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第13話 とあるドラゴンの電磁砲


「うおおっ!!」
「あっ…危ねっ!!」
「うひゃあああっ…!!」

 謎の敵からの電磁砲(命名、俺)攻撃に足止めされ、俺は未だに森を抜け出せないでいた。
 既に万策尽きている状態なので自身の水探知能力を頼りに攻撃を避け続け、少しづつではあるが前進はしている…はず。
 しかしいつまでもこんな事を続けていては埒が明かない。
 何かないか…俺が前世で好きだったアニメやゲーム、漫画にこのような能力を持った敵を出し抜く方法が…。
 
 既に試した視覚、聴覚、温度感知…どうやら敵はこのどれでもない情報を基に俺の居場所を割り出しているのは間違いない…ついでに言うと動きにも反応していない節がある…でなければ先程俺が『|水刃斬《ハイドロカッター》』を放った時に何故そちらを攻撃しなかったのかの説明がつかない。
 待てよ?そう考えると同じ動くものでも生命体とそれ以外を判別して認識していることになるな…そうか、分かったぞ…!!相手は何らかの方法で標的の生命反応を探知して攻撃しているに違いない。
 生きているものが分かるなら姿を隠そうが、物音を立てない様にしようが、体温を下げようが関係なくこちらを見付けられる。
 ならどうやって生きているものを判断するか…それは恐らく呼吸をしているかどうかだと思う。
 俺が知っている限り呼吸をしない動物は殆どいない…いや植物だって立派に呼吸している…だがそうなるとこの森は生き物だらけという事になるが、呼吸をしながら移動する大き目の個体を識別出来るのならこの狙撃は可能だ。
 しかしこのカラクリに気付いたからと言ってこの状況がガラリと有利になるかというとそうではない…呼吸をしないでこの広大な森を抜けるのは不可能だからだ。
 だがそれが出来なければどのみち俺は遅かれ早かれここで命を落とす事だろう。
 何か方法はないか…息を止めたまま高速で移動する方法が…俺は辺りを見回した。
 うん?何か聞こえるな、これは水のせせらぎか?音を頼りに視界を移す、すると前方の少し離れた所に溝が見えた…あれは川だ。
 来る…!!俺はもう何度目か分からない電磁砲を避けると同時に川に飛び込んだ。
 水探知…俺は水の流れを探知できる固有能力がある…この川は遥か前方、この森を抜けた先の岩場まで続いているようだ。
 しかし川は想像していたよりずっと細く浅かった。
 更についてない事に進行方向が川上だ…川が大きく、流れが逆だったらこのまま川の流れに乗って終着点の岩場まで楽に行けたものを。
 だが川があるというだけで俺にとってはチャンスが巡って来たと言える…この浅さではドラゴン形態での泳ぎは無理なので、人間形態で泳ぎ流れを遡る事になるが水属性のドラゴンである俺にはそこまで大変な事ではない。
 それに水中を進むのなら必然的に呼吸を止めなければならない…これは逆に好都合、これなら奴に呼吸を探知される事はない。
 そして俺は呼吸をしなくても水の中なら30分近く素潜りをしていられるのだ…それは人間形態になっても変わらない。
 但し森を抜けるまでにはある程度の距離がある…俺の見立てではかなりギリギリ限界の距離だ…こうなったら俺の息がある内に泳ぎ切り森を抜けるか、途中で息継ぎをして奴に狙い打たれるか…時間との勝負!!

 俺は早速人間形態となり川を泳ぎ始めた…確かに少し押し戻されはするが泳げない程ではない。
 思った通り川を泳いでから電磁砲の攻撃はぱったりと止んだ…俺の予想は的中したと言う訳だ。
 今頃は誰だか知らない相手は俺を見失って動揺している事だろう。
 しかし想像していたよりこの川が長い…人間形態になって身体能力が極端に落ちているので無理はないが、このままでは息が持たないかもしれない。
 息継ぎで水から顔を出そうものならすぐさま電磁砲の餌食だろう…今の人間形態でアレを避け切る事は不可能だ…すぐドラゴン形態に戻れば避けれるって?形態の変化にはちょっとした時間が掛かるのだ。
 
 段々と辺りが明るくなってきたのが水の中からでも分かる…もう少しで森を抜けるのだろう…しかしもう限界だ、息が続かない。
 だがこのまま水面に浮上して息を吸うのはさっきいった通り非常に危険だ。
 ならばイチかバチか…このまま水中でドラゴンに戻る!!
 ドラゴンに戻った途端、川の水から完全に俺の身体が露出する。
 そして久し振りの呼吸に安堵すると同時に、早速来た水の揺らぎ…俺は翼をはためかせこのまま上空に飛び立つた。
 足元を電磁砲が通り過ぎて行く…足がちょっぴり痺れたが問題ない。
 そのまま樹々を一気に飛び越え、先にある岩場に着地した。
 俺は何とか森を抜ける事に成功したのであった。
 そして目の前にいる巨大な存在を確認する…予想はしていたが今まで俺を苦しめていたビリビリ野郎はドラゴンであった。

 身体の大きさは俺より二回りほど大きい…表皮は限りなく黒に近いグレーで全身に《《ひび》》が入っている…これはかなり高齢のドラゴンだな…身体が朽ちかけている。
 これが話に聞く『|世界を保つ者《ワールドキーパー》』の前任者と言う奴か。

『ほう…儂の攻撃をかわしてここまで来るとはな…中々の小童《こわっぱ》よ…』

「そりゃどうも…でも長距離からちまちま狙い撃ちとは結構姑息だな臆病者の爺さん」

『口の減らない小童め…儂がスパークドラゴンのライデンと知っての暴言か?
後で後悔する事になるぞ…』

 特に声を荒げている訳ではないのだが、ライデンと名乗るドラゴンからは物凄い威圧感を感じる。
 しかもライデンの顔をよく見ると両目に夥しい数の深い傷が縦に走っており、目が完全に塞がっていた。

「俺はリュウジってんだ…ところであんた…目が見えないのか?」

『そうだ…だが同情など不要…小童の姿は常に丸見えよ…』

 こんな状態で森の中に居た俺を正確に狙っていたとは恐れ入る…やはり視覚に頼らない特別な感覚を頼りに攻撃をしてきたようだな。
 ライデンの能力は大方察しは付いているが、答え合わせといこうじゃないか。

「その割には俺を見失っていた様だけど?」

『それよ…小童、お前はどうやって儂を欺いた?』

「あんたの攻撃パターンを見ていてある事に気付いてね、川に潜って泳いで来たのさ…
俺だってただあんたの攻撃を避けまくってた訳じゃないぜ?
俺も色々あんたを試していたんだからな、それはもう色々と…
そして導き出した答えがあんたが生物を、呼吸をする者の存在を識別できる能力って事さ…違うかい?」

『フッ…フハハハハッ!!これは愉快!!今まで儂のこの能力に気付いた者はおらなんだのに!!長生きはするものよのう!!』

 ライデンが豪快に笑う。

『小童…いや、お前が言った通りで概ね間違いではないが答えとしては完全ではない…』

「じゃあ何だって言うんだい?」

 鎌を掛けてみたが果たして引っ掛かるだろうか?
 流石に自分の能力を自ら口外するようなタマには見えないからな。

『いいだろう…教えてやる』

 え~、言っちゃうんだ?

『儂の鼻先からは特殊な魔導波が出ておってな、それが物に反射して戻って来たものを耳で受け止め相手を識別しておるのよ』

 そうか、蝙蝠などと同じ能力か…高性能レーダー…ただ精度が異常だがな。
 呼吸などの情報まで掴めるなんてそれはチートじゃないか。

「そんなにベラベラしゃべっちゃっていいのか?」

『問題ない…お前が目の前に現れた時点で儂の能力の優位性は無いに等しい…』

 確かにここまで近付いてしまえばそんな特殊能力なんて関係ないもんな。
 
「戦う前に一つ確認したいんだが…いいかい?」

『何だ?負けた際の命の保証でも欲しいのか?』

「ちげーよ!!あんたさ、見た所相当な高齢の様だが…戦わずにここを去る気はないか?」

『…それは聞けぬな…』

「どうしてだ?あんた、『|世界を保つ者《ワールドキーパー》』だよな…
そんな身体になってまでそんな役目に縛られる事はないだろうに…
そろそろ後進に役目を譲ったらどうだい?」

『やはりお前は新参の『|世界を保つ者《ワールドキーパー》』だったか…大方この老いぼれを|唆《そそのか》して儂の地脈を奪う気なのだろうがそうはいかぬ…口先ではなく実力で奪ってみよ!!』

「どうしても俺の言う事は聞けないと?」

『くどい…!!』

 ちっ、交渉決裂か…もう戦いは避けられない。
 ライデンがどれだけ強いのかは知らないが、俺にだって勝機はある。
 俺も森の中で情けなく電磁砲の的になっていた訳じゃない…俺が思うにあの電磁砲は連射が効かないのだ。
 だから接近戦で不用意にアレを使ってくる事は無い、使うとしたら俺を確実に仕留められるほど追い詰めた時だけだろう。
 かといってライデンの魔法を俺はまだ電磁砲以外には見ていない訳で…ここからはより一層注意を払わなければならない。
 そもそも俺の攻撃手段でまともなのは『|水刃斬《ハイドロカッター》』しかない…だが岩をも切り裂く水の刃はあのひびだらけの身体に中りさえすれば確実に仕留められるはずだ。

『さあそろそろ始めようか…手加減はせぬぞ?』

 ライデンの身体中から大気を振動させるほどの電流が迸る…年老いたとはいえこの発せられる気迫は本物…油断したら一瞬で黒焦げにされてしまうだろう。
 それにしてもドラゴニアに降りてからすぐにこんな強敵と戦う羽目になるとはつくづくツイてないな俺…しかし俺にも目的がある、優しい世界を創ると言う目的が…。
 それなのに最初から躓いてたまるか…俺は気合いを入れ直し臨戦態勢に入った。

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