バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

第1章の5話 恵けい

――そのままスクールバスは真空管トンネルを走っていき、急カープを曲がり切れず正面突破した際、壁を破壊し、宙を飛んだ。
車内にひと時の浮遊感が訪れる。
そして、ドドーンと旧高速道路に落ちていくのだった。
車体の前面からアスファルト道路に打ちつけられ、フロントガラスがガシャンと割れる。
そして、そのまま上下逆さまに車体は倒れるのだった。
大型タイヤを繋ぐタイヤの軸(シャフト)が歪み、カタカタと鳴っていた……。
しかも未だに、
――ドドドドドドドドドドッ
と首都直下型地震が続いていた。
「ううっ……」
「誰か……」
とスクールバスから呻き声が聞こえる。シートベルトしていたみんなは無事だった。
女子の長い髪が垂れ、揺れているのは地震の証左であり、スクールバスが上下逆さまに倒れている証拠だ。
そして、席と席の相中から2人がドサッ……と落ちた。大変変わった姿勢で。
「うっ……」
「あう……」
良かった。2人とも無事だ。問題はこの後だ、この変わった姿勢でどうなるかだ。
なおも地震は続く。
――ドドドドドドドドドドッ
「……うぅ――ん……」
皆の意識が鮮明に回復していく。ぼんやりとした視界からはっきりとした視界へと。
「ううん……皆、無事か……」
「あいたた……」
「なんとか……」
と口々からなんとか無事の声が上がる。
「ここは……そうか……バスが脱線して、旧高速道路に落ちたのか……。
はぁ……車体が上下逆さまだな……よくみんな無事なもんだ。
にしても、すごい地鳴りだな……」
先生は上を向いて、スクールバスの天井部(今は床も同然)を見た。
天井部はボコボコに波打ち、照明なんかが壊れていた。
窓ガラスも割れたのか、辺りにガラス片が散乱していた。大変危ない状態だ。

とその時、地震の勢いは段々と弱まっていた……。

「……収まったか……」
「……」
辺りはシ――ンとしていた。この静寂さが逆に怖い。
「みんな――!! シートベルトを外すときは気をつけろ――!! ケガするぞ――!!」
「は、は――い!!」
と先生は一番にシートベルトに手をかけて、天井(今は床も同然)に手をついて、寝転がり着地するのだった。
同様に幾人かの運動神経にいい子供達も、それにならって着地を決めていく。
ジャリジャリとガラス片の上を歩いていく足。
(何で俺達は生きてるんだ……!? あれだけの大事故を起こしていながら、なぜ……!?)
「うっ……頭が割れるように痛い……」
その時、「ううっ……」と誰かの呻き声が上がる。
「副担任の先生」
それは副担任の先生(女の人)だった。
「頭が……割れるように痛い……痛いです」
「そういえば俺も、なぜ……」
先生はその場でうずくまった。
「はぁ……はぁ……」
と呼気が漏れる。頭が割れるように痛い。痛かった。

【――その原因は、頭の中に埋めていた『チップ』が原因だった。
この時代の大人達、特に教師等は生徒の前で抗議する手前、安易にAIナビと意思疎通をしてはならなかった。
その為、頭の中に『チップ』を埋め込み、電子信号で意思疎通を行っていたのだった】

――だが、ここにきてその弊害が起きた。
全ての電子機器が逝ってしまった以上、その『チップ』も故障し、脳内炎症を引きつけていたのだ。
これは、ほとんどの大人達がそうである。
安易に最先端技術を取り入れたツケが回ってきたのだった。
「頭が割れるように痛い……」
「ッッ……生徒全員の安否を確かめないと……!」
副担任の先生は頭の痛みを訴えて、その場を動けそうになかった。
私も同様に痛いが、生徒達の安否を確かめるまで、倒れるわけにはいかなかった。
そして、私はジャリジャリとガラス片の上を踏みしめて歩いていく。
その先に、人だかりができていた。
(何だいったい?)
私はそれを見た。

「こっ……これは……!」

それはスバル君とアユミちゃんの2人が、奇抜で大変変わった姿勢で交わっていたのだ。
スバル君がアユミちゃんのスカートの中に顔から突っ込み。
その手をアユミちゃんの腰回りに回していた。
スバル君からは、今日アユミちゃんが履いているパンツの色が丸わかりだろう。
そしてアユミちゃんは、スバル君の股の相中に顔から突っ込んでいた。いや、挟まっていると表現すべきだろうか。
その手はまるで離さないぞとばかりに、スバル君の足を掴んでいた。片足を両手で掴む様相だったが。
「……」
それを見てて、言葉を失う先生。
だが、生徒達は別だ。
「うわぁ」
「マジィ」
「いったいここで、何があったんだ……!?」
皆がここで疑問に思い、首を傾げたその時。
「うぅ……ん」と呻き声が聞こえた。それはスバル君のものだった。
「うぅ……」
「スバル君無事か!?」
「先生、ここ……はあ!?」
皆はここで押し黙った。押し黙るしかなかった。
スバル君は無事(?)今日のアユミちゃんのパンツの色が丸わかりだったのだから。
「……ププッ」
「クスクス」
「あらいやだ~~」
「スバル君、そのままそっと抜け出せないのか?」
「いやちょっと……」
この時、僕はすっっっごい焦った。
僕とアユミちゃんは大変変わった姿勢で身が絡まり、抜け出せないのだ。
しかも加えて、今日のアユミちゃんのパンツの色を見てしまい。
皆からは笑われて、羞恥心にかられてしまう。正直、すっっっごく恥ずかしい思いをした。
とその時だった。「うぅ……」と可愛らしい呻き声が聞こえてきたのは。それはアユミちゃんのものだった。
目を覚ますアユミちゃん。
アユミちゃんが見たものは、僕の股の相中から見える視界だった。そんな変な所見ないで~~。
「うん……あ……な……なな……」
段々とぼんやりとした視界からはっきりとした視界に変わっていき、ここがどーゆうところなのか分かった。
まさかこんなところに絡まるだなんて、人生最悪な気分だわ。
「あははは」
「起きた起きた!」
「ヒューヒュー!」
「なっ……なっ……!」
起きたアユミちゃんは一目散に暴れた暴れた。
無理にでも起きようとしたのだ。
でも僕達は変に絡まっていて。
「痛てて!!」
「痛い痛い!!」
アユミちゃんが激しく暴れる度に、変に絡まっているのだから、体の変な箇所に痛みが走った。
「もう!! 何でこんなことになってんのよ!!」
とアユミちゃんが身を起こした際に、お尻の方に回していた手が外れ、
それがアユミちゃんの豊胸をワシッと掴んだ。その弾みで「へひゃん」と可愛らしい悲鳴を上げた。
「まぁ可愛らしい娘だこと」と顔に手を触れて、周りの女子生徒達も「へひゃん」と真似をした。
その「へひゃん」がスクールバスから漏れ、
半壊した「真空管トンネル」まで響いたのであった……。


☆彡
【旧高速道路】
――その後、語るまでもなく2人は離れ、アユミちゃんからいいものをもらったスバル(僕)は、とぼとぼと歩いていた。
その頬には、アユミちゃんからのいいもの(ビンタ)の跡が赤々とあった。
今スバル達は、荒れた旧・高速道路を歩いていた。
なお、スバルはアユミちゃんの荷物持ちである。
辺りの道路は、空から落ちてきた空を飛ぶ車の残骸があり、火の手が上がっていた。
さらに道路上には、ガラス片が散乱し。なおかつボコボコとアスファルトが隆起していた。
路面は最悪であった。
僕達はそんな険しい道を歩いていく。
「はぁ……せっかく助けたのに」
「何よ! こっちは荷物持ちで許してやるんだから、逆に感謝しなさいよね!!」
と会話を交わす僕とアユミちゃん。アユミちゃんは物凄いお怒りだった。
と横から女子生徒がアユミちゃんに話かけてきた。
その女子生徒は、スクールバスの時、隣の席にいた女子生徒の1人だ。
「そう言えばアユミちゃんって、何カップ? 結構あたし達の中でも大きいよねー!」
「そうそう。気になるー!」
「フフン~! DよD! ダイナマイトボディのD!」
とアユミちゃんはその髪を振り払って、Dカップと勝ち誇る。自慢げだ。
Dカップか。僕は彼女のいい情報を得た。
「D……羨まし~ぃ」
自分にないものを妬む女子生徒。
「えへへ、いいでしょ。とほら荷物持ち! さっさと来なさい! 遅れるわよ!」
「はっはい! でもこれ……いったい何が入ってるの!?」
そうだ。このアユミちゃんの荷物は、僕の荷物より断然重かった。
僕はそれを疑問に思うばかりだ。
「そんなの乙女の秘密よ!」
そう、乙女の秘密なのだ。
僕はその場で、愕然とした。
(あぁ……今日の太陽はなんて高いんだろう)
と僕は太陽を見上げながら、そんな詩人めいた言葉を残したのであった……。
――だが、その時、気になるものが目に入って。
「あれは……何だ……」
僕は顔を上げた。
そこに見えたのは、オーロラ大厄災と真珠母雲だった。
「ん……どうしたのよスバル君? ……何を見上げて……」
あたしが見たものは、オーロラの大きく揺らめくカーテンと綺麗な雲だった。
「うわぁ綺麗、うっとり~~。ねえ、リス」
返事は帰ってこない。
「ん……リス。ねえ、リスってば!! ねえ!!
……どうしよう、腕時計型携帯端末……壊れてる」
それはアユミちゃんだけじゃなく、ここにいる人全員だった。


☆彡
――僕達は旧・高速道路を降り、街中に入っていた。
そこで見たものは……。
河川敷であって、その川は増水し、山の方から大きな木や小枝、石が流れてきたのか川の水をせき止め、溢れていた。
今人々は協力して、土嚢を積み上げていた。
だが、この川の流れは急流で、いつ地震が起こり、人々が巻き込まれるのかわからない危険性を含んでいた。
「これは……すごい……」
それは先生が呟いた言葉だった。
「何これ……」
「あれは土嚢を積み上げているんだ」
「土嚢……?」
聞いた事もない言葉だった。
「土嚢とは、塞き止め石みたいなもので。
その正体は、布の中に石や砂利、砂を土を含んだものだ。
川の水が溢れ、中の物が濡れると重くなり、塞き止め石の代わりになるんだぞ!」
「ふ~ん」
「案外簡単な作り方なんですね」
と生徒達は口々に言った。
だがこの時、先生は頭を抱え、辛そうにしていた。
それは副担任の先生も同じだった。
「って先生! ホントに大丈夫ですか!?」
「あぁ、頭が痛い程度だ」
この時、先生も副担任の先生もホントに辛そうにしていて、顔は熱ぽく、額に手を置いていた。大丈夫なわけがなかった。
「早く、宿のある所にいかない――と」
――とその時、大地震が襲った。
ドドドドドッと大地が上下に激しく揺れる。
それは立っていられないほどの大揺れで、積み上げていた土嚢がボトボトと落ちていく。
さらに山の方から、ドザァアアアアアと物凄い音を立てて、濁流が迫ってきていた。
このままじゃ河川敷にいる人達が危ない。
「危ない!! このままじゃ下にいる人達が!!」
「すぐに行って、伝えてきます!!」
「馬鹿行くなッッ!!」
と先生の忠告も聞かず、数人の生徒達が飛び出していった。
生徒達は河川敷にいる人達に急いでこの事を伝え、この地震の中、河川敷の上の方まで上がってくる。
だが、この大揺れだ。
うまく立っていられず、下にいたまだ小さな子供達やご年配の方々が取り残されていた。
その時、現場に濁流が迫り、土嚢と幾人かの人達を飲み込んでいったのだった。
――ドザァアアアアア
「危ない!!」
「キャッ!!」
「見ていられない!!」
私達は目を背けた。
上に上がっていた私達とここの人達は無事だった。
だが、下にいた人達は……。
私達は、むざむざと自然の驚異を見せられたのだった。


☆彡
――その後、私達は有力な情報を掴んだ。
「あんた等、そんな遠い所からわざわざ来たのかい!?」
「はい、修学旅行で」
「修学旅行で……それは災難だぁ……」
私達の身なりは、もうボロボロだった。
もう足が棒みたいに痛くて、もう下手に歩けない。
「う~んこの大異変のせいで、この辺の宿はみ~んな閉店だぁ」
「そ……そんな、ここまできて……」
生徒達から、「あぁ……」と絶望の声が上がった。
「あっいや待てよ。そう言えば恵さんのところのホテルが……」
「恵さん……?」
「んだ! そう言えば恵さんの所のホテルが空いてただ! 何でも、長崎学院の生徒達の詰め所に急遽なったんだと……!」
「長崎学院……!!」
何て事だ。
あのフードコートエリアで会った長崎学院の生徒達が、その恵さんのところのホテルに厄介になったそうだ。
これは渡りに船だ。
すぐに先生(私)は、その連絡先を聞いたのだった。
私達はさっそく、大分県九重市にあるホテルに直行するのだった。


☆彡
【惠起ホテル】
――僕達は、大分県九重市にある恵起ホテルに寝泊まりすることになった。
入所しやすくなったのは語るまでもなく、長崎学院が先に入所していてくれていたおかげで。
あの団体さんよりも数が圧倒的に少ない僕達ならば、というオーナーの心遣いのおかげだ。実に有り難い。
その後、僕達は長崎学院の生徒達と合流し、挨拶を交わし合うのだった】

団体さんが止まるお部屋にて。
その部屋で挙手が上がった。それは長崎学院、班長のものだ。
「宣誓――ッ!! 私達!!」
次いで、大村小学校、副班長の手が高々と伸びる。
「あたし達は!!」
次いで、長崎学院、副班長の手が高々と伸びる。
「一致団結して!!」
締めくくりに、大村小学校、班長の手が高々と伸びた。
「この危機を乗り切ります!!」
パチパチと湧き上がる拍手喝采の嵐。
それは生徒達先生方、並びにホテルのスタッフ方から送られたものだ。
このホテルのオーナーが1歩前に出る。
「……及ばすながら、うちの娘を使ってください」
その娘さんは、そのホテルのオーナーの娘さんで、長崎学院生だった。

【恵けい(11歳)小学6年生の女の子
長くて黒い髪、黒い瞳、可愛い顔立ち、豊胸が特徴的な女の子で。
着ている服装は、長崎学院生のものでもなく、今回の仕様にあたってホテル着としている。

「ここの近隣に明るい娘です」
その娘は頷いて応えた。
可愛い顔立ちの娘さんで、まさかのホテル着を着こなしている。

「これから皆さんに班分けを行います」

「班分け……!?」
と長崎学院生達から声が上がる。
どうやら事情は聞いてなかったようだ。
と壇上にクジ引きの押し車が入ってきた。
「これから皆さんには3班に分かれていただきます」
「3班」
それはあゆみちゃんの口から零れ出た言葉だ。
「皆さん! 順にこちらに来て、1人1枚クジを引いてください!」
「まずは先に、大村小学校の方からどうぞ!」
そう呼ばれて、まずは先にスバルとアユミがクジ引きを行う。
僕は紙に書かれていた番号を見た。
(1番)
「スバルくんは?」
「1番だったよ。アユミちゃんは?」
「えへへ同じだよ」
とお互いの番号を見せ合う。
「腐れ縁だね」
僕はにこやかに笑った。
その時、「おおおおお」という歓声が上がった。
それは、長崎学院生のシシド君が「1番」を引き当てた時だった。
「フッ」
「か――っやっぱ持てんなこいつ!!」
と長崎学院生の男子生徒が憎たらしいそうに言うのだった。
「……」
「さすがだね……」
さすがの僕も言葉をなくした。何なんだこの縦社会は。
その後、クジ引きは続いていき。
とある少女がその番号を引き当てた。
それはクコンという名の少女だった。
(1番)
それによって全員、クジ引きが終了した。

「1班の人はあたし、恵けいのところに来てください!
今から皆さんには、山に行き採取とりを行っていただきます。山の新鮮な幸を取りに行きましょう!」
「2班はあたし、長崎学院の副班長が務めるわ!
あたし達はこのままこのホテルに乗って、清掃作業を行いつつ、皆さんが帰ってくるまでの準備を済ませるわよ!」
「3班はこの俺! 長崎学院の班長が務める!
俺達の班は俗にいうハズレだ! 力仕事が待ってんぞ!
このままこのホテルの麓に降りて、市の皆さんと協力して、土嚢積みを行うぞ! そうそう濁流にはくれぐれも気をつけろよな!」
「ええっ!?」
「マジィ!?」
「殺す気か――ッッ!!」
「拒否権はないから悪しからず……」
――ズ~~ン……。
とこれには男子も女子も嫌な反応を示したのだった。ここは命がけだ。3班にならなくてホントに良かったぁ。
その後、僕達は、それぞれの持ち場に向かうのだった。


☆彡
――恵けいの案内の元、大村小学校と長崎学院生達の1班は、山菜を摘みにこの山まで着ていた。その手にはポリタンクとゴミ袋と軍手を携えて。
僕達はこの山にある新鮮な山菜を摘んでいた。
中にはレアものとして、キノコや野イチゴ等があった。
それを僕達はゴミ袋に摘めていく。
「よーし! だいたい集まったわねー!」
「はーい! 恵班長!」
と恵ちゃんと仲がいい女の子が返事をした。
「じゃあ、これから湧水を汲みに行きましょう。絶景ポイントを教えるわ!」

――その後僕達は、恵けいの案内の元、ここ湧水の出る神社まで降りてきていた。
そこはまるで池のようで、水底からポコッポコッと新鮮な湧水が湧き出していた。
近くには鳥居とお社があって、ここがいかに神聖な場所であることがわかった。
お社の両脇には狐の像があり、狛犬とは違った守り神だと思われる
主にここは一般人立ち入り禁止区域であった。
「……ほんとにあった」
それは誰かが呟いた言葉だった。
「「……」」
顔を見合わせる合同の生徒達、頷き合い。
次には水汲みに入った。その手に持ったポリタンク容器を、泉の中へつけ――その穴の中へ水が吸い込まれゆく。
今日、明日、生きる為の貴重な命の水だ。
「……」
みんながポリタンクの容器の中に水を注いでいく。
その様子を後ろから見つめるは恵けいちゃん。その様は俯瞰するようであった。
と恵けいちゃん仲のいい女友達が話しかけてきた。
「ねえ、ケイちゃん。なんでこんな所に湧水があるの? ここ、立ち入り禁止区域みたいだけど」
「あぁそれは、この山の下に眠る龍脈があって、そこから湧水として湧き出ているからなの。
後、ここは確かに立ち入り禁止区域だけど私達恵家は、ある人からここの管理を任せられているのよ。まぁ大地主様ね」
「へ~そんな人がいるんだ」
とスバル(僕)は、その会話を耳を立てて聞いていた。
(どこの世界にも、大地主様はいるんだなぁ……いいなぁ)

――そんな様子を、遠くの木の上から見下ろしていた少女がいた。
フードコートエリアであったあの占い師の少女だ。
「……見える、濃厚な死の気配が……ここにいる人達は助からない」
その少女の視線は、スバルを射止めた。
「でも、あなたから漂うものは違う……違う」
あたしは向こうの空を向いた。
「近づいてくる。炎の死神が……ここももう危ない。いこっ、ユニ」
そう言い残し、その占い師の少女は風となって、その場から消えた。
だが、少女は去る前、その瞳は恵けいを収めていたのだった。


☆彡
――その後、水汲みが終わったスバルは、お社を見ていた。
両脇には、狐の像の守り神が鎮座されていた。
(何で狐が……普通は狛犬のはずなのに……なぜ……?)
「……気になりますか?」
「恵さん」
恵さんが僕に歩み寄る。
いや正しくは、お社に近づいていく。
「ここの神社は変わっていて、日本全国にある稲荷神社とは様式が違うんですよ!」
「えっ……」
という事は、一般理解とはまた違うという事か。
「フフッ……この『狐の像』には、ある古い言い伝えがあって――……」
そうして、恵さんによる長い昔話が始まった。

「『――当時、身分違いの男女がいました』
『2人は惹かれ合っていましたが……当時は、戦乱の真っただ中』
『1人のうら若きお姫様が、政略結婚を申し付けられました』
『その国のお姫様だったのです』
『――ややあって、戦火の火種が国を覆いつくし……』
『城は炎上』
『男は、1つでも多くの武勲を上げるため、敵兵を1人でも多く薙ぎ倒していました……!』
『その働きぶりは、一騎当千……!!』
『嵐を起こし、稲光を駆け、雷神……いいえ、鬼神のようだったと云われているのです!』
『……それは多くの敵兵を、恐れ、おののけさせました』
『…………』
『――その戦が終わる頃……』
『その城は落城し焼け落ちていました』
『その中にいた城主ともども、その若い姫君も亡くなっていたとあります』
『男は泣き喚きました』
『自分の今までの働きぶりは、いったい何のためだったのか……と!』
『…………』
『――ただ……これが正しい歴史かはわかりませんが……』
『ある逸話が残されているのです!』
『それは、その男が燃え盛る城内に単身戻り』
『見事その姫を救い出し、遠方へ逃れたという逸話が……!!』
『――話はここで、一時戻りますが……』
『その戦火の火種が起る前……その姫君からその男に、ある贈り物が渡されていたのです』
『それが『金の鈴』と『銀の鈴』。それは縁結びの鈴で、2つで一対のものです』
『男が銀の鈴を持ち、女が金の鈴を鈴を持ち、男の帰りをひたすら持つ童話です……』
『…………』
『そして、戦乱の真っただ中――……』
『鈴の音が嫌に気になり、城内へ戻ったというのです』
『それが姫君の身の危険を報せた、虫の報せであり、鈴の報せでもあったのです』
『それがこの地に伝わる、言い伝えです』
『――男と女はその後、駆け落ちし。元気なやや子を授かり。
『その伝承に習って、金の鈴を模した狐と、銀の鈴を模した狐が両方、この神社の泉を護るように建てられたというのです……』
――以上が、金の狐と銀の狐にまつわる伝承です」

「へ~~じゃあこれは、銀の鈴を付けた狐なんだ」
「……」
この男の子反応は、やはり冷ややかだった。乙女心がわからない年頃と言えば、それまでだが……。
ハァと嘆息した。
「コホンッ! んっんっ……如何でしょうか!? 当ホテルにも、その伝承に習って、縁結びの『金と鈴』と『銀の鈴』が置いておりますが……如何なさいますか?」
それは売り子としての言葉遣いだった。
そこへ歩み寄ってきたのは――
「――何してるの?」
アユミちゃんでだった。
「あたしも途中から聞いていたんだからわかるんけど、ダメよスバル君」
「!」

「……だってあたし達今、無一文だもの」

その無一文というフレーズが木霊したのだった。なんて無情なんだろうか。
「そ、そう言えばそうだった」
これには確かに、恵けいさんも同感だッた。
「腕時計型携帯端末が逝ってしまっている以上、日本全国、いいえ、世界中がそうなんじゃないのかしら?
一度、データバンクがやられた以上、たとえ復旧しても無一文である事には変わりないわ。
今時、現金なんて流行らないしね。
現金を持ってる人なんて、数が少ないんじゃないのかしら?
……ね、そう思うでしょ? 恵さん」
「そ……そう言われればそうですね」
これには恵さんもバツが悪そうになった。
「さらに言わせてもらえると、みーんないなくなってるわよ! ……あの長話中に森の奥に入ちゃったから!」
あたしはみんなが行った先、森の中を見た
「……」
そうなのだ。あの長話の間に誰かがみんなを唆し、無断で森の奥に入ちゃったのだ。
さすがは子供である。恐怖というものよりも冒険心が勝ってしまったのだ。
「「いつの間に……」」
と僕と恵さんの声が奇麗にハモったのだった。

――とその時、ピシャンという落雷とともに森に火の手が上がった。
「「キャッ」」
「!」
女の子達は雷が苦手らしく、僕の腕に抱き着いてきた。
「な、何!?」
「か、雷……!?」
(あぁ……おっぱいが……)
その時、そのはずみで、僕の二の腕にその柔らかなおっぱいが当たっていたのだ。
アユミちゃんのはムニュ~ンとしていて。
恵さんのはポヨヨンとしていた。
これは2人のスキンシップの違いだろう。大きさは同じくらいだが、スバルとの心の距離との問題だ。
僕は鼻の下を伸ばした。だらしがない顔である。
「あっ……あれを見て……」
僕達はアユミちゃんが指差した先を見た。
それは森から火の手が上がっている様だった。
「か……火事だ! 山火事だ!」
「どうしよう!? まだ森の中にはみんなが……ッッ!!」
「ッッ!!」
一目散に駆け出す恵さん。
「「恵さん!!」」
「あなた達は大人の人達を呼んできて!! みんなはあたしが!!」
「そ、そんな事1人でできるわけないでしょ!! 危なかしィ!! ……ッッ、あたし達も行くわよスバル君!」
「うっうん!」
と僕達2人も森の中に駆け出していくのであった。
森の火の手はゴォウゴォウと勢いを増していった――


TO BE CONTIUND……

しおり