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66. 相手にならない

 66. 相手にならない



 オレは今ピンチを迎えている。それは夏帆と買い物の途中で、クラスメートの学級委員の黒崎冬花に出会ってしまったことだ。いつかはこうなるとは思っていたが、いざそうなると焦るものだ。

「あなた名前は?」

「こういう時はまず自分から名乗るべきですよね?あなた先輩の何なんですか?」

 なぜか喧嘩腰の夏帆。頼むから問題を
 起こさないでくれよ……

「私は神原君と同じクラスの黒崎冬花よ。」

「へぇー。そうだったんですかぁ。私は1年の白石夏帆っていいます!先輩の彼女です。よろしくお願いします!」

 笑顔で自己紹介をする夏帆だが、明らかにその目は笑っていない。むしろ敵意剥き出しだ。しかも彼女じゃねぇだろ……。

「意外ね。神原君は真面目であまりクラスの女子とも話さないから1年生の女の子と付き合ってるなんて噂、嘘かと思ってたけど本当だったんだ。」

「だから違うって!」

「まあどうでもいいわ。この事は内緒にしてあげる。神原君も嫌でしょうから。それじゃ」

 そう言って黒崎は立ち去って行く。なんか誤解されたままなんだけど……。

「なんか性格がねじ曲がった人ですね?」

「お前には言われたくないと思うぞ……」

「失礼ですね先輩は!私だってちゃんとした礼儀ぐらいわきまえてますもん!あんな人のことより、早く帰って私の美味しいご飯を食べさせてあげますね!」

 オレの腕を引っ張りながら、満面の笑みを浮かべる夏帆を見てオレは少し安心してしまう。嫌な思いをしたのは夏帆も同じだろうから。

 そして家に帰ると、早速料理に取り掛かる夏帆。オレは少し申し訳ない気持ちになり手伝おうと思ったのだが、「座っていてください」と言われてしまったので大人しく待つことにした。

 しばらくして、テーブルの上に並べられたのはとても豪華な食事達。

「これ全部作ったのか?」

「はい!新しい調理器具が嬉しくて今日はいつも以上に気合い入れちゃいました!」

 そう言いつつ嬉しそうにする夏帆。本当によく出来た後輩である。

「なぁ……悪かったな」

「え?何がですか?」

「嫌な思いをしただろ?せっかくの休日なのに……」

「あー。全然気にしてませんよ!私の相手じゃないですね!やっぱり先輩には私みたいな可愛い彼女がいないとダメみたいですね!」

 そう言ってオレの方を見る夏帆。やはり笑顔を絶やさない。強がりなのか、それともただのバカなのか……。どちらにせよ、今日は夏帆の優しさに感謝するしかない。

「お前は本当にうぜぇ。」

「またそんなこと言って!素直じゃないですね先輩は!それより食べましょう!」

 いずれこうなることは覚悟していたはずなのに、オレはどこかで甘えていたようだ。これからはもっとしっかりしようと心に誓うのだった。

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