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調査と証拠と

さてさて、こういうのってやったことがないからどういう風に進めたらいいのか困る。俺も口ベタだしなあ。やはりここはルースに任せるしかないか。

「どうですか、マティエの容体は……」ロレンタが心配そうな顔で聞いてきた。ってことは分かってたんだな。
「目が覚めた時はいつもと変わらなかったんだけどね。その後、秘蹟で何を見たのか話してた時だった。急に顔色が悪くなって、何か見えないものを恐れるかのように大声で叫び出して……」

なるほど、それがあの状態だったワケか。
「落ち着かせるまでに一苦労だったよ。アスティも投げられるわ蹴られるわで散々だったし」
そんなことをルースが話してたら、ナイスタイミングでアスティが現れてきた。

「大丈夫なの? まだ安静にしてなきゃ!」
鼻には大きな湿布。それに松葉杖もついてて……以前川で見つかった時よりひどい状態だ。
「いえ、ラッシュさんがきていると聞いたから……いてて」

あの女、体格からして俺と同じくらいだしなあ……落ち着かせるのも一筋縄ではいかなかったんだろう。
「あの秘蹟ってのは、基本的にそんなに危険なもんなのか?」
逆に聞いてみた。俺ですら暴れそうな夢見だったしな。それほどまでに副作用があるものなのかと。
「ええ、はっきりいってラッシュさんがそこまで平穏無事でいるのが不思議なくらいですし……ですからあなたには聖女としての素質「いやそこまででいいから」」

ロレンタの言いたいことは分かった。だがコイツに俺のことを語らせると後半はロクでもないこと言いやがるから注意しないとな……俺は聖女じゃないっつーの。

そしてもちろんオグードの秘蹟そのものの歴史を聞いた(アスティから)。結構この酒飲むのって危険なものなんだなと。
「心の弱い方だと心はおろか、身体まで壊してしまいます……しかしそれこそが神様の与えた試練だと、先代たちは言ってますが」

やべえ、それほどまでに危険なものなんだ。だからディナレ教会に勤めるものたちは、これを受けるも受けないも自由。だが受けて無事帰ることができたあかつきには、最高位に臨むことも叶うのだとか。

「秘酒の薬効がここまで尾を引くのって……正直異例なんですよね。あれは自身の心の弱さとか秘めた過去を幻覚のように夢として映し出すもの。つまりは目が覚めたらそこで効果は切れるのですし」
「うん、アスティの言う通りだ。その証拠にラッシュはピンピンしてるしね……」
「効きすぎたってことはないのか?」
「それは僕も思ったさ。けどお酒と一緒さ。一日もあれば薬効も抜ける。だから二日経ってもあのままというのがおかしすぎるんだよね……」

となると、つまりは……

「「誰かがなにかを秘酒に混ぜた!」」

おいおい、同時にルースと叫んじまったし。
「その通りだ、タージアはそれを突き止めろという意味で僕らを教会によこしたのか……!」
ならば話は早い。早速俺とルースは酒蔵へと向かった。
……………………
…………
……
教会の地下室に酒蔵はあった。
だが俺たちが行った先は、光も差さないひんやりとした小さな部屋。ランプの灯りだけが全てだ。
「奥の方に酒の入った甕はさらにあります。けど基本的にあまりそっちへは行かないので、ここに必要な分だけ移してあるんです」
そこにはぽつんと小さな甕がひとつ。中を覗くと……うん。例のクソ不味い苔の匂いが……

……あれ?
「どうしたの、ラッシュ?」怪訝そうな顔を見てルースが聞いてきた。
そうなんだ。あの匂いが全然しないんだ。
ルースとアスティに聞いてはみたんだが、この二人、この酒の匂いまでは全く嗅いだことがないから、その違いには気づいてくれなかった。

……ヤバいな。となると、これを証明できるのは俺しかいないってことになる。だが俺には【何が混ざってこんな匂いになったのか】がまるっきり分からない。当たり前のことだが、俺には知識もクソもないから……
どうする俺。こうなったらこの甕ごともらってタージアのラボで調べてもらうしかなさそうか……

いや、まだ調べてないことがひとつあるじゃねえか!

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