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2話

念願の名前を貰った妖精たちと共に、外へ出る。
やる事はもう決まっているので、迷わず馬小屋へ、途中餌となる牧草混じりの草を刈りながら向かう。

馬小屋へ入ると、静かな瞳に見つめられる。自分より大きな動物をマジマジと見るのは昨日が初めてで、その時はハロルドが一緒にいた。だから、正直どうしたらいいのか分からない。

「ココロ、お水入れる?」
「え?あ、そうだね…新しい水に変えよか」
「はーい!」

スイが嬉しそうに水を入れ変えている。
その横、昨日入れた餌が少し残った餌箱に、新しい餌を入れようとして、ふと気が付く。

「あ、残ったのは片付けた方がいいのかな」

どこかで得た俄な知識を掘り出す。
動物は、残した餌をその後食べる事はないはずだ。それなら、中をキレイにしてから新しい餌を入れた方が良いということに思い至るそう。

「フウ、ルト。餌箱の中をキレイにして貰っていい?土に埋めてくればいいから」
「はーい!」
「分かった!」

餌箱から小さな食べ屑も一緒に、草がフワリと巻き上がると、外へと出ていく。
それを見送ってから新しい餌を入れると、待ってました!と言わんばかりに食べ始める。

「ココロ、これー」
「ん?これって、ブラシ?」

ロズの持ってきた物を受け取る。明らかに人用では無いブラシを不思議に思いながら眺めた。
それを見た馬がピクリと耳を揺らす。何か期待しているのか、一度顔を上げてこちらを見やる。

「もしかして、この子の?」
「そだよー。やったげてー」

そう言われて、そっと近づく。食事中、邪魔にならないようにブラシを使ってなでる。
ブルリと体を揺らすが、嫌がることなく食べ続けている。
場所をずらしながら、身体全体をなでていく。

「これでいい…のかな?」
「うん、きもちいいってー」
「そっか、よかった…って、言ってること分かるの!?」

あっさり受け入れそうになるが、何でもないことのように言ってのけるロズに、びっくりして思わず大声を出してしまう。
そんなココロにも動じず、「わかるよー」とニコニコしながら言うロズに毒気を抜かれる。

「皆分かるの?」
「ちがうよ、ロズだけー。あ、でも…」
「ん?」
「えっと…」

戸惑って目を反らした、のかと思えば、そうではなくレツをじっと見つめていた。
まだそれぞれの名前を覚えきれていないようだ。

「レツがどうかしたの?」
「あ、そっか、レツだ!レツはね、ロズとにてるよ」
「似てるって?」
「んー、よくわからない」

結果、よくわからないそうだ。当事者であるレツは、話には入って来ずに、ニコニコとしている。
恐らくロズは、動物に関わる能力を持っているのだろう。だが今は、動物の気持ちを汲み取れるぐらいしか分からないが。

胴体を全体的にブラッシングし終えた頃には、キレイになった水も満足行くまで飲み終えたところだった。
恐る恐るだが手綱を持って外へと一緒に出る。元いたところでしっかり育てられていたのか、どこかへ飛び出していくこともなく、後を付いてくる。

「あぁーそうだった…」

昨日馬車を置いたところにたどり着くと、1つの問題が浮かび上がった。
馬と馬車を見比べる。この2つを一体どうやって繋げればいいのか、ココロはまだ知らない。

「んーどうしよ。こんな事でハロルド呼ぶのもなー」

どうしたものかと思いつつも接続部に触れると、タブレットが小さく震えた。
かと思えば、ココロの目の前に半透明なウインドウが現れる。

「えっ、何急に!?…あれ、何か書かれてる…えーっと「接続しますか?」って?」

他に書かれているのは、「はい」か、「いえ」ぐらい。
一体何を指しているのか…。まぁ、深く考えずに答えは出た。
とりあえず「はい」を選択すれば、馬が自分から馬車へ近寄り、さらにそこへ、ロズとディが寄っていく。
自動的に馬車に取り付けられている器具が馬に接続されていき、すぐに一頭引きの馬車が完成した。

「おぉ、すごい。どうやって繋げたか、全然分からなかったけど」

覚えた方が良いだろうかと一瞬思ったが、その必要はどうやら無さそうだ。
御者席に乗ると、再びウインドウが現れる。
「行き先を選択して下さい」とその下に、「南の家(英語から直訳)」と表示されているだけだった。

「南の家って、ハロルドのって事かな?」

そうとしか考えられないのと、南の国でこの場所以外に知っているのはそこだけであり、最初の目的地でもあるので、そこを選択する。
馬がゆっくり歩き始め、それに引かれる形で馬車も動き出した。

「わっ、そういう事!?と、とりあえず行ってくるね!」
「はーい」「いってらっしゃーい」

と、妖精達に送り出され、再び街へ向かった。



馬は迷う事なく、街へ向かった。
この国は平地が多いのか、景色は一辺倒だが、空気は澄んでいて心地良い。
街に近づけば、その周辺に集落のような物もあり、更にその周りには田畑が広がっていた。四方の国はそれぞれ違うものを生産していると言っていたが、この国は農業が盛んなのかもしれない。
それからすぐに街中へ入り、ハロルドの(弟が住んでいる)家にたどり着いた。
物音に気が付いたのか、中から人が出てくる。

「あ、えーっと、ココロさんだっけ」
「あ、はい。早速お邪魔します」
「いえいえ。あ、馬車はこっちにお願いします」

そう誘導されて向かったのは、裏口に近い馬小屋だった。少し広めの馬小屋に、一頭だけ繋がれている。
馬車から降りて、軽く服を整えてから、馬車を外そうと振り向くと、驚くことに馬車が無くなっていた。

「は?え?何で!?」

弟くんなら分かるだろうかと彼を振り向くと、ココロと同じように、いや、それ以上に驚いている。

「い、今の、…何!?」

どうやら消えた瞬間を目撃したようだ。目をぱちくりと見開いて驚く姿は幼く見える。まだ高校生ぐらいだろうか。
そんな事を考えていると、ふと目が合う。取り繕うように小さく咳払いすると、焦りながら側へやって来た。

「あ、中通るんですよね?!馬は小屋へ入れておくので、使って下さい!」
「え?でも馬車がどこかに…」
「大丈夫です。保管されてる(はずな)ので!」
「そ、そうですか?じゃあ、お願いします」

馬小屋へ入れると、自然と無くなるのだろうか。まだその辺について詳しくないココロは、気にしながらも中へ入っていった。

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