バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

再燃の兆し

 種族や世界を問わず、争いというものは何処かしらにあるものだ。それは規模や種類も様々だが、主張だってまたそれぞれ。そういったモノを積み重ねて世界は発展していくのだろう。
 ハードゥスでも、大小様々な争いがある。植物や魔物や人などの生存権を掛けた大規模な戦いから、縄張り争いの小競り合いなどの中規模の戦い。それに、威嚇や喧嘩や口論などで終わる規模の小さな戦い。とにかく色々ある。それに何が懸かっているかで変わってくるものだ。
 そういった盛衰の中で滅亡したコミュニティもあれば、新しく興った繋がりだってある。ハードゥスでも既に幾つも国が興り、そして幾つか国が滅んでいる。
 人の楽園としていた大陸では、一時期鎮静化していた戦争の火がまた燃え上がろうとしているという。
 というのも、どうやら大国の一つで頭が変わったらしい。それに伴い、武威を示すためということで出兵が計画されているらしいが、実はその裏には本格的に版図を拡げる意図が隠されているのだとか。新王は野心家、ということらしい。しかも、牙を剥くまでは羊のように大人しそうな面の皮を被っているのだから質が悪い。
 その武威を示す出兵だって、軟弱者と陰で囁かれているのを払しょくするためのデモンストレーションだろう。というのが周辺国の上層部の推測なのだから。
 出兵する兵の規模もそこそこで、少しちょっかいを掛けるだけだろう程度だと思われているのも一因か。攻める予定の場所も重要性の低い場所なので、事前に攻めることを通告されている国では、少しぶつかった後に新王就任の祝儀代わりに渡そうとしているぐらいだ。まぁその裏には、立場が逆になったら同様のことをお願いしますね。という意味も込められているのだが。
 諍いはあっても争いが無くなった場所らしい政治ではあるが、それももうすぐ終わりを迎えようとしていた。
「………………さて、どうなることか」
 その様子を眺めていたれいは小さくそう呟く。
 争いの結果など心底どうでもいいのだが、裏で色々と駆け引きをしながら謀略を巡らせている様子は観ていて面白かった。その結果がどうなるかは、これからではあるが。
「………………ここで未来を視てもつまらないですからね」
 れいはハードゥスの全てを観ることが出来る力とその高度な処理能力で以って、少し先の未来を予測することが出来る。しかしそれは、つまらないのであまりやることはない。
 これから起こるのは、過去の火だねの再燃。もう長いこと火の勢いがなかったのだが、それも今回で大きく燃え上がることだろう。
「………………最近は何かと上手くいきすぎていましたからね」
 平穏というのは貴重だし重要だ。しかし、そればかりというのも味気ない。とはいえ、魔物や地下迷宮など身近に脅威が常に存在するので、そこまで堕落していたわけではないのだが。
「………………これは丁度いい機会なのでしょう。どうやら魔物の方が早くに大陸間を渡りそうなのですから」
 思っていた以上に発展が鈍い船だが、その間に魔物の方が一気に数が増えて成長もしてしまっていた。
 そこから推測できることは、大陸を越えての魔物の移住。いや、侵略だろうか。今のままでは、大陸によってはそこまで発展した魔物には敗けそうだなと思っていたところだった。負けるのはいいが、せめて少しは拮抗して楽しませてほしいところではある。
 そういうわけで、タイミング的にも丁度よかった。魔物の能力の成長具合からして、今ならまだ間に合うだろうから。
「………………それにしても、全てではないとはいえ、技術でも魔物の方が発展するとは、これは予想外でしたね」
 れいは万能であっても完璧ではない。未来予測まで使用すれば、それなりに正確で手落ちの少ないものにはなるが、それは楽しくないのでやるつもりはなかった。れいだって豊かではないにしても感情は一応持ち合わせているのだから。
 そのおかげで、たまにこうして驚かせてもらえる。それは多分、悠久を生きるためには必要なことなのだろう。そう思うことにして、れいはこれからも同じように世界を管理していく。
 そうやってれいがあれこれ考えている内に、舞台は少しずつ次の場面へと移行していくのだった。

しおり