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褒賞の真価

 れいが魔木と褒賞について語り合った日から少し時が過ぎた。幾つか褒賞用の品の案が実際に形になったてきた頃、れいはふと思い出していた。
「………………そういえば、管理補佐達はあまり創造を使用しませんね」
 ここで言う創造とは、無から何かを創るということだが、それには創造に適した能力が必要である。普通では手に入らないその能力だが、れいの創造した管理補佐達は全員がその能力を有していた。
 それは、何かあった場合に必要なモノを自力で用意出来るようにという配慮から。特に忙しくなった場合に自身の配下を創造して人員を補充出来るようにという部分が大きい。
 そのため、れいは管理補佐全員に必要分に限り創造を許可していた。しかし、それで何かを創造したという話はほとんど聞いていない。
 元々れいは余力をしっかりと取った配置と人員の数を用意していたので、創造が必要な事態に中々ならなかったというのもあるのだろうが、それにしても最初から創造する気が無いような気がした。
 もっとも、それで何かしら問題や不都合が起きているわけでもないので、気にするほどのことでもないのだが。
 れいもふと思っただけで何かしら問題にするつもりもないので、それについては直ぐに忘れた。
「………………それにしても、この程度が丁度いい性能、というやつなのですか」
 手にした一本の剣を眺めながら、れいは首を傾げる。それはつい先ほど完成した褒賞用の剣。魔木のアドバイス通りに作製したのだが、実施に形になってみると、やはり不思議なモノだった。それは何度見ても変わらない。
「………………これでは草刈り程度しか出来ないのではないかと思ってしまいますね」
 今まで作ってきた褒賞用の品の中には、見た目だけの装備なんてものもあった。魔木曰く芸術性や素材の価値そういった部分に重点を置いたものらしい。
 他にも、飾りは飾りでしかなく、れいから下賜されるという名誉が主な褒賞だという品もあったが、理解は出来てもれいにはイマイチ必要性を感じられなかった。れいはどちらかというと、見栄よりも実用性の方を重視しているのだろう。
 だからこそ、今回創った剣はそういった見目だけのものではなく、一応実用性を重視した剣だというのに、性能が微妙というのが不思議でならなかった。無論、むやみやたらと性能を上げればいいというものではないのは理解しているが、それでも限度はあるだろう。
「………………以前見た、人の持つ装備よりは僅かだけマシでしょうが」
 首を傾げたれいは、そう零す。
 れいが比較しているのは、ハードゥスにある最大国家の兵士が持つ武器。それは一般に出回っている武器よりかは質が良いが、それでもその差は僅かでしかない。彼の国に於いてそれは、位置づけ的に量産品なのでしょうがないが。
 それと比べたれいが創造した武器は、彼の国では将軍が持つレベルだろうか。名工が丹精込めて造った一点物ではあるが、彼の国に於いては高価なブランド物程度の価値だろうか。珍しくはあるが、大金を積めば手に入らなくはないレベル。魔木としては、その程度の価値が軽い褒賞の品として適しているという判断なのだが、れいとしては知識として知っている程度で、貨幣については興味が無かった。
 それでも、魔木はれいとは違う視点や価値観を持っているので、そうなのだろうと思ってはいる。一応信用はしているのだ。
 その辺りも褒賞を渡していけば反応で答えが出るだろう。不満があれば別の褒賞を渡せばいい。れいはそう思うことにする。
「………………まぁ、いいでしょう。残りも終わらせてしまいましょう」
 サンプルさえ創ってしまえば、後はそれと同じ物をひたすら創造するだけ。サンプルは何も剣だけではないので、結構種類があった。後は誰にどれを渡すか判断を誤らなければそれでいい。
 そうして褒賞用の品をどんどん創造したれいは、それらを全て片付けていく。
 結果的にれいが褒賞用に使用していた果実よりもかなり質の落ちた品が褒賞用として出来上がったわけだが、それでも魔木の推測通り、それを受け取る側としては、れいから直接貰えるということが最も大事なのであった。それこそれいから直接下賜してもらえるのであれば、そこら辺に転がっている石ころでも万金以上の価値があろうほどに。

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