第二の故郷
「たっだいまーー!」
「あ! 姉ちゃんたちだ! 帰ってきた! ……もう帰ってきた、チッ」
「チッ!?」
「エラーナお姉ちゃんお帰りなさい! あたし毎日牧場のお掃除頑張ってたよ!」
「お帰りー! 銀貨銀貨!」
「あ、あんたたち……」
アーチ門に到着するやいなや、駆け寄ってくる子どもたち。
やんちゃ坊主コンビ、シータルとアル、そしてクオンが自分の実績を誇らしげに語り、アメリーはのんびり歩いてくる。
ニータンはそこんとこしっかりしているので、店舗内にいたクラナに声をかけて一緒にやってきた。
「お帰りなさい!」
……出迎えられるのには、慣れたつもりだったのだが……なんとも、悪くない。
実家の使用人にここまで送ってくれた事に礼を言い、お土産と駄賃に銀貨を五十枚ほど持たせる。
驚かれたが、丸一日安全にラナとファーラを運んでくれたのだ、このくらいは安いものだろう。
しかもこれからまた一日かけて帰るんだし。
これで美味しいものでも食べてゆっくり休め。
「では坊っちゃま。また、いずれ」
「うん、親父たちによろしく」
九ヶ月前、心配そうに別れた使用人とも笑顔で手を振って別れる。
さあ、今日は残り半分。
忙しいぞ。
「ラナ、俺ちょっと学校の方に行って『こたつ』見てくる。荷物は部屋に放り込んでおいてくれていいから」
「え! わたくしも……あ、いえ、私も行くわ!」
「そう?」
令嬢モード解除、のようだ。
結構今回は長かったから、引きずられたのかな?
「姉さんたち、出かけるんですか? 今帰ってきたばかりなのに……」
「ええ、竜石職人学校に頼んでいたものがあるから、それを見てこようと思って」
「あと、町の方に帰ってきた事伝えてくるよ」
「あ、そうですね。クーロウさんたち、心配してましたから」
ラナと顔を見合わせる。
レグルスはともかく、クーロウさんも?
なんかあんまり想像つかないね。
「えー、お駄賃はー?」
「色々精算しなければいけないから、明日ね! 言っておくけど、働きによっては増えたり減ったりするわよ?」
「「えー!」」
「シータルとアルはサボってたから、半分くらいでいいと思うよ」
「「げっ! ニータン!」」
「ふーーん? なるほど〜?」
「「うぅ……!」」
ラナにじとりと見下ろされ、萎縮するヤンチャ坊主たち。
これは、思ったより支払いは多くなくて済むかもな?
なんにしても、まずは報告と確認。
二人で一路学校の方へ向かう事にした。
「ラナ、疲れてない?」
「一日移動だったから疲れたと言えば疲れたわね。けど、だからこそ体を動かしたいわ」
「じゃあ、俺ちょっと『エクシの町』に帰ってきた事を伝えに行くから、ラナは学校の方で『こたつ』の出来栄え確認しながら待っててくれる?」
「そうね、分かったわ!」
よほど『こたつ』が楽しみなのか、ガッツポーズで了承してくれた。
そんなわけで竜石職人学校にラナを置いて、俺は町へ。
「ぶるうううぅ」
「え? なに? どうだった? なにが?」
その途中、ルーシィが鼻を鳴らす。
なにやら感想を聞いてきたのだが、「なにが?」としか言えない。
だって、なにが「どうだった」のかが分からなかった。
そんな俺を、ルーシィは蔑むように見る。
「? え……あ」
だが、話を聞いてみると……いや、まあ会話ほとんど『なんとなく』で成立するので、実際言葉で会話したわけではないのだが……ルーシィいわく、「ようやくエラーナと二人乗りしてみてどうだった?」という事に対する感想を、俺に聞いていたらしい。
二人乗り。
ああ、そういえば、初めてルーシィに二人乗りした。
「…………」
今考えると、横向に乗ったラナが俺の目の前にいたのだ。
あれ、これはなかなかの密着度だったのでは?
は? なぜ乗せている時に気づかなかった?
「ヒヒン……」
「そ、そう言わないで……お互い疲れてたんだよ……。お前だって本当は疲れてるだろ……」
「ぶるるるるるる」
それ見た事か。
とりあえずみんな疲れている。
ルーシィの言うように、イチャイチャするチャンス、とやらだったのかもしれないが、それは一休みしたあとでも出来る事。
さらー、と町に行って、クーロウさんとレグルスに報告をして帰って……それからでもいいだろ。
——と、思っていたのだが……。
「お帰りなさーイ!」
「おお! 無事帰ったか! ……いや、無事じゃねーみてぇだな? 目、どうしたよ?」
「え? あ、うん、ただいま? 目は大丈夫だよ。ちょっとものもらい的な?」
「アラァ……痛くないノ? 他のみんな無事? エラーナちゃんも、ファーラも大丈夫だったノ?」
「ああ、うん……」
たまたまレグルス商会に来ていたクーロウさん。
商会一階のカウンターで捕まり、そのまま応接間に連行されて根掘り葉掘り……『青竜アルセジオス』での出来事を洗いざらい話す事になった。
まあ、別にいいけど……帰還報告だけで帰るつもりだったのに、どうしてこうなった。
いや、まあ、左目に包帯をしたままなので、怪しまれ……じゃない、心配されるのは仕方ない?
むしろ心配されてありがたいと思うべき?
ぶっちゃけ説明めんどくさいんたけどな。
色々伏せって、説明する羽目になるんだしさ。
そんなわけで、俺の目に『緑竜の爪』の加護が宿った事などは一応伏せ、邪竜が生まれた事やそれに守護竜たちが対応した事は正直に話した。
黙っていても、噂などですぐにバレるだろう。
あんな事態、噂にならない方がおかしい。
「はぁぁ……なんか信じがたい事になってたんだな?」
「まあ……あれ、信じるの?」
守護竜が呼び出されて邪竜と戦った、あたりはさすがに信用されないと思ったのだが。
レグルスとクーロウさんは顔を見合わせたが、肩を竦めて変な顔を俺に向けた。
笑顔なのだが、どこか俺を小馬鹿にしたような、そんな笑顔。
「お前が『竜爪持ち』ならそこまで不思議な事じゃねえと思っている」
「……なんの事……」
「あら、隠し事はナシにしてちょうだイ。牧場で貴方が倒したクローベアの死因……他に思い当たらないのヨ。貴方が『竜爪持ち』じゃなければ、ネ」
「…………」
デスヨネー……。
「……確かに……あれはやりすぎちゃったからなぁ」
「おっかねぇな、んっとに。あの辺に出ていた野盗が、お前らが越してきたあと、とんと大人しくなったのもお前の仕業か」
「え、なにそれ。それは要事前説明案件では?」
多分俺だけど。
野盗や密猟者なら、今まで十数人くらい縛り上げて森に放置したし。
……ああ、だからクローベアが住み着いてしまったのかな?
でも、そんなの出るなんて事前に言ってくれないとダメじゃね?
「別に被害が多かったわけじゃねぇからな。どっちかと言えば、ここから東の町の方に被害があったらしい。それにあの辺は獣の方がよく出る」
「むう……なるほど、それで俺たちの家の近くにファーラが住むのも……」
「お前が側にいるなら、問題なかろうと思ってな」
「チッ」
まさかクーロウさんたちにもバレていたとは。
クローベアの時、油断しすぎたな。
「でも、まぁ、アタシたちとしては、これからも良好に末長くつき合っていきたいと思っているのヨ?」
「帰ってきたんなら、改めて迎えるさ。同じ土地に生きる者としてな」
「……そう、ありがと」
「というわけで早速アタシたちも『こたつ』の完成品を見に行くわヨー!」
「試作品試したがありゃあいいもんだからな! あれで正しいのか、エラーナ嬢ちゃんがこれから査定するんだろう!? もしかしたらもっとよくなるかもしれねぇってんなら、行かねーわけにはいかねーよなぁ!」
「………………」
俺のちょっとした感動を返して。