161. 思い出は色褪せないまま
161. 思い出は色褪せないまま
この状況どうしたら……右手に柔らかい感触が……すると、玄関の方から音が聞こえてきた。これは……靴を脱ぐ音?まさか夏帆が来たのか? まずい。この状況を見られたら勘違いされるだろう。
「あの……そろそろどいてくれませんかね?あと当たってますよ?柔らかいものが……」
「ふぇ!?」
やっと我にかえったようで慌ててオレから離れる。そして、半泣き状態で顔を真っ赤にして俯くと蚊の鳴くような声でつぶやいた。
「わ、わざとじゃないから!わざとじゃないんだから!」
「分かったから落ち着け黒崎……」
そこに夏帆がやってくる。こいつはなんでいつもタイミング悪くやってくるんだよ……。
「すいません遅くなりました!ん?あれ冬花先輩どうしたんですか!?」
「ごめんなさい……違うの……夏帆ちゃん……」
「なんで、胸おさえて……先輩!?」
「違うんだ!誤解だ!話せば分かる!」
結局この後めちゃくちゃ説明させられた。なんとか誤解は解けたが……。まぁ黒崎にも悪気があったわけじゃないし、実際触ってしまったのは事実だからオレもなんとも言えんが。
「本当にビックリしただけなの。ごめんなさい。胸とか男の人に触られたの初めてだし……それに顔も近くて……心臓の音も……」
「わかったから黒崎。おとなしくしていろ。お前が喋ると違く聞こえるんだ。」
さっきまで半泣きだったが今は落ち着いているようだ。とりあえず良かった。それから気を取り直して『ラブ☆メモリーズ』の続きをやることにする。千春が攻略してくれたんだ、無駄に出来ない。
そして協力して、何とか最後の選択肢までくる。ちなみに黒崎は途中でさっきの件もあって疲れたのかオレのベッドで寝ているけど……。今は夏帆と2人で頑張っている。
『あとは、伊織に想いを伝えるだけだ……』
『1.オレはずっと前からお前のことが好きだったんだぜ?』
『2.お前ってオレのこと好きなの?』
『3.オレたち付き合わないか?』
うーむ。ここは1番か3番かな?普通に考えたら3番だが、ギャルゲーの定番としては1番が無難だよな。
「どうですか先輩?いけそうですか?」
「あぁ、なんとか頑張ってるけど……」
オレが選択肢を選ぼうとした時、ふと夏帆の方を見る。そうかこれはギャルゲーじゃないんだ、恋愛シミュレーションゲームだ。そして一番だと思う選択肢を選ぶ。
『お前ってオレのこと好きなの?』
『好きなように見えない?ずっと好きって思われるようにしてたのに……』
『そうか。伊織。オレはお前が好きだよ』
『うん。知ってるよ。ずっと前から』
こうして何とか最強最悪の恋愛シミュレーションゲーム『ラブ☆メモリーズ』をクリアすることが出来た。長かった……感動すら覚えるぞ。
「やりましたね先輩!冬花先輩が寝てるので大きな声出せませんけど」
「なぁ夏帆?お前……このゲームの結末知ってたんだろ?」
「言ったじゃないですか。ヒロインを私だと思ってプレイしてください。私は先輩の愛を信じますよ?って」
「うぜぇな……まったく」
「ねぇ先輩。大好きです。その……キスしてください」
「黒崎がいるぞ?」
「寝てますよ冬花先輩は?」
「静かにしろよな?……オレもお前が大好きだ」
そう言ってオレと夏帆は、画面に映る『ラブ☆メモリーズ』の主人公とヒロインの伊織のように、あの時のことを思い出して唇を重ねたのだった。