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09 良い鍛練法を編み出しました


私のせいでご馳走にありつけなかったのかな ? なんて若干落ち込んでいると、レイとクラウは雑談しながら焚き火の準備をし始めた。

「あの~~ ! 差し出がましいようですが、もうコンテの町に用が無いのでしたら転移の魔法で村まで帰りませんか ?」

「ああそうか、もう用事はないからね。 ……じゃあ転移で帰ろうか。って、んん ? そうか ? そういうことか。なんで素材を持ち帰ったのか少し謎が解けた気がするよアイリ !」

「そういうことよ、村長さん ♪♪♪ コンテの町にはいつでも売りに来れる。だけれど私を奴隷にしようとした超~〜〜高飛車なビリーズ商店や、ちょ〜〜~~~低額査定のギルドになんかは売りたくないわよね ! 買い取ってもらうならジョエルズ商店かな ? 私の転移魔法があればいつでも何度でも来れるでしょ ! 一週間くらい後に又来ましょ !!」

「良し、分かった。そういうことだったら納得だ。全て君に任せる ! 大聖女アイリ様の案でいこう」

「聖女様。素晴らしいお考えです !」

「えっ ? クラウ ? 何だかさっきからことば遣いがおかしいわよ ! クラウはとっても可愛いんだからもっとフランクで良いのよ !」

「はい ! 努力します」

「敬語だし~ ⤵⤵」

「ハハハッ コイツもこう言ってるんだからそんなに責めるなアイリ ! きっと君を敬う気持ちがよっぽど相当なのさ」

「そう ? ……じゃあ皆、転移するので手をつなぎましょう」

私たちは輪になって手をつないだ。

「コンテの町へ連れていって ! 転移 !!」

初めてだったパーティー全員の転移は見事に成功した。
一瞬で村長の家の前まで帰ることができたのだ。
これでひとまずは役目を果たしたということで良いのかな ?

当初は往復に4日間の予定だったけど、なんと僅か1日で、日帰りで片付けてしまった。嬉しい誤算だね。

村人達には途中で引き返してきたのかと尋ねられたけど経緯を説明すると一様に驚いていた。
この日はここで解散した。


慣れない徒歩で長い距離を歩いて次の日は身体中がギシギシといいそうなくらいにくたびれたので、一日ゆっくりと休んだ。

その翌日には痛みもとれてすっかり元気になった。やっぱり16歳の身体は最高ね ! 若いって素晴らしい。何度でも異世界転生したい気分だわ !

ここではスマホもタブレットもオンラインでは使えない。

 アメージングで奇跡的にDVDや本を取り寄せられるけど誰とも繋がっていない媒体ではそれほど熱中できないしね。

そんな訳で、この異世界の閑静な田舎に来てから私には特にお仕事も無く実質上ブラブラしているのだ。

 だけど、預かっているレッドベアやウルフの素材を売り捌くという重大な使命がある。

そうよ、私にはアルテ村の今後を左右する重大な使命があるのよ。アルテ村の産物や魔物の素材とかを適正な価格で卸せるようにしたいんだ !?

使命といえば、村人の健康を守ることも忘れてはいけないわ。

 2日に一回の炊き出しは今も続けているよ。う~ん、やせ細った体型はまだまだ変わらないけど少しは皆の顔色が良くなってきた気がするわね。


私はフラ~~っとパーシーの家に行って、約束していたオレンの実のジュースを飲みに来ていた。

すると、遠くにクラウを見つけた。
 やった〜 !

「パーシー、キャシー、ありがとう。じゃあ又来るわね !」

「ほいほい、気を付けてなー」
「またおいで !」


私は嬉しくてクラウを走って追いかけた。

「クラウ~~ !! ……どこ行くの ?」

「こんにちは、聖女様 ! 鍛練でもしようかと…… 」

「だったら私にも手伝わせて !」

 …!! …クラウは驚いている。

「えっ ? 鍛練などつまらぬモノですよ、手伝っていただいて良いんですか ? 」

「もちろん良いわよ ! 私はクラウをこの村を守れるいっぱしの魔法戦士に鍛えてあげたいの… 」

「ありがとうございます !」

クラウは村の脇で鍛錬する気だったようだけど二人なら大丈夫かなと私たちは村の外へ出ることにした。

「クラウ、手を出して !」

「はい、どうぞ」

少し照れながら差し出したクラウの手を優しく握った。
私だって前世では清らかなまま人生を終えてしまったし、男の子と手を繋いだことなんて数えるほどしかないから、二人揃って顔を赤くしてしまった。

(だけど転移の度にクラウの手を握れるなんて…… ふふっ、役得、役得 ♪♪♪)

「転移するわね ! 村の北の大樹の前に行って… 転移 !!」

私達二人は私が初めてこの地に訪れた場所まで転移でやって来た。走れば村から数分の場所だ。

「ええー ? 北の大樹に来たの ? ここの魔物はけっこう強いですよ !」

「村の周辺のゴブリンばっかりじゃつまんないでしょ ? そんなんじゃ鍛錬にならないわよ !」

「承知しました、聖女様 !」

「うーん、どうしちゃったのかな ? 何かずいぶん堅いわね、クラウ !」

クラウディーは私がレッドベア2体を軽々と倒したのを目の前で見せられた瞬間に異世界から来たこの私の総てを真実だと受け入れ、神か女神のように崇拝してしまったのであった。

その後も私のダメダメなところは目に入らず、転移や収納やギルドでの対応力を見ては感動し盲目的な信者のようになっていった。

私もクラウはどこかおかしいなと感じていたけどそこまでとは気が付かなかった。魅了のスキルでも使えば完全にハマっていただろう。


魔物と戦う前にクラウのステータスを見て考えてみた。魔法戦士か~ ? う~ん、悪くないけど守ってあげないと危ないわね !

クラウディー 魔法剣士 14才 男
レベル:14 人族
攻撃力:34
守備力:33
体力 :39
速さ :27
魔力 :41
好運 :80
HP:68/71 MP:75/80 SP:84
スキル:剣術LV1、風魔法LV2


最初に現れた魔物はフォレストウルフだったわ。この野生の狼は鼻が利くからきっと私らを良い獲物だとでも思って狙ってきたんでしょうね ?

だけど…… 残念だったね狼さん ! 私は見た目とは違ってアンタらに殺られるほど、か弱くないのよ !

「ガルルルッ !」

「聖女様 ! 僕にはこの魔物は荷が重いです !」

「ええ、分かってる。まずは守りに専念なさい。良いのさえもらわなければ心配いらないのよ !」

私は素早く動いてウルフに近付いた。魔物は私の動きにまるで対応できていない。

グーに握ったげんこつを金づちのように上から"ガツン" と頭に叩き下ろしてやった。

「ギャウーーン !」

フォレストウルフは酔っ払いのようにフラフラになってしまった。

「クラウ ! 風魔法よ !」

「はい !! 風よ我を助けたまえ、ウィンドウ スピア !」

クラウが放った槍状の風魔法は弱って無防備になっていたフォレストウルフの首すじを貫き一撃で魔物の命を奪った。

「ナイス ! まずは一頭ね !」

クラウは血抜きなどの下処理を素早く済ませて私に収納を促したけど私はそれに応じなかった。

「ううん、収納しないで良いのよ」

「えっ ? ここはとても強い魔物が多いですし、血の匂いで魔物がたくさん集まって危険ですよ !」

「だって魔物をたくさん倒して鍛錬するんでしょ~ ?」

「えええええーーー ????」

そんなことを話しているうちにまたフォレストウルフが現れた。今度は2頭だ。クラウは青い顔をしたままだ。

「うわっ !!」

クラウは驚いて声をあげ、後ろへ二歩三歩後ずさったけど私は特に驚きもせずにさっきのウルフと同じように、ガツン、ガツンと連続で頭をどついたのだ !

「ギャウーーン !」「ギャウーーン !」

「スゴい。スゴいです聖女様。相当強い魔物のはずなのになんという手際の良さでしょう ? 見とれてしまう程です」

「は~い。魔法よろしくね !」

私の手際の良さに付いてこられないようだけど、クラウは少し戸惑いながらも魔法を放って二頭を倒した。

そして、血抜きをしてウルフ3頭を野ざらしのまま放っておいた。

大聖女アイリを心から崇拝し始めているクラウでもこんなやり方には理解が追い付かなかった。

こんなのは普段から狩りをする者の常識ではあり得ない方法で、もしも自分達の能力以上に魔物が集まり過ぎてしまえば一瞬で命を失うからタブーとされていたのだ。

それでも彼はやれと言われれば素直に従った。僅かに疑いや心配があったけどそれよりも信頼し、敬う気持ちがとても強かったからだ。

その後もオーク。グリーンパイソン、高位種の混じったゴブリンの集団と、次々と魔物が現れた。

倒した魔物の血の匂いがエサになってドンドン誘い込みたくさんの魔物が寄ってきた。こうなってしまうとクラウには手に負えないようね。

「もうダメです !! 魔力も残り少なくなっちゃいました !」

「分かったわ ! クラウの身体を癒して…… ハイヒール !!」

「ああーーー ! 傷や怪我が…… 体力もほとんど戻りました ! ありがとうございます。本当に素晴らしいお力ですね !」

「これくらいたいしたことないわ。じゃあクラウは大ケガで即死だけは避けるように頑張って身を守るのよ ! 私は大概の怪我だったら治せるから安心してね ♪♪」

「はい頑張ります !!」

私はサバイバルナイフを手に取り、次々と現れる魔物をバッタバッタとなぎ倒していって、退治した魔物は更に大きな山のようになってしまった。

「うわわわわーー !!」

襲い掛かってくる魔物をほとんど一撃で倒してしまい、とうとう私の前に立ちはだかる魔物は居なくなった。

「よーーし ! こんなもんかな ?」

「は、は、は…… はい ! お疲れ様でした、聖女様 ! 素晴らしい御活躍でしたね」

(可愛いクラウ ! こんな風に敬ってくれるのも悪くないかも ? だけど、こんな感じだったら私のお願い、何だって聞いてくれそうな気がするわね ‼‼ 良いこと思い付いたわ。なんならエッチなお願いも聞いてくれるんじゃないかな ?)

「クラウ ? ここに来て(ひざまず)きなさい !」

「はい、聖女様 !」

(ゴクリッ !)
「今日は頑張って良く戦いましたね ! ワタクシの手にキスをすることを許しましょう !」
(上手くいくかしら ?)

「はい、ありがとうございます聖女様 ! 」

クラウは何のためらいもなく、細身の身体にブラウンでふわふわの髪を少し風になびかせながら跪いて私の手にキスをした。

「 ……チュッ」

「 ううっ !」

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