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背負うモノ

 監視者達へ突然の奇襲が見事に成功し、にやついた笑みをいつも浮かべていた監視者が、手首を拘束されて青ざめているのには、見ていて清々しい。
 武器も持てずに逃げ場を失った兵士達は、その場で土下座しながら降伏していた。
 焼けた木々は、現在村人達が懸命に消火活動を行っている。
 そして、連れ去られた女性達はというと、馬に引きずられる形で太い木々で作られた檻に入れられていた。
 こうして、監視者を含む生き残った兵士15人は、手首を拘束してその場に座らせている。

「それで、この者達はどうするんだ?」

 言葉から怒りの声色になっているのが分かる。
 だが、全てを決めるのは村長になった雪花の言葉だけだ。

「一旦自分達の村に連れて行こう。村の娘達を早く休ませてあげたい」

「わかった。兵士達も同じように連れて行くか?」

「ああ。頼む」

 頷いて答え、監視者達を連れて元の焼け焦げた自分達の村へ戻る事にした。
 村に戻るまで終始無言のままだった雪花は、村長の孫娘に真実を伝える。

「おじいちゃん…が…?」

「…全ては、自分のせいだ。すまない」

 謝罪で許される事ではない。
 恨まれてもおかしくはない。
 だが、雪花にはそれ以外言葉が浮かばなかったのだ。

「雨に濡れないよう、遺体は村長の地下室に寝かせてある」

 真実を受け入れられない様子の孫娘が、雪花から背を向けて村長の家へ走り出す。
 そして、地下室から孫娘の咽び泣く声が聞こえてきた。
 雪花は、一人村長の焼け焦げた家の柱に背中を預けて、ただ一言呟く。

「自分は…なんて無力なんだ…」

 見上げた星空は薄くなり、夜明けが近づいて来ているのを感じていた。

 ◇◇◇◇◇

 朝日が昇るのと同時に村長を殺害した監視者の男を焼け焦げた村の中心に連れてくる。
 皆、俯いているこの男を今にでも斬りかかりたいのであろう気持ちを押さえ込んでまだ村長の家から出てこない雪花の判断を待っていた。

「…お、俺を殺して長の敵に回すつもりか? 俺は、ここの集落をまとめている長の息子だぞ!」

 死を免れようとべらべらと喋る監視者に、村人達は猿轡をして何も喋らせないようにする。
 目で何かを訴えようとしたが、村人達の圧に負けて再び俯く。
 そして、雪花がようやく村長の家から村長の孫娘と一緒に出てくると監視者の方へゆっくり足を踏みしめていた。

「遅かったな」

「すまない。判断をするのに時間が掛かってしまった」

「なら、ようやく決まったんだな?」

「ああ」

 決意が固まった雪花は頷き、村人の持っていた剣を抜き取る。

「自分は、この村の村長となった。だか、自分は、村長の血族でもない」

 そう言って傍に居た村長の孫娘に抜き取った剣の柄を向けた。

「…」

 雪花から突然の判断を託す行為に動揺しているのも無理はない。
 本当は、村人達と共に断罪を下したいのは山々だが、雪花は村長の親戚でもましては家族でもない。
 そんな自分が判断を下した所で、雪花と村人達の気は晴れたとしても、村長の孫娘は、納得するのであろうか。
 そう考えれば考えるほど、自分が判断を下す権利は無いのだろうと思い始めていた。
 だから、雪花は孫娘が出てくるまで待っていたのだ。
 残酷な事だが、判断を孫娘に任せる事にした。

「自分は、どんな行いをしようと責任は自分が取る。だから、安心して判断して欲しい」

 それだけを言い、それっきり孫娘が判断を下すまで何も言う事はしなかった。

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