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2 呪いと祝福

 私は私でありたかった。
 ただそれだけなのに。
 それだけなのにだめだった。
 私が悪かったのかな。

(あんな寄生虫を殺せなかったあなたが悪いの)

 き、寄生虫?
 どういう事なの⁉

(でも、それも仕方がないわ)

(あなたが人生をかけて戦った相手は)

(((ディストピア(暗黒郷)に住む化け物よ)))

 ディストピア(暗黒郷)?
 化け物?
 それなら私はいったい何者なの?

(あなたはあなたよ)

(それもかわいそうな被害者)

(落ち着いて、落ち着いて目を開けて)

 目を開けてと言われて自分が目をつぶっていることに気付いた。
 目を開けてみたが、全体がぼやけて何も見えない。
 まるで視界に濃いモザイクがかかっているみたい。
 手探りでなにか掴もうとしても手が動かない。
 流れ続ける水?
 感覚がまるでない。
 私が一体どんな姿勢でいるのかも分からない。

「ちゃんと開けたわね」

「まだ見えないと思うけど」

「大丈夫よ、ちゃんと見えるようになるわ」

 目の前が少し暗くなり声を正面の三方向から感じた。
 目が見えにくい事を私より知っている?
 この人たちはあいつのことも知っていた。
 もしかしたら感覚のことも?
 話している声にも言葉にも敵意は感じない。
 安心してもいいの?
 信用てもいいの?

「いいの、あなたはもっと早くに護られるべきだった」

「私たちにあなたを癒す事は出来ない」

「でも、もう傷付かないよう護る事ならできるわ」

 私を、護る?
 でも悪魔は私の内側に居た‼
 今は死んだと思うけど。
 あれ?
 死んだ?
 私はトラックに轢かれて。

「死んだ?あいつはあなたという肉体を失っただけ」

「あなたの魂にはまだあいつのマーキングが残っているわ」

「それを外す方法はただ一つ」

「「「その臭いが感じられない程の呪いと祝福をかけるの」」」

 マーキング?呪い?祝福?
 いろいろこんがらがっているけど。
 やつは外から来た?という事なの?

「じゃあ、呪いと祝福をかけるわね」

「両方同時にやらないといけないんだけどね」

「最初は違和感を感じるかもしれないから」

 つまりは覚悟しとけよって事か。
 大丈夫、いつでも。
 前方向から三つの手が伸びてきて私の頭に手を置いた。

(((大丈夫、頑張って)))

 脳内に直接三人の声が響く。
 大丈夫、その言葉信じたから。
 左右と前から聞き取れない言語が聞こえる。
 聞いたことがないから?
 理解はできていないが、聞いたことがある単語がある。
 囁きが終わると頭にいろいろと入って来た。

「ああああああああ、痛い、イタイ、いたい」

 それはカラフルでたくさん。
 白は卵の白身のよう。
 赤は血のようにドロッと。
 黒は質感がない。
 知識、感情、単語、暖かい塊。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ」

 濁点で濁った叫び声が聞こえる。
 これは誰の声なの?
 私?違う。
 じゃあ誰なの?
 いや、これは人の声じゃない。
 これは呪いと祝福、相反する物が混ざるときの苦痛の音。
 覚悟が必要なのはこの事だったんだ。

 叫び声が収まると一瞬視界が光に包まれた。
 光は柔らかいようで網膜を焼き切る勢いを持っていた。
 目は少し眩んだ程度で済んだ。

「お疲れ様、もう大丈夫」

「これでもう私たちとはお別れね」

「寂しそうにしてたら夢に出てあげるわ」

 三人に頭を撫でられる。
 そんな歳じゃないと言いたいが案外心地よい。
 最後まで気にならなかったけど。
 ここはどこ?
 この人たちは誰?

「あなたが気にする事じゃないわ」

「今はもう眠りなさい」

「************」

 まぶたが重い。
 眠ったら次はどこにいくのだろうか。
 不安と期待でドキドキしながら私は眠気に意識を飛ばした。

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