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余命

結局俺だけ連れてくか、もしくは暖かくなるのを待ってエッザールが来るのを待つか……それは持ち越しとなった。
俺はどっちでも構わない……ワケでもない。
正直怖いんだ。いくら調査だけとはいえ、一匹で何千人も一夜で喰らった怪物。そいつが出ないとも限らない場所に数人で行くだなんて。

ただ、そいつの姿を見てみたいと思う自分もいることも確かだ。
はあ……いったいどうすりゃいいんだか。こんな時そばにネネルがいればいいんだけどな。ほら、あいつマシャンヴァルの姫だし、この件に関してもきっと詳しいはず。

さて、マティエはといえば、珍しくチビと遊んでくれてるんだ。以前だったらギロッと睨みつけて誰も近寄らせもしない気迫を漂わせていたというのに。そこら辺からしても、あいつ変わったなってつくづく感じてしまう。
トガリが前に話してたな「チビは人を見る」って。要は優しくしてくれる人格を見分ける……とでもいうのだろうか。なるほどそうかもしれない。ずっと胡散臭そうだったラザトにはあまり近寄らないしな。

あ、そうだ、ラザトといえば!

「そういえば、ラザトのやつとはいつ知り合ったんだ?」と、思いきってマティエに聞いてみた。
「……私がここで騎士の位を捨ててマシューネに渡った時、あいつはすでにいた。妙に気に入られてしまってな。すぐに私は隊長を任されたんだ」
あー、なるほど。だからちゃん付けで呼んでたわけか。

だけどな。とマティエは続ける。「とにかくあいつは飲んだくれで、おまけに女好き。私みたいな女性にでも限らず……だ」
恐らくマティエが人間の肌をしていたら、頬を真っ赤に染めているのだろうな……
「私はその時すでにルースと婚約はしていた。だがあいつは私に対するアプローチを一切やめなくて、私はつい拳が出てしまったんだ……」
「で、軍をやめてここに来たってことか」
「いや、辞めたのはラザトの方だ」
ええええええええ!?
「あいつは剣の腕も戦略に対する知恵もすごいんだけどな、いかんせんそれ以外がダメすぎて……暇を見つけては街に下りて宿屋や酒場の看板娘をひっかけていたんだ。当然仲間内では擁護をする声があるわけでもなく……」
フィンが激怒して殺すって言ってるのも無理はないと感じた。あの野郎は正真正銘の女好きだったってことか。


……っと、そういえばルースのやつはどこ行ったんだ?

………………
…………
……
「タージア、君が僕を恨んでいるのは十分承知している」
部屋にこもり、毛布を頭からかぶったままタージアはずっと泣いていた。
自分の身勝手さが招いたことゆえ、無理はないと思いつつも、しかしルースの胸には一つの決意があった。
それを早く伝えたくて、彼はタージアと二人で話しておきたかったのだ。
「……」だが、タージアは一向に殻にこもったままだった。

「君に、僕の知識のすべてを教えたかったんだ。もちろん人を殺める術は教える気はない。デュノ家に伝わる薬学のすべてをね」

外の積もった雪に反射した朝日がきらきらと、まばゆく輝く。それはまるでルースの今の毛並みのように。
「できれば早い方がいい。またラボに戻って仕事をしよう。君と一緒じゃなきゃ始まらないしね……僕にはそれほど時間は残されてはいないし」
「残された、時間……?」ようやくタージアはルースと向き直ってくれた。その言葉にどういった意味があるのかを知りたくて。


「僕の命は、もってあと三年くらいしかない……」

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