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(2)

 居酒屋で禅一が酔っ払っていた夜、珠雨はお風呂が空くのを待っているうちに、うとうとしてきてしまった。
 色々話したり、氷彩のことがあったりで、疲れたのかもしれない。そのままヒトエのテーブルに突っ伏していつのまにか寝てしまったのだが、朝気づくと一階の控室に布団が敷かれ、珠雨はそこに寝ていた。

「……えっ?」

 きょろきょろと辺りを見回すと、すぐ横に禅一が熟睡していてフリーズする。一体何が起こったのかわからない。

「え、嘘。嘘でしょ」

 何かあったのだろうか? と一応自分の様子を観察するが、服は昨日着ていた物をそのまま身につけているし、禅一は禅一で部屋着で転がっている。安堵のため息が漏れた。
 禅一を起こさないようにそっと布団から抜け出し、とりあえず昨夜入浴出来なかったので自分の部屋に一旦戻る。そろそろとお風呂に入り、何があったのか思い出そうとするが、やはり記憶には何もない。

 自分の体を見てみる。異変はない。勿論禅一が寝込みを襲うような男ではないことはわかるのだが、一緒の布団で寝ていた以上勘繰ってしまう。
 一通り綺麗にして、濡れ髪のまま控室に戻ると、禅一はまだ眠っていた。

「――禅一さん」
 声を掛けると、身じろぎした。
「……ん、朝? おはよう、珠雨」
「この状況は何だか、聞いても……?」

 戸惑っている珠雨に少し首を傾げ、禅一は眠たそうな顔で眼鏡を探す。もうコンタクトレンズは外したようで、枕元に眼鏡が置いてあったのが指に触れた。

「いや……僕がシャワー終わって出てきたらね、珠雨がテーブルんとこで寝てて。僕は非力なもんで、二階まで運ぶことは叶わず、かと言って放っておくことも出来ず。そんなわけでここに布団を敷いて寝かせるというのが残された選択だったんだけど」

 淡々と説明されて、珠雨はなるほど、と納得しかけるが、禅一が一緒にいる理由がわからない。

「もしかして、なんかしました?」
「え、なんかって」
「……いや、駄目ってわけじゃないんです。ただ、ちゃんと意識のある時にしたいってゆーか」

 あれほど自分から禅一としたいだのなんだの言っておいて、実際現在のシチュエーションに陥ったらこんなことを言っている。ちぐはぐだ。

「何もしないよ。……あ、でも強いて言うなら、とんとんした」
「と、とんとん?」
「布団の上から、体を優しく、とんとんって。ほら、小さい時によくやった、あれ」
「なにゆえ」

「……珠雨が寝ぼけて、『あざみちゃん、とんとんして』って言うから、僕も眠かったし、添い寝しながらとんとんしてたら寝てしまったという。それだけだよ。可愛いね、珠雨は」
 面白そうに笑いながら教えてくれた禅一は、ふと思い出したように笑うのをやめた。

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