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第一話

 入学して早々、試験がやってくる。
 生徒の魔力がどれくらいのものか、教師陣が把握するための試験なんだそう。
 当然、わたしの魔力はクラスどころか学校内でもずば抜けているはずだ──十代のお子ちゃまたちに劣るような研究や鍛錬を積んできたつもりはない。
 しかし、それで目立って家柄や年齢がバレるような事態はまっぴらごめんである──理想は、悪くも良くもない、平均的な成績を残すこと。
 教壇に立つ先生が、試験の説明を淡々と進める。
「二人一組。くじ引きで決めます。各自、用意されたステージで先生たちの召喚したゴーレムを倒すことが課題です──それでは、前に来て、箱の中から一枚、くじを引いてください」
 前の席から順々に先生が用意したボックスから、くじを引いていく。教室内で同じ番号を持つ生徒を呼ぶ声が交差した。わたしもそれに倣って、相方を探し始める。
「十番、十番の人、いませんか〜?」
 男子たちの低い声色の中に、女の声は覆い被さるように響いた。何人かがわたしに振り返るが、手の中にあるくじの番号と見比べては、視線を逸らして行く。
「十番の人〜?」
「…………十番」
 低い声が、わたしの背中を撫でた。
 嫌な予感を押し殺して振り返る──椅子にふんぞりかえっているクソガキが、わたしの方を薄目で見ながら、小さく手を挙げていた。
 ……やる気あんのか、お前。
 ぶん殴ってやろうか、という考えが一瞬頭をよぎったが、
「へ、へぇ〜! よろしくね!」
 そこは大人。たとえ相手がイケすかない小僧でも、笑顔を顔面に貼り付けて対応するのである。
 クソガキは、わたしの引き攣った愛想笑いを一瞥して、
「……せいぜい、俺の足を引っ張らないようにするんだな」
 と、鼻で笑った。
 ……わたしは大人、わたしは大人。こいつは子ども、こいつは子ども。
 長ったらしい呪文を唱えるがごとく、心の中で自分に言い聞かせた。
「……あんまり自意識過剰でいると、いつか足元すくわれるわよ」
 大人の余裕、年上の助言。
 そんな軽い気持ちでアドバイスしたつもりだったのに──なぜかクソガキは、理解できないものを目の当たりにしたかのように、眉をしかめた。
「……誰に向かって言ってんだ?」
 まるで平民が貴族に逆らったかのような反応じゃない。少なくとも、クラスメイトに放つセリフではない。
「あんた以外に誰がいんのよ」
 と、わたしはクソガキの鼻先を指差した。クソガキの眉がピクリと動く。
「無駄に調子乗ってるから、親切心で忠告してあげてんでしょ。お礼を言われてもいいくらいだわ」
「はぁ? 大人だって、俺にそんなこと言うやついねぇぞ」
 心の底から、なぜ自分が忠告されているのか理解できないようだった。本当に、今の今まで全肯定されて生きてきたし、それが許されてきたんだろう。
「……かわいそう」
 溢れるように、口から漏れていた。
「……なんだと?」
 親が権力者なばかりに、誰にも躾けてもらえなかったのか──なんて、お嬢様育ちのわたしが言えることじゃないんだけど。
「かわいそうって言ったの。今の今まで、誰にも悪いところを改善する機会を与えてもらえなかったなんて」
 クソガキはガタンと立ち上がった。
「……なんなんだ? お前」
 物理的に見下しにきたクソガキの視線を、真正面から受けて立つ──たとえ見上げる形になろうとも、わたしはクソガキを強い気持ちで睨み返した。
 そんなわたしに、クソガキは舌打ちを一つして、
「……いいか、試験は俺一人でやる──絶対に余計な真似すんなよ」
「……あっそ。勝手にすれば」
 高圧的な態度に、わたしは鼻で笑って返す。
 その言い草からして、よっぽど魔法の腕前に自信があるのだろう。
 ま、わたしには到底及ばないだろうけどね。
 ──こうして、わたしたちの壊滅的なバディが組まれたのだった。

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