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183. 恐ろしいよね

 183. 恐ろしいよね




「ねぇねぇ先輩!明日焼き肉食べに行きたいです!」

「焼き肉?まぁ別に構わないが」

「やったー!!じゃあ約束ですよ!?ほら指切り!」

 そう言って小指を突き出してくる。今さらそんなことをしなくても、どうせ行くんだけどな……。

「ほらほら先輩!早く指切り!」

「別に指切りしなくてもいいだろ?」

「えぇ~……先輩ノリ悪い……」

 ぶぅと頬を膨らませる夏帆。なんだよノリ悪いって。その言い方がまたうざい。

「分かったよ。はいはい指切りね」

「はい!絶対ですよ!約束ですからね!」

 満面の笑みで笑う夏帆。なんだかんだこいつには弱い気がする。オレも大概甘いやつだ。

「さて、そろそろ帰りますかね」

「そうだな。もうこんな時間だし」

 時計を見ると、もう22時近くになっていた。結構長いこと話してたみたいだ。もうこの生活にも慣れてきたよな。本当に毎日来るもんなこいつ。

「それじゃ、お邪魔しましたー!」

「はいよ。気を付けて帰れよ。まぁ隣だけどさ」

 玄関まで見送りにいくと、靴を履いていた夏帆が振り返る。そして少しの間だけ、無言の時間が流れた。なんだろうと思いながらも、特に何も言わず待っていると、夏帆のほうから口を開いた。

「あれ?キスしないんですか?いつもならするのに……」

「ばっ……お前なぁ……」

 こいつはたまにこういう事を平然とした顔で言う。天然なのかわざとなのか分からないけど、心臓に悪い。

「冗談ですよ。じゃあお休みなさい」

「はいよ。お休み」

 ドアノブに手をかけながらこちらを見て微笑むと、そのまま帰って行った。はぁ。こんなくだらないことでも夏帆と話すだけで幸せになる自分がいる。恋って恐ろしいものだよな。1年前のオレじゃ考えられないよな。とそんなことを考えるのだった。

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