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第2話 思いがけない刺客

トリオ結成から数日後、討議の末チーム名はトリプルハートという名に決まっていた。
チームのマークは青、赤、黒のハートマークを絡ませたデザインで冷静なクールさを漂わせる青=ブールーハートこと新城晴華。
情熱の赤こと動きを漂わせる赤=レッドハートこと麻生真由美。
そして闇の色や喪服等、不幸を漂わせる黒=ブラックハートこと朽木美奈代。
この様な構成である。
しかしまだたいした活動は行っていなかった。
新城晴華が一年生ながらも生徒会長に選ばれ更には晴華が手を回し真由美も美奈代も一年生ながら役員になっていた。

晴華は生徒会活動を装い学内学外を問わず近隣地区の風紀にも携わり犯罪防止に努めることにした。
かくして学内の学生が不良学生や町のチンピラに絡まれたり、絡まれそうになった等の事態に際し幾度となく出動を余儀なくされた。
夕刻のフェリス学園生徒会室、突然の静寂を打ち破りけたたましく電話が鳴る。
くつろいでいた三人だが晴華はすぐさま電話に出る。
「はい!」
「こちらは聖フェリス学園生徒会室でございます!」
晴華に緊迫感が走る。
電話の声。
「あの、助けてください、こちらは新町346番地・・・」
「プープープー!」
電話は最後まで語り終わらずに切れていた。
事態は緊迫している事は明らかだった。
「出るよ、みんな!」
「あの辺りは繁華街なら見当はつくわ!」
出動にはもっぱら晴華の運転するバイクが使用されていた。
外国製らしい真っ青な大型バイクにサイドカーが装備されており晴華の後ろに真由美が乗りサイドカーには美奈代が乗ることになった。
晴華は留学中に飛び級をして15歳なので免許は無いと思われたが
当人は国際ライセンスなとど称しているが嘘くさい。
しかもサイドカーと後ろに乗せているとはいえ三人乗りは違法なはずだが、やけに堂々ととしている。
無論あとの2人はそんなこと知る由も無い。

しかし日本では義務付けられているヘルメットの装着には抜かりが無くコードネームに
合わせた青、赤、黒のヘルメットを装着している。
ヘルメットは全てフルフェイスだった。
「とばすわよ!」
晴華は猛スピードで軽々とマシンをいなしていく。
夕闇の迫る繁華街、雑然とした辺りを潜り抜け裏路地を目指す。
そこには助けを求めてきたと思しき女学生が数人の男子校の生徒と思しき学生に追い詰められていた。
「待ちなさい!」
晴華の操るバイクがその男子学生の群れをかすめて行き過ぎる。
晴華は派手なターンを披露しバイクを止める。
いつの間にかサイド部分には安堵の表情を浮かべた女学生が乗っている。
ぎゅうぎゅう詰めになり美奈代もその女学生も窮屈そうではあったが
「ではごきげんよう!」
あっけにとられている男子学生の集団を尻目にその場をあとにした。

そのまま女学生を安全な場所まで乗せていく傍ら事情を聞いてみたところ
奴らは高山高等学校という悪名高い三流高校の連中で近頃、悪事が過ぎるらしい。
女学生を無事帰したあと晴華が楽しそうに微笑んだ。
「初仕事は決まったわね!」と

次の日の朝、登校した例の三人はいつもどおり授業の前に生徒会室に集結していた。
昨日の言葉どおり晴華は不良の巣窟として名高い高山高校に乗り込むつもりなのである。
「はーあ!」
真由美がため息混じりに問いただす。
「行くの?」
「どうしても?」
美奈代は黙っている、既に諦めているのだろう。
「しかし学校サボってまで・・・」
と気乗りしない真由美。
そんな真由美の肩をポンと叩き。
「そうですね、一番授業が遅れているのはあなたですが、この作戦では一番必要なのです!」
と晴華。
「遅れた分は私と美奈代さんとで教えて差し上げますから!」
「そんなに勉強したいのかな?」
どこからみても勉強より体を動かすほうが性に合っているといった真由美に向かって美奈代が疑惑の目を投げかける。
失礼な台詞ではあったが素朴な疑問であった。
「じゃ、堂々とサボリますか!」
真由美が明るい様子で言った。

真由美は晴華の計らいで空き時間には格闘技の道場で格闘技を学んでいた。
運動神経に自信はあり、道場の師範も飲み込みの早さに舌を巻くほどであったが実戦はまだ経験していない。
不良学生との乱闘になるだろう事態を予測して戦慄していたとは流石に口には出せなかった。
そんな心象を知ってか知らずか。
「では小手調べとまいりましょう!」
晴華がうやうやしく語った。

ゲームランドスターマイン。
ここは不良学生の溜まり場になっている雰囲気の悪いゲームセンターで。
店内は薄暗く汚い落書き、チンピラまがいの店員、整備不良の筐体、立ち込めるタバコの煙。
とても健全な娯楽の場とはおせじにも言い難い環境であった。
晴華は小手調べと言っていたがごつい不良学生ばかりで女こどもなど一人もいない。
「う、わ!」
「まあ!」
「ふふん!」
真由美、美奈代、晴華が声を漏らす。
この場には似つかわしくない客に店内は色めき立つ。
「おやおやあ!」「
彼女達どうしたのかな?」
「頂きまーす!」
獲物の進入に気づいた不良たちが3人を取り囲む。
数十人はいるだろう。
三人を逃がさないように大きく輪のように囲んだ中に3人の男が入ってきた。
おそらく力関係から言ってこのなかではベスト3にはいる三人なのだろう
巨漢の男が真由美の前に、普通体系の男が晴華の前に、そして背は低いがナイフを握り締めた男が美奈代の前に立った。
男どもはニヤつきながら。
「だめだよー、お嬢様がこんなところ来ちゃ!」
「おしおきしてやるからおとなしくしな!」
と口々に言っていたが彼女達三人はそんなつもりは毛頭無いといった感じで互いを背にして男たちに向き直った。
「仕方ない、手加減して痛めつけてやろう!」
巨漢の男が言い放つと三人の男が彼女達に襲いかかった。

美奈代VSナイフ男。
「そのおべべを剥ぎ取ってやる!」
男は手中にたたまれたジャックナイフを振りあげ。
ナイフで付き捲る動作に出た
。男のナイフが美奈代の制服にヒットする。
しかし次の瞬間声を上げたのはナイフ男のほうだった。
ナイフは確かに美奈代の制服にヒットした
。しかしいささかも服は切れていなかった。
それもそのはずナイフは折りたたまれたままだったのである。
「そんな馬鹿な!」
男はいつもどおりにナイフを振り上げた。
そのときに折りたたまれたナイフから刃が出て相手を切り裂く。
何百回と繰り返してきた動作だ、ミスるはずがない。
しかしナイフは無常にも折りたたまれたままであった。
男はむきになって刃を開こうとしていたが開かない。
男の顔に無数の汗が走る。
だが次の瞬間。
「ごめんなさい!」
美奈代のカバンが勢いよく振り下ろされた。
潰されてはいなかったので気づかれはしなかったが芯にはしっかりと鉄板が仕込まれており、思い切り振り上げたカバンの角で顔を打たれた男は一撃で倒れてしまった。
男達一同にどよめきがおこる。

晴華VS普通体系の男
「おめえら何かやっているな!」
仲間のナイフ男を倒された為、男は警戒してすぐにはかかってこない。
「さあどうでしょう?」
ならば、と晴華の方から間合いを詰める。
「調子に乗るな!」
男は晴華に向かって軽い蹴りをお見舞いする。
それに対し晴華も蹴りで対抗した。
「ふっ、何処を狙っている!」
晴華の蹴りは男の体とは見当違いのように見えた。
が、。
「があっ!」
男は蹴りを放った右足の脹脛に衝撃を感じた。
そう、晴華はもともと体など狙っては居なかったのだ。
人間は闘いにおいて潜在能力の30%しか使っていない。
残り70%は眠らせたままなのである。
晴華は残り70%を使うことを奥義とした拳法の使い手ではなかったが。
むしろ相手に潜在能力の30%以上を使わせようとしていた。
人間は精一杯パンチやキックを放ったつもりでいてもそうではない。
人体の防御意識が無意識に働き、常にパンチを放つ逆方向やキックを放つ逆方向にも力を入れているのだ。晴華はそれを利用し相手がパンチやキックを放った直後に相手の攻撃の同方向に力が加わるようにダメージを与えようとしていたのである。

ボクシングのカウンターの様ではあるがリーチの短い女性である晴華にとっては
カウンターなどよりも実用的であった。
もちろんスピードはともかく、そのタイミングを摑むには並大抵の努力ではなかったであろうが。 
男は右足を引きずりつつもパンチを放ってきた。
しかし焦りに駆られた男のそれは晴華にとっていっそうたやすかった。
全ての攻撃に晴華はダメージを載せてやり男の全身の筋肉が悲鳴を上げる。
「ぐぐ!」
遂に男は動かなくなった。
巨漢の男は二人の様子に驚きを隠せなかったが相当な自信がなるのだろう。
なんとなげに嬉しげであった。
「ふっ、手前もああいう風にやるのかい?」
「ちょっと違うんだけど!」
二人の予想外の活躍に意外性を感じた真由美だったが。
尚更自分だけ負けるわけにはいかないと精神を集中させた。
格闘だろうがスポーツだろうが運動の基本は一つ、やるしかない。
それに自分は一応格闘技も習っている。(ならいたてだが)
男は多少警戒してか真由美の出方を伺っている。
「いきます!」
真由美が撃って出た。
小柄な体系からスピード重視と言ったところか。
それに対して男は力任せのごり押しタイプと言ったところか。
しかし男は悠に二メートルはあろうかという大男、突きだろうが蹴りだろうが避けることも防ぐことも必要なしと言った様子であった。
攻撃に対し攻撃で押し返すつもりで真由美の攻撃を待っていた。
真由美は低い姿勢から男の懐に潜り込んだかと思うといきなりしゃがみこんだ。
「ふっ甘いな!」
男は長身の自分に対し背の低い者の攻め方としてはうんざりしていたが
いつもどおり潰そうと重心を傾けた。
その時
「はーつ!」
真由美が右拳を掲げ跳び上がった。
しゃがんだ姿勢からの壮大なアッパーである。
男は「蛙パンチとでも言うつもりか!」
「女の細腕で何が出来る、腕が折れるだけさ!」
と笑いながらガードもせず顎を突き出した。
「ガスッ!」
鈍い音が辺りを包んだ。
「真由美ちゃん!」
美奈代は見ていられず目を背けていたが
「大丈夫!」晴華がポンと肩を叩く。
「ぐうう!」
見ると大男の顎は砕けている様子で地面に蹲っていた。
「真由美ちゃん手は大丈夫?」
しかし真由美の拳は少しも傷ついてはいなかった。
 「気の力よ!」
晴華が何故か得意げに話す。
真由美は晴華の紹介で気の使い方に熟練した師にも学んでいた。
気とは体内に宿る力のことで全身にちらばってはいるがそれを一点に集め、自在に操ることが出来れば力の無い老人や女こどもでも大の男と対等に渡り合えることが出来る。
太極拳等はその手の拳法としては有名どころで一般には老人の健康の為というイメージがあるがそうではない。
力の無い老人でも大の男と対等に渡り合えるのだ。
ただその気の使い方を習得するにはかなりの熟練が必要でそれなりの年月を必要とする。
その結果この拳法の達人は自然と老人が多くなってしまうと言うわけだ。
真由美はいろんなスポーツをする際にイメージトレーニングを欠かしたことは無い。
イメージトレーニングは大抵のスポーツ選手が取り入れているが真由美も独自のイメージトレーニングを行っていた。
正確なイメージトレーニングを行える者は実際にもイメージどおりに動くことが出来易い。
真由美はスポーツ選手のイメージトレーニングを凌駕し全身のイメージを固め、血液の流れ脈拍の心拍数、心臓の鼓動など意識して感じることが出来た。
その為全身の流れから気の流れを意識し操ることも事も無げにやってのけた。
その結果大男は華奢な少女に倒されていた。
「さて!」
一息ついている真由美やホッと安心している美奈代を尻目に晴華は残った連中とやりあうつもりだった。
だが。
「ひいー!」
「化けモンだー!」
「俺は死にたくねー!」
男どもは口々に叫びながら。
蜘蛛の子を散らすように退散していった。
「ふう!」
「とにかく腕試しとしてはまあまあね!」
晴華はとくにねぎらいの言葉もかけずに。
「明日は本拠地に乗り込むから気を抜かない様に!」
と二人とともにその場を後にした。

そして次の日の朝。
高山高校に乗り込んだ三人だったが
昨日の巨漢が番長だったことを知り唖然とする三人。
また闘いになると予想していた三人だったが番長以下、抵抗する様子は見せなかったのでそのままその場を後にした。

「とりあえずすることなくなっちゃったわねー!」
期待外れの晴華はつまらなさそうだった。
その後、数日は変温無事に過ぎていった。
そしてまた数日後の放課後。
「始まったわよ!」
晴華が真由美や美奈代の教室にやってきて。
高山高校の生徒が見せしめのためと称しては闇討ちされ全員が多かれ少なかれ怪我をし大男に至っては病院のベッドの上だそうだ。

「多分うちにもくるわ!」
晴華は自信を持って言いのけた。
「そういうわけだから貴方達も明日から1-Aね!」
「えぇ!」
二人が同時に驚いた。
「安全の為よ、ここなら大抵のことは無理が利くの!」
というわけで次の日二人は突然の自己紹介をする羽目になっていた。
壇上に立ち真由美は自己紹介を始める。
「ええとB組から転校じゃなくて・・・」
「転教室?」
「転教?」
「転室?」
「えーと、とにかく隣から来ました!」
「麻生真由美と言います!」
「趣味はスポーツ、血液型はB型でじっとしてるのが苦手なタイプです!」
「クラブは入っていませんがスポーツ系のクラブならどこでも大丈夫だと思います!」
「中学の時も正式には所属していないんだけど試合のときだけ借り出されるため
名前だけはほとんどのスポーツ系のクラブにありました!」
「一応そういう系でスポーツ特待生として入ったのでもし、必要なクラブの方は
名乗り出てください!」
一年生のクラスでそういうクラブの話をしてもあまり意味は無いだろうが
真由美の自己紹介としてはもっともな紹介であった。
「では、みなさんよろしくお願いします!」

代わって美奈代が壇上に立つ。
「F組から来ました!」「朽木美奈代です!」
「趣味は読書や映画鑑賞です。血液型はO型で運動は苦手です!」
「あ、あと体が弱く去年入学したのですが体が弱く一度も登校していなかったので17歳です!」
「みなさんにご迷惑をおかけするかもしれませんがよろしくお願いします!」
美奈代の顔が一瞬曇った、一同は体が弱いことと年が上なのを気にしているのだろうと推測したが晴華だけはそう思わなかった。
(なにか後ろめたいことがあるのね)晴華は心の中でそう呟いた。
美奈代は当たり障りの無い紹介を済ますとそそくさと席に着く。
さて授業が始まるのかと思いきや先生は話を続けた。
「では次に本当の転校生を紹介する!」
「入りたまえ御堂良江君!」
すると廊下に待機していたらしき転校生がしずしずと入ってくる。
御堂と呼ばれた生徒は壇上に立ち自己紹介を始めた。
身長168cmくらいで長い髪と白い肌の同姓でもうっとりするような美形だった。
しかし、やや冷たそうな眼差しをしていた。
御堂と呼ばれた生徒は壇上に立ち自己紹介を始めた。
「帝都高等学校から来ました、御堂良江ともうします!」
帝都高校とは有数の共学校でこの学院と1、2を争ってもおかしくない学校である。
「教育委員会からの依頼で一定期間、査察に来ました!」
「つまりスパイ、ということです!」
口元が綻んだが目は笑ってない。
本気でスパイなのかもしれないと生徒たちは思ったことだろう。
「というわけで仲良くしてもらわなくてけっこうです!」
そして御堂は席に着いた。
そして授業は次々と進んでいき生徒たちは御堂良江にかかわろうとはせず放課後になった。
美奈代も晴華も今日は都合が悪いとかで今日は生徒会?の活動はなしだ。
真由美はスパイというミステリアスな存在に激しく興味を引かれ後をつけることにした。
真由美は授業が終わるとクラスメイトとの別れの挨拶もそこそこに教科書等を鞄に押し込むと、教室を一番に出て校門のすぐそばにある大木の前に立っていた。

「せーの!」
真由美は鞄に反動を付け気の上に放り投げた。
すると旨く鞄は木の枝に引っかかった。
「さてと!」
今度は真由美の番だった。
真由美はするすると木の上に登り鞄を手に持つと人が通りかかるのを待っていた。
もちろんターゲットは御堂良江である。
「でも、スパイなら中々出てこないかな?」
真由美は待つのは大の苦手、五分としないうちに挫けそうになった。
しかし興味心から真由美にしては随分長い間待つことが出来た。
30分後、一日千秋の想いで待ち続けていた真由美かターゲットを見つけ目を輝かせた。
(よし!) 思わず声を上げそうになった真由美だったがなんとかこらえ
御堂良江の行く方向を確認していた。
どうやら帝都高校の方へ向かっている様子であった。
「本当にスパイかもしれない!
」真由美は小さくつぶやいた。
「さてどうしょうかな?」
「先回りして帝都高校へ行っちゃう?」
「それとも距離を開けて着けてみようか?」
真由美は後者を選んだ。
御堂良江の姿が見えなくなってから後をつけることにした。

真由美は人の後をつけるなど初めてだったが目的地が帝都高校らしいので見失う心配もなく大きく距離をとることが出来たので特にへまもせず見つからずに付いていけた。
御堂良江は尾行されていることなど考えてもいない様子で普通に歩いていた。
歩き続けること45分帝都高校と目と鼻の先に来たとき真由美は異変に気がついた
「あれ?」
「道が違う」
帝都高校の近くまで来て御堂は学校とは違う方向に歩いていった。
しかもその先は真由美の記憶が確かなら行き止まりである。
「自宅かな?」
「そういえばこの先には空き地があってよく不良が喧嘩の時に使っていたりするんだけど・・・」
「まさか?」
そのまさかであった。
御堂良江は真っ直ぐその空き地に向かうと真由美の名を呼んだ。
「麻生真由美さん!」
「着けて来ている事は解っています、出ていらっしゃい!」
「ぐ・・・」
「気づいていたの?」
真由美は往生際は悪くない、あっさりと出てきた。
しかし驚きの表情は隠せない。
御堂良江は当然の様に。
「いいえ、私には解っていました!」
「貴女が着けてくることが!」
と答えた。
「は?」
「もしかして私ってそっちのブラックリストに載っているの?」
「ド、ドーピングなんかしていないんだから!」
たぐいまれなる運動神経ゆえに疑われたことのある真由美は一気に捲し上げた。
しかし御堂はさらりと流し、いきさつを語り始めた。
「私達は裏の教育委員会とも言うべき組織に属するもので影から不良学生達を統率していました!」
「高山高校の目に余る振る舞いにも対処するつもりでしたが!」
「あなたたちの噂を聞き及んだので野放しにしておきました!」
疑いは晴れたがまずい状況には変わりない。
真由美は状況を頭の中で整理し。
「じゃあ、あいつらを闇討ちしたのも?」
と問いかけた。
「もちろん我らの手の者です!」
御堂良江はゆっくりとうなずき目で合図をした。
「どうやら、やるしかないようね!」
真由美は辺りの気配に気を配ったが邪魔が入る様子も仲間が隠れている様子も感じられなかった。
「もし私に勝てたならばこの学園からはとりあえず手を引きましょう!」
自信過剰の様子もなくごく自然に御堂は言い放った。
「もし負けたら?」
真由美は解っていながらも対抗するために遇えて聞いてみた。
「この学園も我配下になってもらいます!」
「抵抗すれば潰すだけです!」
御堂は冷ややかに答えた。
「別に私が負けたからと言ってあの子達は退かないでしょうけど!」
「食い止められるならここで食い止めなきゃねっ!」
真由美は対決することにした。
真由美は軽く蹴りを繰り出した。
全身のバネを生かしての蹴りだ、真由美の体がしなる。
御堂は蹴りが来るのを認識すると不意に間合いを詰め手のひらで受け止めた。
別に真由美の蹴りが軽いわけではない。
ケリが最大の威力を放つ位置に達するまでに
受け止めたのだ。
「う!」
真由美は飛び退き次はパンチを繰り出した。
が同じように威力が半減する位置で受け止められてしまう。
御堂は一向に攻撃に移る様子がない。
「仕方ないか・・・」
「あまり使いたくなかったけど!」
真由美は渋々得意技を出すことにした。
「本気で来なさい!」
御堂が挑発しつつ更に受け止める仕草を見せた。
が真由美は先程となんら変わりない攻撃を続けた。
真由美が放ったパンチを御堂は同じように受け止める。
しかし。
「ガクン」御堂の腕が激しくはじかれた。
「これがあなたの気功ですか?」
御堂それでも冷静であった。
真由美は拳に気を込めていたので威力が半減していても効果は絶大だったのである。
「ふむ!」
御堂は何か考え始めた。
攻撃のチャンスではあるが真由美は出来れば戦いたくないので待っている。
「私の戦い方とあなたの気功!」「
いいとこ五分五分ですね!」
「ならば私も!」
御堂は心を定めた。
すると全身の肌がみるみる赤く染まっていく
そしてそれまで無表情だった御堂に表情が浮かんだ。
御堂は微笑を浮かべたまま。
「行きますわよ、真由美さん!」
「ほらほらほらほら!」
感情に支配されたような御堂は常に掛け声を出しつつ真由美にかかってきた。
「速い!」
真由美の顔を御堂の手刀が掠めた。
風圧で真由美の頬に一筋の傷が走る。
たいした傷ではないが真由美に戦慄が走る。
「狂戦士?」
己の感情を高め大声を出すなどしてリミッターを解除し後先考えず戦う者の事をこう呼んだ。
真由美は、戦いは仕方なかったが狂戦士と化した者と戦うのは気が引けた。
狂戦士となって勝ったところで体はぼろぼろ、長引けば再起不能になることも珍しくない。
もちろん敗者には容赦せず躊躇せず再起不能に追い込むだろう。
「大事な人を守るためなら私だって狂戦士になるかもしれない!」
「でもこんな意味のない戦いで狂戦士にまでなるなんて・・・」
真由美は怒っていた、しかしあくまで心ある怒りだった。
御堂はかまわず攻撃を続けた。
「説得は無理ね!」
真由美は手刀を受け止めると払いのけ距離を取った。
真由美はあせっていた。
負けることに対してではない。
 御堂を助けるためには速く倒さねばならない。
しかも一撃で倒せ、御堂にもダメージの少ない技でないと駄目だ。
真由美にはその技には心当たりがあった。
しかしまだ一度も成功していない。
失敗すればダメージどころか御堂を殺しかねない技だった。
真由美は迷っていた、しかしそれほど時間に余裕がないことは明らかだった。
御堂の全身が悲鳴を上げているのが聞こえた。
真由美は迷いを捨てた。
次の瞬間真由美は御堂の後ろに回りこみ組み付いた。
御堂はもがいたが真由美は堪えている。
そして御堂の呼吸を読んでいた。
そしてその呼吸に合わせて技を繰り出した。
両手を広げ気を繰り出し、打撃よりも衝撃を主とした技である。
この技ならたやすく相手を気絶させることが出来る。
しかし威力が強すぎるため加減を間違うと気どころか命を失ってしまう。
攻撃は見事に決まり御堂は崩れ落ちる。
真由美はすぐさま御堂を横にし、心臓の鼓動を聞いてみる。
どうやら動いているようだ。
そして御堂の肌がみるみる白く戻っていった。
「良かった、今の私の力じゃ回復に使う気功は練れないから!」
真由美は胸をなでおろした。
程なく御堂が目を覚ます。
「データ不足ね!」
「あなたがここまで出来るとは思わなかったわ!」
御堂は元の冷静さを取り戻していた。
起き上がろうとしたが手足がガタガタで満足に起き上がることが出来ない。
「負けを認めるなら運んであげるわ!」
真由美は御堂を抱え病院まで運ぶことにした。
「約束どうり一応は手を引くわ!」
「一応はね・・・」
御堂はそのまま気を失った。

最寄の病院に連れて行き二、三日も休めば問題ないことを聞くと真由美もその場で気を失った。
体的にはどこも痛めてなかったが気を使いすぎたため気力が著しく消耗していたのだった。
そしてどれほどの時間が経ったのか、二人はベッドに寝かされていた。
先に気がついたのは御堂である。
次いで真由美も目を覚ます。
「ふう!」
「御堂さん大丈夫?」
真由美が御堂の様子を伺う。
だが御堂はそれには答えず顔を背けた。
「懐柔しようたって無理なんだから・・・」
「怪獣?」
真由美はきょとんとした顔で。
「ゴジラとか?」
と聞いてきた。大真面目である。
御堂は毒気を抜かれ思わず笑ってしまった。
「へえ、ちゃんと笑えるんだ!」
真由美は正直な感想を口にした。
「あなたは、こんなことに首をつっこまずスポーツだけしいてればいいのよっ!」
ややふてくされた口調で御堂が言い放った。
「あははー!」
「そうしたいのはやまやまなんだけどね!」
真由美はやや気まずそうに話を続けた。
「あたしは、けっこうはまり込む性質でひとつのスポーツをやり続けてると!」
「旨くなりすぎちゃうんだよね!」
「だからドーピングとかおかしな騒ぎになっちゃう!」
「手を抜いたり、色んなスポーツの掛け持ちとかならだましだましやってこれたけど!」
「格闘技はいいよね!」「いろんな技や能力、戦い方を極めている人もいるから!」
「手を抜く必要なんて無いし!」
「でも壊し合うみないなのはヤダけどね!」
真由美が笑う。
御堂は真由美がムキになった理由がわかった気がした。
体を破壊してまでの戦い方が大嫌いというわけだ。
「ふっ!」
「あなたの方針や戦い方が正しいとは限らないわ!」
「でも私が負けたのは確か!」「
まだまだ未熟だったということね
御堂は体を起こしすぐにでも出て行こうとしていたがいかんせん体のほうがまだついて行かない。
「まだ無理無理!」
真由美は御堂をいさめる。
「真由美さん!
」「あなたは平気なの?」
真由美は頭を掻きながら申し訳なそうに答えた。
「私はなんともないけど・・・」
「ちょっとこっちへ来て!」御堂は真由美を呼び寄せると
体のあちこちを触ってみた。「
別に私と同じで一般的な女子高生の体よね!」
「体脂肪率は私と同じで少なそうだけど別にスポーツとかしてたら普通だし!」
「私は、ほら破壊より衝撃で相手を倒すことにしてるから!」
「自分の体にもそうダメージは残らないんだってば!」
今までも何度かスカウトの人やスポーツドクターなどに体を触られてはいたが真由美はやはり嫌そうに説明した。
そして逆に御堂にマッサージをし始めた。
「ちょっと!」
御堂は止めたが真由美はお構い無しに始めた。
御堂は少しだけ抵抗しようとしたがいかんせんまだ体が万全ではないので
真由美に身をまかせた。
すると驚くことに御堂は自分の体がみるみる軽くなっていくのを感じた。
先程まで鉛のように重く感じた手足。
酷使しすぎたため悲鳴を上げ続ける全身の筋肉。
それがなにもかも無かったようにさえ感じられた。
「あ、あなた!」
御堂は驚きの眼差しを真由美に向ける。
真由美はマッサージを続けながらも
「どう?」
「少しは楽になった!」
と答えた。
御堂は立ち上がり。
「え、ええ!」
「というか、かなり・・・」
「マッサージが上手とかそういったレベルじゃないわ!」
「お金儲けに使えるわ!」
「この道でも有名になれるわよ!」
と突然滑舌になった。
マッサージが終了したので手持ち無沙汰な真由美は手をブラブラさせている。
「いや別にお金儲けとか有名とかには興味ないなー!」
「やっぱ普通そういうのに興味示すのかな?」
「しかも手段やなりふりかまわずに?」
「う・・・」
御堂は絶句した。
急に体が軽くなったとはいえしゃべりすぎた。
「薮蛇とはこのことね!」
「蛇?」
「別に好きじゃないけど怖くは無いよ!」
「ではそろそろ帰ります!」
体が満足に動くようになった御堂はさっさと出て行ってしまった。
「あうう!」
一人ポッンと取り残された真由美もしばらくして帰っていった。

しおり