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第2章の第24話 災禍の獣士レグド! 再び

宇宙エレベーター。
光の矢となって凄まじい速度で駆け上がっていくは彩雲の騎士エルス。
大気圏に迫る。
対流圏(0㎞~約12㎞)、
成層圏(約12㎞~50㎞)、
中間圏(50㎞~80㎞)、
熱圏(80~800キロメートル)
(光速の世界に突入するよスバル!)
(わかった!)
僕達は眼前には熱い大気の層があり、この激しい爆音速度の中、熱い気流を突き破っていた。
さらに僕達は速度を上げる。音速から光速の世界へ突入する――毎秒29万9792.458㎞(約30万km/s)に達した。
これは、1秒間に地球を7週半回ることができる速さだ。
ちなみに地球の直径は、1万2742㎞。これは地球の赤道半径でいえば、6378.137㎞に相当する。
この速さを用いれば、地球から月まで距離、38万4400㎞を僅か2秒で行き来できる。
さらに少し時間はかかるが、地球から太陽までの距離、1億4960万㎞を約8分19秒で行ける距離だ。
さらにちょっと時間がかかるが、地球から火星までの距離、7833万8770㎞を5分20秒で行ける距離にあった。約260秒くらいだ。
光速とは、それだけ速いのだ。
僕達は、地球の重力を振り払い、外気圏。宇宙空間に躍り出た。
さらに宇宙エレベーター沿いに駆け上がって行く。
その先にあるのは、幾つもの障害物だった。
火星重力センタ(3900㎞)
月重力センター(8900㎞)
低軌道衛星突入ゲート(23750㎞)
宇宙太陽光発電衛星
それ等を瞬く間に凄まじい速度で駆け上がっていく。そして――
静止軌道ステーション。
地表から静止軌道ステーションまでの距離は、36000kmに達した。
僕達はそこで思い切りジャンプ。
僕達の体はどこまでも上昇していき、静止軌道ステーションの眼下を見下ろした。
いた、奴だ、災禍の獣士、奴がいた。
彩雲の騎士(僕達)は我が身にサイコキネシス(プシキキニシス)をかける。
上昇していく僕達の体はビタッと止まり、フワッと浮遊感に包まれる。
そして、ゆっくりと災禍の獣士眼前に降り立ったのだった。

「――どうだ!? 気に入ってもらえたかな!? これが俺達の決着をつけるに相応しい場所だ」
「決着と呼ぶには随分と殺風景な場所だ」
「フフフ、これ以上の場所はないのだよ。そう、全てはこの場所から始まった――」


★彡
――俺はあの時のことを思い出した。
俺は意識を失い、あの『厄災の混濁獣』になって、知らずのうちにお前達に破れた。
俺は、アンドロメダ王女様やデネボラ達の手で、一度凍結保存される形となった。
「治療マシン(セラピアマシーン)は1機しかありません。
L……あなたも生命維持活動維持のため、一度、『人体冷凍保存』クライオニクストレッチ(クリオニキアポキシティ)を行います」
「わかっておるだろうな。文句は言わせぬぞ」
「まぁ仕方ないよね……」
と心身ボロボロの僕はそう言った。
実は、こうしている間にも、『死』が迫っていたんだ。
L、レグルス、あとシシドも含めた3名は、人体冷凍保存により延命措置に入った。
実は、コールドスリープもクライオニクスも似たもので、和製英語であるかないかだけだ。
その目的は、生体を極低温に保存する目的として、生命活動の維持ができない人や動物を蘇生が可能となる未来まで、冷凍保存する行為や科学技術を差す。
地球からアンドロメダ星まで、ワープを用いてもそれ相応の時間がかかるため、間に合わないのだ。
その為の苦肉の策、生命維持活動を仮死状態にすることで、生きながらえる最先端医療の1つとされている。
もちろん、今回のケースは緊急事態により使用せざるを得なかった。
L、レグルス、シシドの場合は生体。
恵けいの場合は遺体であるが、どちらも保存を目的としていることには、大差ないのだった。まぁ、アンドロメダ星人なりの配慮、気遣いである――


★彡
次に目を覚ました時は、病院のベッドの上だった。
俺は目を覚ました。
「……ここはどこだ。あぁこの匂い覚えがある……病院か」
俺は頭だけを動かし、周りを見た。
それは身に覚えのある病院の風景だった。
「……あの時、何があった……」
(……ッッ、体が動かん……!)
目覚めた当日、俺は丸1日動けなかった。
ここアンドロメダ星は、地球時間の三分の一に値する時間の経過が早かった。
俺は病院のベッドの上で過ごした。
その時だった。
この部屋の向こう、ドア越しに誰か兵士がいた。
「そうか……。その地球人の名前はスバルというのか」
スバル……。それがあの地球人の名前か。
「で、王女はなんて? はぁ食談を開くぅ!? その為の手はずを整えろぉ!? おいおい、何でそんな状況になるんだよ!?」
素直に驚いた。あの王女と食談をするなど。どう天地をひっくり返ればそうなるのだ。
「……あぁ……あぁ、へ~~地球の神が現れて、その子供に第2の命を与えた……はぁ!? 何だそら!?」
驚いた、敬服した。地球の神があいつに第2の命を。き、気になる。
「い、色々とすごい事があったんだな。あぁ……あぁ……わかった。こっちの方は任せろ! レグルス隊長の見張りはドーンと任せておけ! おうわかってるって、じゃあな」
なるほど、俺の見張りか……。俺は意識を失った後、どうやらこの兵士に見張りとして付けられたらしい。
「……しっかしー! へー! あのLに適合者が見つかったのか。これは動くな、新しい時代が……」
Lの適合者。名はスバルというのか、俺はその名を心に刻んだ。しかし、新しい時代か……。
俺はその寝たきりの状態のまま、その日を過ごした。

――俺は2日目にしてようやく自力で浮遊できるまでに回復した。
俺は自分の手や足が動くことを認めた。
「……まだ本調子には程遠いか」
俺は窓の外を見た。
アンドロメダ星の空は赤かった。
「いったい何があったのか、知りたい……」
その時に聞こえてきたのは、隣の部屋からだった。
それは一般人が見ているTVの内容であった。

『いや~驚きましたね! アンドロメダ王女の身勝手な行動には』
(なに?)
『あれでしょ!? 自国民を傷つけられて怒り狂って、その地球を攻撃したという』
『ですが、この話は大きく分かれているのですよ! その地球から飛ばされた攻撃は、実は攻撃ではなく、某センターから飛ばされた宇宙探査機だったのです』
『えええええ』
(何だと!?)
『その宇宙探査機はアンドロメダ星に飛来して、
調査という名の大量破壊、器物破損、そして実際に死傷者がでる大惨事を起こしたのです。
かつ、アンドロメダ星に蓄えてあった希少なエナジーア水晶を持ち出していった。
その際、勇敢なエナジーア生命体のハーフの方2名が、その宇宙探査機に乗り込んだのです!』
『ゆ、勇敢ですね……。僕ならそんな行動できませんよ』
『そのまま宇宙探査機は飛び立ち、次元トンネルを超えて、地球という星に降り立ったのです。
そこからは逆襲劇さながらだったということです!』
『な、なるほど……それはすごいですね。そのお二人は、今!?』
『え~と待ってくださいね。
色々ゴチャゴチャしていて、情報の整理が追いついていないのです。
……と次に目を引いたのはアンドロメダ王女の公演の場。
これにより、第1先鋒隊は、地球のライフラインを絶つことを目的としたアンドロメダ王女が率いる部隊。
第2の主力隊は、地球人との猛烈な抵抗を考慮し、各ファミリアよる選出された大部隊が戦艦に乗り、攻撃するというもの。
第3の部隊は、今回の事件を引き起こした首謀者を捕まえ、その全責任を償わせるというものでした。
この演説には、心を打たれた方やファミリアの方々がいて、アンドロメダ王女を擁護する声が上がっています。
まぁ、あの場面では、攻撃されたから報復してやろうという、怒りが先走った結果だったとも言えますね。
ですが、実際には調査を欠いた攻撃に移ってしまったと言えるわけですね』
「……随分、様変わりした事件ですね」
「はい。
その後、アンドロメダ王女達は地球に乗り込んで、攻撃。
この攻撃の時点で、もう戦局は詰んでたんですね。
その後、第2の主力隊が急襲をしかけ、なななんともの数分で決着が着いたとのことです!」
「早っ!? 地球からの反撃はなかったんですか?」
「それが不思議なことに……。どうやら第1に先鋒隊の時点で、決着がついてたとしか考えられません……」
「恐るべし……アンドロメダ星の近代兵器……」
(いやそれ……)
「いったいどんな近代兵器を隠してたんでしょうか……」
(やったのうちの王女だから……)
『その後、今回の事件である首謀者とアンドロメダ王女は?』
『え~と……今入った情報によりますと……。
勇敢な兵士2名の名前は、オセロさんとイゴさんという名前の方で、
この一連の騒動の間に、その首謀者の某センターを壊滅させたとのことです』
『そして、第二の主力隊の皆さんがオセロさんとイゴさんと合流し、そのまま静止軌道ステーションに奇襲を仕掛け、その首謀者の女を捕まえたとのことです」

(静止軌道ステーション! そこに首謀者がいたのか……!)

俺はその後、彩雲の騎士と再戦するならば、ここしかないと思った。
『その後、アンドロメダ王女以下の兵士達は、宇宙の法廷機関に呼び出され、厳重注意を受け、何らかの形で決着がつくとのことです。
さらに言えば、その宇宙の法廷の場に、今回の事件の首謀者を突き出して、『死刑』が確定したとのことです!
それがその時の映像です』
何だってアンドロメダ王女様が。
首謀者の死刑はまぁ当然だが……。
どうなってるんだいったい。
『――これはすごいですね』
『はい。この首謀者の女性のことが分かり次第、またお伝えします。それではまた次回の機会に!』
俺はいてもたってもいられず、この病室を抜け出した。
真実を探る必要があったからだ。
そして、レグルス隊長が抜けた後、しばらくしてから見張りの兵士が入ってきて、病室がもぬけの殻であることがわかったのだった。
「大変だ! 隊長が病室を抜け出した! すぐに探さないと!」


★彡
その後、俺は変装し、聞き込み調査を行った。
「アンドロメダ王女様は大丈夫だよ! あたし達国民みんなの味方だからね!」
「何かあった場合、みんなで声を上げるさ! あのお姫様の演説は良かったからね!」
「アンドロ様大好き!」
色々な街の人達の生の声が聞けた。
やっぱり信じてよかった。
「んっ」
その時発見したのが、人相の悪い亜人だった。
(どこに向かって歩いていくんだ?)
俺は気になり、付いていくことにした。
その亜人が入っていったのは、どこかの酒場だった。
(酒場か……)
俺はその酒場に入っていった。


「マスター! 酒だ酒! 浴びるほどもってこい!」
「大丈夫かい! あんた片腕亡くしてからいつもこうだよキュ!」
ここの酒場のマスターは『キュイ族』が務めていた。
大きな体格で、顔立ちは可愛く、尻尾には草があるのが特徴的だ。語尾が特徴的でキュと鳴く。
この人はおじさんみたいで、もしも子供がいたならば、マスコット的存在だろうな。
「何だとー!! 文句あんのか!! クソッ全部あの宇宙探査機のせいだ!!」
マスターはやらやれという感じで、「……キュ~」と嘆息し。「キュウッ」と酒を出した。
「へへっ、これだよこれ!」
その亜人の男は酒をグビグビと飲んだ。
レグルス(俺)はその隣の先に座った。
「ミルクを」
「……ママんの乳を吸いに行け!!」
「ここは酒場だキュ」
その時、ドォンと火炎柱が立った。
これには亜人もマスターもビクッとする。
「俺はミルク派なんだ! グツグツに煮だったミルクが飲みたい……わかるよな?」
これには隣の席にいる亜人の男も激しく同意した。
そして、俺は火炎柱を抑える。
暫くした後、マスターからグツグツに煮だったミルクが振舞われた。
俺はそれをゴクゴクと飲んだ。
「ふぅ……生き返る」
「……こいつおっかねえ……」
「……」
マスターも頷きながら、コップをキュッキュッと拭く。
その時、ある事に気づいた。
「おや、あんた等2人似てるキュね!」
「?」
「?」
「腕を失っているのかなんて同じキュ! この際、その事について話し合ったらどうだい?」
マスターから軽口を叩かれたのが始まりだった。
「けっ、冗談じゃねえ。誰がこんな奴に」
「俺も激しく同意見だ!」
マスターはやれやれという感じで、嘆息した。
その時だ。空中エアディスプレイにアンドロメダ王女とあのクソガキが映ったのは。
俺も思わず、横にいた亜人に向け、飲みかけのグツグツ煮だったミルクをブ――ッと吹き出した。
「ぎゃ――!! 熱ちぃ!!」
「す、済まん……」
「キュ~。あんた大丈夫キュ?」
思わず顔を火傷した亜人が騒ぎ。
それを引き起こしたレグルスが謝り。
カウンターからマスターが心配するのだった。
「これが大丈夫に見えるかっ!?」
顔面を火傷した亜人は激怒した。
カウンターからマスターが「キュウッ……」と納得した声が上がる。
「済まんな兄ちゃん」
「済まんなじゃねえよ。おかげで顔が大火傷だよ!! もうアローペクスに引き続きこれで2度目だよ! 二枚目が台無しだよっ!!」
レグルスが謝り。
亜人の兄ちゃんがすこぶる怒っていた。
だが、この時俺は(アローペクス……)の名を聞き、これは聞き逃してはいけないと、情報を掴んだ気がした。
「悪いな兄ちゃん。代わりと言ってはなんだが、ここのお代は俺が立て替えておいてやる。マスター! 領収書にサインを書かせてくれ」
「キュ、構わないキュね」
と俺はマスターから領収書を受け取り、サインを一筆認めた。
その横から亜人の男が覗き込んできた。
「へ~あんちゃん! お堅い職業に付いてるんだな……って、王女様に請求って何だそれ!?」
その顔に火傷した亜人は驚き、今TVであっている王女様と執筆中の王女様の名を交互に見やった。
「ああ、俺は王女アンドロメダ付の兵士の1人なんだ! レグルス隊長と言えば誰でもわかる!」
「……カッ」
「キュッ」
俺は自分の身分を明かし、これには亜人もマスターも腰を抜かした。
「何であんたはこんなところにいるんだ!? 今日は非番か何かか!?」
「今、王女の横に地球人のガキがいるだろ……ってL!! お前何で出てきてるんだ!?」
「……え、L?」
「キュ~!?」
「……」
その時、Lも宇宙の法廷機関の場にいて、スバルと再開していた。
何でこの2人が、そんな場所にいるんだよ。だが、この時俺は、しまったとばかりに頭がいっぱいになった。しまった、Lのことは極秘だ。なんとか隠さなければ。
「……」
そんな事を俺が考えていると。
何も知らないTVの向こうで、クソガキとLがエナジーア変換して、1人のエナジーア生命体になった、彩雲の騎士だ。しかも名前を言いやがった。エルスだと、へぇいい名前じゃねーか。
「何だ!? なんかTVの向こうで合体したぞ!!」
「違うキュ。あれは融合というんだキュ」
「融合……そう言えば前に聞いた事があるな! アンドロメダ王が王女にいくつかのエナジーア変換装置を貸し出したって! へ~これが噂に聞く名高いエナジーア変換装置か」
「違うキュ。正しくは、エナジーア変換携帯端末というんだキュ」
「どっちも同じだろー! マスター!
しっかし! こいつの頭の中はぶっ飛んでんな~! ファミリアを立ち上げて、氷の惑星となる自分の生まれ故郷を救おうってんだろ!?
今までにいなかったぜ! アローペクスですら悲劇にあい、援助を請うたってのが当たり前だというのに、初めて見るタイプだね~この坊やは!?」
「アローペクスが援助を請うた……?」
「ん? あぁ、おめえさん何も知らないのか? なら少し、アローペクスにまつわる昔話をしてやるよ」
「しっかしー! この分じゃ随分な数の地球人の難民が、この星に着そうだね。何事もなければいいが……」
「いいやなるね! それはアローペクスの歴史が物語ってる! じゃあ、話そうか酒の肴に……アローペクスが絶滅するまでの悲劇の物語を……!!」

男は上機嫌で語った、その内容は恐るべきものだった――

「――で、これがブラックマーケット発祥の奴隷首輪というわけだ」
机の上に出されたのは、新品の奴隷首輪であった。その数は2つ。
その亜人は酒をグビグビと煽る。
「どっかのファミリアが買ったらしいぜ。その母親と娘をよ。
だがしかし! あの宇宙探査機が突っ込んできて、母親はその事故にあい、不運にも死亡――!
生き残ったのは、娘1人というわけだ!
泣ける話だよな~、今やその娘は王女(プリンセス)様だよ、アローペクス最後のな!」
俺はその奴隷首輪を1つ手に取った。
その間、男はグビグビと酒を飲み続け、バタンと倒れだした。
「ンゴォ……!! グクゥ……プリンセス……クコン……」
「クコン……それが最後のアローペクスの名か……!」
意外にもそいつは物凄い物知りだった。
俺は2つの奴隷首輪を取って、その場を離れた。
「マスター! この男が起きたら、何かディナーでも出してくれ! 熱々のミルク付きでな! 1つ賢くなった! 俺にも何かやるべきことが見つかったようだ……!」
「フォフォフォフォ、また来るといいキュ」
(最後のアローペクスか……。これはアンドロメダ王女に伝えなければ……!)



★彡
俺は取り急ぎ病院に戻り。俺が入院していた部屋の周辺で騒いでいる兵士達を発見した。
ヤバい、見つかると隠れた。
「いったいレグルス隊長はどこに行ったんだ!? あの大怪我じゃそんな遠くには行けないはずだが……」
「さすが隊長格ともなると、体の鍛え方が違うんだろうな。どこまで遠出したんだろうか……?
「それより見たか? あの動画」
「ああ、見た見た。あれのお陰でアンドロメダ王女様の首は繋がったんだからな。あの地球人には感謝だよな」
「だな」
(首が繋がった……?)
「だが、普通怒るだろ!? 許す許さないもなく、あんな問題の解決策は普通は出せねえよ」
「だな」
(……)
とそこへ看護婦の方が通りかかり。
「兵士の皆様。当病院の廊下ではお静かに」
「とといけねえ」
「……ッッ」
と兵士達は看護婦さんから注意を受け、黙った。
「でもほんとに驚いたね。いったい誰がどんな方法で、あの惑星にとても信じられない大穴を開けたんだが……」
「……」
「……」
(……言えない。とても王女様が自分から開けただなんて、口が滑っても……)
「あの坊やの星でしょ。可哀そうに……聞いた話じゃ1週間ほどで全球凍結(スノーボールアース)(クライオジェニアン)になるんだって。
あの坊やは最悪、一生帰れないか。冒険中に野垂れ死ぬかだよ。おおっ怖っ!」
その看護婦は自分のことのように身震いした。
「今からあたしは、もう1人の入院患者さんのところへ向かうところだよ。
相当の重症者だからね。こっちの子も大概可哀そうだよ、せっかく顔立ちがいいのに、いったいどこであんな大火傷と大怪我を負ったんだが……。
じゃああなたたちも気をつけるんだよ」
「……」
「……」
(占めた! あの看護婦についていけば適合者の所に連れて行ってくれるぞ!)
看護婦さんは、医薬品を積んだ手押し車を押しながら、渡り廊下を移動した。
俺は気づかれないように、その後を付いていくのだった。


シシドが安静にしている部屋にて。
シシドは初めに運ばれたときは、全身に重度の火傷を負い、大怪我をしており、極めつけはその左腕が欠損していた。
レグルスもそうだが、その左腕をぶった切ったのは、他ならない彩雲の騎士である。
まぁ、あの場面では致し方なかったとも言えるが……。
そして、現在、その容体は安定し。重度の火傷も引き、その顔の火傷も皮膚医療再生を行い、ほぼ元通りまで回復していた。
ただし、その体にはいくつもの管が繋がれていた。
呼吸器マスクをつけた状態で。
看護婦さんは、手慣れた様子でシシドの看病をしていた。
シシドの顔にポンポンと粒子の粉を付着しているのは、皮膚医療の再生を促す薬品だろうか。
「これで良しッと! だいぶ見違えてきたわね! この子、整った顔立ちだったのね! ……最初、ここに運ばれてきたときと段違い! フフッ、またくるわね」
と看護婦さんは医薬品を積んだ手押し車を押しながら、この部屋を後にした。
そして、入違いざまに忍んでいた俺は、この部屋に姿を現した。
「……」
俺は名も知らないこの少年を見た。
だが、どこの病院でもそうであるかのように、病人のベッドの前にはネームプレートがあるものだ。
俺は、その名を読み上げた。
「『シシド』……それがお前の名前だったのか……」
俺はその名を呟き、感慨深くなった。
俺はこの部屋にずーっといて、陽の光が落ちていくのを見た。
夕方から夜に変わり。俺は動くことにした。
「……シシド、俺に協力してくれ! 俺は試さねばならない」
俺は、シシドの口に当てている酸素マスクを取り上げ。
その全身に繋がれている管を全部ブチッブチッと取り上げた。取り上げられた箇所から血が出血する。
心電図の計器が異常を起こし、警報音を告げる。
だが、構うものか。
俺はシシドを担いで、この病院の窓から飛び出したのだった。
後に残るは、ベッドのシーツに残る血痕、そこから窓伝いに続く血痕、極めつけは空いた窓であった。


俺は空を飛び移動した。
立ち寄ったのは知り合いの技師だった。
「おや、レグルス久しぶりだね。……とその子は?」
「地球人の子供シシドだ。実はアンタの腕を見込んで頼みがある!」
「?」
俺は知り合いの技師に洗いざらい話した。
「――なるほど。道理で同じ個所が欠損しているわけだ。で、俺に頼みというのは?」
「代金は後で必ず払う。俺とシシドに義手を取り付けてくれ!」
「……考えものだね。今の医療水準なら失った片腕くらい、長い時間をかければ医療再生が可能なんだよ。
君達はその機会を捨てるのかい?」
「……ああ。頼む! 俺の考えが正しければ、地球の時間はずっと短い。その前に試さねばならない少年と輩(ともがら)がいる!」
「……わかった! レグルス、君を信じよう」
その日、シシドは地獄の激痛を受けることになる。「うあああああ!!!」と悲鳴を上げるのだった。
その際、俺達は2人がかりで、暴れるシシドを抑えつけた。
そうして、シシドはまた意識を手放したのだった……。


★彡
出国の管理センターにて。
俺は端末の前に立って、メイビーコロのカスタマイズ画面を開いていた。
「さぁて、どうカスタマイズするか……さすがに毒やウィルスはマズいよな……このタイミング的に……」
俺は最悪を恐れた。
今、アンドロメダ王女の首が繋がっているのは、あの地球の被害者の1人スバルが何とかしてくれたからだ。
もちろん、スバルだけの力ではないが、それでも何かあった場合、非常にマズイ事には変わりない。
「滅菌処理は絶対にいるだろうな。地球に俺の不注意で空気中のウィルスや細菌を持ち込むわけにはいかない」
俺はタッチパネル画面でタッチして、滅菌処理を選択した。
それにより、メイビーの胴体部は白くなった。漂白とでもいうべきだろうか。
「次に必要なのは、送信と受信の役割、オスとメスだよな」
俺はタッチパネル画面でタッチして、オスとメスの両方を選択した。
「後は、俺達のスピードにもついてこれて、地上と宇宙の両方の環境がいるから、必然的に数も多くなるから」
その後俺は、黙々とメイビーコロをカスタマイズしまくった。
そして出来上がったのが、映像の送受信と速さに特化したメイビーコロだった。
俺は完了ボタンをタッチして、商品が出来上がるのを待った。
――ピローン
「受付番号Rー1394番の方、サービスセンター受付窓口までお越しください」
来たか。俺はすぐにサービスセンター受付窓口まで行った。
そこで受付対応していたのは、エルフのお嬢さんだった。
この時、レグルスは面識はないが、そのエルフのお嬢さんはあの時、Lに救われた人だった。そう、あの宇宙探査機が起こした災害現場で救助された人である。
「こちらが出来上がったばかりの滅菌処理を済ませたスピード特化のメイビーコロです」
「ああ」
俺はその商品が入った、カプセルを受け取る。
この小さなカプセルの中に、俺が希望したメイビーコロが入っているわけだ。
「しかし、凄い数ですね……。……あの失礼ですが、どういった目的で利用されるのですか?」
「……フッ、知り合いに生意気なガキがいましてね。現実の厳しさを教育するためですよ。
まぁ平たく言えば、兄弟子から可愛い後輩に贈る試練みたいなものです。少々乱暴な形になりますけどね」
「乱暴に……ですか?」
「あぁ」
俺は目を瞑った。
「……最悪、嫌われ者になるでしょう」
そして、目を開けて告げる。
「ですが、この一見に関しては、誰かが嫌な役回りを演じ、人柱になる必要がある……今後、アンドロメダファミリア、全体を護るためにね。その落とし前ですよ」
「え……」
そのエルフの少女は衝撃を受けた。
すかさずレグルスは、その先を読んでいたのか、万が一のために親書を入れた封書を取り出した。それも二部だ。
「こちらを、アンドロメダ王直属の三英傑の誰かに渡してください。中は親書です、危ないものは何も仕込んでいないのでご安心をお嬢さん。
そしてこちらは、アンドロメダ王女の別荘宛てです」
「……」
そのエルフのお嬢さんは、封書を受け取ったのだった。
「しばらくしたら、その3英傑の誰かがこちらにくるはずです。そう、人伝に連絡を取り次ぎました。では、さようなら」
フッ……とそのエルフのお嬢さんの目の前から、忽然とレグルスの姿が消えたのだった。
これには、一瞬茫然自失し、ハッと意識が戻った時には既に手遅れだった。
「ちょっと困りますよ~~これっ!!」
そのエルフのお嬢さんは手を挙げた、その手に握られていたのは封書だった。しかも王と王女に充てた二部。


レグルスの下準備は着々と済ませていた。
俺は空を飛び移動していた。
そして、宇宙船の貸し出し場にて――
「――サインを一筆書かせてくれ!」
サインを一筆認め、その宇宙船にシシドを乗せ、地球へ向けて飛び立っていったのだった。
その後は語るまでもない。
初めに、小僧と一緒にいた少女を拉致し。
さらに大きな学校にいた連中の中から、このシシドという少年の近くにいた少女を見つけ出し、拉致する際、周りにいた取り巻き達を切って捨てたのだった。
それが今日までのあらましである。
もちろん、エルスにはその全てを伝えてはいなく、親書と封書に関しては伏せていた。
あくまでも俺が、嫌われ者として演じきるためだ。
きっと落とし前はどこかで必要になってくる。
大丈夫、きっとアンドロメダ王ならばわかってくれるはずだ。


☆彡
「――なるほど。確かに僕もあの時、某宇宙センター主催の結婚式を見た。そこがここだった! ……納得!」
彩雲の騎士は戦う構えを取り、さらに言い放った。
「確かに静止軌道ステーション(ここ)以上の場所はない」
「俺はこの瞬間を待っていた! お前達の覚悟を試さねばならない!! 我が名は災禍の獣士『レグド』!! 行くぞっ! 彩雲の騎士『エルス』!!」
「――ッッ」
僕達は覚悟を決めた。
一番初めに飛び出したのは、災禍の獣士レグドであった。
どうせ討たれるこの命ならば、贄と糧として捧げよう。


TO BE CONTINUD……。

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