バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

第6話 「救国の聖乙女と十人のフォーチュンナイト」

 ユージンの叫び声に呼応し、男が数人ゾロゾロと現われた。
 みなローゼマリアには顔なじみだ。彼らもミストリア王都学園の元同級生たちである。

「彼らが証拠だというのかね?」

 呆れたようにブレンダンが零すと、ユージンが堂々と胸を張った。

「そうだ! ここにいる私を含む十人のナイトが証言する! ローゼマリアがアリスに対し、命に関わるような嫌がらせを続けていたことを!」

「十人の……ナイトですって……?」

(なぜかしら……なにかが引っかかる。どこかで聞いたような……いえ、()()ような……?)

 目を見開いて驚くローゼマリアに向かって、ユージンが自信ありげに語る。

「そうだ! 救国の聖乙女であるアリスを守るため、選りすぐられた騎士十人で結成した騎士団。通称フォーチュンナイトだ!」

「救国の聖乙女と、十人の……フォーチュンナイト……」

 彼らのなかで一番屈強な男が一歩前に出る。
 確か名をダルトンと言ったか。ずっとアリスにくっついている忠犬のような男だ。
 彼がローゼマリアを睨みつけると、おもむろに唇を開いた。

「まず、アリスさまの私物を破損した罪」

「私物?」

 アリスは行動が雑で荒っぽいせいか、よくものを壊していた。
 私物だけにとどまらず、勝手に誰かのものに触っては落としたり壊したりもしている。

「あれは、彼女が勝手に……」

「黙れ! 続いてミストリア王都学園に、ありえない悪評を蔓延させた罪」

「……はい?」

「そしてほかの令嬢たちと結託し、サロンやお茶会に招待しなかった罪だ!」

 男性の前では天真爛漫なアリスだが、女性の前では態度を一変させていた。
 その見事なまでの奸佞邪知さで、ほぼすべての女生徒に嫌われていたという事実がある。
 ミストリア王都学園は、良識ある貴族の子息子女が通う有名校だ。
 そこの女生徒たちから忌避されるということは、そのまま社交界から総スカンされるといっても過言ではない。

(サロンやお茶会に呼ばれなかったのは、すべて自己責任じゃないの……それに今の説明の、どこが証拠だというの? いえ、待って……)

 ローゼリアの脳内で渦巻いていた、モヤモヤとしていた既視感が一瞬にて消え去った。
 突然、霞が晴れたようにローゼマリアは覚醒する。

(……あ、これ。「救国の聖乙女と十人のフォーチュンナイト」の断罪イベントシーンだわ……)



§§§



「救国の聖乙女と十人のフォーチュンナイト」とは――

 ミストリア王国に暮らす平民の娘〇〇〇(プレイヤーが好きな名前を入れることができる)が、神託により救国の聖なる乙女として取り立てられる。
 次々現われる十人のナイトが彼女をフォローし、ミストリア王国を発展へと導いていく。

 このゲームには、それぞれのナイトとバッドエンドやハッピーエンド、真実の愛を確かめ合うトゥルーエンドなどが設定され、多彩なイケメンと疑似恋愛が楽しめる。
 ミニゲームやパラレル攻略が楽しめるPC版ファンディスクも発売されており、そちらのシナリオもなかなか秀逸。

 また家庭用ゲーム機で遊べる、全年齢版も発売されていた。

 豪華男性声優陣が歌うエンディング曲が入った限定キャラソンCDは、応募者殺到で倍率がとんでもないことになったとか。
 正統派王子から、マッチョ系にワンコ男子、果てはヤンデレまで。
 さらには課金したら攻略できる、隠しキャラまで用意されている。

 さまざまな属性男子との恋愛を楽しめる、乙女ゲームのド王道作品だ。



 §§§

しおり