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8-2「人を救うとはこうやってやるのです」

 パラサ・リッツはその時間、つくば保安科の営倉内の独房に監禁されていた。

 諜報班が特定した4人の内通者、その中でも飛び切りのVIPがパラサ・リッツ大尉であった。何しろ実質『つくば』艦内の少年少女のトップに当たる生徒会長にタイラー着任以前から従事しており、航海科の長たる航海長を兼任するこの船の操舵の総責任者である。

 それが拘束されるという事態は尋常な事ではない。

 タイラーが、クロウが目覚めたときにクロウに対して正体を明かさなかった理由の一つが彼女の存在であった。万が一クロウがタイラーを『兄』と呼んだ場合、パラサの情報網にその関係が知られてしまう。

 タイラーが恐れたのはその一点であり、タイラー自身の出自の露呈に関してタイラーは重視していなかった。例えタイラー自身の出自が露呈してしまったとしても、八郎と九朗を結びつける資料はこの時代にはなかったのだ。

 クロウの持つ『母の手紙』を除いては、である。

 そのため、タイラーは艦長室でうかつにもそれをシドへ見せたクロウに対して釘を刺したのだ。「これはあまり人に見せるものではないよ」と自然に窘めてである。だが、そうは言っても、クロウ自身がその手紙をパラサに自ら見せてしまうという可能性はあった。

 そこでタイラーは先んじて『手を打った』のだ。彼女が今こうして優秀過ぎるタイラーの部下に捕らえられ、この営倉に居る事態はタイラーにとっても誤算である。だが、タイラーは『そうなってしまって』もいいように既に策を講じていた。

 パラサは、独房に設置されている壁掛けのベッドに足を折りたたむように座っていた。今はその折りたたんだ足で顔を隠し、長い金髪が彼女の膝を隠していた。

 パラサ・リッツの生まれたリッツ家は、代々地球連邦軍将校を輩出する言わば軍隊一家であり、世襲制などない軍部においてもその家系の各々が実力でのし上がり代々軍部の中枢にその地位を置く優秀な家系だった。

 ジグルド・リッツ元帥。それがパラサの父の名だった。いくたびの戦火で無類の戦果を挙げた百戦錬磨の名将にして、地球連邦軍の英雄である。

 パラサはそんな彼の元、蝶よ花よと育てられた令嬢であり、本来は軍隊に所属するつもりも、父であるジグルドも所属させるつもりも無かった。

 その事情が変わったのはパラサが12歳になったばかりの頃だ。父であるジグルドが移動中の車上にて襲撃を受け、暗殺されたのである。実行犯は彼自身が退けた旧火星軍閥に属するテロリストであった。

 その直後、リッツ家の家内は荒れに荒れた。突如当主を失ってしまったのである。軍部において世襲制は無かったが、リッツ家は貴族然とした世襲制を持つ封建的な家庭だったのだ。

 結局、家督は前当主であったリッツの祖父であるオーデル・リッツに戻った。だがそれを面白くないと感じた勢力があった。ジグルド・リッツの実弟、オーデルの次男に当たるローグ・リッツである。

 しかも、現当主であるオーデル・リッツは次期当主を当時12歳のパラサであると公言したのだ。

 ローグ・リッツによる直接的ではないが、間接的で陰湿な嫌がらせが幼いパラサを襲ったのは当然といえば当然だった。そこで、オーデルはパラサを即座に幼年士官学校へパラサを編入させ、ローグ・リッツとの関係を絶った。

 このことにより、リッツ家の家督争いはうやむやとなり、パラサはその士官学校で自身の実力を持って頭角を現す事となる。

 今までの人生の中でそこからの人生が本当に楽しかったとパラサは回想する。家の束縛を逃れ、仲間たちと共に過ごす時間は本当に自分の宝物であったと。

 そして、いくつかの選抜試験を突破したパラサは、正式に第四人類へのバージョンアップ施術を受ける特別な人材へ抜擢された。祖父であるオーデルが直々にパラサの元に現れて祝辞を述べるほどの偉業だった。第四人類に改造を受けてからもパラサは一層訓練に励んだ。

 自身が乗艦する予定の『つくば』に配属され、シド達と出会ったのはこの頃だ。『つくば』にはその後徐々に乗員が補充され、最終的に3399名の乗組員数となった。気が付けばパラサはそこで『生徒会長』という学生内の長として振る舞っていた。

 そんな彼女に上官が出来たのはつい1年ほど前の事だ。

 突如地球連邦に反旗を翻した『マーズ共和国』に対してこの訓練中の『つくば』が単艦出撃するという無茶な命令が下された直後、パラサの伺い知らない何らかのコネクションによってタイラーはこの艦に乗艦していた。乗艦までの手続きは『つくば』に搭載されたメインコンピュータのAIによって行われ、タイラーはベッドごと艦長室へ運び込まれていた。

 こうなってしまうとパラサにはどうにもならない。ともかく、今はこの『つくば』を単艦出撃させるという滅茶苦茶な命令を何とかしなければいけない。と、考えていたパラサは当時から戦術長としてパラサを補佐してくれていたルウ・アクウ中尉にタイラーの監視と身の回りの世話を頼み、自身はオーデル・リッツを通じ何とか事態の収拾に努めた。

 四方八方のコネクションを使用して、情報の収集と、命令の撤回を求めたが、事態は遅々として進まなかった。

 そんな『つくば』の絶体絶命の危機を颯爽と救って見せたのが、あの突如現れたタイラー・ジョーンだった。それが偽名であることはパラサには分かっていたのだが、彼の手腕とコネクションには脱帽だった。

 彼はいつの間にかルウが用意した軍服に身を包み、最低限の護衛を伴って何処かへ出かけたかと思うと、その日のうちに連邦政府と共和国との間に停戦協定が結ばれ、『つくば』に対する出撃命令も跡形もなく取り消された。

 タイラーが何かしらをしたのは確実であったが、パラサの保有する情報網のそのいずれにも彼が何を行ったのかが分からなかった。

 とにかく、このタイラーによって『つくば』が救われたのは事実であった。彼を監視し、その情報を提供するようにリッツ家から通達が来たのはその直後であった。

 その通達に軍事的な拘束力はない。パラサからすれば実家からの『おつかい』に他ならないからである。

 だが、その通達の差出人はローグ・リッツであった。あの、散々にパラサに嫌がらせをし、現在では連邦政府軍で少将の階級を持つローグである。パラサは即座に祖父であるオーデルに連絡を取った。

 オーデルは父と同じく元帥であり、ローグ以上の権力を持つ。だが、オーデルは共和国の対応に追われており、パラサはともかく、実家のパラサの母であるルート・リッツとパラサの妹のエリサ・リッツがローグの手によって既に軟禁されていた。

 パラサにはその通達に従う他に彼女らの命を守る方法が無かった。

 そして、タイラーを監視。とは言っても、タイラーはその活動の初期はパラサとルウをほぼ何処にも追従させたため楽なものであったが。行動を共にして、パラサは『鬼』を目撃した。

 激しく怒るタイラー自身である。激怒と言っていいだろう。彼は激しく怒り、怒りのあまり叫び、涙を流した。

 他ならぬ第四世代人類であるパラサやルウ、そしてフォース・チャイルドたちのためである。地球連邦軍は1年後の2月1日付を持って今度は『つくば型』全艦に対して出撃を決定したのだ。そんな自分たちのために涙を流し怒るタイラーの不利になるような事をパラサはしたくは無かった。

 だが、母と妹の記憶の中の面影がそんな感情とは別に彼女に内偵としての作業を行わせた。その日以降、タイラーは仮面を被り、パラサはその彼の行動を逐一リッツ家へ報告するに至ったのだ。

「よう、面会だ」

 回想するパラサに独房の扉越しに声がかかった。シドである。

「何よ、私を笑いに来たの?」

 パラサは自暴自棄気味にそう言った。金髪の長い髪でその表情はシドからは伺えない。だが、付き合いの長いシドには彼女が自嘲気味に笑っているのがその声色からわかった。

「そう、思うか?」

 声が近い、パラサはそう思い顔を上げると、独房の鉄格子を両手でつかんで中を覗き込むようにシドが居た。

 そのパラサの碧眼とシドの焦げ茶の瞳の視線が絡む。

 だが、パラサからは逆光でその瞳の色までは分からなかった。今そのシドの瞳は彼女から見て真っ黒に見えた。

 まるでその今にも泣きそうな彼自身の心情を切り取ったかのように。

 その表情は彼女がこれまで見たことのない憂いを含んだものだった。

「少なくとも、笑ってくれそうには無い顔ね」

 パラサは髪をかき上げながら平静を装って微笑む。それで少しでも彼が微笑んでくれればいいと思った。このバカのように優しい青年が決して笑む事は無いだろうと知りながら。

「馬鹿な事言っているんじゃねえ。今ここを開けるからすぐに逃げろ」

 そう言って、シドは扉に何らかの操作をし始めた。

 瞬間、パラサは頭が真っ白になる。内通者など発見され次第銃殺されてもおかしくないのである。今この瞬間パラサが生きてここにいるのは単に何らかの情報伝達が行われている時間に過ぎないとパラサは考えていた。日が昇れば、この『つくば』の出発を見届ける事無く自分はその命を落とすであろうと。

 その彼女を彼は逃がすと言う。そんなことをすれば彼自身が命を落とすことになる。そんなことはパラサには耐えられなかった。

「やめなさい! あんた何をしようとしているのか、わかっているの!? バカやって捕まったユキ中尉とは訳が違うのよ!」

 ぎゃあぎゃあと喚きながら、下着姿のユキが自分とは離れた独房に保安科のクルーによって放り込まれるのはパラサも目撃していた。どうせ、クロウの寝込みを襲ったとかそこら辺の事情だろうとパラサも瞬時に察した。だが、同時に羨ましくも思ったのだ。少なくとも彼女は自分の思いに正直に生きていた。

「だからだよ! 俺は親友に尋問される惚れた女なんか見たくもねぇ!」

 言いながら、シドは作業をやめない。「くそ、手が震えやがる」と自分の体に毒付きながら。

 その言葉はパラサがこの独房に入るまで、ずっと欲しくても手に入れられない一言だった。

「本当に馬鹿よあんた。なんで今なの? どうしてもっと早く」

 どうして、どうしてこの様な事になってしまったのだろうか、例えば、この扉が開放されたとしても、もうパラサには彼を抱きしめる時間も、その想いに答えを返す時間すらない。

「うるせえ黙れ! お前が俺たちの追ってた内通者で、ここにぶち込まれているって聞いた時、俺の頭は真っ白になった! 俺は馬鹿だからそんな事でも無ければ、自分の気持ちになんて気が付けねえ!」

 シドは酷く原始的なその施錠に手こずっていた。電子的なカギだけではなく、旧世代のシリンダーキーと南京錠も併設されたこの扉は、その実この時代の人間に取って極めて扱いにくい構造だったのだ。

「そこまでです、シド軍曹。両手を上げてください」
 カチリと、拳銃の撃鉄を引く音がパラサの居る独房まで響いた。

「くそっ、思ったより早い!」
 シドはその背面すぐにまで迫った気配を感じ、両手を上げざる他に無かった。

 ルウだった。パラサが独房の鉄格子越しに外を覗き見ると今まさにシドの頭にその拳銃を構えるルウが見えた。

「ルウ! やめて! 私ならどうなってもいいから。シドはふざけていただけ、何もしていないわ」

「パラサ、面白い冗談です。独房の鍵穴にピッキングツールを差し込んでいた男が何もしていないのなら我が艦に保安科は必要ありませんね」

 光をまったく感じない、暗い瞳でルウは言う。その琥珀色でいつもは美しいと感じるルウの瞳が今、その深い蒼の前髪に半ば隠され、怒りに燃え、その殺意を目の前のシドにむき出しに向けられていた。

「シド軍曹。あなたはもっと賢明な方だと思っていました。諜報班を離れて腕が鈍りましたね、貴方が『今すべき』ことは愛おしい姫君をその牢獄から解き放つことではありません」

「けっ、うっせ。洗えば洗うほどパラサはクロなんだ。他の捕まっている内通者だって、元はこいつの家の使用人じゃねぇか」

 その通りだった。パラサは他のクルーに迷惑がかからないよう、自分についてくると言ってくれた使用人のみをその仲間として使用し、この艦の情報を収集していたのだ。

「まったく、貴方たちは」

 そこまで言ってルウは銃を静かに下す。安全装置をかけてあろうことか腰のホルスターにしまってしまった。大きくため息を吐きながら。

「どうして、私や艦長を信じてくれなかったんですか!」

 言いながら怒って見せるルウは、パラサとシドが知るいつものルウその人だった。

「ああん?」

 言いながら、シドは後ろのルウを振り向く。ルウは片目に涙をためながらほほを膨らませ、腰に両手を当てて見せていた。本人は仁王立ちをしているつもりである。そうなってしまうと年相応の少女である。シドとパラサは揃って笑いを噴き出した。

「ぷっ、わはっはは!」

「ふっ、ふふふふふ!」

 そんな二人に、ルウはなおも地団駄を踏みながら言う。

「笑い事ではありません!! いいですか、パラサ。貴女の行動はその当初から艦長には筒抜けでした! どうして艦長が貴方を泳がせていたかわかりますか!?」

「え?」

 そんなパラサにとっては意外な一言にパラサは硬直する。ルウはその監視対象であるタイラーが最初からパラサの裏切り行為を知っていたというのだ。

「ほら、気が付いていなかった。シドもですよ。パラサが怪しいなんていうのは諜報班に所属している間に何度も気が付いていた筈です。どうして放っておいたのですか?」

「んん? ああ、まあ事情があるのは知っていたし、『いつか相談してくれないかな』ってな」

 それを聞いたルウはガンガンと床を蹴る。

「そうです! そしてそれは私も艦長も一緒だったのですよ!? 一言、一言だけでも言ってさえくれれば、私も艦長も親身になってそれに応えたはずです! このバカパラサ!」

 ルウにバカとののしられたのは初めてだった。パラサは思わず言い返す。

「だってしょうがないじゃない! 私にだって事情があったのよ! 万が一にも貴女たちを巻き込みたくなかった!」

「それが余計なお世話だと言っているのです! 艦長も私もシドだってそんなに弱くありません! 知ってますか、ここでぼーっと突っ立っているシドはこの一年間に約50人を狙撃して殺し、30人をマーシャルアーツで屠っている『つくば型』最強最凶の凶戦士ですよ!」

「はあ!?」

 パラサにとっては初耳の話だった。先ほどから言葉の端々に飛び交っている『諜報班』という単語でさえパラサは聞き覚えが無かった。

「や、それはこの場では関係無いんじゃねぇかな? 多分ルウ、お前の方が強いだろ」

 シドは冷や汗を垂らしながら言うが、否定はしない。ルウは本当の事を言っているのだ。シドはこういう男である。パラサは額に手を当てるいつものポーズを無意識に取ってしまっていた。

「シド軍曹は馬鹿ですか!? 貴方と私の体格差がどれくらいあると思ってるのですか、身長にして20cm以上、体重にして半分しか無いんですよ。片手で掴まれるだけで私なんて詰みます!!」

 聞いたシドは「半分は『サバ読み』し過ぎじゃね」と言いかけるが、ルウはジト目で床を蹴って黙らせる。今のは、シドが悪いとパラサも思った。

「ともかく! 一言相談さえしてくれれば、『私達』にはどうにかできるだけの力があったのです!」

 言いながらぷりぷりとルウは怒る。パラサはこくこくと頷くしかなかった。それを半目でみたルウは「反省したようですね」と言うと、あっさりとパラサが監禁されている独房のカギを開錠してしまった。

「おいおい! いいのかよ!」

「彼女が我々に敵対することはもうありえません! シド、人を救うとはこうやってやるのです」

 目を白黒させながら、パラサは独房をルウに促されるまま出る。

「お二人ともお待たせしました。こちらへどうぞ」

 パラサが独房から出たことを確認すると、ルウは営倉の廊下の角へと声をかける。

「お姉さま!」

「エリサ!?」

 飛び出してきたのはエリサ・リッツ。今年で14歳になるパラサの妹である。それに続いて静かに歩み出てきたのはルート・リッツ。パラサの母であった。

「ああ、パラサ。私達のせいで迷惑をかけました」

 二人はパラサに静かに抱き着く。

「どう、して?」

 パラサは状況についていけずに呆然としていた。二人は確かにパラサの叔父であるローグ・リッツによって軟禁されていた筈だった。二人の人質がいるからこそ、パラサは望まぬ裏切りに手を染めていたのだ。

「ああ、『研究員』を使ったのか」
 すぐに思い当たったシドは、頭を掻きながら言う。

「そうです。彼らにとっては一人でも容易い任務ですが、彼らは既に現地で複数人の部下を独自で教育し世界各地に放っています」

 シドの言葉を肯定しながらルウはしれっと言う。驚くのはシドの方だった。

「はあぁ? 何それ初耳なんだけど」

「私たちは最初から情報戦をしているのですよシド。現地協力者を作り部下とし、訓練し、規模を大きくするのは当たり前でしょう?」

 それは情報戦において基本中の基本であった。部外者というのはどの組織においても目立ってしまう。だからこそ、『元からそこに居た』人間を使うのだ。

「あー、そっか潜入してるんだったらそれもありだわな」

 今更言うシドに対してルウはため息を吐いた。このシドという人物は単独において比類なき戦闘力を発揮し、部隊の統制もとにかく上手いが、こと謀略であるとかそういった部分においては何処か抜ける。根が善人過ぎるのだ。その為、こと諜報班においてシドは主に『荒事専門』に運用されていた。彼自身がそれを望んだというのもある。

 彼は何処か自分の命を勘定に入れない事が多々あった、それをここまで生き延びさせたのはひとえにそのように彼を再訓練したタイラーの手腕による部分が大きい。だから彼は、必ずどんな任務であっても生還する。

「ともかく、これで。彼女を拘束する意味は消えました」

 そう言いながら、ルウはパラサに協力していた。残りのクルーの独房の扉も開放していく。

「パラサ家の方々は士官用の居室の一つを利用して、しばらく生活していただく事になります。この子達は元使用人との事ですから、そのままお世話をしていただきましょう」

「マジかよ、ここまでやったってのかあの艦長は」

 シドは不意に、これらの事を全て画策した男に対して何度目かの畏怖を覚えた。

「艦長は悲劇的な物語はお嫌いだそうです」

 にっこり笑ってルウは言う。

「お、ルウちゃんついでにここの扉も開けてくれちゃったりしなかったりしないかな?」

 そう言ってルウが立つすぐ横の扉の鉄格子から、下着姿のユキがひょっこりと顔を出した。オレンジ色の髪の毛がその暗い鉄格子と対となって映えていた。その場に似つかわしくない明るい声色でもあった。

 ルウはおもむろにユキが顔を出す扉を回し蹴りで強かに蹴った。ユキはその衝撃で独房内へと吹っ飛ばされた。

「ぎゃん!」

「寝言は寝てから言ってください。このレイプ魔。貴女は反省するまで絶対出しませんからね!」

 これが、宇宙歴3502年1月12日2045時の事である。

 この時、『つくば』艦内には乗組員3401名、民間人2名が存在していた。

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