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砂地で馬の足がだいぶ遅くなってきた、そろそろエッザールの生まれ育った街が近づいてきた証拠かもしれない。

だけど……うん、やっぱりおかしい。いくら起こそうとしたってエッザールはピクリとも動いてくれない。

鼻先に手を置いて息をしてるかどうか確かめても見たんだけど、すっごく遅い。自分のと比較してみても、うーん……半分以下だ、それもとってもかすかな呼吸だし。

ひざをかかえて尻尾を丸めて、まるで卵になってしまったみたい。

「やっぱおかしくない?」アスティさんにそれを話すと、ちょっと深刻な顔に。病気にでも罹ってしまったんじゃないかって、俺も一気に不安になってしまった。

こういう時にルースがいれば、なんて思ったりもしたんだけど……でもしょうがない、とりあえず馬車もようやく街の大きな門に差し掛かったことだし。



って、今度は門番がいない!

石造りの大きな門は閉ざされたまま。人の気配もしていないって周辺を見てきたアスティさんもため息まじりに言ってて。



いよいよヤバくなってきた感じ、それも一気に。

ラッシュがいたらこんな門くらい蹴り破って……ってあああもう! いない連中のことばっか考えてどうするんだ俺。考えろ俺!

でも結局エッザールを起こすしか策はないっぽいって結論にたどり着いた。

それほど大きくない街だっていうのは分かったので、外周をぐるっと回ってみても大声で呼びかけてみても、高い塀の向こうからは反応が一切帰ってこない。ほんとおかしすぎる。



「どうだった?」「全然ダメ」疲れきってそれくらいしか言葉が出てこない。

仕方ないから最後の手段。できるだけ大きなたき火を焚いて、そこギリギリにエッザールを置いとくという荒療治に結論づいた。

分かってる、一歩間違えたらエッザールが丸焦げになってしまうってことくらい。でも起きてくれない限りはどうにもならないしね。イチかバチかだ。

帰るものは何でも使う。挙句の果てに馬車まで解体して燃えるものを積み上げ、そこからは元リオネング軍のアスティさんが慣れた手つきで火おこししてくれた。

「後はディナレ様が我々を救ってくれるのを待つだけです」って首からかけた銀製のディナレ像のペンダントに祈りをささげていた。俺も……仕方ないからアスティさんと同じく。



ほんと野外料理みたいだ。二人でカチカチのエッザールの身体を引きずって、燃え盛る火のギリギリにまで置いて。

こんな時にトガリがいたら……ってバカなこと考えるな俺! これは料理じゃないんだから。



ああ、なんか俺ってダメダメ。ちょっとしたことで故郷のみんなが手助けしてくれたことを思い出してしまう。

ラッシュのバカ力とか、トガリのうまい食事とか、相棒のチビとか、ジールのおっきな胸……あ、これは違ったか。

エッザールを火にさらしてどれくらい経っただろうか、火力の勢いはもう半分以下にまで落ちて、もうくべる木材すらなくなってしまった。

これが無駄に終わってしまったら、俺らどうやって帰ろう……なんてアスティさんとまじめに話していた矢先のことだった。

エッザールの手足の指先が、ピクピクと動き始めたんだ。

もしや! と俺もアスティさんも熱いの我慢して懸命にエッザールの強張った手足をマッサージした。

そのうちだんだん、うまそうな肉の匂いが漂ってきて……



ってやっべえええ! 尻尾が焼けてるし! あったまって伸びた尻尾が! 火の中に!!!

「……ッッあああああああああああ!!!」突然、悲鳴とともにエッザールが飛び起きた!

「ああああああ!!! 熱い!!!熱いぃぃぃぃぃぃぃ!」さっきまで仮死状態だったっていうのに、今や猛ダッシュで走り回って……もう、いったいなんなんだよこいつ!



「……エッザールさんって、焼いたらきっと美味しいですよね」

え、まさかアスティさんの口からそんな言葉が飛び出すだなんて……俺は笑いをこらえるのに必死だった。



そうだよね、今度また固まったら火の中に放り込んでみようかな。

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