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第二話

 時を遡ること、演劇祭直後。
 演劇祭が行われたホールから、五人で教室へぞろぞろと戻っている時──わたしは切り出した。
「ねぇ。今度の休み、わたしの家でお茶会するから、よかったら来てくれない?」
「あ、アンさん!?」
 なんの相談もされていない身内は、わたしの突然の申し出に驚きを隠せないようだった。
 他の三人はキョトンとしてから、
「いいね〜! アンちゃんのお家、行ってみたい!」
 ノアが明るく承諾してくれた──この子は本当に、話が早くて助かる。
「まぁ、どうしてもと言うなら、行ってやらないこともない」
 デリックが腕を組んで、チラチラとこちらを見てくる。「どうしても」と言った方がいいのだろうか。
「オレも行く」
 そんなデリックを尻目に、マークは短く答えた。それに反応して、デリックも慌てて「行かないとは言ってない!」と捲し立てた。
 よかった。みんな来てくれるみたいだ。
「じゃあ、後で招待状を送るわね。美味しい紅茶とお茶菓子を揃えて待ってるから、楽しみにしてて」
 胸を撫で下ろすわたしに、十六歳たちは首を傾けた。
「招待状……?」
 慌てた様子のコリンがこっそり耳打ちしてくる。
「アンさん! 貴族じゃない人は、普段から招待状を送ったり受け取ったりはしないんですよ!」
「え、そうなの!?」
 知らなかった。まさか、招待状が一般的なものじゃないとは。
「え、えっと、招待状っていうのは……そ、そう! 女子の間で、家に招く時は招待状を送り合うのが流行ってるのよ!」
「へぇ。女子って、めんどくさいのが好きなんだな」
 わたしの言い訳に、マークがデリカシーゼロの返答をする。誤魔化されてくれたようだが、一発引っ叩きたくなる。
「とにかく、時間と場所を書いた手紙を送るから! 首洗って待ってなさい!」
「決闘かよ」
 デリックのツッコミはあながち間違いではない。だから、特に訂正はしなかった。
 ──わたしにとっては、決闘のようなものだ。
 家に招くということは、身分を明かすと同時に──年齢も明かすということ。
 成功すれば、年齢にそぐわない学園生活からおさらばできるが──失敗すれば、三人と気まずい雰囲気のまま、学園生活が続行になる。
 わたしの正体を──年齢を知ってもなお、三人は友達でいてくれるのだろうか……。

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