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技術不足

 人の歴史を紐解けば、何処かで必ずと言っていいほどに高層建築という物が登場する。それは技術への挑戦なのか、はたまた神への反逆なのか。
 そしてハードゥスのとある平和な街に、その挑戦を行う者達が居た。
 最初は少し高いだけの普通の家を造ろうとしただけだった。しかし、建築していく内に何かのスイッチでも入ったのか、次第により高い家を建てようという話になっていく。
 だが、その時に建てていた家は注文を受けて建てているに過ぎず、勝手に変更するわけにはいかない。それに、街に無断で高層建築を行うのは流石に問題がある。この時はそれぐらいの理性はまだ残っていた。
 それから家が建て終わるも、それでも昂りは冷めなかったようで、その者達は早速行動に移してしまう。
 色々と話し合いがなされた結果、その熱意に押される形で、街の中央に平和のシンボルとして塔が建てられることになった。
 それに皆張り切った。いや、張り切り過ぎてしまった。
 当初の予定では、その時の街一番の建物よりも倍ぐらいの高さということで決まっていたのだが、どんどん建てていく内に妙な高揚感にでも包まれたのか、次第に街側の用意する資材以外からも用意して、どんどんと高い建物になっていく。
 街の人々もそれを見上げ、どれだけ高い建物が出来るのかと噂し合った。
 次第に近隣からもわざわざ見に来るようになり、人が増えていく。当初の目的であったシンボルとしての役割を果たし、おかげで街も好景気に沸いている姿に、街側の抗議は次第に弱くなっていってしまった。
 そうして建てられていった建物だが、流石に限界は来る。資材を運び上げるのもかなりの労力であるし、そもそも人は高層で生存している存在ではない。
 結果としてかなりの高さの建物は出来たが、雲に届くほどというのは比喩として使われるに留まった。もっとも、その建物をれいの視点から見ると。
「………………どうも不安定ですね。地盤ももっと低層の建物を想定していたようですし、甘く見積もっても保って数年といったところですか。まぁ一年倒壊しなければ十分でしょう」
 という評価になる。チャレンジ内容としては面白かったが、技術がそれに追いついていないうえに、もう少し計画性が欲しかった。ほとんど勢いで突っ走ったようなものだったので、その評価も妥当というものだろう。
 そして事実、その塔は半年と経たずに倒壊したのだった。根元から崩れるように折れていく塔は見ものだったが、塔の効果により増えた街の財よりも街の被害の方が大きく、なんとか復興を遂げたものの街は塔が建つ前よりも貧しくなってしまった。
 その後、その財政を立て直せるほどの手腕を持った者が現れるようなことはなく、結局街は廃れていったのだった。
「………………結構面白い試みだったのですがね」
 雲を突き抜けるほどの巨大建造物の最上階で、れいは観察していた見世物の感想を述べる。ハードゥスも技術がかなり発展したのだが、それでも、まだそこまでの建築技術は有していないということなのだろう。
 ちなみに外の世界の中には、宇宙まで突き抜けるほどの塔を建てた世界も存在している。いつかそれぐらいの塔が建つ日が来るのだろうかと、れいは少し考えたのだった。

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