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第1章の第11話 初戦敗北! そして師匠と先生

――が、天は2人を見放さなかった。
それは、幸か不幸かあの炎上爪をもろに受け、大木に当たったことが起因している。
その衝撃で大木の木々が小刻みに動き、そこから何かが落ちてきたのだ。
――ガサッ、ガササッ、ドサッ……

――その頃、災禍の獣士は、燃ゆる並木林の中を闊歩していた。
2人の激しい戦いで森が延焼し、ここにも火の粉が及んでいる。
その道の途中、横の獣道から親子の猪が目に入った。
災禍の獣士はまるで苛立つかのような仕草で、その猪の親子を灰燼に帰した。
「……なぜ、横槍を入れた」
俺は顔を上げて、突然の奇襲を仕掛けた炎獣を睨んだ。
が、まるで炎獣はそんな事よりも、早くこっちにこいよというような仕草で、枝木を飛ぶように渡っていく。
それを認めた俺は、
「付いてこいか……」と呟く。
災禍の獣士は一度ここで歩を止め、物思いにふける。
「……Lよ、俺は義理を貫くぞ!! だが、お前との最後の戦いがこれだとはな……」
その森の延焼範囲は、山火事を超えて、森林火災レベルまで達し、ゴォウゴォウと火の手が増していく。

【漢は含みのある禍根を残した。そして――……】

――その様子を、ホログラム映像で見詰める宇宙人達がいた。
今わらわたちがいるのは、アンドロメダの宇宙船での様子じゃ。
その頭角であるわらわの口から洩れた言葉は「……あやつ……」じゃった。
「……レグルス隊長は、帰らないつもりですね……いいえ、影武者……にでもなるつもりなんです。……そうではありませんか王女……?」
「……」
わらわは黙秘し、恐らくそうだろうと思った。
確かに、最早それしかないじゃろう。
「だがこれでは……どう転ぼうが……。……じゃが、誰かがやらなければ……ならぬ役目じゃが……」
「……」
わらわは顔を上げ、やるせなさが残る。
「……地球人のバカ共がわらわたちの星に対し攻撃を仕掛けた! これにはこちらとしても大義名分が立つ!」
この言葉にデネボラも得心がいったように頷いた。
「そして……! あの宇宙探査機が起こした事故の中には、懇意の異星人達も多数含まれていた。その人達の悲観、その涙に応えねばならん。
だからわらわ達は、この星に対して攻撃には攻撃で返した」
「おっしゃる通りです!」
うむ、大義名分的にもこちらに落ち度はない。
「じゃが……この先どうしたものか……」
わらわは未だに、この答えの見えない解に対して思い悩んでいた。
いいや、正しい答えなぞあるのだろうか?
「……」
これにはさしものデネボラも黙り。
他の皆がドヨめいた。
「……まさかレグルスの輩は……その先を見据えて……」
「ハッ! まさか……! あえて民間人の子供達を率先して殺って。自ら悪者に仕立て上げようとしてる……?」
ザワッと兵士達の意見は、皆的を射ていた。
「……レグルスの狙いを当ててやろう」
わらわの一言に皆の注目が集まる。
「レグルスは、後々わらわの影武者として、討たれる覚悟でおる……!
それにより、風評被害を受けるのはレグルス1人に留まらない……。
周りの怒り、罵声が飛び交うじゃろう。
その一族郎党が酷い目に合うのも心得ている」
「レグルス隊長はそこまで……」
「うむ……じゃがそのせめてもの救済策……! わらわはあやつからの条件を吞もう! それはあやつの親族を保護するという名目じゃ!」
「……なるほど」
「その親族には、全てを打ち明けよう。時を待ってから……」
(レグルスよ)
わらわは顔を上げて。
(済まない……)
と謝った。


ザッ……
炎獣はその場で待ち構えていた。
その後ろには、焼け焦げた幾人もの生徒達が積み重なっていた。
その現場を認める、災禍の獣士。
「お前、まさか……」
災禍の獣士はここで笑った。
飛び掛かる炎獣。
お前か名も知らん地球人のガキ。
お前だけは許せない。お前のペットのフリは止めだ。その為に力を蓄えていた、刺し違えてもお前をやる。お前を倒すのはこの俺だ。
だから、横槍を入れたと。お前には男の矜持(きょうじ)がないのか。

【ここから事態は思わぬ方向へ急転直下する】

――ドサッと落ちてきた人物、それはまさかのケイちゃんだった。
だが、幸か不幸か半死半生だった。ギリギリ生きているのも奇跡なぐらいだ。
「ゲホッ」とケイちゃんは口から血反吐を吐いた。その血は黒く、大量のススでも吸ったのか黒ずくんでいた。
「ハァ……ハァ……今のはいきなり現れた」
あたしはこの子の首を触り、頸動脈がトクントクン波打っているのを確かめた。
「まだ……生きてる」
「……」
この子は今、眠ったように死んでる。この子はいったい何者なの。
「止血すれば何とか……」
助かる。
「うっ……」
ケイちゃんの目には、薄っすらとそこに何かがいるような気配がした。
その気配から声がしたLだ。
「お願い、その子を助けて」
そう、言ってるように思えた。宇宙人の言葉なんてわからない。だけども、心の訴えは別だ。この子を助けたいというのは、わかったから。
「……多分、あたしはもう、助からないから……」
「……」
その目に見えない何かと、不思議と目が合った。
「この子には、きっと何か役割があるんでしょ」
「フッ……頼んだよ」
それだけ言い残し。ここでLもようやく意識を手放した。
1人残されたケイちゃんは、近くに落ちてあった木の枝を拾い。
それを使って、衣類をビリビリと引き裂き。
その衣類の切れ端を使って、スバルの応急処置を施してくれた。だが、その命の灯は……。
その豊胸部分には赤い裂傷の跡があり、出血が止まらなかった……。失われていく生きたいという赤い命の血潮が。
「ハァ……ハァ……もうダメ……」
まさに燃え尽きんとしていた。
「……眠いよ……パパ、ママ、ごめん……」
少女はスバルの上で倒れ伏し、そのまま息を引き取った……。
恵けい死亡、享年11歳の短い歳月だった――……


★彡
――スバルの夢。
その頃僕は、深い深い夢の中に落ちていた。
「……ここはどこだ」
そこはまるで石室の神殿のようだった。
そして、そいつは当然僕の前に現れた。それはどす黒い煙の何かだった。
「待ちかねたぞ、我が……」
「……誰だ!?」
「我か……我が名は……」
(……何だ……何も聞こえない……)
「……そうか……残念だ、今はまだお前には届かないということだな」
「……あなたは一体……」
「……」
どす黒い煙が集まり、一振りの剣を生成した。それを投げて、僕に渡す。
僕は思わず、その剣を手に取った瞬間、ガキィンといきなり攻撃を仕掛けてきた相手の一撃を止めた。
「グッ……!」
「お前の願いはわかってる!! 力が欲しいのだろう!? なら、手伝ってやる!!」
「……ッッ」
【これからスバルの長い長い戦いが続いていく――】


★彡
――Lの夢。
それは夢か現か定かではない。ただそこにあるのは、古ぼけた記憶の一部。
その証拠とでもいうように、普段慣れしたんだカラーではなく、セピア色だった。僕は光球だった……。
(近くにいるのは……誰?)
それは白髪のおじいさんだった。とても優しそうな面影のある。
そのおじいさんはカチャカチャと機械を操作して。
その様子を僕は、ポコポコと泡立つ円柱形の水槽から見ていた。
そして、カチッと音がし、ヴィイイイイイと音共にたくさんの光子が僕の元へ集束されてきた。
ま、まさかこれは……。
「……」
おじいさんの目は真剣そのもの。
だが、システムの不具合により、シュウゥゥゥゥゥ……とシステムがダウンした。
「……またか……」
上手くいかないな。とでもいうように頭をクシャとしたおじいさん。
また……そうかこれは、これまでも何度も挫折を味わったのか。
おじいさんは顔を上げてこう言った。
「…………よ。お前さんに必要なものは何なんだ? 教えてくれ」
それはまさか僕の名前。教えてくれって何を教えるの。
「……」
おじいさんはそれだけを言い、机の上に立てかけてあったものを手に取った。
それは何かの思い出の品なんだろうか。
「……やはり、お前がいないと……」
それは思い出の品に語り掛けるような言葉(メッセージ)だった。
「お前は常々言っていたな、この世界は『3要素』なり『4要素』で成り立っていると、だから私も何度も幾度も挑戦しているのだが……。
まだ、真理を解き明かすには足りないというのか……」
その顔は苦渋にも、何度も挫折を味わっている者の顔だ、疲れが見て取れる。
「……」
おじいさんは視線を切り、壁に掛けかけてあるとある銀河団のポスターを見た。
「…………」
長い沈黙だ、何かの思い出の品だろうか。
そして、さらに視線を切り、その他のポスターを見た。それは渦巻銀河なり楕円銀河等の多数の銀河群が掲載されていた。その数、ザッと1000個以上。
「……この宇宙もダメだ。お前を必要としている宇宙へ、望みを託そう……」
そこから一段と優しい笑みになった。
「夢を見るんだ。生まれ変わった新しい君が、とある少年と一緒に冒険をする夢を……」
「……」
とある少年と冒険……。
「愛を、友情を育みなさい、9つの心をもって、いつしか君は――……」
愛と友情、9つの心……僕はお爺さんが残した言葉を、心に深く刻み込んだ。
そして、古ぼけたセピア色が途切れていった――……。


★彡
――スバルの夢。
剣戟が飛んできた、僕は手に持ったその剣で防ぐ。
そして、その相中で、ある詠唱が紡がれる。
「クッ」
(なんて重いんだッッ!!)
「『氷原を荒べ、1000条の氷柱(つらら)、我が腕に宿りて、彼の者を撃て』!!」
(クソッ、反射が間に合わない……ッ!!)
組み合っていた剣劇。男の戦士が蹴りを入れて、自分と僕とを引き剥がす。
その瞬間が狙い目だったかのように女の魔法使いが呪文を放った。
「『氷柱』!!!」
その数、1000発。
「ッッ」
ドォオオオオオンと爆発した。

――そして、その小休憩時。
「ハァ! ハァ!」
僕は大の字で寝て、呼気を整えていた。
(だ、ダメだ、この修行についていけない……ッッ)
「当初よりはだいぶ動けるようになってきたわね」
魔法使いの女の人が語りかけてきた。それに対し僕は。
「ハァ! ハァ! で、でも、あのレグルスってやつはあなた達よりもっと速かった……ッ!! これじゃあ捉えられない……ッ!!」
「……」
戦士の男の人は深く考え、顔を上げてからこう言う。
「……その点は問題ない。だからお前には、1つだけの魔法に絞って教えているだろ」
「……」
僕には、この魔法が通じることを信じるしかない。
「そうね。習得は困難な道のり……! だから、こうして2人がかりで君には悪いけど……攻めかかって、実戦の中で使えるようにしてるんだものね」
「1対1では早期習得は困難……! それだけの高等魔法なんだ、命がけの修行を強いるしかない……なればこそ魔法の発現は難しいのだ!」
「……」
命がけの修行の中にしか発現できないか……それはこうやって、この戦いの中でしか発現できないということだ。
大の字で寝転がっていた僕は「……フゥ」と立ち上がった。
そして、こう言う。
「続きをお願いします! 師匠! 先生!」
「ウム」
「ええ」
僕達は剣と杖を構えた。その時だった――

「――ッ……ッッ」

「!? 何だ、今声が……ッ!!」
僕は周りを見回したが。この2人以外誰もいない……。
「……どうやら来たみたいだな迎えの時が……!」
男の戦士は構えを解き。その時がきたことを告げた。
女の魔法使いも構えを解いた。
「迎え……まさかあの子が……ッ!!」
男の人が「そうだ」と言い、女の人が肯定するように頷いて見せた。
「どうすれば出られる……?」
「……」
「……」
僕はこの男の人の目をまっすぐ見た。出たいからだ、一刻も早く。
「……フッ。そのまま目を瞑り、精神を集中させて、声の向かう方へ行くといい……」
「声の向かう方へ」
「さすればお前の精神体は現世(うつしよ)へ帰るだろう」
「な、なるほど……」
男の人からの提示を受けた。
僕はすぐに目を瞑り。
あの宇宙人の声を拾うように精神を集中させた。
「スバルよ。帰る前にこれだけは忠告しておく……! 剣技も魔法も、己と自分の大切な人を護る為に生まれた技だ! ゆめゆめその事を忘れてくれるなよ!」
「倫理はわかるわよね!? 道を踏み外すなってことよ!」
僕は目を瞑ったまま「はいっ!!」と答えた。
男の人は「フッ」と鼻で笑い、女の人は顔はわからないがなんか安堵したんだろう思う。
そして、僕の周りに虹色の雲が発生し、光の柱が降り立った。
「……スバルよ最後に、お前に教えた『怨魔流』と」
「あたしが教えた『自然魔法』と共に、自分と大切な人を護りなさい」
最後に僕は、光の中でほくそ笑んだ。
(行ってきます!)

――僕は、降り立った光の柱の中、虹色の雲の中をひた走っていた。
「この先にあの子が! アユミがいる! ……そして奴が……!!」
走るスバル、その顔を険しくさせる。その手に握り拳を作る。
スバルはこの夢の世界で修業を積んでいた。勝つために。
その為に得た力だ、僕は拳を震わせた。
「……待ってろよ」
そして、光がスバル(僕)を優しく包み込んだのだった。


☆彡
重度の戦いの影響で、眠りこけるスバル。
その上で息を引き取ったケイちゃん。
そして、そのスバルを起こすために何度も呼び掛ける宇宙人のオーパーツL。
僕は何度もこの子を呼び続けた。早く起きてと。そして、その時が来た。
「……ッ……ッッ……ッlッッ!!!(起きてッ早く起きてッッでないと君の護りたい人が死んじゃうよッッッ)」
「うっ……う~ん……」
そしてようやく僕は、目を覚ました。
「こっここは……うん……」
なんか体がやけに体が重い。何かが体の上に乗っかてるような……。
それは枝木や何かではなく、もっと柔らかいものだった。
僕は顔を起こすと、その正体がわかった。
人だ、女の子だ。
それもつい最近知り合ったばかりの可愛らしい少女、それは恵けいちゃんだった。
「ケイちゃん!?」
嘘だ、そんな馬鹿な、確か死んだはずだ。あくまでも僕の危機感知能力の範囲内では、そうだったはずだ。
驚いた僕が体を起こすと、ズルッとケイちゃんが崩れ落ちた。
「うわっごめんケイちゃん!! 大丈夫ケイちゃん!? 痛くなかった!?」
うわぁあああああと慌て騒ぐ僕。
それを尻目に見ていたLは、言い出せないぐらい境地にいた。そう、すでにケイちゃんは――
「――無駄だよ、もう……」
「……」
「……もう亡くなってる……」
――本気で亡くなってたんだ……
「――ッッ!!」
僕は余りの衝撃で、頭の中が真っ白になった。
「その子は、君の手当てをした後……息を引き取ったんだ……」
僕は現実を直視できず、彼女が落ちてきた大木を見た。
おそろく、彼女が亡くなるまでの道のりを考えると……。
「……おそらく致命傷を受けたその子は、ここまで移動して、木の上に上るしかなかったんだと思う。
その頃、周りは火の海だった……。
それに対し彼女が取った行動は、体を小さく伏せて、移動する事だった。
でも……さすがに行ける距離に限界があって……」
僕は、その彼女が落ちてきた大木を見た。
その下部は炎で焙られ、黒くなっていた。おそらく当時は、ここも火の海だったのだろう。
「もうダメだと思った彼女は、思い切った行動に出た。
それは、迫りくる炎の海に対し、木の上に上り、やり過ごしてから、脱出しようという心構えだった。
でも、もう、その体は血を流し過ぎていて、限界だった……」
「……なぜ、僕の手当てを……」
「それは、負けた僕達がその大木に当たり、揺れて落ちたから、そのだいぶ後の話だよ」
「……」
「そして、落ちてきた彼女は君を発見して、自ら衣類を裂いて、君の手当てをしたんだ。
……そして、静かに息を引き取ったんだよ……ッッ」
「……そう、か……彼女は最後まで、周りの人達を助けようと、懸命に動いたんだね。……すごいよホント……に」
「……」
僕はその手で、彼女の顔を撫でてやることしかできなかった。
その近くには、自らの衣類を裂いたであろう、枝木が転がっていた。
そして、ケイちゃんの遺体は、心なしか少し冷えている感じがした。
「……やる事が1つ増えたよ」
「……行こう、余り時間がない! 急がないと君の護りたい人の命がッ!」
「……うん!」
そして僕は、ケイちゃんの亡骸をグッと抱きしめると。ポトリとあるものが落ちた。それはケイちゃんの遺品だった。
「……これは」
僕はそれを拾い上げた。


☆彡
エナジーア変換した僕達は、彩雲の騎士になって、直ぐに奴の後を追った。
そして、思いがけない現実と直面する事になる。
「「こ……これはどーゆう事だッッ!?」」
グォオオオオオ
それはもはや災禍の獣士ではなかった。
例えるならば、『災禍の巨獣』とでもいうべき存在。それにしても大きい、なんて規模(スケール)なんだ。

(な、何がなんでこうなってるの!?)
これにはL(僕)も、どうしてこうなっているのかわからない。
わかっている事は、あれは破壊活動をしている事実だけ。
グォオオオオオと周りの木々をなぎ倒し、その体から溢れ出る熱気で、森林火災の延焼範囲を広げていく。まるで業火の悪夢だ。
泣き騒ぐ森の動物達。悲鳴を上げる森、その様はまるで赤々と燃え広がる熱波だ。
「「……道理で森が騒がしいわけだ。でもかえって好都合だ!!」」
(好都合……?)
「「新しく覚えたこの魔法を試してやるッッ!!」」
僕は目を閉じ、精神を集中させた。
彩雲の騎士の体から、魔力光が溢れ出る。
「「『古き大いなる大地の女神ガイアよ、我が声に耳を傾けたまへ、我、新たに契約を結ぼうとするもの、スバルなり』」」
まず初めに彩雲の騎士は、大地の女神ガイアと契約を結ぼうとする。
「「『貢物として、この森にある果物と野草をそこに置いてきた』」」
彩雲の騎士はこの現場に来る前、ケイちゃんのいたところに食えそうな果物と野草を置いてきた。
それは死者に送る手向けであり、ここぞという時の貢物でもあった。
「「『どうか我と契約を――』」」
彩雲の騎士の声が、森の中に、世界に浸透していった――
――そして、契約の証かぼんやりと彩雲の騎士の体が光った。
「「よしっ! 契約完了!」」
(……え)
「「『我、大地の女神ガイアと契約を結びし者なり。古き大地の精霊達よ、天を地に返し、地を統べよ』!! 『ガイアグラビティ』(ガイアヴァリィティタ)!!!」」
――ズドォオオオオオン
災禍の巨獣を中心として重力が重くのしかかる。
「グゥギャオオオオオ」
「「潰れろこのクソ野郎ッッ!!!」」
(き、効いてる……!! す、すごい!!! まさかこんな高度な重力魔法を操るだなんて!!)
「「ヌギギギ……でやぁあああああ」」
「グォオオオオオ」
彩雲の騎士がそのガイアグラビティ(ガイアヴァリィティタ)に最大パワーを込める。
その重力場に抗う災禍の巨獣。
その面した大地がクレーター状に窪んでいく、ズズゥンと隆起していく大地、石片がパァンとパァン弾けていく。
そして、トドメだとばかりにズドォオオオオオンと重力場が鳴ったのだった。
その攻撃が決まり、大きな土煙が舞い上がった。
そして……。
「「ハァッハァッ」」
(『ガイアグラビティ』(ガイアヴァリィティタ)……なんて呪文なんだ……!!
この子は一体どこで、そんな高度な呪文を覚えてきたんだ……!)
この子には驚かされてばかりだ。
(本当は、ハァ……ハァ……災禍の獣士だけじゃなく君達みたいなエナジーア生命体全員に効く、重力魔法なんだけどね!
君達の速さを潰すのに、これ以上のものはないんだろ!?)
(……)
僕は何も言うことができない。図星だからだ、この子には関心するばかりだ。
僕はなるほどと感心し、頭を下げた。
「「……どうだ……?」」
さすがに効いただろ。
僕は確かな手応えを感じていた。
そこへ「……ギャオオオオオ」と災禍の巨獣が猛る。物凄いお怒りだ。
「「……ほへ」」
彩雲の騎士(僕達)は阿呆の子みたいな顔を作った。
災禍の巨獣が襲い掛かり、噛みつこうとする。
彩雲の騎士は、逸早く上空に逃げて躱した。
「「クソッ!!」」
(でも効いてるよ!!)
(なら付き合ってやるよ!!)
「「『我、大地の女神ガイアと契約を結びし者なり。古き大地の精霊達よ』」」
とそこまで言いかけたところへ、災禍の巨獣の邪魔が入り。詠唱を中断せざるを得なかった。
「「……ッ」」
精神世界にて、スバルとLが愚痴を零す。
(クソッ!! これじゃあ詠唱できないッ!!)
(並行詠唱とか! 詠唱破棄とかできないの君!?)
(そこまで覚えてないんだよ!! 時間がなかったんだッッ!! 僕にできるのは止まってる相手ぐらいにしか……ッ!!)
これには僕も驚きを隠せなかった。
――ガ~ン……
と早い話が準備不足だった……。
災禍の巨獣の連続噛みつき攻撃。
彩雲の騎士は、それを躱す、躱す。
災禍の巨獣は、その口内に炎のエナジーアを集束し、火の玉を打ってきた。
彩雲の騎士(僕)はそれを、空中の大気を固め、大ジャンプして躱す。
彩雲の騎士の精神世界で、スバルとLが意見を交わし合う。
(何かないか……何か……)
L(僕)は頭を高速回転させた。
少なくともこの子が魔法を覚えてきたのは、大きな儲けものだ。
それは大きな前進に他ならない。後はサポートか、虚をついた一撃かだ。
「L!」
とそこへ僕の名を呼ぶ人の声が。
僕は声がした方へ振り替えると。
「「デネボラ!」」
それは僕のよく知る人物、デネボラだった。
(……この人は……)
「「何しにここに……!?」」
「あなた達の馬鹿な行いを止めに……」
これにはさすがに僕もムッときた。
「場所を移動しましょう」
僕達は場所を移動することになった。


☆彡
少し離れた空中(ところ)で、僕達は話し合う。
「――あれとやり合うのは止めときなさい。いくら何でも戦闘力に差があり過ぎる……!」
「「戦闘力!?」」
「ええ……戦闘力たったの3の地球人のお子さん」
「「?!」」
「わかりやすく今のあなた達の戦力差を申しましょうか。戦闘力1000が今のあなた達の姿! 仮に『彩雲の騎士』とでも呼称しましょうか」
「「彩雲の騎士……!」」
「私と姫様がそう名付けました」
((なるほど、名前は大事だよな……うん……))
彩雲の騎士(僕達)はなるほどと納得した。
「で、あなた達が戦った『災禍の獣士』の戦闘力が2000ぐらい」
「「戦闘力2000……!! どうりで……!!」」
勝てないわけだ。
「で、問題のあれは戦闘力4000。しかもその戦闘力が今なお上昇を続けてるのです!!」
「「戦闘力4000だって!?」」
しかも今なお上昇中、これは手がつけられなくなるぞ。いや、それよりも……。
「「道理で僕の魔法も効き目が薄いわけだ……」」
「さっきの重力魔法ですね! あれは効き目はありましたよ、ただ決定打には……」
「「結局力(パワー)不足か……」」
これには「「う~ん……」」と彩雲の騎士(僕達)は考えた。どうすれば勝てるのかと。
そして、Lの精神体がデネボラに話す。
「「そうだ、デネボラ」」
「はい、L」
「「姫姉とホログラム映像で外の様子を見てたんでしょ」」
「ええ、もちろん」
「「で、姫姉から僕を連れ戻すよう頼まれた……そんなところだよね?」」
「ええ、話が早くて助かります」
「「……1つ、頼みがあるんだけど……」」
Lたっての頼みを聞いたデネボラの反応は……。

「正直、承服しかねますねッ!!」

きっぱり断れた。
「「さすがに、この事件を起こした張本人に出てきてもらって、あれをどうにかしてもらおうという魂胆は、さすがにどうかと僕も思うぞ……」」
その精神世界にて、Lが頭を悩ませる。
(やっぱりだめか……)
(姫様を注文受け会社みたいに遣わないでください)
と私デネボラは心の中で憤った。プンプン怒っていた。
「「……じゃあ、これぐらいなら許容できるかな? この子の彼女と近くにいた女の子! それとこの子のケガを直して逝った女の子を任せてくれないかな?」」
「……」
これは私も考えた。
おそらく止めても、戦闘に赴くだろう。
これは決定事項だ。
なら、この子達は戦闘を行う以上、他の事に気を取られるわけにもいかないのだ。
そして、仮にもしも危うくなった場合。
その子達を人質にして戦闘を中断できる可能性もなきに非ず……うん、悪くない。
「……いいでしょう。それに関しましては承服しましょう」
「「よしっ!」」
とデネボラの協力を得た。
これでアユミちゃんの心配や、近くにいた名も知らない女の子、ケイちゃんの遺体の心配はなくなったぞ。
さすが宇宙人の子だ、すごいや。
「――では御武運を」
シャッとデネボラはその場から離脱した。
アユミちゃんと近くにいた女の子、ケイちゃんの遺体の回収、保護に向かったのだ。
(……)
(……なに?)
(いや、ありがとうと)
僕はこの子を見て、
僕は地球人の子に見られて、何かと尋ねた。
僕は礼を言うけれど、言い辛くもあったんだ。
そして、ある事に気づく。
「「あっ……しまったこれ、渡しておくの忘れてた!」」
それはケイちゃんの遺品だった。
しまった持ってきたまんまだった。
(……そのまま持っていきなよ! きっとあの子ならそーゆうよ!)
精神世界にてLにそう諭され。
現実にいる彩雲の騎士は「「……うん!」」と答えたのだった。
僕はそのまま持っていくことにした。
きっとそんな気がしたからだ。
(……ところで、それは何なの?)
(あぁ、多分バトルカードだよ)
(バトル……カード……)
(今地球で流行ってる、ナビを用いたバトルカードゲームだよ!
『脇差』とか『砲撃』とか使って、相手のライフポイントを先に0にした方の勝ち……というルールだよ!)
(ちょっと見せて!)
彩雲の騎士は、『脇差』のバトルカードを取り出した。
それを認めたLは、物は試しにエナジーアを込めてみたら。
バチバチと脇差に変化した。
これには彩雲の騎士も「なっ!?」「わっ!」と変に声が混ざって驚いた。
ただし、それはかなり不安定な状態であり、すぐに消失してしまったんだ。
(い、今のは……!!)
(……使えるかもこれ……行こう!!)


☆彡
――彩雲の騎士はその場から移動し、災禍の巨獣の上空に到着した。
(……僕も試してみようと思う)
それはあの夢を見て、あのお爺さんが行っていた言葉を思い出していたからだ。
(この世は、三要素なり四要素でできている……か。さっきのバトルカードとエナジーアだけじゃできなかった……。なら、足りないのは後1つ!)
(さっきのはエナジーアがただ漏れだったよね? だから形状維持ができなかったんじゃ……)
(その対処法ならいい方法があるよ! 僕のバリアで形状変化をすればいいんだ……任せて!)
妙案だった。
彩雲の騎士は『脇差』のバトルカードを取り出して、バリアで覆い、エナジーアを込めた。
するとバトルカードの絵柄にあるような脇差が現れた。
「「――できた!」」
彩雲の騎士はそれを認めた。
(これならいけるね!)
彩雲の騎士は、バトルカードの発現方法を取得したのだった。

――さあ、反撃開始だ。
「「『我、大地の女神ガイアと契約を結びし者なり。古き大地の精霊達よ、天を地に返し、地を統べよ』!! 『ガイアグラビティ』(ガイアヴァリィティタ)!!!」」
――ズドォオオオオオン
と災禍の巨獣を中心として重力場が重くのしかかる。
「グゥギャオオオオオ」
その重力場に抗う災禍の巨獣。
その面した大地がクレーター状に窪んでいく。ズズゥンと隆起していく大地、石片がパァンとパァン弾けていく。
((チャンスだ!))
ここしかない。
彩雲の騎士は『脇差』を構え、重力場の方へ飛ぶ。
その重力場がかかっている災禍の巨獣の上部へと。
そして、ズズゥンと彩雲の騎士にも重力場が重くのしかかる。そこからは急転直下だ。
「「行け――っ!!!」」
彩雲の騎士は急転直下を加算した一撃を加える。ズバッと炎を裂いた。
「いける!」
(けど……苦しい……)
彩雲の騎士にも重力場が重くのしかかる。これでは自由に動き回れない。
たまらず彩雲の騎士は、地べたに手をついた。
ズズゥンと重くのしかかる。
「……グッ……グググッ……」
彩雲の騎士(僕達)は片手を地べたに付いた状態で、もう片方の手を災禍の巨獣の方に突き出した。
「『ガイアグラビティ』(ガイアヴァリィティタ)よ、吞め!!!」
その時、彩雲の騎士に呼応するように、重力場が災禍の巨獣を一点に捉え、重力球に変化した。
「グゥギャオオオオオ」
と悲鳴を上げる災禍の巨獣。
そして、その一点に引き寄せれるように、周りの地表の岩石が、燃ゆる木々がガンガンと音を立てて引き寄せられていく。
それはやがて、岩石で覆われた球体へと変貌した。しかもゴォウゴォウと燃えている。
「ヌグググ」
手を上げる彩雲の騎士。
それに呼応するように燃える岩石の球体が上へ上がっていく。
そして、彩雲の騎士が勢いよくその手を振り下ろしたその時。
急転直下の勢いで岩石の球体が地表に叩きつけられて、ズドォオオオオオンと大爆発を起こしたのだった。
この大爆発に巻き込まれた彩雲の騎士は、何処かへ吹き飛ばされた。
「「うわっ!!」」
森林火災の現場にも、大爆風の嵐が吹き荒れ、木々が折れるんじゃないかと心配するぐらい大きく揺れた。
その後、森林火災の延焼範囲が激しく燃え上がったのだった。
――そして、大爆発によってぶっ飛ばされた彩雲の騎士は。
――ドンッ、ドンッ、ガンっ、ゴロゴロと激しく燃える森林火災の現場に転がってきたのだった。
その道の途中、激しく身を木々に打ちつけられ、地面に何度もバウンドし、転がってきた。
人間だったら死んでるところだ。痛いじゃすまない。
だが、彩雲の騎士はエナジーア生命体だ。そのタフネスさで起き上がるのだった。
「「痛てて。おー痛て~」」
その精神世界にて。
(……ッッ、今のは人間だったら死んでた……)
スバル(僕)は『ガイアグラビティ』(ガイアヴァリィティタ)を使う際は、気をつけて使うべきだと学習した。
(痛たたた……君はなんて業を使うんだ……!)
(ごっごめん!)
と僕は謝った。
でも、これだけの威力だ。さすがのあいつも効いたはずだ。
僕は顔を上げて吹っ飛ばされてきた先を見た。
土煙が舞い上がっている。
その土煙が晴れていくと……ダメージを負った災禍の巨獣がグッタリしていた。
やった、効果は上々だった。
「「ハァッハァッ」」
ボロボロになった彩雲の騎士は歩み出した。
段々とその歩みは速くなっていき、駆け出す。
そして、高速移動を仕掛け、その手に持った『脇差』で切りつける。
((弱ってるこの時がチャンスだ! このチャンスは逃さない……ッッ!!))
切りつける、切りつける、切りつける。
今がチャンスだとばかりに切りつけまくった。
そして、ある事実に気づく。
「「何だまるでダメージを与えられないッッ!!」」
僕はしまったと思った。
当然だ。相手は業火そのもので、ダメージなんて与えられるわけがない。
何度も脇差を振るっても、火を切るばかりで、手応えがなかったのだ。
そして、気絶中(スタン)状態だった災禍の巨獣が目を覚ました。
すぐに起き上がり、咆哮を上げる。
――グォオオオオ
「「グゥ……!!」」
その咆哮がすごくて、大気が、体が、ビリビリと打ち震えた。
((なんて奴だ! あれで起き上がるなんて!! こんな奴どう倒せばいい……!?))
怒った災禍の巨獣はその尻尾で、彩雲の騎士を叩いた。
その尻尾はとても大きく、それ自体が攻撃だ。
ぶっ飛ばされた彩雲の騎士は、木々の森を駆け抜け、バキッ、バキッ、バキッと背中から木々をぶっ壊して、ドォンと大木に打ちつけられた。
「カハッ!」
肺から呼気が漏れて。
ドサッと燃ゆる草葉の上に落ちた。
その草場はチリチリと燃えていた。だから当然「あちちち!」すぐに起き上がったのだった。
「あちあち!」
僕はその場で踊る踊る。
痛い痛い、熱い熱い、死ぬほど痛くて泣き出してしまいそうだ。
すぐに彩雲の騎士はその目が青白く光り、サイコキネシス(プシキキニシス)で、周りの炎を払い、打ち消した。
僕は、「フゥ……」と一息ついた。
だが、途端に彩雲の騎士(僕達)のいたところが明るくなった。
僕は顔を見上げてみたら。
災禍の巨獣のその大きな口にコォオオオオオと炎のエナジーアを集束、畜力していた。
まっまさか、ホントの必殺技か。
カッとそれが放たれた。
僕はそれを躱した。
その砲撃が行きつく先は、人が住む町だった。

――その街には人が住んでいた。
「おっおい何だあれは……」
人がそれを指差し、多くの人達がそれを認めた。
迫りくる破壊光線、蒸発する人々。
そして、その『破壊光線』が炸裂し、その街が地獄の業火の海に変わった。
だが、幸いにもそれは、ケイちゃん住む町からは逸れていた。

――ケイちゃんの住む町からもそれが見えていた。
「!?」
――ドドォン
向こう側の街の方で大爆発が起こった。
舞い上がる土煙、それは天を衝くほどで、きのこ雲が上がったのだった。
吹き付ける大熱風。吹き荒ぶ嵐。
それはまるで台風並みの風圧だった。
「何だ!? 何が起きたんだ!?」
「あっあれだ!! あの山火事の中にいる奴がやったんだ!!
「めっちゃくちゃでけーぞ!! 何だあれは!?」
最早山火事というレベルは超えて、森林火災レベルだ。
しかも、今までに見たこともないぐらい巨大な炎の獣が、視認できたのだ。
人々はあれを見て、何だなんだと慌て騒いだ。
「何だべあれは!?」
「あんな大きな炎の化け物初めてみるだァ!!」
「奥様! あれを見てください!」
「あれは……ッッ!!」
今あそこには、私がお腹を痛めて産んだ娘と愛する夫がいる。
「ケイは! あの人は!! あああああ!!!」
降りかかるは絶望一色だった。

ドォオオオオオンと大爆発が起きて、ここからでも見えるほど大きなきのこ雲が上がった。
そして、吹きつけるは爆風の嵐だった。
バチバチと火の粉が吹きつける。熱い、なんて爆風なんだ。
彩雲の騎士(僕)は、こいつを見上げた。
「「……ッッ!! こいつはホントの化け物だ!!! 倒さなきゃいけない!! 何がなんでも……!!」」
災禍の巨獣がドンッドンッドンッと連続で火の玉を口から放ってきた。
僕はそれを、躱す躱す躱す。
躱した先が森のどこかで、ドォンドォンドォンと当たり、木々をぶっ飛ばし、焼け野原が広がる。
「……ッッ」
(このままじゃケイちゃんの住む町まで焼け野原になっちゃうよッ!!)
(なら、一旦海まで飛ぼう!!)
(わかった!!)
彩雲の騎士はその場から飛んだ。
そして「ついてこい!!」とばかりにお返しのエナジーア弾を撃ち。
それが災禍の巨獣に当たるものの、その炎の壁に阻まれ、本体にはダメージを与えられない。
やはり、ダメージを与えるには『ガイアグラビティ』(ガイアヴァリィティタ)しかないようだ。
それでも威嚇された災禍の巨獣は、彩雲の騎士を追いかけるため、大空へと舞い上がっていった――


TO BE CONTIUND…

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