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2vs2

「オヤジ……ぶっ殺す!」
「ラッシュ……ここでお前を殺す!」
いや、フィンの件についてはわかる……わかるけど、一体なんで俺の方が見ず知らずの奴に突然殺すとか言われなきゃいけねえんだ!
さっきまで賑わっていた店の中が、フィンの声で一気に静まり返った。
さて……と。どうするか。フィンからナイフを取り上げたいが、そのスキにこっちの槍が俺の顔面を刺し貫くだろう。
逆に槍を跳ね除ければ、フィンの方がいち早くラザトを刺しに行くだろうし。
要は2択ってやつだ。フィンが先か、それともこの槍から済まそうか……
「フィンか。ずいぶん見ねえ間に大きくなったな……え?」
あろう事か、ラザトはナイフを構えたフィンの真ん前でどっこらしょと声を出して床に座りやがった。ご丁寧に足まで組んで。
「何年ぶりだ? 母ちゃん元気にして……ったッ!」
ラザトの差し伸べた手を、フィンはナイフを持った手で思い切り払いのけた。
「馴れ馴れしく触るな! クソオヤジ」
その右の手のひらに、スッと切られた傷が赤く残った。
「なるほどな、だが持ち方がちょっと甘い……ぞ!」瞬間、ラザトの拳は見事にフィンの鼻っ柱にヒットした。
……槍のデカブツの意識が逸れた、チャンスだ!
俺は目の前の刃を手の甲で払い、すぐさま間合いを詰めてやつの胸ぐらを掴んで、そのまま投げ……ようと……したんだが。
こいつの襟首、いや首の下か。いわゆる胸元だ。
掴もうと手を出した時の、このむにゅっとした、焼きたてのパンの白いところにそっくりな、柔らかな食感……いや違った感触に似た、つまりは……こいつは……
「え、お前……って、女⁉︎」
それを言い終えぬうちに、今度は俺の鼻っ柱にゴン! と頭突きが飛んできた。
クソ重い響きと共に。
ラザトのパンチと大女の頭突き。食らった俺とフィンが吹き出た鼻血を押さえながら「この野郎!」とほぼ同時に叫んだ時だった。
「はい、ストーップ!」
その声に目を向けた先には、そう、トガリと……
親方に匹敵しそうなくらい危険な目つきで俺たち6人を見据えている、これまたガタイの大きな男だった。
「もう、なに考えてるんだよ! ケンカをしにここに来たの⁉︎」
トガリの後ろでは大男がシャツの腕まくりを始めた。
そうだった……ついフィンとこの女みたいな奴に釣られちまって……
「あとで掃除代と迷惑料、請求するからね」
分かってる。これ以上店でゴタゴタ引き起こすわけには行かないってことが。
時間にしてほんの一瞬にも満たなかっただろう。どっちみち迷惑起こしたのは俺の方だ……なんかもう腹減ったのと同時に身体から一気に力が抜けた。
みんなで店を出ると、遥か向こうの城門の方ではにわかに歓声が聞こえてきた。
「ひゃあ、帰ってきたんだにゃ、王子様が」
相変わらずぐでんぐでんに酔ったジールが、誰に向かって言ってるんだか、明後日の方をみて言っていた。
「え……帰るの早くねえか?」そう、俺も驚いた。
「予定が早まったとは聞いていたが……とりあえずフィン、お前は今から俺の家に来い」

いや、あんたの住処じゃないんだが。

そして憔悴しきった俺たちはラザトに付き従いながら、結局は帰宅することとなった。

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