ー 揺れるアールタラ(4)ー
第四層。自領、アウストリ家領を眼下に見下ろしながら考える。
そう。魔王様は決して、我が国ミュルクヴィズから離れることができない御身なのだと。
これは内政や安全確保の問題ではなく、ミュルクヴィズの成り立ちに関わることで、魔王という役割が世襲制ではない理由でもある。魔王とは、
『
つまり、魔王様はその膨大な
現魔王ユングヴィ・リジル・ミュルクヴィズ陛下は、在位から80年余り。そろそろ次代の魔王候補選定も始まる頃だろう。
これはお義母様から聞いたお話だけれど、本来であればテュールお父様が四代目魔王の筆頭候補だったらしい。かつてより
しかし、それは妖精戦争が残した傷跡によって運命が変わることになる。
お父様はとある討伐の帰り道、夜空に輝く星々のような煌めきを纏う神秘的で大変美しいひとりの女性と出会う。それが、私の産みの母である光の
マーニお母様は妖精戦争の戦火により、暮らしていた森もエルフ族の里も焼き払われ、
そんなマーニお母様を助けるために、お父様は自身の
ただ、それによって一時的ではあるものの、光の
この際に発生した【精霊の祝福】が、近年で最も新しい祝福だ。
精霊の祝福が発生すると、世界には一時的に
月星草はミード調合でも使われるが、本来は平野に咲く小さな花で、生命力が強く、割とどこにでも自生しているものだ。通称の「大地の星々〔グランアステル〕」として呼ばれる方が多い。
花弁が透明なため昼間はただの雑草にしか見えないが、夜になると花弁がオーロラ色に発光して花粉が煌めき、美しい花の姿が明らかになることにより、夜間の道しるべとして街道沿いに植えられているほか、玄関先に飾ったりされて親しまれている。
ミード調合といえば、使われる蜂蜜のほとんどは
月星草の蜂蜜はミード調合の材料として軍事的価値も高く、
(お茶に美しさを求める理由がよくわからないけれど、見目が美しいものはそれだけで味が変わったように感じるのかもしれないわね)
考えを巡らせているうちに、第四層を超え、第五層ヴェストリ家領地へと入る。
我らがヘルモーズ隊の軍本部を眼下にしたとき、ぶわっと風を切る轟音と共に、ひと際大きな緑竜が目の前に現れた。
「きゃぁっ」
「がはははは‼なーんじゃその可愛らしい悲鳴は。それでもエインヘリヤルと言えるのか、我が曾孫よ‼」
「ひ、ひ、曾祖父様⁉」
緑竜に騎乗していたのは、ヘルモーズ隊を率いるグラディウス・ヴェストリ