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白毛の宿命

そして俺たちもまた、マティエから【それ】を聞かされた。
ルースは余命三年しかないということを。

「一体なぜ……あいつがそれだけしか生きられないなんておかしくねえか? 何をもってそう言えるんだ」
「ルース……いや、ルース・ブラン・デュノ様は代々伝わる【殺薬師】の家系。その中でも白毛は短命にして忌み子とされているんだ」
忌み子って……つまり生まれるべくして生まれた子ではない。そして存在すら無かったことにするため、ひっそりと殺される。とは聞いたことはあるが、それは人間の貴族なりお偉いさんの話だろう。ルースに限ってそんな……

「だがルースの母親は、たとえ忌み子であっても我が子を殺すことができなかったんだ……デュノ家の文献によると、過去一人だけ白毛がいたとのこと。彼もまたルースという名前だったそうだ。そして彼は二十歳の時に白毛の運命を悟り、二度と白い毛の者は世に出すなと言い残してこの世を去った」
「確か、ルースはいま17歳だったわ……つまりはあと三年ってことか。その初代ルースの予言が確かならば」
ルースの確固たる年齢なんて全然知らなかった。あいついつもおしゃべりで楽観的な性格だったから、そんな運命に晒されてるだなんて微塵も感じなかった……

「私が魔獣と決着をつけたいように、ルースにもひとつの目的がある。それは……」
一度口ごもりはしたが、やがて決心したかのようにマティエは俺たちにルースの思いを話した。

「ルースが死ぬまでにやり遂げたいこと……それは」

「……僕の弟をこの手で殺すためだ」

タージアを連れて、ルースが二階から降りてきた。
「弟を殺す……っていったいどういうことだ?」
今まで俺たちに見せたことがないくらいの深刻な顔……いや、あいつの死期を知ってしまったからだろうか。白い毛のあいつが、今は何故だか影が色濃く見えてしょうがない。
「話せば長くなるけどね……僕には弟がいる。名前はヴェール・ラーズ・デュノ。そしてあいつは……」
ルースは、やや疲れたような笑みを俺とジールに向け、最後の一言をまるで……命を絞るかのように低く小さな声で話した。
「僕の母さんを殺し、そしてこの国を裏切った最低の弟だ……」
「つまり今はオコニド……でなくマシャンヴァルにいるってことか!?」
「ああ。それも王の側近として。大司教と呼ばれているそうだ……」
「これで、分かっただろうか……私たちの真の目的、すべては打倒マシャンヴァルに収束している。あの国を滅ぼすまで、私とルースは結婚はしないでおこうと決めたのだ」
「僕が死ぬか、リオネングが平和になるか……だね」
ルースがくすりと笑って返したが……やめてくれ、自分の死期を自虐にしたところで今の俺たちは全然笑えないから。
「だけど、僕は最後まで運命に抗い続けるつもりだ。タージアと二人で探そうと決めているから」
「ええ……私もギリギリまで頑張るって決めました。忌み子だなんて所詮迷信です。それが本当だとしても、何か生きる道を探す手立てはあるはずですし!」
相変わらずジールの背中に半身隠してはいるが、タージアもあいつの説得に感化されたみたいだ。助かった。

「そう。だから僕のことはあまり気にしないでくれ。それにこんなことで怯えて生き続けたくはないしね。もはや隠し事も抜きにしたい。だから……今こそみんなで力を合わせる時だ!」
「それなんだが……」すまん。いきなり話の腰を折ったりして。

そして、その言葉に盛大にずっこけたのは……やっぱりルースだった。
「一ヶ月だけ待ってくれねえか……エッザールのことも待ちたいし、そして俺にも」

そうだ、彼女に、最後に逢うために。
「1ヶ月後に、会いたいやつがいるんだ」

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