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第1章の第10話 僕はあなたに付いていけない! 解決不可能問題……

☆彡
――茜雲の雲海。
彩雲の騎士が、災禍の獣士が、ボンッボンッと雲海の壁を突き破り躍り出た。
両者、相対す。
その遥か上空にはオーロラ大厄災と真珠母雲の揺らめく姿が。
両者ここで、一度エンセルト(バリア)もしくは炎上守護球を解いた。
「あなたを倒す、レグルス隊長……いやレグルス!! あなたは間違ってる! 僕はあなたについていけないッ!!」

「ついていけないか……」
俺は考え、こう切り出した。何も知らん無知なガキに。
「力なき戯言は、地に伏して当たり前。
弱者がいくら泣き喚き散らそうが、圧倒的弱者が支配者には逆らえないのがこの世の摂理……!
そして、地球人の奴等にはそれ相応の責任を取らせなければならない!
それが異星人達との取り決めにおける外交上の問題なんだ! これは我々の責務だ!」
俺はド正論で返した。
「それがいくら正しくとも、いきなりは侵略行為じゃないか!! 僕はこんなのを認められない……ッッ!!」
「お前が認めようと認めまいと、実際に死傷者が出ているのは事実だ! 先に手を出してきた以上、言い逃れはきかないぞ!!」
「……ッッ」
「そして我等が主、アンドロメダ王女様の責務を全うするため、お前もこれだけは肝に銘じておけ!
民を護るもの、民を統べる者にはそれ相応の責任と責務、重圧が付きまとうものだ!
今回お越しになさったアンドロメダ王女様には、その責任問題が押し付けられてる。
これは国、いや引いては外交上の信頼関係の上での問題だ!!
だから我々は示さねばならんのだ!!」
「ッッ」
「L、お前にわかるものか、あの方の隠れた苦しみが……ッ!! いや、お前が気付いたその時には圧し潰されてる!!」
「……」
「それは! これから先! いくらこちらが行動如何で正そうとしようが!! あちらが決してそうはさせない!!!
我々は後手を打ったのだ!!
我等が故郷アンドロメダ星は、数多くの人種が、異星人達が多く集まり、独自のコミュニティを持ち、情報が漏れてる!!
だが、それが事実だ! 遅かれ早かれ、必ず人は弱ったところをつけ込んでくる、陥らせる、搾取される!!
それが世の中の摂理、無情なのだ!!」
「……ッッ」
(姫姉……ッッ)
まさかそんな事になってたなんて……僕は知らなかった。
そして、災禍の獣士は遠回しにこう言ってきてるのだ。お前に責任が取れるのかと……無理だ。

(――どうすればこの問題を解決できるんだ……!?)

難しい問題だ。
いいや、解決不可能問題に直面した。
が、それを解決できたとすれば、それこそ神話に残るだろう。


☆彡
――その頃、スバルの精神体は、焼ける森の中を移動しながら、やや上昇移動していた。
そしてふと思う。
(やはりこの体になってから、人の常識という壁を越えようとしている)
僕は後ろを振り返った。
見えるのはあの爆発現場だ。
(ブルリ……なんて力なんだ……僕が行っても何にもできないだろう。行く必要があるのか……? いや行くんだ!!
僕にも……僕にしかできない事がきっとあるはずなんだ……きっと……!!)

【――運命の針が刻一刻と動き出そうとしていた】


☆彡
茜雲の雲海にて、対面する両者は言い合う。
「そ、それでも……」
右手掌にエナジーアを集束、畜力させる。
「もうこれ以上、姫姉に罪は犯させない……ッッ!!」
「……」
(罪を犯させないか……正論……だな! だが、誰かが責任を取らざるを得ない……)
「……」
俺は熟考し、思考を加速させた。
「……どうした!?」
「……いや、もうこれしかないな……続けよう。どちらが正しいか……! 所詮この世は弱肉強食だということを知らしめてやろう。さあ、こいっ――!!!」
「いくぞーッ!!」
まず僕は、エナジーア弾を撃った。
そして、その後を追う。
「――」
エナジーア弾を隠れ蓑に利用した二段攻撃か。
「下らん」
俺は片手間で、それを弾いた。
奴はどこへ行った。
俺は奴を探そうとしたところで、背後から迫るエナジーア弾に気づき、弾いた。
「ッッ」
これもフェイントか。
俺は別の攻撃の気配を感知、今度は、斜め上方向から追撃が迫る。
「チッ」
当然これも、弾いた。
追撃が迫る、追撃が迫る。この連続した多角的攻撃、早さじゃない、さてはご自慢の――
「――テレポート(チルエメテフォート)か!」
(そうだ、これが僕の武器だ!!)
(奴め、エナジーア弾を撃つと同時にテレポート(チルエメテフォート)を繰り返して、エナジーア弾に俺の注意を向けているな……!)
と考えているんだろ。悔しいけど事実だ。
そして、決め手に欠ける……。やはりパワーか手数がいる。それとも別の何かが……。
(なるほど……弱小攻撃とテレポート(チルエメテフォート)を織り交ぜた業か。それなりの多角攻撃だ。そして――)
(――そう、僕の本当の狙いはこっち!!)
僕は片手間でエナジーア弾とテレポート(チルエメテフォート)を織り交ぜながら、本命のエナジーア弾を利き手に集束、畜力させていた。
(やはりそっちが狙いか……!! なら――)
俺も片手間でそれを弾きながら、利き手の炎上爪にエナジーアを集束、蓄力させる。
(あれはチャージさせちゃいけない……なら)
(今勝負するしかないだろう!?)

((――勝負!!!))

エナジーア弾を撃つと同時にテレポート(チルエメテフォート)。飛ぶ先はあいつの背後だ。卑怯だと言われようが知るもんか。
あいつが飛んだ先は、俺の長年の経験と勘が逸早く教えてくれた。
互いの蓄力(チャージ)技が炸裂する。
――ドドン。
と爆発した。その爆発によって、茜雲の雲海に円形の窪み(クレーター)が生じたのだった。
僕は、可能な限り蓄積したエナジーア弾を拳の乗せて、打ち込んだ。
でも、エナジーア弾を撃ちながら蓄積していたもんだから、どうしても狙った最大蓄積効果は得られなかったんだ。
俺は、可能な限り蓄積した炎上爪で迎え撃った。
「ッッ」
「チッ」
ほぼ互角だった。
いや、あの時点からここまでのパワーで押し返したのだから、さすがに優劣は災禍の獣士が押しているとみるべきだろう。
逆に策を弄した彩雲の騎士は、疲弊している。
「ハァッ……ハァッ……」
(さすがにエナジーアを使い過ぎたな……。策士、策に溺れるとはこの事だ……)
「ハァ……ハァ……」
「長年の戦闘経験と勘の差が浮き彫りになったな、L……!」
「……ッッ」
(勝敗を決するのは何もパワーだけではない!
それは身体的要因、属性の有無、地形、運等の複合的要素が絡む……!
特に今回の場合、エナジーア変換した対象者が悪かった……!! 運がなかったと諦めるべきだ……!)
俺の視線は、あいつの足に向いていた。
「……」
(Lの阿呆は地球人のガキを護る為、戦い始めから常時バリアで護っていた……!
それは余計なエネルギーロスだ!
それを早い段階で見切り、頭から切り捨てれば、もっと善戦ものを……!)
それができないのが、Lの優しさだったりする。
(残念だL、切り捨てろ! そんな人間はお前の真価を妨げる害悪でしかない……!
お前の真価が発揮できれば、事戦闘において優位に立てただろう!
お前にはそれだけの才能がある!!
だが、惜しむらくは、圧倒的な実践経験の少なさ……! 事、経験において俺がお前に劣る筈がない!!)
燃える炎上爪。それに乗じて火の粉が舞い上がる、やがてそれは炎から焔へと変わる。
これは感情の高ぶりだ。俺は今、気分が高揚している。
「グッ」
(マズイな……バリアの維持が……できなくなってきた……ッ!)
この足のバリアが消えた時、相当の激痛が襲ってくるはずだ。
それだけは何とかしないと。
「どうしたL!? 今からでも遅くはないぞ!! その人の子を支配しろ!!」
「……ッッ」
(そんな事できない……ッッ!!)
「できないのか……できなくはないはずだ!! 支配ではなく、共生の道を選ぶのか……!? 俺は違うぞ! 交流ではなく、統べる直流の道を選ぶッ!!」
「僕は……そんな道は選ばない……ッッ!!」
僕は断固拒否した。
「つまらん戦い方をするなL!!」
俺は手を伸ばし、焔を制する。
焔がまるで蛇のように巻き付き、表面化する。
それはまるで焔の獅子だ。
(焔の獅子……?!)
「これは俺自身の感情の高ぶりによってできた支配だ!! 人の子を捨てろL、さすれば命までは取らない」
「……」
僕は無言で構えた。戦う姿勢は変わらない。
「……チッ、強情な奴め! ならばもういい、最大蓄力(フルチャージ)で沈めてやる!!!」
俺は焔に燃える炎上爪を天に掲げる。焔が燃え盛り、獅子の顔を象った炎上爪が巨大化する。今、命名しよう、この技の名は――
「――『爆華炎上爪』!!! L、お前を倒し! その片割れの無残な死に様を見れば! さすがのお前も目を覚ますだろう!! 俺が本当の世界を教えてやる!!!」
「ッッ」

――だがその瞬間、手を伸ばす者がいた。
防衛本能が働き、僕はガード体制をとったその時。
瞬時に新しい『バリア』エンセルト(!?)が発生したんだ。
――パァン
と新しい『バリア』エンセルト(!?)とぶつかり、互いのエナジーアが相殺した。
「なにぃ!?」
「?!」
驚く災禍の獣士。
何が起きたのかわからない彩雲の騎士。
だが、それは確かに自身が起こしたものであることは確かだった。その真相はすぐそこにあった。
(……間に合った~~)
(!!)
「!?」
そう、僕の隣には地球人の男の子がいたんだ。
俺は驚き、一度距離を取った。何なのだいったい。
(遅れてごめん。もう君、どんどん先に行くんだもん。少しは待ってよぅ)
(……今のは……バリア(エンセルト)……だった?)
何なんだ今のバリア(エンセルト)もどきは……?
これはL、レグルスともに思った。
謎の現象だった。
(今度は一緒に戦おう)
彩雲の騎士は、キッとキツイ眼つきをとり、災禍の獣士を睨んだ。
そして、こちらから躍り出た。
殴りかかる姿勢で攻めかかる。
「「やぁ――ッ!!」」
「……」
攻撃が見え見えだ。
俺はサッとこれを避けた。
「「おっとっと!」」
僕は避けられた所で、大きく攻撃が空振りして、空中でこけそうになった。
下は雲海だ。何なんだこの一風変わった状況は。
「「クソォ」」
「……はぁ」
俺は呆れに呆れた。なぜ俺が地球人のガキの相手を。
「つまらん。ガキの喧嘩に付き合う道理はない」
「「なんだと――ッ!!」」
「『炎上大河』!!」
災禍の獣士が下から斜め上に炎上爪を巻き上げると。炎が扇状に広がり、茜雲の雲海に炎の轍が走る。
彩雲の騎士はそれに巻き込まれまいと、雲海の上空へと飛んだ。
そして、茜雲の雲海が燃え上がる炎上大河を見下ろした。
「「うひゃ~~危ない危ない!」」
顔をぬぐう彩雲の騎士。だが、その斜め上には――
「――上だガキ」
「ハッ!」
バキッと奇襲を受けた僕は、蹴り飛ばされて、燃える雲海に叩きつけられた。
ボンッと雲海に沈んでいく。燃えているのは雲海の表面だけ。
中程まで落ちていく彩雲の騎士だったが……。そこで足首をガシッと捕まれて、雲海の中程から表面まで引きずり出されて、炎の海を渡るはめになった。
これには彩雲の騎士(僕達)も「「あちちちち」」と大いに叫んだ。
何て事するんだこの野郎。熱いじゃないか。
「ガキと交流の道を望むから、ままならんだろうL!!」
俺はそのままぶん投げて「真価を見せろ」と叫んだ。
「「なっなにをぉおおお!!! おっ!?」」
と『飛来炎上爪!!』が飛んできた。
「「うわぁあああああ」」
と悲鳴上げる彩雲の騎士。
そのまま『飛来炎上爪』の連続攻撃の追い打ちが決まり、ドーンッと爆発した。
危うし、彩雲の騎士。
だが、全身を覆うバリア(エンセルト)で防いでいた。
「「あの野郎、無茶苦茶しやがって!! 今度はこっちの番だ!!」」
と、その精神世界にて、Lが少年に注意する。
(……ちょっと君、黙ってて!!)
(は、はい……)
これには小さな宇宙人さんもお怒りだ。どっちに、まさか僕に、僕は彼が怖くなった。
「「……」」
「……」
彩雲の騎士が斜め下から睨み。
それを災禍の獣士が斜め上から睨み返した。
「選べ、空中戦と地上戦、どっちが得意だ!?」
「「……」」
僕はここで、下を見下ろした。
炎上大河の燃えている雲が流れていき――燃えている森林が垣間見えた。
地上は今燃えている。
原因は、度重なる戦闘に加え、この雲海から降り注ぐ火の雨が延焼範囲を広げているせいだ。
次に大事なのは、両者の力量さだ。
雲海を選べば、先ほどの戦闘と同じく、この子が足を引っ張るだろう。
なら、残るは地上戦しかないんじゃないか。
「「……どちらかといえば、地上戦かな」」
なら俺は、両者にとって公平に戦えそうなところを選び。
そこへ飛んで案内した。


☆彡
――両者そこに降り立つ、そこはまだ燃えていない森の中だった。
「……さあて、始めようか」
「「……わかった」」
災禍の獣士がグッと構えを取って。
彩雲の騎士もグッと構えを取った。
そして、ジリジリと円運動を描きながらやや後退加減で距離を取る。
これは助走距離だ。
両者、炎上爪とエナジーアを集束、畜力させる。
火の手が迫る、音を立てて、ゴォウゴォウと。
そして、両者の目の前に火の粉が舞い。
その小さな火の粉が、地上に落ちたのを契機に飛び出した。
それがスタートの合図だった。

――まだ燃えていない森の中。
両者同時に飛び出し、すかさず蹴り技が×の字に炸裂した。
ドンッと両者を中心に衝撃波が発生した。近場の木々がその衝撃によってへし折れ、熱風が辺りを襲い、木の葉がボッと燃え上がる。
その場から瞬間移動でもしたかのように、地上、中空、木々の間と現れては消えてを繰り返し、両者の激しい攻防戦が続く。
両者、それは人の知覚を凌駕したハイスピードバトルを繰り返した。
彩雲の騎士は拳を突き出し。
それに対して災禍の獣士は蹴りを繰り出す。
衝撃波が中空で発生し、その余波が轍となって、草場を疾駆する、ガガガガガッと。
中空で、木々の上で、ビッビッビッと瞬間移動でも繰り返すかの如く現れては消えを繰り返し。
――ドンッ
と中空で両者の攻防により大気が爆ぜた
これに対して、スバル(僕)が思ったことは。
(ダメだ、付いていけてない……いや、付いていけないで諦めちゃダメだ!! この目に焼き付けるんだ! いいや、付いていこうとするんだ!! スバル!!!)
僕は、この戦いに魅せられた。
ビッビッビッを繰り返し、暗い森の奥へ。
そして、その2人の後をまるで追いかけるかのように、衝撃波と爆炎が付いていくのだった。
2つの光の尾が炎の轍が、日が落ちた暗い、森の奥へ交わりながら突き進む。
その正面には、少年少女達の遺体があった。
片方は避け、もう片方はそのまま驀進する。
(こっこいつ……!!)
僕は怒りを露わにした。
彩雲の騎士の目が青白く光った。サイコキネシス(プシキキニシス)だ。
ミワワワワワと災禍の獣士と驀進されて弾き飛ばされた少年少女達の遺体にかけた。
そして、その手にエナジーア弾を集束、蓄力させる。
いや、負けじと災禍の獣士もサイコキネシス(プシキキニシス)かかった状態で、炎上爪を集束、蓄力させる。
(こっこの野郎まさか……この状態でッ!?)
これにはさしものスバル(僕)も驚きを隠せない。なんてとんでもない化け物なんだ。
「「エナジーア波!!!」」
「炎上爪!!!」
ドドンッと両者の蓄力技が炸裂し、両者を中心に衝撃波と熱波が発生した。
近場の木々はへし折られ、周りの木々は強風でもあったかのように煽られて、木の葉は舞い燃え上がる。
少年少女達の遺体は、サイコキネシス(プシキキニシス)で保護されたまま、森の何処かへ。
広がる爆発。その時間すら止まって見えるほどで。
両者のハイスピードバトルが続く。
広がる爆発を下に、彩雲の騎士は災禍の獣士を睨み付け、顔を上げていた。
((待ってろ、すぐにそこに行くぞ))
(フフッ、来るなら来い。さあ、まだこの戦いを楽しもう、L)
僕は、この戦いの刹那、宙に舞う焼け焦げた木の葉を一目見た瞬間、その場から駆けた。
彩雲の騎士は、宙に舞う焼け焦げた木の葉を踏み台にして、駆けあがっていく。
そして、最後の一枚を皮切りに猛ダッシュ。
勝負にかけた。
彩雲の騎士は、右手にエナジーアを集束、蓄力させつつ、左手でエナジーア弾を連発した。
だが、この時、彩雲の騎士は気づけなかった。
常に自分の足を護っていたバリアが消失していた事実に。
それはエナジーアが底を尽こうとしていた。
(――ああ、十分に楽しめたよL)
それは俺も気づいていた。
だから、俺は弓なりにのけぞり、後方の斜め下にワザと急降下した。
当然、俺がいたところにエナジーア弾が素通りしていった。
(L、お前にも言ったことがあるよな!? 待ち構えて、受け答えするだけが業じゃないと……!)
「「何っ!? クソッ待って!!」」
僕達はその後を追う。
中空でクルリと回り地面に着地するかと思いきや。中空の大気の層をエナジーアで固めて勢いよく躍り出た。中空ジャンプだ。
これには彩雲の騎士も、タイミングが狂う。
「「!」」
俺は斜め上から迫ってくる彩雲の騎士を見上げた。
ここで、俺はワザと炎上爪を1発撃った。
これを、彩雲の騎士はかろうじで避けた。だが、その姿勢制御は……。
(姿勢制御が不十分になったぞL!!)
(しまったこれはまさか……)
(誘いだ(か)!!)
クソッ、僕はどうすることもできず、拳を突き出した。
俺はこれを長年の経験と勘で躱し、カウンターを当てにいく。
迫る、勝敗を決する一撃。
この時、僕達の脳裏は、昔日に飛んだ――


★彡
――スバルの昔日。
【今日この日もスバルは、トイレの中で集団虐めにあっていた。それはいつもの日常風景だった】
スバル1人に対し、あちらは3人。
それはクラスの中で、1人だけ浮いた存在であるが故に日々の憂さ晴らしの為の格好の標的になってしまっていたんだ。
その3人の内の1人が、トイレの出入り口を塞いでいる。退路が阻められ、一筋縄ではいかない。
これでは助けが期待できない。さあ、どうする。
【――虐めを受ける理由は何なのか!? 諸説ある! それはテストの点数が周りと比べて低い事や、いつも1人でいる奴、また遅刻癖や周りに友達が少ない事が挙げられる】
余裕たっぷりの顔で、距離を詰める悪ガキ2人。
パンパンと掌に拳を打ちつける動作をしながら、それはお前を殴りに来たんだぞと言わんばかりの意思の表れだ。
対してスバルは、黙っていた。
いいや違う、その目線は壁をチラ見している。相手に気づかれないように。

【虐めをなくす方法は、何かないものか!?
1つ言える事は、被害者側からの報告以外にない!
また、その現場を見た者の証言だ! その証言にのとって早馬を送り、その後、先生方が何らかのアクションを起こさなければならない!
ここでの注意点は、先生から被害者側にお前にも問題があり、非があるんだぞと言い含めないことが大事だ!】
【これはあるパターン事例でわかってきた事だが……。
Aの場合、その注意を受けた生徒は、さらに落ち込み、自己成長が乏しくなってしまう……。
それに引き換えBの場合、先生がその生徒の良いところを見つめ、将来性に何か役立つ技能を発見し、伸ばしてあげられることが大事だ!
例えば、電気が好きなら電気工事士、読書好きなら哲学や小説家、教授なんかもいいだろう】
【だが、どんな希望を持てど、方向性がわからなければ進めないのもまた事実……。
私だったらこうする! その学校の図書館に資格の本なり道標の本を置きなさいと、そして先生方が案内しなさいと。
先生とは、生徒達を照らす道標でありお手本であるべきなのだ!】

(またこれか……! 1人でやるしかないんだ……ぁ!!)
それは切実だった。
(君達にはわからないんだ……! なぜ僕達を助けてくれないのか……!? 傷つくのが、痛いのが、体だけじゃない、いつだって心なんだ……)
助けを求めど、助けはこない……。
反抗したって駄目だろう。虐めはなくならない。時に激しくエスカレートすることだってあるからだ……ッッ


図書室。
ここである少女の元に、現在スバルが置かれている状況が耳に入ってきた。
「またスバル君がッ!?」
それは読書中のアユミちゃんだった。
聞くや否や駆け出し、ドア付近で一度立ち止まり、自分の元に報せにきてくれた友人の女子生徒にこう言う。
「先生と巡回ロボットに報せて!! 私は先に行くから!!」
「OK! わかった!」
どこへというまでもなかった。その少女の足が向かう先は、1つしかないのだから。

【後日、虐めがエスカレートするケースは致し方ない。
先ず何より大事なのは、環境を整えてあげることだ!
それにより、被害者側の中には、時にスバルのように自立しようという変化が現れるのだから……もちろんこれは稀なケースだ!】

虐めっ子の手が伸びる。
虐める側は、被害者の気持ちを考えたことがない、それは自分に痛みが伴わないからだ。
周りに自分と同じ共犯者がいるために、自分が、自分達が、正しいと誤った正統性に浸っているからだ。
あるいは平和な世の中に刺激を求め、ストレスの発散の為、いつも弱い者を虐げている悪癖に他ならない。
迫る虐めっ子の魔の手から、スバルは反射的に避ける。
だが、こうなるのはわかっていた。もう片方の手で掴もうとす。
条件反射でスバルは後ろに飛び退いて、着地と同時に踏み込み、突進を仕掛ける。
「!」
だがこれは、今までの戦闘経験からあるうち1つ。
虐めっ子は、慌てずそれを受け止め、力づくで押し倒そうとする。
だが、ここである機転が生まれる。
スバルは、用を足すところの鉄パイプを掴み、そうはさせじとする。
これには相手も虚をつかれた。
何より、勢いに任せた押し倒しが上手くいかず、代わりにその身が横に流れる、それがスバルの狙い目だった。
相手との間に生まれた僅かな空間、僕はそのままガンッと蹴っ飛ばす。
蹴り飛ばされた悪ガキは、そのまま用を足すところと便座とを隔てるドアに、体ごと打ちつけられた。
「こっこのやろッ!!」
やりやがったな怒りたつ悪ガキ。

【反省を知らない我が子を持つご両親の気持ちを少しでも考えたことがあるだろうか……。
そのご両親の気持ちに気づかない子供が行き着く先とは何か!? それはいつか訪れる悲惨な結末に他ならない……。
犯罪、家庭裁判所、そして少年刑務所送り。
いつか、そう言った少年達は過ちを繰り返していき、度を越えた行いは時に身を亡ぼす……】
【私はこう言いたい。どこかで誰かが今日この日のことを教訓させ反省させなければならないと。やった後では、全てが取り返しがつかいないのだから――……】

日々の怒りが溜まり、怒鳴るスバル。
「いい加減にしろよこのクソヤローッ!! 毎日毎日ッ!!」
もう1人の悪ガキの手が、背後から迫る。
すかさずしゃがむスバル。わかってるんだよッお前たちの行動パターンはッッ。
襲い掛かろうとした男子の目には、いきなりスバルが消えたように見えた。
(いっいない!?)
スバルのそれは、虐め生活の中で耐え抜くために養われたもので、かつ優れた危機感知能力を持つ者の賜物だ。
これにはいきなり反応してのけたスバルの動きに驚き、思わず下を見る悪ガキ。
それはフェイントだった。
(どっどこへ!?)
――トッ
そんなトイレの壁を蹴る音がした。
何だと顔を振り向ける。その時には黒い影が悪ガキの頭上を通り過ぎていった。
黒い影の正体はスバルだ。スバルがトイレの壁を蹴って、その襲い掛かろうとした悪ガキの背後へ移動してのけたのだ。
(僕の長所は、逃げ足の速さだ!! 喰らえッ!!)
とそのまま、掌を合わせて二本の人差し指を立てた攻撃。その名もカンチョ―で急襲する。
ブスッとズボンの上から正確にお尻の穴を指され、痛みのあまり飛び上がる悪ガキ。
「イデェ――!!!」
とそんな悲鳴が、トイレの中から響き、トイレの前にいたもう1人の仲間に伝わった。
「何だ!? あんな奴に押されているのか!?」
とそこへ走ってくる足音が。
その人物に顔を向けた時には遅かった。
「邪魔!!!」
――チコン
まさかの出会いがしらの急所攻撃が炸裂。
これには大事なところを蹴られた少年は、あそこを抑え、悶絶した
「オオオオオ!!! そこは反則……ッッ」
「フンッ」
だが周りには、まだ共犯者がいた。
「邪魔よ」
「邪魔なのはお前だ!! あんな軟弱な奴、見捨ててしまえばいいだろ!!」
「どうせ社会に出ても、あんな奴どこにも必要されないとわかるだろ!?」
「弱い人の気持ちがわかるのは、同じ人だけよ!! そーゆう施設だってあるわよ!!」
これには悶絶中の仲間がすぐに置きあがり、その少女に掴みかかって押し倒した。
「キャ!!」
「んなもん無駄だ!! お前もあんな奴に付いていくなら、現実を思い知ることになるんだぞッ!!」
「そうだそうだ!」
「あいつは1人だけ除け者にすべきなんだ!!」
「それだけじゃ、絶対に身を亡ぼすってわかるでしょうがッッ!!」
これにはあたしも食ってかかる。
「他に手なんてないだろうか!!」
「なければ創るわよ!!! あんた達みたいな人達を認めさせる方法を!!!」
とそんな言い合いが男子トイレ前で行われていた。
そんな時スバルは、集団虐めにあう手前だった。そこからは、もう一方的だ。
僕は割って入ってきた悪ガキの1人に殴られた。
背中から羽交い絞めにされて、もうどうにもならない。いいように殴られ、蹴られる、まるでサンドバッグ状態だ。
僕はリンチに遭う中でこう思った。
(なぜ、誰も助けてくれない。なぜ、こんな世の中になったんだ)
さらに殴られる。
(なぜ僕は、生を受けたんだ……?!)
その時、ようやくこの諍いを納める者達が現れた。
「お前達またか!! いい加減に止めろ!!」
『出席番号3番4番、7番9番、11番12番13番、後で職員室に来なさい』
ここでようやく担任の先生と巡回ロボットの到着により、虐めは終わった……。
その日7名の生徒達は、職員室に呼び出され厳重注意を受けた。のだが……。
(納得できない……覚えてろよ……)
虐めの連鎖はなくならない。
その悔しい気持ちを表すように、生徒達の拳は力強く震えていた。


――その帰り道。
僕はあの後、アユミちゃんに連れられ保健室へ行った。
保健室の先生に手当てをしてもらい。怪我をした部位に消毒と傷が早く治る傷薬スプレーをかけてもらった。
その後、アユミちゃんと帰宅中での話し。
「痛てて……」
まだやられたところが痛む、僕はそこを手で抑える。
「あいつらつるんで来やがって……!! 1人で来いってッ」
「学習しないわねぇ……スバル君は……」
億劫そうに言うアユミちゃん。その顔はやれやれといった感じで、悲観めいていた。
「……何で黙ってやられないの? 3対1なら絶対に負けるってわかってるのに……」
なぜ? そんな言葉が幻聴した気がした。僕は黙って頷く。
「……」
「歯向かうだなんて無駄な労力だよ。時間の無駄遣い。社会に出た時、あいつ等絶対苦労するんだから!
だからスバル君は、今のうちに勉学に励めば? そうしたら、あいつ等より上の地位に就いて見返せばいいんだよ」
「……」
「ハァ……まぁその為には、いい大学なり大学院を出て、免許や資格取得が肝心なんだけどね!
資格は知ってる!? 資格の中には、誰でも受講ができるものがあって、小中学校時代に取得している子供達がいるぐらいなんだから!
大人になるための、ううん、上の職場に就くための必須ツールなんだよ!!」
「……」
資格? 必須ツール? 僕はこの時、何の事だかさっぱりわからなかった。
ただこれだけはわかる、就職氷河期と言われる昨今、そういったものが必要なんだろうと思う。
「時間と労力の無駄遣い。こっちから騒ぎ立てなければ、向こうからちょっかいを出さなくなるよ。
時間さえかければ……向こうの興味も失せるって! こいつに関わるだけ、時間無駄だと……そう思わせたもん勝ちだよ!」
「……」
「スバル君」
「……」
歩む速度は同じ、ただその者に決心を促し、行動力足る時間を動かすには日数がかかる。
僕達の歩む時間は同じ。決断力のある彼女と決断力の乏しい僕とでは、進む道が違うのかもしれない。
だから僕は、それをなんとなく形として吐露した。
「……1人の時、考えられるだけ考えた」
「……」
足が止まる。
アユミちゃんの顔がこの時、僕に向けられた。
「虐めはなくならないよ……きっと。それは世界の時間が証明している。今も昔も未来も、ずっとずっと……」
「……」
アユミちゃんは僕の話を聞いてくれる。それは深い、哲学的めいたものだ。
「だから、孤独なりに意志表示……!」
僕は顔を上げた。
「自分がここにいるって、殴って蹴って、相手に伝えて……」
「……」
「う~ん……」
「……言葉が続かない?」
スバル君の言葉を、あたしなりに補足する。
「……うん……」
「要はスバル君は、自分がこの世界にいるんだぞって事を、周りに伝えたいんだよ……きっと」
俯いて答えたスバル君。
あたしはその代弁者となる。それはきっと、こうなんだろうと勘繰ったからだ。多分、きっと、これが当たり。
自然、僕の足が止まる。それは何か得心めいたものだったから。
どうしたんだろうとあたしの足も止まる。きっと当たったんだろう。
あたしは話を続ける。
「だからスバル君は、これからもずっと意思表示を続けよう」
アユミちゃんは最高の笑みを咲かせた。
「……」
「……」
感慨深くなるあたしとスバル君。
「時間、世界の歴史を紐解いても、いったいどれだけの年月が経っても、この輪廻の輪は途切れない」
「クルクル回る……」
「うん……」
そう、それは時間と世界の歴史が物語っている。
スバル君の一言で、あたしは頷いて答えた。
あたしは顔を上げて、青空に流れる白い雲を見上げる。
スバル君もそれに習って、顔を上げる。
(青い空、白い雲。アユミちゃんが空なら、僕は雲なんだろうな~~)
と思う。
それは「フッ」と僕の口からついて出た。
「アユミちゃんは青空のようだ。……なら僕は、雲なんだろう」
「雲か……いろいろな種類と色があっていいね。だったらあたしは、あなたが怪我したら手当てするし、困っているなら手を差し伸べるよ。
だから色んな可能性を見せて、スバル君だけの可能性を……!!」
あたしは一度目を伏せて、次の言葉に繋げる。
「だからきっとスバル君は、いつか絶対、この世界の誰かに、認められる日が来るよ!」
あたしははにかんだ笑顔を浮かべ、背中に手を回し組み、体を正面に向けて、こう言う。
「だからそのために、今できることは全部しなきゃ!」
と。
「……だから――」
「あっ……」
僕はこの時なんとなく、なんとなくなんだけど次の言葉がわかってしまう。
「いっぱい学ばなきゃね! 今日もみっちりしごくからね! 『知的障害者』くん!」
「うあ~やっぱり~~ィ!!」
青空の下、僕の悲鳴が響いた。
その日、僕は、勉学の鬼アユミちゃんによる徹底指導を受けた。お、鬼……

【知的障害者は、比較的グレーゾーンである!
健常者と障害者達の境目にあり、かの有名なアインシュタイン氏などの著名人も、かっては変人だったと逸話がある。
有名どころの逸話は、やはりニュートンだろうか】
【彼は、外のリンゴが落ちる様をたまたま目撃し、それを妙に思った。『なぜリンゴは木から落ちるのか……』と。
それは私達からみれば他愛もない話だ。だが、彼の着眼点はそこではなく、知りたいという欲求からくるものだった。
彼は後日、とんでもない奇行を冒してしまう。
それは高いところから、机やベットといった家財道具を放り投げるという奇抜な実験を行った。
彼なりの実験と考察の結果、行き着いたのは重さに比例しない、落ちる速度は全て一定という法則……そう、『万有引力の発見』だった】

――そして、スバル宅にて。
勉学の鬼アユミちゃんの徹底指導を受けている中、偶然アユミちゃんの口から、この言葉が漏れた。
「もしかしたらスバル君も、いつか自分の得意分野を見つけて、開拓できる……かも」
「――!」
僕はその言葉を聞き、振り向く。
「あたしはそう信じてるよ……だから、自分の好きなことを見つけていこっ!」
「アユミちゃん……」
「そのイチゴエクレアもらっていい? 好物なんだけど!」
「……アユミ、さん……」
アユミちゃんはいい笑顔を浮かべ、そんな要求をしてきた。これには僕もグウの音もでない。
渋々僕は自分の取り分だったイチゴエクレアを、アユミちゃんに取られたのだった。心の中でシクシクと。
「あむっ……う~んおいひぃ」
アユミちゃんはこの日一番、満足気だった。
(雲は絶対、空には勝てないな……)
僕は「ハァ……」と嘆息した。
そう、まさにアユミちゃんは僕にとって空だった。


★彡
――Lの昔日
それは屋外訓練場で行われていた。
レグルスが兵士の1人を相手取り、稽古をつけている。
周りには幾人もの兵士、エナジーア生命体、人型、爬虫類人型、獣人、鉱物生命体などが、その一部始終を見て、その技術を盗もうとしている。
そして、L(僕)は、アンドロメダ王女のお付きとして、共にその光景を見ていた。
兵士が果敢に攻めかかるも、レグルスは重心を一歩分ずらし、その攻撃を難なく避ける。
相手の攻撃は空振りに終わる。それはもう達人の域だ。
相手はしまったと虚をつかれ、それが顔に出ていた。
その隙をつき、手刀をその首めがけて振り下ろす。
「――」
決まれば一撃必殺、試合終了である。
だが、相手は手慣れた者で。身を回転させ、その急所をずらした。
炸裂。
だが、決定打には至らない。これには「ムッ」と顔を歪めるレグルス。やりよる。
L(僕)はその光景を見て(やるなー……)と感慨深くなった。
相手の体はまだ宙にある。それは一時的なスローモーションに似ている。
一時の浮遊感……。
すかさず膝蹴りが炸裂。
(えええ!! あの一瞬で追撃ができるのッッ!?)
これには僕も面くらってしまう。
それは回転が弱まった相手に対しての追撃だ。しかもその部位は、人体急所の1つ、脇腹の下だった。
そこを蹴られ、対戦相手は肺から呼気が漏れる。
「ガッ」
そこへ畳みかけるように、相手の頭を掴み――そのまま地面に押し付けた。
ドンッ、と音と共に、それが勝敗を決める決定打となった。
(すっ……すごい!)

「勝負あり! そこまで!」

それを見た僕は。あの人には正直勝てないと思った。
対戦相手を押さえたまま見下すレグルス。
やられた相手は「クソ―ッ」と悔しそうに顔を歪めた。
その一部始終を見ていた僕達は。
「……すごい……まさに電光石火……!」
「……」
「なんて反応速度なんだ」
「……」
姫姉も僕の隣でその光景を見聞きしていた。
レグルスが、その負けた兵士に優しく手を差し伸べ、立ち上がらせる。
それが先達として役割であり、責務なんだ。な、なんだかカッコいいな。
「レグルスはあー見えて優しい……」
「?」
意外だった。姫姉の口からそんな言葉が出るなんて。
「隊長格としての風格も備わりつつある……。いずれはあれも渡せるやも……しれん……」
「?」
僕はこの時まだ知る由もなかった。
後日、レグルスはレグルス隊長と呼ばれるようになる。
姫姉はチラッとどこかを見た。
「あれの叙任式後……レグルスの隊長格承認昇格式典、先達から後任の隊長に『例のモノ』を代々受け継がせる古き習わし……」
その声は、悠久の音のように尊い。

後になって知る事だが、それは『エナジーア変換携帯端末』のことだった。

「顔つきも変わった……」
レグルスは打ち負かした兵士に助言を与えていた。それはより強くなるために必要なことであり、姫を、王族を護る者としての当然の務めだ。
この頃から、次期隊長格としての器もできあがりつつあった。
「以前は荒んでいたが……その憂いもあるまい」
「? ……何があったの?」
僕はそのことについて触れてしまう。
姫姉は僕に尋ねられ、これが必要なことだと知ってもらうために、あえて伏せていた情報を話した。
「……汚れ仕事だ」
「?」
「レグルスは暗殺部隊……そこの出だ!」
信じられない、あの人が。
レグルスは対戦相手に優しく声をかけ、周りからの評判も良さそうだった。
姫姉のまさかの説明が続く。
「こんな世の中だ。それは必要なことだった」
姫姉は険しい顔で、晴天を見上げる。
ここアンドロメダ星の空の色は、赤い。
「国を民を護るために、個を犠牲する悪習……。あいつはその被害者だった」
「……」
なんか重そうな話だ。
「いや――……それは代々血縁関係由縁かもしれん……な」
それは血の重みというやつだ。
「我等王家の過失……。国民からの期待、圧力……。それに報いろうとした時期…………。いや、よそう、この話は……」
「……」
この重そうな話は、途中で切り上げられた。
「いつの日か、楽をさせたいやりたいものだ。それこそ自由に……」
「自由……」
姫姉は「うむ」とだけ頷いた。それは優しさを帯び、哀愁を感じさせた。僕はなぜか、そう思ってしまう。
(……いつかはお前も……)
わらわはこの時、Lを見い。その視線に気づいたLから、「……なに?」と尋ねられてしまう。
(いかんいかん、視線に気づかれたか)
だが、この時わらわはなぜだか、「フッ」と鼻で笑ってしまう。
(何を言っているのだわらわは、そんな事は無理な話だろうに……! いかんな、平和ボケしてしまう。気を引き締めなければ!)
「!」
わらわは突然思いたち、腰かけていた石畳から立ち上がる。
「L、よく見ておけ」
「?」
「人に教えを諭すものは、大別して2種類あるのじゃ!
わざと力を拮抗させ、成長を促すもの、導くもの!
あやつの場合は、不測の事態に備え、危機意識を持ち、立ち向かわせるものじゃろう。
時にそれは厳しくも見える……!
奴の戦い方、締めの技、抵の場合……『二撃必殺』!
一撃目で相手に注意を誘導させ、二撃目で仕留めるものだ!
これを体得すれば、野外においても狩猟の応用が利く!
戦場においても、多数の相手でも隙が生じにくい!」
「……」
わらわはこの時、もしもに備えLにも主観的にわかりやすく諭そうとしていた。
それが万が一に備えての準備だ。
わらわはLにそれだけ伝え、ゆるりとレグルスの元へ移動する。
足で歩く必要がないので、宙を浮遊する。
みんなの視線がわらわに集まる中。
わらわはレグルスに対してこう言い放った。
「……レグルス、次はわらわと一戦やらんか?」
「!」
これには周りの兵士達も驚く。
仕方がなかろう、これもLのためだ。もといわらわのためでもある。自衛の意味も兼ねて。
「最近公務でなまっててな……こう体を動かしたいのよ」
わらわは「う~ん」体を伸ばす。ホントに体がなまってる、いかんなこれは、体をほぐさなければ。
「少し手を貸してくれぬか」
「……」
これにはさしものレグルスも迷う。う~んと、だが……。
「……もちろん宜しいですよ!」
思いがけない返事が返ってきた。
「みんなも見学するとより良い刺激、励みになりますからね!」
さすがレグルスだ、期待に添えている。
いいぞいいぞ。それでこそ次期隊長格としての風格よ。
レグルスは快くわらわの申し出を快諾してくれた。


――今から、模擬戦が行われることになった。
多くの兵士達が集まる中、単なるアンドロメダ姫の余興だろうという認識があった。
レグルスの就任式もいつかはある、その節目として行われるものだろう、それが多くの兵士達の考えだ。
だが、本質は違う、これはLのためだ。備えについての準備だ、万が一に備えてのもの。
そして、すぐに思い知ることになる。誰が最強かを。
その戦いの一部始終を目撃することになる僕達は。
(あ……これは参考にならない……)
「ワーッ」
「ギャーッ」
ドーン
「ひ、非難しろーっ!!」
「ヒィーッ」
ピカッ、ドーン
「姫様のご乱心ご乱心!!」
「あぁ……また城の修繕費が……ッッ」
「あははは! どうしたどうした!?」
「ちょっちょっと待って下さい!! あぁ……!」
喜々として姫姉は笑っていた。
これにはレグルスも足がすくむ。2人の力量差は明らかだ。
いや、姫姉に万が一にも怪我を負わせていけないから、レグルスには圧倒的なハンデーがある。
(姫姉とは、喧嘩しない方がいいかも……)
うん、僕はこの日、強くそう誓った。
それは目撃した人にしかわからない珍事。
阿鼻叫喚の声、兵士達の泣き叫ぶ声。誰かの悲鳴。
舞う火炎、黒煙、壊れる城の城壁。
爆発に飛ばされ舞い散る野花、トドメに落雷。
僕はこの日、姫姉とは戦いたくないと、心底改めて強くそう思った。
そして、ボロボロに打ち負かされたレグルスは……。
「グッ……」
(しまった……姫様は手加減が下手……だ……)
そのままレグルスは、意識を失った。
これにはまさかという思いで、わらわは今、どんな面をしてるのだろう。
とその時、城の外壁が音を立てて大きく崩れ、モゥモウゥと土煙が舞い上がった。
「あ、あれ……」
わらわはこの時、何ともいえない顔つきであったとか……。


☆彡
彩雲の騎士は、右手にエナジーアを蓄力させつつ、左手でエナジーア弾を連発した。
だが、この時、彩雲の騎士は気づけなかった。
常に自分の足を護っていたバリアが消失していた事実に。
それはエナジーアが底を尽こうとしていた。
(――ああ、十分に楽しめたよL)
それは俺も気づいていた。
だから、俺は弓なりにのけぞり、後方の斜め下にワザと急降下した。
当然、俺がいたところにエナジーア弾が素通りしていった。
(L、お前にも言ったことがあるよな!? 待ち構えて、受け答えするだけが業じゃないと……!)
「「何っ!? クソッ待って!!」」
僕達はその後を追う。
中空でクルリと回り地面に着地するかと思いきや。中空の大気の層をエナジーアで固めて勢いよく躍り出た。
これには彩雲の騎士も、タイミングが狂う。
「「!」」
俺は斜め上から迫ってくる彩雲の騎士を見上げた。
ここで、俺はワザと炎上爪を1発撃った。
これを、彩雲の騎士はかろうじで避けた。だが、その姿勢制御は……。
(姿勢制御が不十分になったぞL!!)
(しまったこれはまさか……)
(誘いだ(か)!!)
クソッ、僕はどうすることもできず、拳を突き出した。
俺はこれを長年の経験と勘で躱し、カウンターを当てに行く。
迫る、勝敗を決する一撃。

――この瞬間、彩雲の騎士は身をねじって、必殺のカウンターを外した。
(なっなにぃ!?)
これには災禍の獣士も対応が間に合わない。
((い、今だぁ!!))
と反撃に転じようとす彩雲の騎士。だが――
――ドンッ
と何者かの不意打ちを受け、彩雲の騎士はのけぞった。
「「カッ……」」
それは炎の球だった。
いったいどこから、いったい何者が。
僕達はよろける間際、撃たれた直線状を目で追った。
それは離れた位置からの奇襲、撃ってきたのは炎の獣だった。
そう、災禍の獣士の分身ともいえるものだった。
(しまった……2匹の『獅子隷属』のことを忘れてた……)
(まさか……こんな奇襲を……)
そんな、ダメだ、こんな終わり方……。
「……残念だ」
ドンッとトドメの炎上爪をモロにくらい、天高く舞い上がり、落ちていく途中大木に当たり、倒れ伏した。
そして、エナジーア変換がパァアアアと解け、二人に分離した。
この日2人は、初戦で負けたのだ……。

――だが、意識だけはまだ手放していなかった。
(負けられない……んだ、動けよ体……)
スバル(僕)は、悔し涙を流しながら、動けないこの体を呪った。
(そんな……こんなところで……まだ、まだ僕は何も示していない……姫姉……ッ)
L(僕)も、こんな結末を呪った。
――ザッザッ
(奴が来る)
(動いてよ僕の体、もう一度、もう一度……!!)
――ザッ……
「……」
「……」
「そのまま地に伏しているだけか。L……」
俺は声をかけた。
(俺はお前の在り方に期待していた。だが――……)
「――なら、俺は1人でも立ち上がり、歩み続ける! 俺はお前のように、役不足にはならない、決して……!! あの伝説を超えるために……!」
「……」
(……伝説……?)
それはスバルが知らない宇宙史に残る逸話、伝説であった。
「俺が、ツナガリを超えよう! 俺にはその力と役割と大義がある!!」
ツナガリの伝説。それは遠く離れたアンドロメダ星にも伝ってる童話だった。
「……」
「……」
L(僕)は、あの実話が大好きだ。
だから、災禍の獣士(俺)は、あえてこの話をした。

【――漢は多くを語らず、背を向け歩き出した】

その後ろで、微力ながらスバルの指が動いた。それは悔しながらももがく姿だ。
(立てっ立つんだスバルッッ!! 今立たなっきゃ一生後悔するぞ!!)
その目には、まだ戦意の光が宿っていた。

【漢は振り返らず、言の葉だけを残す】

「人はいつの日か、決断に迫られる時が必ずやってくる……!!
それが生か死か、いつの世も人が! 天が決める! なら、私は動こう! そして記していこう!
人の世を護り、民を、世界を、私を育ててくれたものに対し少しでも、報いるために……ッッ!!」

【漢は禍根を残した――……】

少年は、それを危うい存在だと感じ、敵意を向けていた
地に伏していられない。早く立てッッ。
念じども、その体は正直でとても立ち上がることができない。クックソゥ……

野イチゴがチリチリと焼けていた。
俺はその横を通っていった。
野イチゴがチリチリと焼け、ボトリとその場に落ちた……。
辺りに香ばしい香りが漂う。

「お前はよくやったよ。」

【それは敵へのせめてもの謝辞だ】

(くそ……ぅ、アユ……ミ……)
段々と迫ってくる猛烈な眠気。僕は打ち勝てず、睡魔に負けた。
(ダメだ、体が寒い、僕は死ぬのか……)
スバルの体からは、人の生きたいという赤い血潮が流れ出ていた……。
僕の意識は、そこで途切れた……。
「…………」
――が、天は2人を見放さなかった。
それは、幸か不幸かあの炎上爪をもろに受け、大木に当たったことが起因している。
その衝撃で大木の木々が小刻みに動き、そこから何かが落ちてきたのだ。
――ガサッ、ガササッ、ドサッ……


TO BE CONTINUD…

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