14話
コーダイさんは、今から30年ほど前にやってきたそうだ。
しかし、地球とこちらの世界は時間の流れが違うらしい。生まれた年で言うと、少し年の離れた兄ぐらい。年齢で言うと、父親と同じぐらいだから違和感しかない。
そんなコーダイさんの能力は、家電製品の改良と製造。
元々、この世界にあった電化製品は、地球で『三種の神器』と呼ばれる物しかなく、あまり普及もしておらず、性能も良くなかったのだとか。
そしてコーダイさんがやってきて、見かねて手を出した所、飛躍的に性能が良くなり、普及率も上がったりのだと言う。
元々工業科の高校大学を出て、そのまま有名どころの会社へ入社したそうだ。
知識と能力が相乗効果を生み、今では家電製造を一手に引き受ける、大規模な会社のトップだという。
「ねぇハロルド。なんでそんなすごい人のところに来たの?」
コーダイさんのすごい経歴を聞いて、純粋に疑問に思ったことを口にする。
色々揃っているなら、外で見かけた店で買っても良かったはずだ。
「それは俺から話す。ハロルドには、もし地球から来たのがいたら連れてきて欲しいって頼んでたんだ。日本ならなお良し。なんだが、なかなか来ないもんなんだよな。バシバシ来られても問題ではあるが」
そう。ここに来るということはつまり、事故死したという事。あまり喜んでいいことでは無い。
「まぁ、連れてきてもらいたかったのには理由があってな。俺の電化製品の知識は死んじまったところで途切れてるから、何か知らない製品は無いかと気になってたんだ」
そう言いながらカウンターの中へ入っていく。
中央部分で何か操作していると思ったら、透明なウィンドウが現れ、電化製品がリストアップされる。
「俺が知る限り作った物だ。これ以外になにか知っていたら教えて欲しい。もちろん礼は弾む」
頭を下げられれば断ることなんてできるはずが無い。小さな耳までもがヘニョリと垂れ下がっていれば尚更だ
「わ、分かりました。あまり詳しい方ではないですけど」
じゃあ失礼して、とウィンドウを覗く。
種類ごとに並べられているので見やすかった。
「すごい、色々ある…」
衣食住に必要な家電は網羅されているんじゃないかと思う。欲しい物はここで買いたいくらいだ。
そんななかから無いものを探すのは至難の業ではないだろうか。
「あー、もしかしてあれが無いかも」
「なんだ!?何がないんだ!?」
「わっ!?」
小さなつぶやきを聞き逃さなかったコーダイさんが顔を近づけてくる。
それに驚いて転びそうになったが、ハロルドに支えられて免れた。
「コーダイさん興奮しすぎ」
「す、すまない」
申し訳ないと大きな体を小さくする。けれど瞳は、期待するようにキラキラと輝いていた。
「えっと、多分ですけど…布団専用の掃除機と、油を使わずに揚げ物が出来るのが無いのかと」
「ふむ、確かに聞いたこと無いな」
「つ、作り方とかは分からないですけど」
「いや、充分だ。よし、早速やってみるか。あぁ嬢ちゃん、欲しい物あったら買ってくと良い。安くしとく」
「わ、ありがとうございます!」
どうやって作ったものかと言いながら、コーダイさんは奥へと入っていく。
それを見送りながら、ふと気がつく。
買っていいと言われたが、商品が周りにあるわけでもなく。どうしたらいいのかと、後ろにいるハロルドへ視線を向けた。
「難しくないよ。ここに住民カードを置いて、欲しいものを掴んでリストから引き出すと、住民カードにストックされるから」
住民カード、もとい、タブレットを置くところまでしか分からなかった。
置けば分かるよと言うハロルドの言葉に従って、ウィンドウの真下にタブレットを置く。
すると、タブレットに見覚えのある物が表示された。
『カート内 0件
合計金額 0ベル』
まるでネットショッピングだ。この世界の通貨がベルというのも今知った。
そしてウィンドウも連動しているのか、『ご希望の商品をお選びください』と表示されている
「え、選べばいいんだよね?」
恐る恐る、今表示されているリストから一つ選択する。詳細が現れた。
機能は地球産と変わりない。値段も同じく。だが、コーダイさんの言葉が反映されているのか、定価より2割ほど安くなっている。
画面を戻し、購入へ踏み切る。リストから引き出すと言われたが、どうすればいいのか。とりあえず、指でそのままドラッグしてみる。
タブレットのカート画面に、購入リストが表示された。
やり方がわかり、商品リストを上から見直す。種類ごとに表示されているから見やすい。
「まず必要なのは冷蔵庫にレンジに炊飯器に…」
選び始めたら止まらない。オーブンレンジを見つけてレンジを削除したり、かぶらないように注意しながら、リストを埋めていく。
大きい家電を選び終えて、小物タイプに分類されている商品を覗く。ドライヤーは必須だ。他にも必要な物があればカートに入れていく。
一番下に、見慣れないものを見つけた
「あれ、これなんだろ」
一見オモチャに見えなくもない、人形をした物。場所が場所だけに、ロボットだとは予想つく。
「あ、それは持ってたほうがいいよ」
「え?」
「設置や、不調があった時の修理が出来るロボットだから」
「おぉ、便利だね」
確かに考えると、あの土地はまだココロ以外入る事ができない。
そしてもちろん、ココロは電化製品の設置等出来ない。コンセント指すだけなら平気だが。
となれば、そのロボットは必要不可欠だろう。
最後にそれを選択する。金額を確認して、クラリと目眩を感じた。普通の買い物では見ない数字の羅列がそこに表示されていたからだ。
しかし所持金からしたら問題のない数字。今諦めて後悔するならばと、購入を決意した。
「終わった?」
「うん、そのはず」
「じゃあ、ちょっとコーダイさんに声かけてくる」
必要な家電は揃えられた筈だ。
奥へと向かったハロルドは、しかし何も言わずに戻ってくる。
「?」
「集中してるみたいだったから。待ってると時間無くなるし、次行こうか」
異論は無い。出口へ向かうハロルドの後へ続いた