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第1章の第12話 海上のバトル! 2度目の敗北

――場所を移動するため、海に飛んで向かう彩雲の騎士。それを追いかける災禍の巨獣。
現在、山間部上空をとてつもない速度で高速移動中だ。
見る見るうちに農村部を超え市街地、再び山間部へと入る。
僕は後方をチラッとみた。
(ついてきてる……な)
災禍の巨獣は、その大きな口に火の玉を集束していき、カッと撃ち出してきた。
彩雲の騎士はそれをすんでのところで躱す。
「うわっ!」
あっ危ねぇ。彩雲の騎士(僕)は後ろを振り返った。
また災禍の巨獣は、その大きな口に火の玉を集束していき、カッカッカッと今度は3連弾で撃ってきた。
彩雲の騎士(僕)はそれを避ける、避ける、避ける。
「とっとっとっ! これじゃあ火の玉じゃなくて火炎業火球だよっ!」
(1発1発が僕達より大きいよッ!!)
そうなのだ。
あれだけ規模(スケール)が大きいのだから、放ってくる火の玉1つ1つがとにかくでかいんだ。
しかも、このサイズでまだ火の玉扱い。火炎業火球ではない……。
「なんて敵なんだ」
火の玉1つ1つが、彩雲の騎士の身長よりも大きい。
これが火炎業火球を放ってきた場合、なんと恐ろしいことか。
((当たったら無事じゃすまないぞこれは……ッッ))
とここで、その大きな口にエナジーアを集束、畜力していく。こっこれはッッ。
(あの『破壊光線』がくるよ!!)
(冗談じゃないよッッ!!)
このまま黙ってやられる彩雲の騎士(僕達)じゃないぞ。
「「『我、大地の女神ガイアと契約を結びし者なり。古き大地の精霊達よ、天を地に返し、地を統べよ』!! 『ガイアグラビティ』(ガイアヴァリィティタ)!!!」」
――ズドォオオオオオン
災禍の巨獣を中心として重力場が重くのしかかる。
「グゥギャオオオオオ」
と悲鳴を上げる災禍の巨獣。その重力場に抗う。
だが、その重力場に屈し、真っ下さまに落ちていった。
下は海だ。
この落下速度で叩きつけらてたら痛いじゃすまないぞ。その海にドバァアアアアアンと叩きつけた。
海水の水飛沫が上がる。
災禍の巨獣は海面で立っていた。いや、耐えていた。
「グゥオオオオオ!!!」
「「フギギギギギ!!!」」
僕は一度目を瞑り、再び、この技の続きを行使した。
「「『ガイアグラビティ』(ガイアヴァリィティタ)!!! 呑め!!!」」
彩雲の騎士のその呼びかけに呼応するように、
災禍の巨獣を中心点として捉え、海という水が、その一点に向かってザバァンザバァンと波風を立てて吸い寄せられていく。
そして、それは1つの海水の重力球となった。
「そのまま、鎮火させてやる!!!」
彩雲の騎士がその手を上げると、
それに呼応するように海水の重力球も持ち上がっていく。
それに引き寄せられるように、ザバァンザバァンと海水が波風を立てて、波を打ち、宙へ引き寄せられていくのだ。
海水の重力球が持ち上がっていくと、海と繋がるように、海水の柱が立った。
奇怪だ、こんな自然現象未だかって見たことがない。
そのまま僕は天高く手を掲げた。
海水の重力球も最大高度に達する。
「行っけ――ッッ!!!」
とその手を振り下ろそうとした瞬間、信じられないことが起きた。
海水の重力球の中で、何かがカッと光り。
重力球を裂き、光線が飛び出したのだ。そうそれは『破壊光線』だったんだ。
「なっ!」
破壊光線は真上から放たれ、真上から真下へグルリと半周したのだった。
当然、その影響で雲を裂き、僕のすぐ横を一過して、海面を裂いた。
そして、やや遅れて、どこか遠くの街で火の手が上がったんだ。ズゴォオオオオオンと音と爆風が吹き荒れた。
「クッ……クソゥ……ッッ!!」
と僕は苦虫を噛んだ。
奴は重力球から抜け出しやがった。
「グォオオオオオ」
吠える災禍の巨獣。
その巨体は空中から落ちていき……バシャァアアアアアンンと海面に着水したのだった。
とその大きな口に火炎流を集束、畜力していく。それは通常の火の玉では考えづらい、規模(スケール)だった。
そう、それは、火炎業火球だ。
カッとその口から放たれた火炎業火球。
そのサイズは、彩雲の騎士の10倍以上の規模(スケール)を誇った。
ダメだ、いくら何でもデカすぎる。
このままじゃ逃げられない、クソッ、マズイ。
ここでスバルに変わり、L(僕)が動いた。
「『多重バリア(ポラピゥスエンセルト)』!!!」
彩雲の騎士は自身の周囲に多重バリア(ポラピゥスエンセルト)を張り巡らせた。
そのままド――ンと大爆発が起こった。
その爆煙が晴れていくと、バリア(エンセルト)で耐え凌いだ彩雲の騎士の姿があった。
多重ではなくなっていた。
このままじゃ終わらない。終われない。
災禍の巨獣がその後ろ脚を折り畳み、勢いよく飛び出した。
そのまま炎上爪を仕掛ける。
その予備動作を見ていた僕達は、間一髪その攻撃を躱せた、かに見えたが。
炎上爪が掠め、バリア(エンセルト)が炎上し爆発したんだ。
その衝撃が伝播し、彩雲の騎士はその口から吐血(エナジーアの粒子)した。
そのまま勢いよくぶっ飛んだ。

――ぶっ飛んだ先で、彩雲の騎士はその意識を手放さないと下唇を噛む。
「……ッッ」
どうにか意識を保とうとする。
それでもやはり、勝てない。と。
あれには絶対勝てないと恐怖心が過り、僕はそんなのは嫌だからブンブンと首を振って、追い払った。
そして、キッと向き直る。
「1発で体力を半分以上持っていかれた……!」
(バリア(エンセルト)越しでも……!)
その時、彩雲の騎士の体がブルリと恐怖した。
ダメだ、あれには絶対勝てない逃げろと体からの危険信号が上がる。
でも、あれは多くの生徒達の命を奪ったんだ。ケイちゃんの命も……。
「僕は、逃げないぞ……!」
僕の危機感知能力が働く、前方から災禍の巨獣が迫っていた。
ドンッと迫りくる災禍の巨獣。
僕の体は打ち震え、握り拳も震えていた。ダメだこのままじゃ戦えない。
それは恐怖だ。ダメだ、正面きって戦っちゃいけない。
僕はたまらず、距離を保つために離脱した。
「逃げてたまるか……!」
ともすれば僕は逃げ出していたのかもしれない。
僕の体はガクガクと打ち震えていた。
(ッ……クッ)
(……)
そんな君を僕は見ていた。恐怖と必死で戦う君の姿を。
距離を保とうする彩雲の騎士。
その後を追う災禍の巨獣。
その両者の距離がグングンと縮まってくる。
ダメだ、距離を保つことすらできない。
僕はこの場で詠唱に入ることにした。
「「『我、大地の女神ガイアと契約を結びし者なり。古き大地の精霊達よ、天を地に返し、地を統べよ』!!」」
僕は詠唱を完成をさせた。
その時、災禍の巨獣が目前まで迫る。
「グォオオオオオ!!!」
その口内に『破壊光線』の炎のエナジーアが集束、畜力されていく。
僕はタイミングを合わせて。
「「『ガイアグラビティ』(ガイアヴァリィティタ)!!!」」
を唱えた。
――ズドォオオオオオン
向かってきた災禍の巨獣を中心として重力場が重くのしかかる。
ついでに言うと、災禍の巨獣は破壊光線を撃とうとしていたからか、その大きな口が閉じられて、ドォオオオオオンと暴発したんだ。
「グゥギャオオオオオ」
と悲鳴を上げる災禍の巨獣。
これには思わず僕達もビックリだ。
そのまま災禍の巨獣は落ちていく――……
(えっ……)
(まさか……)
2人は精神世界でまさかという思いを共感する。
彩雲の騎士は、海を越えて、先ほど被害を受けたばかりの業火に燃える街の上空に着ていた。
そして、僕達の目の前で、災禍の巨獣はそのまま被害を受けたばかりの業火に燃える街にズドォオオオオオンと豪快な音を立てて落ちたのだった。
彩雲の騎士(僕達)はその様子を認めて。
((見つけたかも……奴の倒し方……!))
と呟いた。
彩雲の騎士(僕達)は偶然見つけてしまったかもしれないんだ、奴の攻略法を。
ただし、奴がその大きな口に炎のエナジーアを集束、畜力中に『ガイアグラビティ』(ガイアヴァリィティタ)を合わせるのは至難の業だ。
この実践の中でできるだろうか。そんな神業が……。
(……)
スバルは呆けていた。そこへ。
(何やってるの畳みかけるんだよ!!)
(ハッ!)
スバルは精神世界で、我を取り戻し。
「「やあ!!」」
と左手掌から『エナジーア波』を速射した。
それが災禍の巨獣に吸い込まれるように投じられ、ドォンと爆発が起こった。
彩雲の騎士はその手を緩めず、今度は連続で『エナジーア弾』を撃つ撃つ撃つ――ドドドドドドドッ
だが、このまま黙して、ただ喰らい続けるだけの災禍の巨獣ではなかった。
その巨体を発光させる――
「何ッ!?」
(マズイよ、離れてッ!!)
エナジーア弾を連発していた彩雲の騎士は、その手を止め、その場から一時離脱した。
そして、災禍の巨獣は、自身を中心として『業火灰燼』を解き放つのだった。
――ズドォオオオオオン
と円蓋(ドーム状)に広がっていく業火灰燼の光熱、それは業火に燃える街を飲み込み、平らな大地へと変貌させた。
すんでのところで躱した彩雲の騎士は、その凄惨な状況を上空から目の当たりにして、血の気が引いた。
「「…………」」
これには、最早言葉が出てこない。
((いったいこんなやつ……どう倒すんだ……!?))
「グルルル……ギャオオオオオ」
吠える災禍の巨獣、大気がビリビリと打ち震えた。
奴の圧は、この体に堪えるな。
やっと絞り出せた言葉は「「化け物め……」」だった。
ギロッと奴の視線が彩雲の騎士を捉えた。
((いいだろう、とことんまでやってやる!! 付いてこい!))
それはまるで恐怖と戦うようであった。、
彩雲の騎士は、場所を変えるため、この場を一時離脱。
それを追いかける災禍の巨獣。
また2人の追いかけっこが始まった。


☆彡
駆ける彩雲の騎士。
追いかける災禍の巨獣。
市街地を超え山間部を超えて、景色が移り変わる。
港町が見えてくる前に、前方に雷雲、積乱雲を発見したんだ。
(何ッ!?)
なんてどす黒い雲なんだ。
(まさか雷雲……ッ!!)
(進路を変更しちゃダメ!! そのまま突っ込むよ!!)
(ちょっと待って!! あれはヤバい自然現象なんだよッ!! うわっ!!)
スバルはLを止めようとするも、そのまま直進。
彩雲の騎士はそのまま積乱雲の真っただ中に突っ込んだ。
続いて、災禍の巨獣も突っ込む。

――積乱雲の中では暴風雨が荒れ狂い、霰が舞い荒び、雷がそこかしこで走る。
猛烈に危険地帯だ
そんな危ない所にいる僕達は――
(――バリア)
(そうか! その手があったんだ!)
フフンと上機嫌のL。
彩雲の騎士はバリアを障壁に見立て、どんどん先に突き進む。
対して災禍の巨獣は、バリバリ、ドドンと被弾しまくっていた。
ここでの優位性は、俄然僕達だ。やったね。
災禍の巨獣は、被弾するも委細構わず、どんどん突き進んでいく。こいつには頭がないのか。
それを後ろを振り返り見た僕達は、よしっいけると思った。
ただし、こんな所で戦うなんて気はさらさらない。だからこんな所にいる理由もない、長居は無用だ。
(そろそろ抜けるよ、バリアももう持ちそうにない!!)
(うん、わかった!)
(テレポート(チルエメテフォート)!)
――シュン
とその場から彩雲の騎士の姿が消えた後、その場にいたところに雷がピシャーンと落ちたのだった。
一方、被弾しまくっている災禍の巨獣は、ここにきて笑った。ダメージを受けているにも関わらずにだ。
これではまるで――
災禍の巨獣はここにきて「ウォオオオオオンン」と吠えた。
――バリバリ、ドドォン

☆彡
その頃、僕達は積乱雲の外にテレポート(チルエメテフォート)の移動先として抜け出した。やったね。
そんな時、「ウォオオオオオンン」と大きな獣の遠吠えが聞こえたんだ。
「なんだ……こ、これは……」
どす黒い積乱雲の中心点が灯り、そこを中心点としてエネルギーが注がれていく。
――バリバリ、ゴロゴロ
嫌だ、ちょっと待って。こっこれではまるで……
(まさか……そんなことが……)
(いったいこれは……)
(……うぁ……ぁ……完全に僕の誤算だァ……)
(え……)
(まさか……災禍の巨獣にこんなポテンシャルがあるだなんて……吸収してるんだ雷のエネルギーを……)
(それって……)
最悪の事態だ。
考え得る限り最悪の組み合わせだ。
災禍の巨獣が雷のエネルギーまで振るえたらそれは、火と雷で火雷(ほのかづち)の巨獣だ。
その顔から血の気(?)が引いていく彩雲の騎士。
そして、危機感知能力が優れているスバルはこう叫んだ(離れるんだ!!)と
「「ッッ」」
スバルの叫び声で、彩雲の騎士の体が動いた。
その直後、積乱雲の中から『破壊光線』が飛び出し。
僕達がいたところを通り過ぎ、雲に当たり雷鳴と共にドォオオオオオンと爆発炎上した。
(くっ雲が燃えてる……!)
チラチラと稲光も見える。これは明らかに……パワーアップしている、信じがたいほどに。
そして、奴が現れる。
その体は一回り大きくなり、その炎の体とともにバチバチと稲光が発していた。
「「……ッッ」」
(こんな奴、どう戦えばいいんだ……!!?)


☆彡
その頃、アンドロメダ星の宇宙船では。
「……かなりまずい事態になったのー」
「あれの戦闘力は」
「はい、ただいま計測しています」
と作業員が計器を操作して、その戦闘力数値がホログラム映像に映し出される。
その戦闘力は「8000」だった。
「……戦闘力8000か……」
「……」
一同それを認めた。
場が静まり返る……。
災禍の巨獣はより一回り大きくなり、その身から炎と雷を発し、暴風が吹き荒れる。
クッと身構える彩雲の騎士、その顔は強張っていた。
これにはデネボラも言葉を失う。
まずい、これは非常にマズイ。その顔にありありと出ていた。
そして、アンドロメダ王女はそれに対して、こう名付ける、『炎雷(ほのかづち)の巨獣』と


☆彡
獲物を前に「グルルル」と鳴く『炎雷の巨獣』。その視線は僕達を捉えていた。
奴の前では僕達は等しく餌だろう。
(正直参ったね……。災禍の獣士の隠された力が、まさか『与力』だなんて……。こんな事なら、多少無茶してでもあの時、あの技を使えばよかったよ……)
(あの技……? その技を使えば勝てたの?)
(……)
(……その技を使えば、勝てるんだよね!?)
(……)
僕は気落ちした。この少年に不本意に希望を与えてしまったことを。
だから正直に現状を話す。
(いや、多分無理だと思う)
(……いいややってみないとわかんないと思うよ)
彩雲の騎士は身構えたそこへ。ピピピッと。
それはLのエナジーア変換端末を通して、ホログラム映像で現れた。ホログラム映像に映るはデネボラさんだ。

『L聞こえる? 戦闘を中断して! 今すぐにその戦場を離れて!』

「「デネボラ!」」
こちらの音声があちらに伝わり。
あちらの状況がわかりやすくなる。
見るとあちらでも動きが起こっていた。
「いい、よく聞いて!! こちらで戦闘シミュレーションを組み立てたところ、勝率10%未満と出たのよ!!」
「10%……」
「それはあなた達も肌で感じてるはずよ!」
「……」
僕達のエナジーアで作られた体は震え、エナジーアの粒子が逆立っていた。俗にいう鳥肌というやつだ。
「……」
心に迷いが生じる彩雲の騎士。その顔にはありありと出ていた、勝てる訳ないと。
それを認めたデネボラは、こう言った「無理をする必要はないわ」と。
「……」
「今からそちらにアンドロメダ王女様を遣わせます!!」
「なっ!!」
そうなのだ。アンドロメダ王女は出撃準備に入っていた。じょ、冗談じゃない。
「ちょっと待って!! 姫姉を出しちゃダメ!!」
「!」
「!」
これには音声を通じて、姫姉も止まった。向き直る姫姉。
「……それはなぜじゃL」
『『そ、それは……うわぁ』』
あちらでも動きがあった。
火雷の巨獣がその口から火の玉を撃ってきたのだ。だが、このサイズから打ち出される火の玉は巨大だ。
彩雲の騎士はその火の玉を、すんでのところで躱して交信を続ける。
『『姫姉はまた、『青白い光熱の矢』ブルーフレイア(キュアノエイデスプロクスア)を敵めがけて撃ち落とす気でしょ!?」
「無論じゃ」
『『絶対にッ出てくるなァッッッ!!! 僕達の地球を何だと思ってる!!!』』
こちらはスバルの方の素が出た。
『『いいか!! あれは僕達で必ず何とかする!! 勝った後、あんたと話がしたい!! それまで待っててくれ!!』』
「な、何という口の利き方を知らない地球人の子供なんでしょ!! 姫様、こんなガキ相手にすべきではありません!!」
「……わかった」
「は」
『『は』』
姫姉が受け取ったのはどっち?
と言いつつ、また火の玉を躱して、交信を続ける彩雲の騎士。
「時間ギリギリまで待とう」
「時間ギリギリ……」
「左様じゃ。もって明日の日の出までじゃ」
アンドロメダ王女がデネボラに顔を向けると。デネボラは頷き返して、交信を続ける。
「それは地球時間に換算しますと、12時間ですね」
『『12時間……』』
「それがわらわにできる譲歩じゃ! わらわの期待を裏切るでないぞL、そして地球人の小童」
そして、アンドロメダ王女は回線を切ったのだった……ブッツ
「「……」」
「グルルル」
「「フッ、やってやる!! 勝負だ!! 災禍の巨獣……いいや、火雷の巨獣」」
「グォオオオオオ」
ビリビリと大気が打ち震える。暴風が吹きつける。
それに対してこちらは剣を向け、意気込む。
来るならこい。
((――このまま空中戦はキツイな。そうだ! 下は海だった!))
眼下に広がるは大海原。
彩雲の騎士は上空から斜め下に猛スピードで滑空する。
((一気に海の中で決着をつけてやるッ!!))
「「付いてこい!!」」
「グォオオオ!!」
火雷の巨獣も彩雲の騎士に習うように、猛スピードで滑空して、硬い水面にぶち当たって。
ドーンと水蒸気爆発が起った。
とそのまま海の中を斜め下に突き進む彩雲の騎士。
そこへいきなり海中の圧迫感とともに振動が襲ってきた。
そして、遅れてドーンという爆発音が海の中に響いたのだ。
これには彩雲の騎士も「「何だ!?」」と驚いた。
(……爆発、なぜ?)
(多分、水蒸気爆発だと思うよ!)

――その頃、水上では水煙が上がっていた。

(水蒸気……爆発……)
(今のあいつは巨大な爆弾庫だ。火と雷の性質を持ち、それが海の水と化学反応して爆発したんだよ!)
(化学……反応……)
その水煙が晴れていくと……火雷の巨獣が水上でプカ~~ッと浮いていた。
(電気は水分を電気分解し、水素と酸素に分かれる。そこへ燃えたぎる炎が加わり、水蒸気爆発が起きたんだよ!)
(な、なるほど……水蒸気爆発か……!)
が、火雷の巨獣は気絶(スタン)状態から立ち直り。機転を生かし、攻勢に入る。
その大きな口にエナジーアを集束、畜力させていく、『破壊光線』を撃つ気だ。そんな事を知らない彩雲の騎士は――
(――と、もう少し奥まで潜ろうか)
(……その方が良さそうだね……)
もう少し奥まで潜っていくのだった。
段々と下へ下へ潜っていく。すると海面の光が遠ざかり、辺りは暗く閉ざされていく……
なるほど、確かにここで戦えれば、僕達に有利だ。
だが、それは普通に相手取れる場合、今回のケースは最悪だった……
(……ハッ! 回避!!)
(ッッ)
そう、今回のケースは最悪だ。
何とあいつは、『破壊光線』を撃ってきたのだ。
この距離でマジか。普通海中で使うか、完全に馬鹿げてる。
破壊光線に当たる前に彩雲の騎士は回避行動に移ったが。海中という場所が悪かった。
地上や空中、水上や宇宙空間ならば難なく避けられただろう。
だが、ここは海中だ。潜れば潜るほど水圧や重力が増していき、動きが鈍くなっていく。完全には避けきれなかったのだ。
破壊光線を撃っている最中の火雷の巨獣。
その海上では海が真っ二つに割れ、海深くの地肌、海嶺(かいれい)が垣間見えた。
「オオオオオ」
と災禍の巨獣は勝利の雄叫びを上げた。
そして奴は、その場を後にしたのだった――……
その頃、彩雲の騎士は激しい海流に流されて、どことも知れない深海の奥深くへ流されていった。深海のいずこかへ――……


――その頃、アンドロメダ王女の宇宙船では。
「……モニターを変えるのじゃ!」
「どちらへ?」
「決まっておる、火雷の巨獣の方じゃ!」
ホログラム映像が移り変わる。
(やはりこうなりおったか……。やはり、わらわが出張るんじゃった! じゃがああ言った手前、出るのは面子に関わる……。……ううむ致し方なしか)
ホログラム映像に映る災禍の巨獣は、信じ難い速度で高速移動していた。
そこから始まるは悪夢だと言わんばかりの蹂躙劇だった。


☆彡
【『火雷の巨獣』の蹂躙劇が始まった……。あれの目的は単純明快にしてシンプル、己の力を底上げしつつ、この星を滅ぼすというものだった。
奇しくもそれは、レグルスが思い描いたシナリオ通りだった。
だが……それに、自我という感情はないに等しいだろう。その厄災は等しく訪れた――……

【核融合原子炉施設】
日本の未来にこの施設がないことを願う。
それはなぜか? それは多くの被災者家族の訴えが届いた願いだからだ。並びにそれに協力した人達の尽力・賜物のお陰だろう。
ただし、他の国々は違う。それはなぜだろうか?
日本のような島国と違い大国・列国は電気自給率がそもそも違うからだ。
日本の場合は、島国であることから再生可能エネルギーに踏み切った。また、近未来エネルギー事業が上手くいった成果だ。
だが、大国はそれだけでは補いきれないのが現状だ……だから必要不可欠と踏み切った某国の問題である――
――そこへ、ドンッと巨大な火の玉が襲った。
いいや違う、正しくは火雷の巨獣だ。私達地球人の肉眼では巨大な火の玉としか認識されないのだ。
それは激突だった。
何度も幾度もドンッドンッドンッ壊れていく壁、人々は驚き、パニックに陥る。
そして、ドォオオオオオンと核融合原子炉が爆発したのだった。
これは『火雷の巨獣』が来る前から、メルトダウンを起こし、どうにもならなかった……。
安全装置は設けられていた。ただし、それは手動や自動を目的とした場合だ。このような異常事態なぞ誰が想像できたであろうか。
システムは全てダウンし、稼働中のエネルギーは無尽蔵に膨れ上がり、最早人類の手を離れていた。
不幸としか形容できない。
そして、その最大の不幸を喰らう化け物がいた。
バクンッと『火雷の巨獣』はそれを喰らい、変貌を遂げる。
カッと大閃光が起こり、雲海の下が眩しいほどに光った。

「……」
それをホログラム映像越しで見ていたデネボラや作業員達の顔から表情が消えていった。
それに対し、わらわはこう言った「最悪の事態じゃな。あれの測定は……」と。
「……」
作業員達のその手は止まっていた。
「……」
あれの戦闘力は常識の埒外にあった。奇跡が起こらぬ限り、あれを倒すことなどできないだろう。奇跡が……か。

「グォオオオオオァアアアアア!!!」
新たな力を得た『火雷の巨獣』、いや『核融合炉の巨獣』は吠えた。
そして、何処かの場所へ飛び去って行く。
それをホログラム映像で見たデネボラはこう言った「いったいどこへ」と。


☆彡
【――この時、誰も気づけなかった。異常事態は地球だけで起きているのではないと……!!】
太陽活動が活発になり、異常なまでに黒点が増え、寄せては返すプロミネンスが頻発化していたのだ。
それを観測していたのは、火星住む火星人。
いや、正しくは、火星に移り住んだ我々地球人達の子孫達であった……。

【火星観測所】
「地球は今どうなってる!? あれから情報交換が途切れたままだぞッ!!」
「ダメです! 応答がありません! 何度も呼び掛けているのですがッ!!」
「地球の方聞こえますか!? 応答願います!! こちら火星の観測所です! 応答願います!!」
モニターにも、計器にも、何も反応がなかった……。
「クソッ、一体全体どうなってるんだ!?」
その時だった。
ビーッビーッと異常警報(アラート)音が鳴り響いたのは。
『総括! 異常事態デス!』
と火星アンドロイドが話しかけてきた。
「何だ!?」
『太陽フレア、スーパーフレアガ起コル模様デス!!』
と人型アンドロイドが語る。
「「「「「何ぃーっ!!!?」」」」」
「それはいつだ!?」
『計算処理中……地球到達マデ、残リ8分! ココ火星ニモ甚大ナ被害アリ!! 影響ガ計リ知レマセン』
「…………」
これには一同愕然とした。どう手を打てというのだ。
『私共ノ計測デハ、地球モ何ラカノダメージヲ被ッタ模様……!!
ソノ詳細ヲ酷似スルデータベースハ、スーパーフレアニヨル影響モシクハ、電磁波爆弾以上ノモノト推察サレマス!!』
「今から打てる手立ては!?」
「全システムノ強制シャットダウン!! ソシテ予備ノ光学磁気ディスクヲ取リ出シ、事件終息後二取リ換エルコトデス!!』
「助かる見込みは!?」
『……10%未満デス!!』
それが人型アンドロイドが下した冷静な判断だった。
「……」
「統括、お決めください」
(あれからどれだけ時間がたった……? いや、今悩んでいる間にも無駄な時間が過ぎていくというのか……!)
「ッッ……火急的速やかに取りかかれ!!! 全責任は私が取る!!!
若者、女性子供を中心としろ!!! 40代以上を切り捨てるとする!!! これは当該現場において必要な技量を持った者を優先とした判断だ!!! 使える人材を優先しろ!!
なお、私はこの場に残る!!!」
「「「「「は、はいっ!!」」」」」
それが統括が決めた最終判断だ。
『見事ナ判断能力デス、統括! 素直二尊敬シマス!!』
「……」
これでいいのかと様々な疑問が沸き立つ。
辺りを見渡すと職員達は慌ただしく作業に取りかかっていた。
その足で駆ける者、腕時計型携帯端末で最後の別れを告げる者、備え付けの館内放送で情報を発信する者、様々だ。
そこへ火星アンドロイドBが総括に話しかけてきた。
『オ別レヲシナケレバナリマセン、統括』
「……」
「最後二家族ト過ゴセル時間ヲ、1分1秒デモ長ク」
(そうだこいつ等は、情報を交信する事で機体から機体へ乗り移ることができる……!! まるでそこにいるように……家族と接することができる)
私はこの時、そのロボットの体が羨ましく思った。
(可能ならば私も……!)
「フッ」
(何言ってるんだ私は)
と自嘲した。
「あぁそれがいい。せめてものその時間を有意義に過ごすといい。そして、もう1つ、職員としての職務を全うしろ!」
『!』
「今起こった全ての情報を、全てのロボット達に拡散するんだ!!! 『助かるのは40代未満の若者と、そして女子供を優先とする』!!! これが最良の判断だ!!!
すぐに行動しろ!! 持ち物は一切持ち込ませるな!! 時間と労力の無駄だ!! 防災用の食料庫に隔離するんだ!! 急げ!! ここはもう間もなく、酸素が尽きるぞ!!!」
【そう、ここは火星だ。人工的に酸素を作り出している過ぎないのだ。当然全ての設備が止まれば、人は呼吸ができず死者が多発する。統括は冷静な判断を下したのだ。
無事な施設を一つでも多く残し、食料のある防災用の施設へ隔離しようと。
何も問題はない、優秀な使える人材が残っているのだから。これで人類の存続は可能である――】
「統括」
「統括!」
「統括!!」
『統括!!!』
「人類に敬礼!!」
最後は皆一同、ビシッと敬礼を決めたのだった。
「………今迄、文明発展のために……っ、ありがと…う……っ!」
統括は最後に、人の子として涙を流した。それは男泣きだった。


☆彡
【――その頃、深層海流に捕まった彩雲の騎士は……深層海流に乗り流されていた――……】
現在の水深約1万メートル。
これだけの深さだ、普通の人間ならひしゃげて死んでいる。ただ、彩雲の騎士はエナジーア生命体だ、その心配は杞憂だった。
「……」
彩雲の騎士は無事だった。ただ、今は気を失っている。
その彩雲の騎士の上を横切った魚がいた。いやここでは深海魚と呼称すべきだ。
それは奇怪な深海魚だった。
今まで出会った深海魚はそれぞれ「ヒカリキンメダイ」「トガリムネエソ」「ミツクリザメ」だ。

【――『深海生物』。
その深海生物達の主食は『プランクトン』。
プランクトンとは、死んだ生物の死骸や体の一部またフン等である。
深海生物はなぜ目がないのか。
それは日の光が届かない深海では、目の機能が失われ別の機能が発達した生物達が多岐に渡る為である。
その進化に至る為には、様々な栄養源が必要になる。
また、過酷な環境によりそこに適した体へと変異したのだ】

彩雲の騎士は無事だった。ただし、現在意識を保っているのはLだけだった。
「それにしてもこの海流の流れ……1本や2本だけじゃない、いったいどこから流れて……?」

【それは世界中の大陸から流れてくるもので、様々な種類の栄養素を運ぶ『マリンスノー』からできている。
マリンスノーとは植物プランクトンを運ぶ役目を担っており、
これを食べた生物の死骸やフンのかたまり等が、遠くから運ばれてきた深層海流の流れに乗り、
上下運動の過程と様々な種類の魚に食べられたり分解されたりしながら、ここ深海まで運ばれているのだ
その様は、まるで雪が降ってるみたいだった】

「この流れに規則性はないみたいだ。おかしいぞ……うん……?」
その時、コッと何かに当たった気がした。
僕は器用に尻尾を動かして、さっき当たったモノを拾い上げた。
「……」
(何これ)
とそれはガラス玉だっだ。
(何でこんなモノが海底に……)
沸き立つ疑問、僕は辺りを伺う。
目線の先に見えるのは、そびえ立つ岩肌群、その中に確かにあったのは、クリスタルのピラミッドとそれを覆う防護壁。
さらに辺りに散乱するは、似たようなガラスの玉。
(……クリスタルピラミッド。地球の古代遺跡……かな)
それはLだけが見たモノだった。
そして、その身は深層海流の流れに乗って、何処かへ運ばれゆく。
その時、この防護壁によるものなのかそのガラスの球がひとりでに取りこぼした。
いや違う、それは持ち出しできない仕様のものだった。
「……」
何だろう、ここへはまた来るような気がする。不思議と僕にはそんな気がしたんだ。


TO BE CONTIUND…

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