136. やっぱり安心する
136. やっぱり安心する
3月中旬。もう穏やかな春の陽気に包まれている。目の前のこいつと出会ってもう1年か……まさかオレにとってこんなに大切な人になるなんてな。
「ねぇねぇ先輩!来週でしたよね?雛山千春ちゃんが引っ越ししてくるのは?」
「ああ、そうだったな。というかお前も手伝うつもりなの?」
「当たり前じゃないですか!私は先輩の彼女なんですし!一応牽制しておかないと。」
なんだよ牽制って……何に対してだよ。そんなことを思いながら苦笑する。すると夏帆は突然顔を近づけてきた。そして耳元で囁くように言う。
「だって私の先輩に手を出そうとしているかもしれないんですよ?そうなったら許せないです!」
「顔が近いんだよお前!」
「えへへ~いいじゃないですか~!恋人同士なんだからぁ~!」
こいつはいつもそうだ。初めからずっとこうだ。隙あらば抱き着いてくるし……。まあ嫌ではないけどさ。家ならばまだ許せるが、外とかならオレの理性が持たない。
「とりあえず落ち着けよ。別にあいつに手を出すわけないだろ?」
「どうでしょうね~?先輩は可愛い女の子を見るとすぐにデレデレしちゃいますもんね?この浮気者めっ!」
頬を膨らませて拗ねる様子は本当に可愛らしい。でも言っていることは全然可愛くない。それに浮気者ときたもんだ。失礼極まりないぞ?
「だからオレはお前以外に興味はな……」
「え?今なんて?聞こえませんでした」
「うぜぇ……絶対聞こえてるだろそれ」
わざとらしく首を傾げる夏帆にイラっとするが我慢しよう。ここでキレたら負けだ。冷静になれ。
「とにかくそういうことなので。先輩は千春ちゃんには絶対に手を出さないようにしてくださいね?」
「するわけないだろ!」
「本当ですか~?怪しいですねー」
じーっと見つめる夏帆。その視線に耐えられず目を逸らす。するとクスッと笑う声が聞こえた。
「冗談ですよ。先輩がそんなことしないのわかってますから。でもやっぱり不安になっちゃうんで、そこは理解してくださいね?」
夏帆がそう言う。そう言われるとやっぱり夏帆はオレが好きなんだなと少し安心してしまうオレがいるのだった。