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第六話

「妖精族って、精神年齢が外見になるって言ってましたけど……」

 私はアルマさんに聞いてみました。

「そうじゃよ。だから旅を続けて行くうちに若返るってこともあるさね」

「へー、寿命とかはないんですか?」

「肉体的な寿命はないね。妖精族は人間達とは違って、ほとんど霊体みたいなものだからね。心が年老いて、全てに飽きてしまったなら、静かに消えるだけさ」

 消えるんだ。
 なんか儚い。

「殺されちゃったりとかはあるんですか?」

「不死身というわけではないさ。打たれれば痛いし、切られれば血も出る。痛みに耐えられなければ、心が折れてやっぱり消えてしまうだろうね」

 そうなんだ。

「ほかにも友達に裏切られて消えたり、失恋して消えたり、大切なものを盗まれて消えたり、夕飯に嫌いなものが出て消えたり、いろいろさ」

 妖精族、かなりめんどくさい人たちみたいです。



 迷いの森を超えたあたりから少し強いモンスターと遭遇するようになりました。
 数匹のグループで現れることも多く、戦いはいよいよ激しさを増してきた感じ。

 でも攻撃担当が三人増えて計四人になったので、我がパーティーは圧倒的です!

 ヴィルゴーストさんは基本夜型の人なので昼間は寝ていますが、夜は寝ずの番をしてくれます。さすがはヴァンパイアです。
 ちなみに昼間は黒い煙の塊の中に引っ込んで、ふわふわ浮かんで付いてきます。

 アルマさんとエルマちゃんは強力な魔法を次々と繰り出して、敵を押し潰したり黒焦げにしたりバラバラにしたりします。
 目の前でやられるとちょっとグロいですけど……。



「魔法ってどうやって使うんですか?私にもできますか?」

「魔法は人間にはちょっと難しいさね。たまに適性のある奴もいるけれど、ほとんどの人間はマナを感じることができないからね」

「マナ?」

「大気中にある魔法の源だよ。心の動きに反応するんだが、私たちは人間と違って心の入れ物である体の存在が薄いからね。だからマナも大きく反応するのさ」

「へー」

「逆に人間は体の存在が濃すぎるからね。マナと心が触れ合うのが難しいのさ」

「なんか難しいですね……」

「心のままに行動するような奴なら、魔法も使いやすいんだがね」

「あぁ、それでエルマちゃんは……」

「あれはあれで歯止めが効かないから、困ってるんだけどね……」

 あー。



 次なる目的地は、勇者の眠る墓所です。
 そこで過去の勇者の加護を得るのです。

「でも召喚された勇者のお墓がなんでこの世界にあるんだろ」

「その墓は初代勇者のものだな。初代勇者はこの世界の住人だぞ」

 え、そうなんだ。

「まあ召喚された勇者だって、この世界で死ねば墓にぐらいは入れてもらえるさ」

「その召喚されたのにこの世界にお墓がある勇者たちは、元の世界に帰らずにこの世界に残ったってこと?」

「そういう奇特なのも中にはいたかもしれないが、ほとんどは道半ばで倒れて元の世界に戻れなかった勇者の墓だろ」

「え……でも魔王討伐の途中で死んじゃっても、「勇者よ、死んでしまうとは何事か!」って王様に怒られてお城から再開するんじゃ……」

「そりゃゲームの話だろ。俺と一部の魔界の住人以外はみんな残機なしの一発勝負だよ」

「そんな……魔王ずるい」

「これはずるいとかじゃなくってなあ……」

 魔王は何か言おうとして口ごもった気がしました。
 なにを言おうとしたんだろう?気になります。



 迷いの森から五日、勇者の墓所へ到着しました。
 勇者の墓所はたくさんの石柱を並べて作られた巨大迷宮になっています。
 天井はありませんが中央に生えた巨大な木から広がった無数の枝が上を覆っています。
 木漏れ日が結構差し込むので暗くはないですが、モンスターが入り込んでいるのでダンジョン感マシマシです。
 まあ、今の私たちならば、こんな雑魚モンスターなんて余裕ですけどね!
 ……一応私も戦っていますよ?

「貢献度合いは低いよな」

「そんなこと言ったって、仕方ないじゃない……」

 私だって頑張っているけれど、やっぱりずっと鍛えてきたゴルガスさんや魔法が使えるアルマさん、エルマさんにはかないません。

「勇者の加護ってなんなの?もしかして勇者のお墓にお参りしたら、勇者の特殊なパワーとかがもらえる?」

「うーん、まあ巡礼みたいなものだからなあ。心構えが得られる?」

 心構え……。

「墓所には初代勇者の使った聖剣が収められているとかいう話じゃなかったのか?」

 ゴルガスさん、ナイス情報!

「聖剣ねぇ」

「なによ魔王、なんか言いたそうじゃない」

「いや、初代勇者はなぁ、ちょっと特殊というか」

「特殊って、どういうこと?」

「要するに神様みたいなものなんだよ……当時の魔界の住人たちに蹂躙されていた地上界を見かねた天界のやつが地上に降臨したってやつ」

「へー……あれ?お墓があるってことは神様なのに死んじゃったってこと?」

「天界から降臨するってことは、受肉って言って簡単に言えば人間になるってことだからな。そうなるとあとは死ぬしか天界に戻る術はなくなる」

 そうなんだ……。

「そういえば初代勇者と魔王は戦ったことがあるんだよね?どんな感じの人だったの?」

「俺、初代とは戦ってないよ」

 あれ?そうなんだ。

「じゃあ魔王って二代目?戦ったのは魔王のお父さん?」

「いや……俺は……初代魔王だよ」

 あれ?なんか話がおかしくない?

「伝承では初代勇者は魔王と戦ったのではなく、今でいう魔界の住人たちを大陸の果てに追い払い、それまで地続きだった人間界と魔界を切り離したとされておるな」

 アルマさんが教えてくれた。
 へー、初代勇者スケールでかい。さすが神様。

「あ、じゃあ魔王はその後に生まれたんだ」

「まあそんなところだな」

 なるほどー。
 あ、そういえば……。

「それはそれとして聖剣の話はどうなったの?」

「ああ、そうだったな。聖剣なんて言っているけれど、要は初代勇者が使った剣だ。さっき言ったように初代勇者は神様だったから使った剣がその神性を帯びただけで、ものとしてはごく普通の剣だよ」

「へー?神性を帯びるとどうなるの?」

「魔を払うことができるようになる、なんて言われているが一部の魔法を妨害するだけだな」

「一部?」

 するとアルマさんが解説してくれました。

「魔族なんて呼ばれておるが、あやつらも元はと言えばこの世界の住人。我ら妖精族と同じように肉体の濃さが人間と異なるだけと考えることもできるな。それゆえ魔法を妨害する聖剣というのはそれだけで魔族にとっては厄介な代物になるじゃろうて」

 なるほどー。
 でもそれってやっぱり結構重要アイテムじゃないかな。
 ぜひ手に入れたいところです。



 ダンジョン探索は順調に進みます。
 地図があればもっと楽だったんですけど、片手を壁に触れたまま辿って進めば必ずゴールに着くんですよ!

「その方法、壁にトラップやそのトリガーがあるダンジョンではやるなよ」

「え……?」

「まあ、壁を触りながらってのは、トラップを発動させて回ることになるし、やっぱまずいよな」

 そうなんだ……。
 じゃあトラップのないダンジョン限定で……。



 そしてついにダンジョンの最深部、初代勇者のお墓の前までたどり着きました。
 そこは少し広い円形の広場になっていてその中央に天井を作っている巨木の幹があり、その前に豪華な石碑が建てられています。

 思わず手を合わせて拝んでしまいます。

「おい戸希乃《ときの》、それはなんだ?」

「ゴルガスさん?何って拝んでいるんだけど」

「へー、お前の国ではそうやるのか。俺はこうだな」

 ゴルガスさんは両膝を地面について胸の前で手を組むと目を閉じうつむきます。

「私もそうですねー」

 と、マリアさんも並んで同じようにします。

「アルマさんとエルマさんはどんな感じですか?」

「まあ似たようなもんさね」

 とアルマさんもみんなと同じポーズで並びます。

 エルマさんは……あ、蝶々を追いかけてますね。

「ヴィルゴーストさんはどうやるんですか?」

「勇者よ、ふざけているのか?私が勇者の墓参りなどするわけがないだろう」

 言われてみればそうかもしれない……。


 お参りも済んだし、次は……。

「そうだ、聖剣!」

 聖剣は勇者のお墓、石碑の前にある祭壇に置かれていました。

「これが聖剣……」

 魔王も言ってたけど、なんかフツー。

「へぇ、てことはこれが8000年以上前の剣ってことなのか……なんか今の剣とあんまり変わらないな?」

 ゴルガスさんの言う通りですよね、なんでだろう?

「そりゃ、数百年ごとに魔界からの大規模侵攻があって、技術の発展が半ばリセットされちまってるからなぁ」

 ま、魔王……あんたがそれいうの……?
 ていうか魔界からの侵攻による人間界の被害って、そういうレベルなんだ……。

 とりあえず聖剣を手にとってみます。

「別に古い感じはしないかな……。500年前にも魔王はこの剣で倒されたんだよね?」

「ああ、そうだな。当時細部まで詳しく見てたわけじゃないが、確かに神性を感じるし同じ剣だろうな」

「じゃあ誰かがずっと維持管理してくれているのかな?」

「これは石碑と祭壇自体に強力な劣化防止の魔法がかかっておるのぅ。その効果範囲内にあったのだから、剣にもサビひとつないはずじゃ」

「そうなんですかアルマさん。へー、魔法ってすごいんだぁ」

「逆に言えばたとえ聖剣でもメンテナンスを怠れば錆びるのかもしれないな」

「あ、ゴルガスさん、それは大丈夫ですよー。出発前にちゃんと教わったので。そういえばしつこいくらい念押しされてたな……」

「なるほど、歴代勇者の中には知らずに血糊がついたまま鞘に納めて抜けなくなったり錆びさせたやつがいたんだな……」

「あー……」


 さて、聖剣を手に入れたのはいいものの、今まで使っていた方の剣はどうしましょう?

「まあいつ何時トラブルがあるかはわからないから、一本ぐらいはストックしておいてもいいかもな」

「えー、でもゴルガスさん,私二本も持って歩けないよー」

 するとマリアさんが

「それなら私が持っておきますよ」

 と申し出てくれました。

「ありがとう、マリアさん!でも剣って高価だって聞いたから、どこかの町に着いたら売っちゃってもいいんじゃないかな?」

 でもゴルガスさんは

「いや、王家の紋章付きの剣を売るのはやめておいたほうがいいぞ。そういうのは裏でどこに渡るかわからんからな。妙な悪党の手にでも渡ったら大問題だ」

 だって。
 そっかー、残念。

「なあ、勇者」

「ん?どうしたの、魔王」

「石碑の前におろして、しばらく一人にしてくれないか?」

 なんだろう、魔王がこんな風に私に頼み事するなんて珍しい。

「いいけど、何するの?」

「いや、ちょっとな。初代勇者の墓ってやつをよく見ておきたいと思ってさ」

「……うん、いいよ」

 私はおんぶ紐を外して背中から魔王を下ろすと石碑の前に座らせた。

「これでいい?」

「ああ、ありがとうな」

「ねえ、魔王」

「なんだ?」

「何か……うん、いいや。あっち行ってたほうがいい?」

「なんだよそりゃ……。どっちでもいいさ」

「わかった……終わったら、呼んでね」

「ああ……悪いな」

 私は他の仲間たちのところまで戻ると、魔王がしばらく石碑を見たいと言っていたことを伝えた。

「へえ?魔王のやつ、どうかしたのか?」

「わかんないけど、初代勇者のお墓だしなんか思うところがあるのかもなーって」

 魔王はじっと石碑を見ているみたいだった。
 もしかしていつもみたいに聞こえないだけで誰かと話をしているのかな?

 でもぐるっと見回してみたけれど、誰もそんな様子はなかった。
 ヴィルゴーストさんは……あのモクモクの中なので、ちょっとわからなかったけど。


「おい、勇者」

 魔王が呼んでる。

「もう終わった?」

「ああ、もう十分だ」

「わかった」

 魔王のところまで行って魔王を拾い上げるとおんぶ紐で背中にくくりつける。

「ありがとうな」

「いいよ、このくらい」

 少し残った違和感。
 魔王はあそこでなにをしていたんだろう?



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