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第84話 追いつめられた救国の聖女

『だから、なに? 私のお金を私がどう使おうと自由でしょ? 私はもうすぐ王妃になるのよ? 国庫の金を使ってなにが悪いの?』

 突然、どこからかアリスの声が聞こえて、ユージンの動きがピタリと止まる。

『ミストリア王妃はご存命で、健康そうに見えるがな』

『フォーチュンナイトたちに殺させるわよ。ユージンあたりにやらせようかしら』

『親より私のほうがだいじなはずよ。私の命令はなんでも聞くんだから』

 その場にいた全員が、いっせいにジャファルのほうへと視線を集中させる。
 ジャファルの手の中で、聖鏡水晶がキラリと光った。

「い、今のは……」

「君たちがここに到着するまでに、アリスが言い放った暴言だ」

「そんな……じゃあ……国庫の金を盗んだのは……」

「きさまらが救国の聖王女と呼んでいる、そこの女だ」

 ユージンが呆然としたようすで脱力した。その拍子に、手にしていた剣を取り落とす。

「アリス……君は、私に親殺しをしろと……」

 アリスが悪びれることなく、首を傾げてくる。

「そうよ? 私が王妃になるためにね。なにが悪いの?」

 ユージンが信じられないといった色を目に浮かべ、疑惑をアリスに向ける。

「ローゼマリアが、国庫の金を盗んだと言ったのは……罪をなすりつけるための嘘なのか?」

「だからなに? もういいわ、ユージンに頼まない。ダルトン、あんたがやって。ここでローゼマリアを殺しなさいよ。これまでの失態を取り戻すチャンスよ?」

 アリスの命令に、ダルトンの巨躯が少しだけ動いたが――

 剣に手をかけると、すぐに手をだらりと下方へと落としてしまった。

「ちょっと! どうしたのよ?」

「できません……」

 ダルトンはうなだれたまま、その場で棒立ちしてしまう。
 アリスは舌打ちすると、ほかのフォーチュンナイトに命令した。

「誰でもいいわ。さっさとやっちゃって!」

 しかし誰ひとりアリスの命令に従うことなく、その場から動かない。
 ただひとり動いたのは、落ちた剣を拾うユージンだけであった。

「のろまな連中ね。ユージン、さっさとしなさいよ」

 しかしユージンの剣先は、アリスへと向けられた。
 連動するように、ほかのフォーチュンナイトも剣を抜き、アリスに向かって突きつけられる。

「どういうことよ……ちょ、宰相! ねえ、なんとかしてよ!」

 喚くアリスに、宰相が目を伏せて頭を左右に振った。
 コーヒーカップをソーサーにガチャッと戻すと、不愉快極まりないといった口調で零した。

「この愚か者め。調子に乗ってペラペラとしゃべりまくるからだ。まさか、頭の悪さと低俗さが、男の心を掴む希有な技を上回るとは……」

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