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 目の前の学生は目を釣り上げて俺の机に両手を乗せてきた。ぼんやり原稿を見ていたことを見透かされたのだろうか。元々、非常に出来の良い原稿だったので、もう一度軽く見流して「OK」と俺はゴーサインを出す。文章校正さえ整えば論文賞も狙える出来だ。たぶん。

 「適当に言ってません?あたし、徹夜して仕上げたんですよ」
 「いや、文句のつけどころ、なさそうやからさ」
 「ならいいんですけど。修士に上がっても基本、このテーマで進めたいので」

 誉めたのに腕組みまでしてくれちゃって。そのふてぶてしさはいかにも俺の教え子だ。もっとも、最近の俺はすっかり昼行燈と揶揄《やゆ》されているけど。

 「画像の表情検出から感情判断するまではそこそこ研究も進んでるけど、快・不快以上の深層心理まで抽出するのは至難の業やで。それでもやるんか?」
 「博士課程まで、のぞむところです」
 「その強情さは誰に似たんかね。生き方は自由やけど、先生みたいに生き遅れんなよ」
 「そうなったら誰かに養ってもらいます。あたし、割と女子力あるし」
 「そうかそうか。うちの研究室、残念な独り身ばっかやからな。クリスマスパーティが楽しみや。ほれ」

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