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老いた狼は嗤う 5

城塞都市顎門
次元の狭間『聖櫃』

昔は、親戚縁者内で調整するだけで家督を繋ぐことが出来たのだが、余りにも層が薄くなったのだ。

ごっそりいない世代が存在する。
30年前に働き盛りの世代や、子作り世代、成人したばかりの若年世代を一気に失ったのだ。
帝国のシュバリエの人口ピラミッドは歪だ。

これらの背景がある為か、出生報告書の改竄には厳しい罰則があるのだが、適用されたことはなかった。
もし、厳格に適用されてしまうならシュバリエがいなくなってしまい、帝国支配根拠が統治システムの根幹から崩れてしまう可能性があった。
生まれてきた子の能力や血縁を疑うのがタブーとなり、自己申告で済む事が多くなった。
試験があっても試験でなく、名前を書くだけで身分に沿った結果になるようになってしまう。
厳密な検査はタブーとなり、時間が経つに従って別の問題の引き金となっていく。

10年ほど経過し、帝国存亡の危機と問題になったのは…

魔力能力の偽装…シュバリエがいなくなった、定数を揃えられなくなったのだ。

シュバリエ偽装が横行し、彼ら偽装シュバリエの訓練が始まる時に深刻な問題が露呈する。
魔力能力を過剰に貴族院に報告し、本来シュバリエの能力ないの者が、適性のある者を押し退けて”なんちゃってシュバリエ”となってしまっているのだ。
適性のある者が不遇の扱いを受け、帝国貴族の身分を落とされる事案が発生していた。
書類の改竄と差し替え…落とされてしまうのだ。
身分の壁があり、疑いはあったが己の命が関わる事に嘘はつかないと甘く考えたのが仇となった。

事態は想定の遥か下だった。

帝国のシュバリエによる力の統治は、既に崩壊していたのだ。
シュバリエを揃え魔導軍団を形成し、魔導帝国の威光を知らしめる存在が…今や、張子の虎なのだ。

魔導帝国の軍事力の大幅な低下が大問題となっていく。
好戦的、悪の巣窟、従わぬ者には死を!と弱肉強食の頂点にあった帝国が、気がつけば、ハリボテ国家となっていた。
ボロを出さない為…軍事力による統治から経済による統治にハト派路線に転換せざる得なくなった、追い込まれていたのだ。

必要に応じて、泣けなしの軍事力である、魔導軍団を投入する。

その余りにも巨大な版図を維持するのさえ困難な局面になりつつあったのだ。
帝国が他国に領土を切り取られる…あってはならない事が頻繁に起こり始めていた。

人が揃わない。

大陸最大の人口を抱える大帝国が…魔導帝国の名は過去のものになりつつあった。



帝国府が、帝国領内、植民地、衛星都市に派遣している、全シュバリエを掻き集めなければ対抗できない貴族がいる。

帝国最強と言われるクナイツァー家、その顎門騎士団に待望の高ランクの男子のシュバリエが生まれたのだ。
帝家とクナイツァー家の仲の悪さは代替わりしないと無理だと言われていた。

遠征の延期を進言し、クナイツァー卿は蟄居させられた。

遠征軍20万全滅の危機を作ったのは、門閥貴族の子弟達の遠征軍司令部。

遠征軍20万全滅の危機を救ったのは、クナイツァー家とダルツヘルム家の連合軍。

門閥貴族の巣窟となっている帝国府と言いなりの皇帝、帝国府に従わないクナイツァー家と西部大公ダルツヘルム家。

本家ダルツヘルムと分家クナイツァーで、帝位継承位常に上位あるダルツヘルム家と後ろ盾の弱い現帝家。

クナイツァー軍が殿をし…クナイツァー家の誇りであった聖騎士『煌騎』と召喚士を失った。
長男アークレイ 、次男ブルームレイを失った。
ブルームレイは、ダルツヘルム家に婿養子にいくことが決まっていた。
弱くなったダルツヘルム家のシュバリエの血を回復させるため…時の西部大公と北部辺境伯はそこまでの信頼関係があった。

そして、5年後の内戦で門閥貴族連合軍、対クナイツァー、西部公をはじめとする貴族連合軍が激突、クナイツァー家が対『悪魔』用に用意していた魔導騎兵を対人間に惜しみなく投入し一方的な蹂躙となる。

”全てを仕組んだのは門閥貴族であり、帝家に仇する者は誅した!”
と、クナイツァー卿の宣言の元、処分なしで済んだ帝家。

離宮に鎮座する神獣『覇王弩竜』を恐れ、軍を引いたのを知っているのは一部の者だけだ。
犠牲を恐れなければ旧魔導帝国の遺産である魔煌艦隊を出撃させ、神獣『覇王弩竜』を狩る事が出来るが、予測される被害が見合うはずがなく決断されることはなかった。

神獣『覇王弩竜』が、決して帝国を守っているわけではない。
離宮の下に眠っている遺産を守っているに過ぎないのを知っていた。

帝都を攻撃しても、神獣『覇王弩竜』は出てこないのを知っていた故に進軍し、帝家に罰を与えたのだ。
帝国臣民の前で、帝家は何も出来ないのを証明してみせたのだ。

帝家の求心力は、先の大敗の影響と内戦を傍観するだけで離宮から出て来さえしない臆病者、その様から無能のレッテルを貼られガタ落ちだった。

反帝国府の急先鋒である武断派貴族クナイツァー家に、未来の聖騎士が生まれた。
3属性持ちにして生まれながらの天使持ち、シュバリエランクA。
魔力量はどこまで伸びるか期待される。シングルAではなく、アブローラ同様にダブルAか、トリプルAにまで成長するのではないか。

これをクナイツァー支持派の貴族達が知れば大歓喜に溢れるだろう。
だが、シロウドは用心深かった…自分の残りの時間が決して長くない。
レインに確実に家督を継がせ、墓守の義務を果たさせるために…でなければ、多くの散っていった者達に顔向けが出来ない。

まだ、生まれたばかりの曽孫の未来に、暗い墓守の運命に一条の光が差し込むことをシロウドは願うばかりだった。

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