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32.災い転じて福となす

 痣と血だらけの状態で寮に入った怜央はレティシアさんに滅茶苦茶心配された。

 怜央を見た瞬間悲鳴まであげたので余程だったのだろう。
そのまま肩を借りて階段を登り部屋まで連れて行ってもらった。

「ほら着きましたよ。今薬箱持ってきますからね!」

 ベットに座らせるとレティシアは薬箱を取りに、下の方へ取りに戻った。
部屋にはシエロ、テミス、アリータの3人がいた。
 怜央に気付いたシエロはレティシア以上の悲鳴をあげた。

「夏目様!!! あぁっ夏目様……!」

 慌てて駆け寄ったシエロに怜央は支えられた。

「一体なにがあったんですか!?」

 シエロは取り乱していたがテミスやアリータはいつも通りであった。

「これはまた派手にやられたわね」
「あら怜央。貴方がまさかそんなにやられるなんてね。一体どうしたの?」
「チンピラに絡まれただけさ。今日はツイてない」

 レティシアが持ってきた薬箱をアリータが受け取るとシエロに手渡した。
箱には傷薬や包帯、よく分からないポーションなどが入っていた。
それらを使って淀み無く治療を進めるシエロを後目に、テミスはメンテしたベネリを怜央に放り投げた。

「ほら、怜央は弱いんだからこれ持ってなさいよ」

受け取った怜央は元気なく鼻で笑った。

「銃なんて禍の元だよ」

 怜央は初めてテミスにあった時を思い出していた。
思えば全ては銃から始まっていた。
なんの因果か巡り巡ってこんな事態になり、やり切れない思いの怜央はベネリを壁に立て掛けた。

 そうこうしていると人間よりずっと鋭い嗅覚を持つアリータが、クンクンと匂いを嗅いでその軌跡を辿る。
着いたのは怜央の前。
 アリータは横に座ると眉を(ひそ)めながら、何か腑に落ちないという顔をして怜央の匂いを嗅いだ。

「どうした?」
「なんでかしら。凄く美味しそうなのよね。匂いが」

 怜央は忘れかけていたがアリータは吸血鬼。
怜央の流した血に反応していたのだ。

 アリータは額に流れる血を人差し指で掬ってペロっと舐めた。
すると、余程美味しかったらしく目を見開いて驚いていた。

「ちょっ、何で!? 何でこんなに美味しいのよ!?」
「血なんて皆同じ味じゃないの?」
「ばかっ、全然違うわよ!! こんなに濃厚な味初めてだわ! 後味も変にしつこくないし、幾らでもイケそうな――ああっもう!」

筆舌に尽くしがたいアリータはわなわなと震えたあと怜央の肩を掴み目を合わせた。

「怜央の作るギルド、私も入ってあげるわ」
「……!?  マジで!?」

 怜央の血は魔法の血なのか。
アリータは心変わりした。

「ただし条件があるわ!」

 ここで何故か腕を組んだテミスが割り込んできた。

「してその条件とは?」
「……怜央、あんたの血を私に貢ぎなさい」
「んー、まあそれくらいならいいか。月一くらい?」
「週一よ!しゅ・う・い・ち! でなければこの話は呑めないわ!」
「……わーったよ。それでいい」
「あと、私の他に血をあげちゃ駄目だからね」
「がめついな」
「なんですって!?」

 手負いの怜央はアリータの勧誘に成功したことで痛みも忘れて喜んだ。
わーきゃーわーきゃー騒ぐアリータに、銃のカタログに目を通すテミス。
今回の事件は収束したかと思われた。

――のだが、シエロの目に復讐の色が宿っているのには誰1人気付いていなかった。

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