vsアルモ
「戦う前に良いかな?」
「何だ」
「敵である僕が言うのも何だけど、その娘、そのままで良いの?」
「うん? って、エリエアル!?」
ディレクが振り返ると、ディレク達より後方の少し離れた場所で、エリエアルが血を吹いて倒れていた。
「エリエアル様! 大丈夫ですの!?」
「うっ、良いドヤ顔頂きました……」
「……何を仰ってるのか分かりませんが?」
サムズアップするエリエアルに、アメリアは困惑しか無かった。どうもアーチボルドの割と考えなしだけど男らしい一言を放った際、誇らしげなアメリアの様子に我慢できなかったらしい。
「何か気配が感じられないと思ったら、意味不明な理由で鼻血噴いて倒れてるとか。なんつーか、転生組は何処か変だよなぁ……」
「うーん、何とも言えない」
アーチボルドが思ったままを口にし、エリオットは配慮を見せて肯定もしなかった。そこにアルモが口を挟む。
「……うーん、僕はその意見に賛成できる立場じゃないなぁ」
「お前の所にも居たんだったな」
「そこは隠しても仕方ないしね。ああ、こちらにも転生者は居るよ。誰、とまでは教える気は無いけどね」
「どうでも良い。知った所で戦況が好転するわけでもないからな。どうせ聞くなら、シークレット枠とやらを聞かせてもらいたいものだ」
「あはは、無理に決まってる」
「だろうな。(ベティ嬢! 感覚共有だ!)」
『ほいほい、基本はディレク様、後はアメリア様かな?』
「(他三人は慣れてないからな)アーチボルド! エル兄! まずは俺が出る!」
「おう!」「ああ!」
「へーえ、皇子様から直々に相手してくれるんだ。おっと、中々鋭いねっ」
飛び出したディレクの斬撃を事も無げに躱すと、逆に打って出ようとするアルモだが、
「せいっ!」
「うわっ!? っとと、連携も上手いねぇ」
そのまま打っていたら逆に討ち取られていたであろう、アーチボルドの痛烈な切り払いを危うく避けたアルモ。しかし、その避けた先にはディレクの刃が迫っていて、
「ぐぅっっ!?」
「これも避けるか!」
「まるで僕の動きを全部捉えてるかのようだね!?」
「かもねっ!」
ガッギィィンッ!
アーチボルドが体勢を崩し、畳み掛けるように迫るディレクの攻撃を飛んで躱したアルモを、遂にエリオットの斬撃が捉えた……のだが、
「っつっつー、痛いなぁもぅ……」
「そんな軽い感想を述べれられるような一撃じゃなかっただろう? なるほど鉄壁とは言い得て妙だね」
「お褒めに預かり光栄です、なんてね」
アルモが首に受けたはずの斬撃は、傷一つ付けられていなかった。何てこと無いかの様に振る舞うアルモに、3人の表情が引き締まる。
「エリエアル様、ピック・ソーアクス・ウォーハンマー・ウッドハンマーの生成を」
「分かったわ」
アメリアがエリエアルに指示を出し、武具創成の光魔法によって武器の変更を指示。エリエアルは3人の手元に光を集め、それぞれの武器を生成する。
「おおっ!? 何か物騒な武器だね!」
「是非切断されて貰いたい!」
ソー、つまりのこぎりの様な刃を持つ斧を手に、エリオットがアルモに迫る!
「うわっ! 流石にそれは怖い!」
大仰に飛び退いたアルモを、重量と遠心力でもって相手の装甲を貫通させる機構をもつピックをもったアーチボルドが襲う。
「それも痛そうだ!」
身を反らして避けたアルモの頭めがけ、ウォーハンマーを構えたディレクがコンパクトに振り抜く。
ガインッ!
「ぐっ!?」
軽く跳躍して威力を半減させたものの、ハンマーはしっかりアルモの頭部を捉えた! 地面を転がるアルモに追いついたのは、アーチボルドであった。
「おおおおおっっ!」
「ごうっふ!」
アーチボルドのピックは正確にアルモの胸部に突き立てられた! ……は、突き刺さってはいなかった。『鉄壁』の二つ名の面目躍如であろうか?
「ぐぅっ、残念だった……」
「ぜあああっっ!」
「がっ、ああああああ!?」
バキンッ! ビシビシビシビシビシィッッ!
突き立てられていたピックめがけ、巨大なウッドハンマーに武器を持ち替えたディレクが振り下ろしたのだ。流石のアルモの装甲も貫き、完全に胴を貫通したのが分かった。
「やっ……たか?」
「酷いなあ。殺られるのって結構痛いんだよ?」
「うおわぁっ!?」
アルモの胴体貫通死体があるはずの背後から、当の本人からの声が掛かり、思わず飛びのくアーチボルドとディレク。エリオットは潰れてる方のアルモと、今声を掛けてきたアルモとを見比べている。アーチボルドもすぐ持ち直したのか、アメリアにアイコンタクトを取っている。
「しっかりと戦況を見ておりましたが、残念ながら一瞬で姿を表したので何処から、というのは確認できておりませんわ。そもそも潰された方のアルモさんにしても、ちゃんと生命反応ありましたし……」
「くっ、初めからやり直しか!」
「武器はこれで良さそうだなぁ!」
「じゃ、もいっちょ行くよー!」
「同じ手を食らうとでもぉっ!?」
連携の起点であったエリオットに注意が行ったのを見て取ったアーチボルドが、思い切り何かを引っ張っている!
「網ぃ!?」
気付かずに絡め取られた形のアルモは慌てるものの、身動きが取れず……
「もいっちょ!」「おおっ!」
「がぁっっあああ!!」
エリオットとディレクがピックとハンマーで息ぴったりに止めを刺す。
「それ凶悪過ぎないか!? すっごい痛い!」
「またか!?」
飛び退くディレクとエリオット、そしてアーチボルドはアメリアに目配せするが、アメリアは首を振る。
「どういう理屈か分かりませんが、またも突然現れました。私達の目に映ってない何かがあるのかも知れません」
「あー、くそ。どうすりゃ良いんだ?」
アーチボルドは苦虫を噛み潰した様な顔をしてアルモを睨む。
「そうは言うけどさぁ。君達だって大概おかしいよ? 僕の装甲は貫くし、まるで意識を共有してるみたいに連携してくるし。うちの脳筋共相手に死にそうな目に遭いながら特訓してきた僕の身にもなってほしいね」
アルモはそう言って、やれやれと言わんばかりに首を振りながら近づいてくる。
「モードR行きます!」
「え? 何? って、うおっ!? なにこれ!? ……椅子?」
アルモの足元に現れたのは大量の椅子。視線をディレク達に戻すと、彼等は一斉に距離を取るように走り去っていた。
「一体何……」
ズンッ!! ズンッ! ズンズンッ!
アルモが二の句を継げなかったのは、空から降ってきた鉄球が直撃したためだ。
ヒュー……ズンッ! ズズンッッ! ズンッ!
それからも鉄球は途切れること無く降り注ぎ、たまに復活するアルモも椅子や鉄球に進路を阻まれ、新たな鉄球の餌食になっていた。尚この椅子、所々固定されていたり、上に乗ると壊れたりとバリエーションに富んでいた。蘇っても記憶を受け継いでいるらしいアルモが、無視して蹴り飛ばそうとして引っかかったり、それなら踏み台にしようと、登ろうとした椅子が砕けてこけたりと、かなり酷い有様だった。
鉄球はエリエアルの力によって生成されているので、転がってきたり危ない軌道を描いた時にはすぐ消されている。
「……誰だよ、この酷い作戦思いついたのは」
「……フローラ様ですわ」
「……流石、なのかな? 僕はあの娘の事、ちょっと怖くなったよ」
「……エル兄、絶対に手を出しては行けない相手ですからね」
「出さないよ!?」
「……はぁっ、はぁっ、ちょっと、キツイです。ギブ……」
エリエアルの魔法も無尽蔵というわけではない。とはいえかなりの数の鉄球は降らせたし、アメリアの計測では30人以上のアルモを屠っているようだ。
「これで多少はあいつの力を削げたなら良いのだが……」
「何してくれてんの?」
「うっわぁああ!?」
すぐ背後からの声にディレクが飛び退く。他の面々もアルモから距離を取るが……
「エリエアル!?」
魔力切れで息の上がっていたエリエアルが、アルモに捕まってしまっていた。
「本当、無茶苦茶してくれるよね? 痛いって言ってんのに、何アレ? 人の思考にあるまじき方法を思いつくよねぇ?」
((((((それはフローラが……))))))
ベティを含めた6人の意見が揃った。
「そして身を持って思い知らされたのは……君。君の厄介さだね」
「は、離し……」
「だから……このままっっ!」
「えっ……キャアアアアア!?」
「エリエアルー!?」
アルモはエリエアルごと、天空闘技場から見を投げ出してしまったのだった。
「あいつ! 何て事を!」
「しょうが無いじゃない。あの娘が居たら、僕はきつ過ぎるんだもの」
「「「「 !? 」」」」
「……お前、何でもありか?」
「ははっ、そうでも無いよ? 今の方法なんて、取られると思ったらもう引っかからないだろう? 苦肉の策って奴だけど、本当はあの娘に使う予定じゃ無かったんだよね」
「くっ、エリエアル……」
「さぁ……厄介な武具創成魔法使いはもう居ない。続きをやろう」
小さく愛らしくも不気味な『鉄壁』アルモがじわりと距離を詰めてくる……。