90章 散歩
ストレッチをしたことで、ちょっとした筋肉痛になった。慣れないことについては、やらないほうがいいと思った。
アヤメは外を指さす。
「ミサキちゃん、一緒に散歩に行こうよ」
「散歩?」
「体を維持するために、散歩を取り入れているの。時間は1~2時間くらいだよ」
食事制限、律儀な歯磨き、ストレッチ、その次は散歩。アヤメはトップアイドルになるために、すべての時間を捧げている。人間として生まれてきたのではなく、アイドルになるために生まれた、ロボットさながらである。
「ミサキちゃん、どうかしたの?」
内心を悟られないように、必死に演技をする。アヤメを傷つけたくないという、思いが非常に強かった。
「ううん、なんでもないよ」
「何をいいたいのかは、察しはついているよ」
「アヤメちゃん・・・・・・」
「ミサキちゃんは、とっても優しいね」
「そんなことはないよ・・・・・・」
「散歩は一人で行ってくるね」
「私も・・・・・・・」
「ミサキさんはお休みだから、ゆっくりと過ごしたほうがいいよ」
アヤメは顔にクリームを塗る。日焼けを防止するための、クリームであるのかなと思った。
アヤメはクリームを塗ったあと、麦わら帽子をかぶった。
「2時間くらいで、こちらに戻ってくるね」
「アヤメちゃん、いってらっしゃい」
アヤメは散歩に出かける。彼女の背中は、寂しそうなオーラを醸し出していた。