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ようやく目が覚めたとはいうものの、相変わらず砂漠の夜は冷える。とにかくエッザールに厚着(アスティさんの法衣も着させてあげたし)させてまた倒れるのを防がなければならない。
あっ……ということは、もしや!
「ここ、これはっ、恐らく……異常気象です。私の住む場所がこれほどまでに寒くなるなんていい今までなかったですから」
白い息を吐きつつ、着膨れ状態の情けない姿のエッザールがそう話してくれた。まだガチガチ言って話しづらそう。
で、結局エッザールに門を登って開けてもらったのはいいんだけど……悪い予想は的中。
俺のいる街よりずっと道路の整った道には誰もいない。いちおうすいませんと先に言って近くの家に入ってみたら……うん。やっぱりエッザールと同じ。身体と尻尾を小さく丸めた状態で倒れてた。
「な、なんてことだ……」エッザールが嘆くのも無理はないよね。住んでる人たちがことごとく仮死状態で倒れていたんだし。
じゃあ俺たちは何をすればいいのか……ってもちろん、みんなで手分けして街の真ん中にある広場に集めたんだ。小麦粉みたく手押し車使って。
身体に触れると氷みたいに冷たい……急がなきゃ!
幸いにも燃やせられる木材やら燃せられる魚油はいっぱいあったので、さっき以上に高く巨大な焚き火を作って、エッザール必殺の「竜の息吹」で速攻で火をつけた。
とはいえこれもごく一部。エッザールの住む街はそれほどの大きさでもないけれど、やっぱり住民は多くいるのだし。
ちなみにエッザールの家にはどのくらい暮らしてる人がいるのって聞いたら、自分含めて二十人だとか。多すぎ!
「大老や兄上夫婦、それに子供や妹夫婦もいますからね」だって。なるほど大所帯なんだな。けどそれが普通なんだとか。
そうだ、大老ってここの街でいちばん権力を持っているお爺さん何だとか。しかも毎年持ち回りで、今年はエッザールの曾祖父さんが大老なんだって。
いやそんなことはいいからとにかく今度はエッザールの家へ行かなきゃ!
ようやく長い眠りから目覚めた人たちに事情を伝えて、あとはリレー方式でみんなの目を覚ますだけだ。
ここにはお城なんて無い。みんなそれなりに裕福(って俺には見えた)な大きな家々を持ってるし、近隣国との対立も皆無だったから、とっても平和なんだとか。
けど……ここ、エッザールと同じ種族しかいないんだよね。普通外から人間なり獣人なり来訪したり住み着いたりすると思うんだけど。
「ええ、我々の種族は、こういう面においてはかなり閉鎖的なもので……」とエッザールは申し訳なさそうにつぶやいてた。
思った通り、エッザールの家はとにかく大きかった。全部で四世帯住んでるからとにかく大変。全部の部屋を覗いて、仮死状態の人をまた焚き火の周りに集めて……もう俺は一体何しに来たんだか。訳わからねーよ!
……と、ようやく火の周りに集められたエッザールの家族を目の当たりにしてアスティさんがぽつりと。
「なんか……おいしそうだよね」って。
いやそれみんなの前では絶対言えない。いったら最後絶対捕まるから、って、エッザールのいない所で笑いをひたすら押し殺してた。
しばらくすると、まるで起床時間が来たかのようにみんなの身体が少しずつ動き始めてきた。
家の向こうからは驚きにも似た歓声が聞こえてきたし。もう一息かな……ってちょっと!
アスティさん、まだ目の覚めない人の鼻先に、自分の脱いだブーツを突っ込んでるし!
それって牧師……あ、いや人としてめっちゃエグいんじゃ!
「いや、こうしてみたら早く目が覚めるんじゃないかな……って試してみたくなったんです」アスティさん。温厚なんだか結構ぶっ飛んだ人なんだか、よくわからねえ……
でも、ひとつだけ言えることは、例えそれが天然であってもすごい面白い人なんだなって。
そんなことを考えながら、僕もアスティさんにならって脱いだ靴を他の人の鼻先にかぶせてみた。
「うん、効果てきめんですね」
アスティさんはにこにこしながら俺に返してきたけど、それって、ちょっと……ね。
と思ったら、俺の靴に鼻突っ込んだ人もばっちり目が覚めてるし。
「うん、フィン君も同じですね」
アスティさん……やっぱり、その……