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第85話 すべての闇堕ちエンドを回避できたのは彼のおかげ

「ええ? ちょっと待ってよ! どうなるのよ。私は!」

「アリスさん」

 ローゼマリアが彼女の名を呼んで近づくと、囲い込んでいたフォーチュンナイトが道を開けた。
 ある程度確信していたが、彼女もローゼマリアと()()境遇であった。
 乙女ゲーム『救国の聖王女と十人のフォーチュンナイト』のヒロインに転生したのである。

 しかしいまや、彼女を羨ましいとは一切思えなかった。
 自分の器にそぐわない能力を持つと、過剰な自尊心によって自滅するとわかったから。
 ローゼマリアは狼狽えるアリスを見据えると、はっきりとこう言い切った。

「作られたゲームの世界でも、登場人物みんなに、それぞれに感情や存在意義がある。あなたは自分がヒロインの転生者だから、なにをしても許されると思い込んでしまった。それがあなたの敗因よ」

「ローゼマリア……まさか、あんたも……」

 その問いに答えず、ローゼマリアは言葉を続けた。

「虚構の中だからって、悪行が許されるはずがないわ。ましてや安易にひとを陥れたり、殺したりしていいはずがない。そんなことも、わからなかったの?」

 アリスは目を泳がしたまま、呆けたような顔をした。

「だ、だって、私はヒロイン……なのよ?」

 ローゼマリアは否定の意味をしっかりと込めて、顔を左右に振った。

「あなたは、ヒロインという絶対的強者の立場を利用して、ゲームの登場人物すべてを穢したの。この結末は、その報い。あなたの愚かさが、本来ならあり得ないヒロインのバッドエンドを招いてしまったと理解すべきだわ」

「おかしい! このゲームのヒロインはわたしのはずなのに! 『難攻不落のジャファさま』だけ、どうして攻略できないの? それに、こんなエンディングはなかったわ? なぜ? なぜなの……!」

 アリスは唇をわななかせ、この展開すべてを否定しようと懸命に吠える。
 アリスの言葉が理解できるのは、おそらく同じ転生者のローゼマリアだけだ。

 だが、当然のことだが共感はまったくない。
 ローゼマリアは、構わずに彼女に話しかけた。
 理解されなくても構わない。それでもアリスには、はっきりと言っておきたかった。

「わたくしも知りませんでしたわ。ヒロインが悪逆非道な行いをした場合、ちゃんとバッドエンドが用意されていたのですね」

「な、なによ! 悪役令嬢のくせに! バッドエンドは、あんたのほうだったはずよ!」

 そうだ。本来ならば、ローゼマリアが鬱必須の闇堕ちエンドを迎えるはずだった。
 現に、牢獄のモブ獄卒兵、人身売買オークション、砂漠のモブ盗賊、三回も闇堕ちフラグが立っていた。
 それらを、すべて彼が回避してくれた。

『難攻不落のジャファ様』と人気が高かった超弩級の攻略キャラ、ジャファルの手によって。

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