンちゃんもしかして!?」
「うん、考えてたの……昨日からずっと……!! ……あたし、スバル君の力になる!!」
「「……」」
「「「……」」」
アユミちゃん、クリスティさん。
ヒースさん、シャルロットさん、デネボラさん。
「クコンちゃんは強いな……」
と口を零すアユミちゃん。その時、あたしは思ったんだ。もどかしさを。
(あたしにも、何か力があればなぁ……)
つい、そんな事を考えてしまう。
きっと、スバル君はそんなあたし達よりも、ずっと先の道を歩いているはずだから――


――アユミちゃんのイメージ図。
スバル君の見上げる先には、
天にも突き立つような高い山。その頂きが見えず、厚い雲から吹雪が吹雪いていた。
スバル君はロッククライミングの要領で、
確実に1つ1つ、登山していく様子がうかがえる。
その顔は凍傷していた。
だがその面持ちは、ただただ前だけを見据えていた。決して折れない、熱い心(ハート)を灯していた。


「……そうか! あの時! レグルス隊長がシシド君を連れて行ったのは、この時の為だったんだわ!」
そう呟きを漏らしたのは、シャルロットさんの女の勘だった。
「修行だな!」
「ええ」
「……フフッ」
あたしデネボラは、小窓から見える、宇宙の煌めきを見た。
(何よちゃんと考えているじゃない! レグルス隊長……!)
あたしは感慨深くなる、旧知の昔馴染みとして。
「…………」
宇宙空間はとても静かに流れていた――


☆彡
【指令室前】
指令室前、2人の衛兵が門番を構えていた。
「シャワーを浴びて、汚れを落としたな?」
「服を着替えたな?」
「「……」」
2人の衛兵さんが見下ろす先にいたのは、新しいクリスティさんのおふざけた着ぐるみだった。
「ポンタヌ~~」
クリスティ(あたし)は着ぐるみの上から、ポンッとお腹を叩いた。
おふざけ過ぎ。
だが、この衣装しかなかったのだ。
それは着ぐるみだった。ポンタヌの頭を被れば、ポンタヌの着ぐるみの完成だ。おマヌケにも、顔だけクリスティさんの顔だ。
これには2人の衛兵さんも。
「プッ」
「クックッ、失礼……」
思わず笑いを堪えてしまう……。
とクコンちゃんが。
「ねえ、ホントにその着ぐるみの衣装しかなかったの?」
「……」
無言のクリスティさん。
「……」
とここでデネボラさんが一言告げる。
「今娘さんの新しい着衣を縫っているところです。製作完了まで今しばし時間かかります」
「「……」」
その話を聞くのは、2人の衛兵さん達。
「よって、先に姫様のお目通りを希望します」
「「……」」
これには考えさせられる2人の衛兵さん達。
新しい着衣完了まで時間がかかる以上、先に合わせた方がいいのは道理だ。
さらに、姫様はずっと待っておられる。痺れを切らして爆発する危険もある。
それだけは非常にマズイ……ッ。
よって下された決断は――
「――通れ」
「我等が王女様がお待ちだ、粗相がないようにな」
門番が退けると。
星座を模した機械質的なドアが反応を示し、ドアのロックが解除されて、左右に開き、上下にも開き、その奥の空間が開けたのだった。
その奥にいたのは、待っていたシンギン副隊長だった。
そのシンギン副隊長が目配りした先にいたのは、アンドロメダ王女様とL様だった。


TO BE CONTINUD……

しおり