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月と流れ星

イーグと分かれ、俺とエセリアは……
うん。どこへ行きたいのか全く決めてなかったわ。

「私、ずっと行きたいと思ってた場所があるんです」
どこだって聞いたら、街の東の外れにあるエルテの丘だと。
なんでもそこは、月のきれいな夜にカップルで流れ星を見ると、二人幸せになれるって言い伝えがあるそうだ。
外に出ることすらままならなかったエセリアにとって、そこは憧れの場所、いつか行きたかったのだという。
「よろしいですか? ……ラッシュ様」
「ああ、俺もどこへ誘ったらいいかずっと迷ってたしな」
デートはともかく、こんな深夜に出かけたことなんて生まれて一度もなかったしな。エルテならそれほど遠くないし。
てなワケで、どうにか人目に触れることなく俺たちは街外れの丘に着くことができた。
丘とはいってもそんなに高くはない。そしてその
てっぺんには大きな樹が、まるで傘のように葉をたくさん繁らせていた。

周りに誰もいないことを確認して、二人柔らかな芝生の上で寝そべる。
「寒くねえか?」
「さすがに……ちょっと」だよな。まだまだ寒いし、丘の上だから風も冷たいし……俺たち獣人はいわゆる天然の毛皮を着てるからいいものの、人間のエセリアにとっては身体に堪える。
だから……俺の膝の上に彼女をちょこんと腰掛けさせた。
「ラッシュ様ってほんと暖かいですね……」笑って答える彼女の身体はとても小さく、ひとたび突風でも吹いたらどこかへ飛んでいってしまいそうだった。
だから俺も、イーグに言われた通り、背中をしっかりと抱きしめる。

だけど……いつまで経っても流れ星ひとつ落ちてはこない。困ったな。こういう無言の時間ってどうすりゃいいのか。
「天国に行くって、いったいどんな感じなんだろうな?」
俺はついこの沈黙に耐えきれなくなり、心にもないことを質問してしまった。

「えっと、ふわりと身体が軽くなって、空に吸い込まれていく……って聞いたことがあります」
「地面じゃなくて、上にか?」
「ええ、亡くなった人の住む場所は、空のさらに上にあると聞いたことがあります」
そうなのかよ……初めて聞いた。つまりは親方も今はそこにいるのかな。

「そうだ、よろしければラッシュ様の子供の頃の話とか……していただければ嬉しいのですが」
「したって面白くもなんともねえぞ」
エセリアは突然、ぷぅと頬を膨らませた。「結婚してるんですから、ラッシュ様のことを知るのは当然の権利です」だと。それは分かるけどな……けど、仕方ないか。

だから話してあげた、両親の顔すら知らなかった俺の、ずっと傭兵の仕事に明け暮れてた俺のつまらない物語を。
「毎日……戦いに出かけられていたのですか?」
「ああ、至るところで敵さんと小競り合いしてたからな。親方の言われるがままに毎日転々としてた」

「その親方様が、ラッシュ様のお父さん代わりだったのですか?」
「そう、いわゆる戦いの先生……とでもいうのかな。毎日びしばししごかれたさ」
「そんなことをされて、辛くなかったのですか……?」
「それが俺にとっての普通の毎日だった。けど昼寝もできたし、メシもたくさん食べさせてくれたしな。辛いって感覚は全然なかったな」

「ラッシュ様は、身体だけでなく心も強かったんですね」エセリアは悲しそうな笑顔で、俺にそう告げた。

「強くなんてねえさ。第一、親方が亡くなったとき、俺はずっと泣き続けてたしな……近所迷惑になるくらいでっかい声で」
「いいえ、それこそがラッシュ様の強さと優しさの現れなんだと思います。だって……」
ふと口ごもり、ふるふると首を左右に振った。
そして……

「私が死んだときには、ラッシュ様は泣いてくれますか……?」
そうだった、彼女も、エセリアももうすぐこの世からいなくなってしまうんだった!

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