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13話

話し込んでいると、馬車が停まったのに気が付いた。

「あれ、ここ…」

最初の目的地は近くの街だった。
しかし馬車に乗っていたので、大分遠い所まで来てしまっていた。
そこは、昨日ハロルドに連れてこられた、南の国にある街からだった。

「必要な物、色々あるみたいだから、それなら中央が一番だよ。知っておくと便利な店もあるし」
「そうなんだ」

今日は元々、何も買うつもりは無かった。所持金も無かったし。
けれどお金があるなら話は別。荷物にもならないのなら、あとは時間が許す限り必要な物は買っておきたい。

「それじゃあ行こうか」
「はーい」

目の前には何かの店が一軒。昨日通った家だ。店だとは気が付かなかった。
扉を開けたハロルドに続いて中へ入ると、誰かがいた

「あ、兄さん。お帰りなさい早かったね」
「あぁ、まだ出掛けてなかったのか」
「うん、けどもう行くよ。…その人が、新しく着た人?」
「そ。じゃ、気をつけて行けよ」
「はーい」

短い会話を交わし、ハロルドは奥へと進む。
それに続きながらチラリとハロルドの弟(?)を振り向くと、それに気がついて小さく手を振っていた。

「弟さん?」
「そ、下の弟。この家を自由に使っていい代わりに管理させてるんだ。他の国の家も、別の兄弟に任せてる」
「え、まだいるの?ていうか、全部の国に家があるの!?」

全部と言うと5つだろうか。管理する人が居るとはいえ、多くないだろうか。

「移動に便利なんだ。国家間を街道使って移動するには時間がかかり過ぎるからね。まぁ、全部曾祖父さんから引き継いだんだけど」

目の前に、3度目となる5つ並んだ扉。
経験からして、この扉はそれぞれの国の空間が繋がっているのだろう。左右に1つずつノブが付いているのは、回したノブによって行き先が変わるのだろうか。
ハロルドは、真ん中の左側のノブを回した。


「俺は普段中央にいて、曾祖父さんが転移者の存在を察知したら連絡が来て、保護に向かうってわけ」
「じゃあ一昨日、あんなに早く会えたのは偶然じゃ無かったの?」
「半々かな。転移者が現れるのは完全にランダムで、どこの国に現れたかまでしか分からないみたいだから。あの日は、東の国を虱潰しに探すつもりだったのが、家のある街に居てくれて助かったし」
「そうだったんだ」

たどり着いたのは中央国家。一昨日とは違うところだった。
使う扉によって向かう国が定まっているのだろう。左端が東、真ん中が中央国家、その右隣が南。予想だが、右端が北、中央国家の左隣が西に行けるのだろうか。
考えながら先を行くハロルドを追いかける。


「う、わ…」

外は一昨日見た通りの大都市。高層ビルが立ち並び歩道には人が溢れている。
アンバランスなのが、車道(と呼ぶべき場所)は車ではなく馬車が行き来している事だ

「この世界には、車はないの?」
「昔はあったみたいだよ。恐らく地球から来た人が能力で作ったらしいけど、燃料となる物がこの世界に存在しなかったから、結局使われなかったらしい」
「へぇー。あ、でもあれは?」

以前は見下ろした不思議なチューブを指差す。
上からは遠すぎて見えなかったが、斜め上に見上げることになるので、人が何かに乗って通過していくのが見える。

「あれは風の力を使ってビルを行き来出来るように作られたんだ。基本は地上に降りてから移動するけど、急ぎの用事の場合、使用することが出来る。許可制だけどね」
「へぇー」

横に移動するエレベーターみたいな物だろうか。もしくは歩く歩道。
どちらにしろ、ココロが使うことは無さそうだ。

「ま、今日のメインは買い物だから。最初はどうする?」
「最初は家電製品からかな。生活には欠かせない」
「それなら店は…。待って、ココロならあそこじゃないと」
「え?」

いつの間にかたどり着いていたのはいろんな店が並ぶ通り。中には家電量販店と思われる看板も見えたので、そこへ行くのかと思いきや、急に進路を変えた。

「え、待ってどこ行くの!?」

人混みに紛れないように慌てて追いかける。
大通りをしばらく歩いた後、横道に入っていった。
横道と言っても馬車が1台通れるほどの広さがある。しかし人は疎らで、人が溢れていた大通りとは大違いだ。
そこもしばらく歩いていくと、周りのビルに比べると少し小さなビルの前で立ち止まった。

「ここに、お店があるの?」
「そ。俺も久しぶりに来たけど」

自動扉を開けて中へ入る。扉は二重扉になっており、内側の扉までは数メートルあり、幅も広い。横の壁には、ビルの案内板がある。
そして目に付くのは、扉の横に設置されているいくつかのボタン。そのボタンの配置には、見覚えがあった。

「え、いきなりエレベーターなの?」
「ビルに入ってる会社が複数あるからね。それぞれの受付がある階まで直通出来る」

今日は使わないけど、と言いながらボタンを1つ押すと、内側の扉が開いた。
簡素な受付には誰もおらず、奥に続く扉が開いている。
ハロルドはここで待っててと言い、その扉へ近づき、中へ声をかけた。

「コーダイさーん、いるー?」
「あ?なんだ、ハロルドの坊主か」
「坊主はもう止めてよ」

そんな会話が聞こえてくる。扉から離れたハロルドの後ろから、男性が1人出てきた。
ガッシリとした体格の、ちょっといかつい顔をした男性。ツナギを着て首にタオルを巻いているところを見ると、作業中だったのだろう。
しかしそれらを無視して、ココロの視線は頭の上に釘付けになった。
そんなココロに、男性が気づく。

「お?なんだ、今日は連れがいるのか」

そんな言葉も、ココロの耳には届かない。
何しろ、頭の上にはアンバランスな小さい丸い耳が付いていたのだから。

「ココロ、ココロ」
「あっす、すみません!」

ハロルドに声をかけられてはっとする。思わず凝視してしまっていた事を即座に謝った。

「気にするな、嬢ちゃん。初めて会う奴はみんなそんな反応するから、もう慣れちまったさ。最初は気に入らなかったがな」

ガハハと豪快に笑う男性。コーダイさんと呼ばれていただろうか。
冷静になって考える。耳を持つ人は能力持ちである。そしてその人たちはココロのようにこの世界にやって来たか、能力を受け継いだ子孫かのどちらかだ。
そしてセリフからして、前者だと予想がつく。

「で、今日はどうしたんだ?」
「あ、そうそう。コーダイさん、ココロも同じなんだよ」
「お、そうなのか。どこからだ?」

予想は合っていた。そしてハロルドの言葉に相手も理解したようだ。
興味深そうに視線を向けてくる。質問の意味を理解して、答えに一瞬戸惑う。地名で良いのかと。
しかし肌の色や顔の作り、『コーダイ』という名前の響きに、答えは自然と出てきた。

「日本です。名前は澤村ココロと言います」
「おぉ、やはり同じか!俺は田所鉱大ってんだ」

嬉しそうにニカリと笑うコーダイさんに、同じ所から来たという安心感もあり、笑顔を浮か

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