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ああ、面倒くさい【4】



「…………そっかー、そうね、フラン子ども好きだものね……」
「別に好きってわけじゃ……」

 好きだけど。
 い、いや、違う。
 弟たちがいるから、扱いに慣れてるだけ!
 そう! それだけ!
 そんなたくさん子どもがいたからって——。

「で、何人くらいなの」
「…………(フラン、子ども好きっつーか大好きじゃん……)」
「十六歳の女の子、十歳の男の子と女の子、九歳の男の子と女の子、八歳の男の子、六歳の女の子で七人ヨ」
「え、あ、なんだ、意外と少ないな?」
「そ、そうか?」

 クーロウさんはそれでも多く感じたらしい。
 俺は……てっきり……っ。

「……三十人くらいかと……」
「き、希望が多すぎるわよ、フラン……!」
「き、希望とかじゃないし?」

 ただそんくらいかなーって、思っただけですけどーっ。

「マ、マァ……あの子たちの容姿を思うと、あまり町の側には……って思ってネェ」
「けっ、なんでぇ……いくら俺たちの国が『赤』を嫌うからって年端もいかねぇガキをいびったりなんざしねーよ!」
「あらホントォ? それなら町の側の方がありがたいんだけどォ?」
「…………。まあ、だが……町の奴ら全員ってのは……俺も保障が出来ねぇな……」
「「「………………」」」

 町の取締役がそれっていうのはどうなの。
 いや、いいけどね?
 無責任に「任せておけ」とか言われて、結局子どもが辛い思いをする事になるよりは。

「けど、一番年上の子が十六歳の女の子って……それはそれでなんだか心配ね」
「アァ、それネェ……そうなのよネェ……」
「アン? なにが心配なんだ?」

 レグルスとラナが頰に手を当てて溜息交じりに案じるそれを、クーロウさんは首を傾げて聞き返す。
 まったく、このおっさんは……。

「そりゃ歳頃の娘さんだからでしょ。職人学校の男女比率、八:三で男の方が多いっていうじゃん。中には髪の色とかで偏見持って悪さするやつとかいそうって話」
「あ、ああ、そういう事か。んん、そうだな……確かにそんな不届きな野郎がいねぇとも限らんか……」
「仕方ない、ワズんちから番犬になりそうな子を買ってこよう」
(フ、フラン……まだ子どもたちに会ってもないのにわざわざお金出す気だ……)
(ユーフランちゃんもしかして歳下全般守備範囲内なのかしラ……。ヤダワ、守備範囲の意味をここまで正しく適応出来るオトコがこの世にいるとは思わなかったワ……)
「大型犬を四、五匹躾ければ、賊が十人くらい来ても全員噛み殺せるようになるだろうし……」
「「「………………」」」

 大丈夫、牧羊犬の躾けは無理だけど、番犬と猟犬の躾けは俺も出来る。
 一応アレファルドの護衛兼友人役だったからな。
 アレファルドたちの下手くそな狩りに付き合わされたおかげで、猟犬の躾け方も教わった事があるんだ。
 イケるイケる。

「フランって、本当に子ども好きだったのね」
「え? なんの話?」
「(無自覚!?)……そ、それじゃあ町よりも牧場寄りに施設を建てた方がいいかもしれないわね。えーと、その、ほら、学校に行く日は前の日にその施設に泊まれば子どもの様子も見られるし、学校までも短距離で済むし、講師としてフランも通いやすいんじゃない?」
「そ、そうだね。まあ……講師は興味ないけど……子どもの様子はちゃんと見ないとだよな、うんうん」
(((……チョロ……)))

 ラナもちゃんと子どもの事を考えてくれるんだな。
 傲慢公爵令嬢と言われてたけど、意外と子ども好きだったとは。
 また惚れ直した。

「(とってもノリノリで)……助かるワ〜。じゃあ、施設作りの方は頼めるわよネ? クーロウさン?」
「あ? あ、ああ、まあ……金さえ貰えりゃ仕事はきっちりやるが……。児童施設っつー事は普通の施設とはちょっと違うんだろう? その辺頼むぜ」
「アァ、そうネ。じゃあその辺りも……エラーナちゃん、しばらく店舗の方借りててイイかしラ?」
「いいわよ。ゆっくりしていって。今お茶のおかわりとお菓子追加で持ってくるわね」
「アーン、ア・リ・ガ・ト!」
「菓子!」

 クーロウさん目の色変わってて怖い。
 ……まあいいや、そんな事よりも児童養護施設を……牧場側に作る。
 それは、話し合いに参加しないわけにはいかないな。
 施設、住む場所……それはつまり子どもが生活する場所、子どもの危険が最も身近で最も安全で安心出来る場所じゃなければいけないんだから。
 あ、いや、俺も泊まる事になるなら?
 ちゃんと意見はしたいってだけ。うん。
 それと、施設が出来るまで子どもたちはどこで預かるのか。
 今日はまだ町にいるが、先程話題に出た通り『赤竜三島ヘルディオス』出身者は髪や目の色素が赤に近い。
 なので、今日中に学校の寮に移動させたいとの事。
 施設が建つまでは寮で我慢してもらう予定らしい。
 それを聞いたラナが、俺に目配せしてきた。
 ……ラ、ラナ、まさか……。

「七人くらいなら、うちで預かれるわよ? ほら、子ども部屋あるし!」

 エラーナ様っ!

「(ユーフランちゃん目が輝いてるわヨ)ア、アラァ、いいノォ? うちとしては大助かりだけどォ」
「もちろんよ。子ども部屋は二部屋あるけど、男女で分かれても七人少し手狭だと思う。けど……店舗の二階はまだ手つかずだし……」

 ……思い切り目を逸らしてるけど、そんなんでよく来月に開店させたいとか言ってたな。
 レグルスも苦笑いだ。

「なら助かるワ。そういえばここの二階ってどうなってるノ?」
「おう、店舗の二階も自宅の二階と渡り廊下で繋がってんぜ。一階もドア一枚隔てて厨房と繋がってるけどな」
「ヤダ、地味に便利じゃなイ」
「そうなのよ」

 確かに行きやすい。
 とはいえ、二階って俺とラナは自室しか使ってないからなぁ。
 子ども部屋に行く廊下の奥に新たに取り付けられた扉と渡り廊下。
 ……週一で掃除する時しか使ってない。
 昨日はその店舗二階も、三十人以上が突然押し寄せたから適当に片付けて寝床にしてもらったけどな。

「じゃあお言葉に甘えて本当に預かってもらおうかしラ? ……ゲド、本当にいいノォ? その、一応アナタたち新婚サンでショ?」
「「…………」」

 え……?
 新婚って子ども預かっちゃいけないの……!?

「だ、大丈夫よ。えーとそのー、ほらあれよ、あれだから」

 !?
 ど、どれがどれ!?

「エラーナちゃん、アナタ……」
「いや、えーっとそのぉ……」

 なぜかレグルスに圧をかけられるラナ。
 目がものすごく分かりやすく泳いでる……!?
 な、なにがあったんだ?

「ハァ、仕方のない子ネェ。今日中に決着つけちゃいなさいナ。子どもたちは一度メリンナ先生に健康状態をチェックしてもらってから連れてくるワ」
「! そうか、その方がいいか」
「(ユーフランちゃん子どもとエラーナちゃん関係全般チョロいわネ)……エェ、だから早くとも明日か明後日連れてくるワ。こっちも受け入れ準備とかあるでしょウ? アタシもあの子たちに説明しないといけないしネ。あとは……国民権の事とか今後の生活の事とか色々、ドゥルトーニル様に説明したり相談しないといけないモノ。明日またくるわヨ」
「うん、そだね」
「んじゃあ、その辺含めて俺も明日また来る。ったく、テメーらが来てからずっとバタバタしっぱなしだな!」
「それは俺たちのせいだけではないような」

 俺たちのせいだけではないよな?
 あれ? 違うよな?


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