91章 テレビを見る
テレビをつけると、バレーボールの試合が映し出される。
テレビ画面では、「爆乳美女オールスターズ」と「貧乳美女オールスターズ」が対戦中。ドストレートすぎる名前に、ネーミングセンスを感じた。
「爆乳美女オールスターズ」の選手が、サーブをする場所に立っていた。胸があまりに大きすぎて、バレーボールをするのは難しそうだった。あまりに胸が大きすぎると、競技の邪魔になりかねない。
「爆乳美女オールスターズ」がサーブを打つ。ネットはおろか、味方のアタックラインにも届いていなかった。プレイヤーとしてのスキルは、地を這うレベルだった。
サーブを失敗したにもかかわらず、監督から悔しい気持ちは感じられなかった。試合とは思えないほど、ふんわりとした空気に包まれている。テレビに映ることが目的で、勝負はどうでもいいようだ。
「貧乳オールスターズ」の6番の選手が、サーブラインに立った。胸が膨らんでいないからか、バレーボールはやりやすそうだった。極端な爆乳、極端な貧乳を比べるなら、極端な貧乳に軍配が上がる。
6番の選手がサーブを打つ。手の当たる角度が悪かったのか、上に高く上がっただけだった。弾道を見ていると、空から落ちてくるボールを、キャッチする練習をしているかのようだった。どんなに贔屓目に見ても、バレーボールのサーブではない。
サーブを失敗したのに、チーム全員は笑顔だった。こちらのチームにも、勝ちたいという気持ちは感じられなかった。雰囲気だけでいうなら、万年1回戦チームである。
チャンネルを切り替えると、教育番組が放送されていた。
「ラテン語のcanis(カニス)を、日本語にしてください」
英語ではなく、ラテン語を翻訳させる。言葉を知りたい人向けの、マニアックな番組になっている。
10歳くらいの女の子が手を挙げると、
「犬です」
と答えた。あまりにも難しすぎて、正解、不正解なのかわからなかった。
40くらいの講師は、満面の笑みを見せる。
「正解です」
次の問題が出題された。
「ギリシャ語のハリトメノスを、日本語に訳してください」
外国語好きな人のためのマニアックな番組。一般人に理解できない内容は、どういった層に需要があるのだろうか。
10歳の男の子が手を挙げたのち、
「ハリトメノスはかわいいです」
と答える。
講師は再び、満面の笑みを見せた。
「正解です」
ミサキはチャンネルをチェンジする。テレビ画面では、新薬に関する情報が流れた。
「ダイエットに最適な、ヤセヤセルンヤセルンルンが発売されました。効果抜群なので、お試しください」
人間は楽をしたい生き物。簡単に痩せられる薬が発売されれば、一定数は食いつくようにでき
ている。そうでなければ、この手の商品は成立しない。