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商家の子

 抜け殻な二人を前に、ミランダことミリーがフローラにぷりぷり怒っている。

「酷いですわ! 酷いですわ! お二人が近くに居ることを知りながら、あんな話を私に振るだなんて!」

「んー。ベティはともかく、メイリアだと二人が近くに居なくてもやんわりと言っちゃうよね」

「そうね」

 ベティは即答し、メイリアは視線を逸らす。

「それとこれとは話が違いますわ!」

 騙されないミリーだった。

「良い? ミリー(キリッ)」

「な、何ですの?」

「この二人はね。普段はガキ大将だったり、本物の貴族だったりで、ある意味遠巻きにされて本音で相手をしてもらえない人種なのよ。ミリーも身に覚え、あるでしょ?」

「うっ……」

 ミリーは非常に真面目ちゃんで、普段から貴族然とした物言いや態度を貫いていたため、かなり浮いていた。それこそ良いように使われていたと言うか……。矢面に立たせて良いところだけかっさらおう、そんな人物しか回りにいなかった。それを主に股間クラッシャーな破壊屋フローラさんにぶち壊され、本音で語り合える友達が出来たのだ。

(何故だろう……良い話のはずなのに、すっごい貶められている気がするのは)

 それよりお前の歯に衣着せぬ物言いで更にショック受けてる二人をどうにかしてやれよ。するとフローラは二人を見て、

「現実が見えた?」

「「(コクリ)」」

 文字通りフィニッシュをキメた。誰がトドメを刺せと言ったか?

(いや、現実は知っておかないと)

 お前男には特に扱い酷いよな。だからモテたこと無いんじゃね?

(何……だと?)

 嘘だろ……。自覚がない……だと?

(ネタでネタ返すなよ)
「まぁ、ミリーの評価ってのはある意味正しいよ。バモン君は基本的に女心分からないし、」

「ぐふっ……」

「マリオ様は腫れ物だし、」

「ぅぇっ!? ちょっと、酷くない??」

「酷くない。割と近づけている私達ですら、胡散臭い明るいキャラが妨げになっているのです! 主に胡散臭さが壁となって!」

「な、何だってー!?」

 ナチュラル「な、ナンダッテー」頂きましたー。

(確かにそう思ったんだけど、何だろうなぁ……あんたに言われると「そうじゃない感」が漂うの……)

 気のせいだから気にすんな。

「で、二人は何か押し売られたの?」

「押し売る……が何を指すかは分からないが、武具の売り込みはよく来てたな」

「僕は時計かなー」

(何で時計……)
「良さそうなのあった?」

「……君は壁を感じてる割にはぐいぐい来るよね」

「マリオ様。何処かの商人に、光るものを感じた所は御座いまして?」

「ごめんなさい。普通にしてください。泣きそうです」

「次私の物言いが気になったら不動の貴族対応で行かせて頂きます」

「許して!?」

「で、どうでしたか?」

「時計は割と良い職人を抱えている商家があったね。もしかしたらカラクリなんかも取り扱ってるかもしれないから今度寄るつもりだよ」

「へえ……ちょっと興味あるな」

「じゃあ一緒に行く? 他の子達もどうかな?」

「……ねえ聞いたバモン君。コレがモテる男の気遣いってやつよ? たとえ二人きりになれる状況が整っていても、さり気なく周りにも気遣うことで、出来る男アピールする手腕!」

「何で俺に言うんだ……」

「それを解説される僕は居た堪れないんですけど……」

「で、商会に行って見る人?」

「私ぱーす」

「わ、私は……」

「わ、私は興味ありますわ!」

「ベティは行かない、メイリアはバモン君次第、と」

「フローラ!?」

「ミリーは興味がそこまであるわけじゃないけど、友達が行くなら一緒にショッピングもいいかしら? これって友達っぽいよね!? 的な流れで参加っと」

「フローラァァァア!?」

 おま、本気で鬼だな。拗ねるミランダを宥めるフローラだが、お前も中身の人は友達居なかったタイプだろうに。

(だからなんか楽しいのよねぇ。ミランダってば特に)

 分かる、が……程々にな。本気で嫌われないようにしろ。

(そうねぇ)

 ちなみに商会からのお誘いはそれほど熱心ではなかった。それは勿論上位貴族達への顔通しの方が本番で、下位貴族への商談はデモンストレーションでしか無いからな。それでも……

「この、たびはっ、おひ、お日柄も、よくっ……」

「……夜ですわよ?」

「みみみ、みなさまにおか、おかれま、して、わっ!」

「……うるさい」

「(ジワァ)ます、ま、す」

 こんなのが来たりするわけだが。良いとこの坊っちゃんって身なりの、それでいて貴族ではないだろう少年だった。

(そろそろギャン泣きされそうよね……)
「(パンパン)はいはい、落ち着いてー。深呼吸ー。吸ってー吐いてー」

「(ゴシゴシ……すぅはぁ)」

「はっ! そこの方! 騙されてはなりませんわ! 死にますわよ!?」

「(すぅはぁ) !! ええっ!?」

「やぁねえ、ミリーったら。普通はその前に気付くわよ。それにそのお陰で緊張もほぐれるんだから良いことづくめじゃない」

「割と羞恥に身が焦がされますのよ!?」

「ととと、特殊なプレイっ! でしょうか!? そそそ、そういうのはわわわ、私には」

「違いますわよ!? まるで私が変態プレイをさせられたことがあるかのように仰らないで下さいまし!」

「えええ!? シたんですか!?」

「何言ってるんですの貴方はぁ!?」

 おーい、カオスだなー。ベティなんかは大爆笑してるじゃねえか。

(全く……世話の焼ける)
「はいはい、プレイもしてなければ誰も恥ずかしい思いはしてない。妙な妄想膨らませないの」

「えっ!?」「えっ!?」

「えってなんだ。ミリーも別に恥ずかしい思いしたわけじゃないでしょうが」

「あっさり騙された恥ずかしさに身を焦がしましたわ!」

「え? そうなんだ……。そこの子も私の言葉で何かあったわけじゃないでしょう?」

「はっ! すっかり言いなりになってました!」

「言い方考えてぇ!? 何だ言いなりって! 落ち着くために深呼吸させただけでしょうが!」

「そう……なんです?」

「ええ、何この子……」

 ざ・フローラさんクオリティ。

(……どゆいみ? 4文字で説明)

 類友

(4文字どころか2文字4音だと!? ……くっそーくっそーぅ!)
「はぁ……んで? あんたもう落ち着いたのよね?」

「え? ……はっ! 凄いです! 言いなりになったら落ち着けました!」

「……んで、何を売り込みに来たの? 商家の子でしょ? 何か宣伝しに来たんじゃないの?」

「あ! そうでした! 最近皆様方が魔物を狩られてると聞いて一枚噛ませて頂きたく!」

「……その話も初耳なんだけど、その話、でかそうな案件だけど? そこに噛める程の商家なの?」

「……?」

「何であんたが疑問顔!?」

「すみませんすみませんすみません!」

 何か警戒心マックスだけどご飯が欲しい食事中に集ってくる雀を思い出させるな。

(上手い例えだなおい)
「……そこの男子二人!」

「呼び方ってか聞き方が雑すぎる! はぁ。上位貴族の一部で周辺の魔物の掃討をしてるとは聞いてる」

「僕も主家筋からの情報として知ってるけど、そこに噛むのは皇家御用達の商家であっても難しいんじゃないかなぁ? 魔石絡みだよね?」

「ご存知でしたか! ……実はうちの家に割り当てられている量がちょっと足りませんで」

「で、学生が狩りまくってるんなら融通してもらおうと?」

「……はい。でも無理、ですか。残念です」

 見るからにショボーンと落ち込むどこぞの商家のちびっこ。まぁ小さいだけで同じ年なわけだが……。ちなみにベティよりは背が高い。

「ミリーはどう思う?」

「どう、とは? 助ける助けないの話ですの? であるならば公平を期すためにも『助けない』が正道ですわね」

「(ジワァ)」

「そ。ミリー自身はどう思うの?」

「……恐らくこのアプローチは禁じ手でしょう。家からもやってはいけない、そう言われてるのでは?」

「(びくっ!)」

「であるなら、この子は罰せられる事を承知で家のために動いたのですわね。私達が手伝えることはありませんわ……ただし」

「ただし?」

「友人への助力要請なら何の問題も無いのでは? と愚考しますわ!」

「それ採用!」

「(パアァァァ! ドヤァ!)」

 渾身の〜ドヤエガオ〜頂きましたっ。

「皆も良いかしら?」

「私はおけ」

「わ、私も……」

「俺は、まぁ、良いが」

「まぁ主家に『手伝ってはならない』なんて禁じられてるわけでもないしねぇ」

 フローラのグループはやる気のようだ!

「じゃあ一番大事なことを聞かなきゃね」

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