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1話

フカフカなベッドの中で、微睡みながら目を覚ます。
なにか夢を見た気がしたが、瞬きした瞬間に見ていたことも忘れてしまった。

「ココロー、おはよー!」
「あ、おはよう」

ココロが目を冷ました事に気が付いた妖精達が、嬉しそうに飛んでくる。
おはようと返した所で、言葉に詰まる。
なぜ今まで気が付かなかったのか。いやまだ3日目だ、早く気が付いたと言った方が良いのか。と逡巡する。
とりあえず気が付いた事に変わりは無い。

「そう言えば、皆はなんて言うの?」
「?」

そう問いかけたココロに対し、妖精たちは首を傾げる。
どうやら質問の意図が上手く伝わっていないらしいので、言い方を変える。

「皆の名前は、なんて言うの?」

そう、ここへ来て気になったのは、妖精達の名前だった。
分かっているのは、それぞれが使える能力(一部不明だが)、それだけ。
「私」や「僕」等も使わないので、性別が有るのかすら分からない。
顔は皆同じだが、身に着けているものが全員違う事、髪型も少しずつ違っているから、見分けがつかない事は無い。
彼らは皆、ココロを嬉しそうに『ココロ』と呼ぶのだから、せっかくならこちらもそうしたいと思う。

「なまえ、ないー」
「え、無いの!?」
「そうー」
「みどりさんには呼ばれてなかったの?」
「よばれてたー」
「けどないー」
「えぇ…」

いったいどういう事なのだろうか。
名前は無いが、昔共に過ごしていた「みどりさん」には呼ばれていて、でも結局無いとは…。混乱するなと言われる方が無理がある。

「ココロー」
「ん?」

頭を抱えたくなった時に、昨日生まれたばかりの、雷の妖精が目の前にやって来る。
そもそもこの子に関しては、生まれたばかりだから無いのは当然だが。

「よびたいので、よんでー」
「え、どういう事?」
「なんでもいいよー」
「えーっとつまり、私が名前付けて良いって、事?」

そう言うと、全員揃って大きく頷いた。

「わぁー責任重大…」

ネーミングセンスは、正直ある方では無い。壊滅的ではない(と思いたい)が、そうキラキラとした目で見つめられると、無理とは言えなかった。

「じゃ、じゃあ頑張って考えてみるね」
「わーい!わーい!」
「やったー!」

はしゃぐ妖精たちを尻目に、少し後悔しながらベッドから降りる。
支度を終えて、朝食の準備をしに階下へ向かう。
途中タブレットを確認してみると、FPは既に100消費された状態だった。恐らくだが家の中で水や電気を使えるように、1日50ずつ、自動的に消費されるのだろう。

昨日買ってきたもので朝食を済ませ、今日行う事を整理する。
まず畑(と言っていい広さではもはやないが)について。この後確認するが、肥料がまだ出来ていないのと植える種や苗がないので、買ってこなければならない。
それから昨日は時間が足りなかったので衣類が殆ど無い状態は続いている。
そしてもちろん、食材は必要不可欠。
つまり、昨日に引き続き、買い物へ行く必要があるという事だ。
あと、妖精達の名前を考える使命も忘れてはならない。

片付けを終えて外へ出る。太陽の光と、優しく吹く風が気持いい。
そう感じてすぐに、直感的に名前の候補がいくつか頭を過る。
直感は大事だ。これを逃すと考えるのに苦労しそうだ。
ワクワクと、名前を待っていた妖精達を振り返る。

「直感で、思いつきに過ぎないんだけど、いい?」
「いいよー」

「なになにー?」「やったー」と返事が続く。
最初に思いついたのは青、藍、黄、黒の妖精。全員能力に関連している。
まず黄色の妖精は、太陽の光から連想して「ソラ」。「ヨウ」もいかな、なんて思ったけれど、ソラかしっくりきた。
そして青の妖精は「スイ」、藍は「フウ」、黒は「ライ」。水、風、雷だから。

次に赤と濃灰。赤は昨日妖精達が取ってきてくれたリンゴから「リン」、濃灰は工具→DIYと連想して「ディ」

未だ能力が不明な白と桃色、紫。そして能力から思いつかなかった灰と橙の妖精は、色から取ることにした。
白と紫は英語から。「ホワイト」から「イト」と、「ヴァイオレット」から「レツ」

残り3人は本当に思いつきで、以前興味を持って調べたことのある国の言葉で、桃色は「ロズ」、橙は「ルト(ポルトカリから)」、灰は「グリ」。

それぞれの名前を、1人ずつ伝えていく。
自分の名前に喜んだり、他の妖精の名前を確認し合ったり、皆楽しそうだ。

「ココロ、ありがとー!」
「ありがとー」

最後には全員でココロを囲み、満面の笑みで感謝を伝えてきた。

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